鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Miko Revareza&"No Data Plan"/フィリピン、そしてアメリカ

いわゆる紀行映画(トラヴェログ)というジャンルがある。ある人物がめぐる旅路の中で見る風景や体験する出来事を捉えていくことで紡がれていく映画のことだ。こういった作品を観ていると、自分たちも語り手と同じく旅をしているような、そんな心地を味わうこ…

Ena Sendijarević&"Take Me Somewhere Nice"/私をどこか素敵なところへ連れてって

旧ユーゴ圏において血みどろの紛争が繰り広げられる中で、ユーゴスラビアの人々は平和を求めて世界各国へと離散することになる。その中でそれぞれの第2の故郷で成長を果たし、育っていった世代が映画作家として活躍する時代がやってきた。ロッテルダム国際映…

Simona Kostova&"Dreissig"/30歳、求めているものは何?

30歳という年齢は若くもなければ老いてもいない微妙な年代と言えるだろう。巷ではこの微妙さに翻弄される人々の危機的な状況を“クォーターライフ・クライシス”と言うそうだ。今回紹介するブルガリア映画界の新星Simona Kostovaによるデビュー長編“Dreissig”…

Katharina Mückstein&"L'animale"/オーストリア、恋が花を咲かせる頃

恋はいついかなる時間場所でも花を咲かせる。その恋の風景の数々は共通するところがあれば、異なる部分もある。それらについて映画などを通じて知っていくことは、芸術に触れる楽しみの1つでもあるだろう。今回紹介するKatharina Mückstein監督作“L’animale”…

Gabi Virginia Șarga&"Să nu ucizi"/ルーマニア、医療腐敗のその奥へ

ルーマニアの医療体制の腐敗は東欧でもかなり悪名高いものだ。患者が置かれる環境が劣悪であることはもちろん、医師や看護師たちの待遇もかなり悪く、優秀な人材が国外に流出しさらの体制が悪化するという悪循環を辿っていっている。ルーマニア映画界におい…

Agustina Comedi&"El silencio es un cuerpo que cae"/静寂とは落ちてゆく肉体

アルゼンチンの現代史は激動の歴史以外の何物でもないだろう。特に、俗に言う“汚い戦争”が繰り広げられた、7年にも渡る軍事政権は様々な形で人々を翻弄していった。例えば共産主義者などに対する弾圧は有名であるが、同時に同性愛者に対する弾圧も凄まじいも…

Csuja László&"Virágvölgy"/無邪気さから、いま羽ばたく時

子供の頃、私たちはただただ無邪気さの中に浸っていることができる。しかしいつかは、その生温くも心地よい無邪気さを捨て去って、世界へと羽ばたく必要があるだろう。その過程がどんなに辛くとも、どんなに奇妙なものだとしても。Csuja László監督のデビュ…

Blerta Zeqiri&"Martesa"/コソボ、過去の傷痕に眠る愛

さて、コソボである。他の旧ユーゴスラビア諸国のようにこの国もまた苛烈な紛争を経験し、数多の死と破壊に見舞われることとなった。その時代から約20年が経ち復興は確かに進みながらも、今にも癒えない傷や隠された忌まわしき過去というものはコソボの人々…

Suba Sivakumaran&“House of the Fathers”/スリランカ、過去は決して死なない

さて、スリランカである。近年ではカンヌでパルムドールを獲った「ディーパンの戦い」の主人公たちがスリランカ難民だったなどがある。しかしスリランカ自体の映画は余り多くないし、日本でもほとんど評判について聞くことはないだろう。という訳で今回はそ…

Teona Strugar Mitevska&"When the Day Had No Name"/マケドニア、青春は虚無に消えて

2012年、マケドニアで凄惨な殺人事件が起こった。首都スコピエの郊外に位置する湖で4つの死体が発見されたのだ。どれも10代の少年たちのものであり、頭部を撃ち抜かれていた。この事件はマケドニア全土に衝撃を巻き起こす。イスラム過激派の仕業など噂が全土…

Meryem Benm'Barek&"Sofia"/命は生まれ、人生は壊れゆく

さて、モロッコである。映画史に残る傑作「カサブランカ」の舞台として有名なこの国であるが、モロッコ自体の映画は少なくとも日本では余り知られていないというのが現状だろう。しかしコンスタントに映画が製作され、何本もの作品がカンヌ映画祭で上映され…

Olga Korotko&"Bad Bad Winter"/カザフスタン、持てる者と持たざる者

持てる者と持たざる者の対立、1%と99%の対立は世界各地で繰り広げられている。世界が不穏な方向へと傾くなかで、この闘争もまた複雑で熾烈なものとなっていっている。Olga Korotko監督作である“Bad Bad Winter”は、中央アジアの小国であるカザフスタンにおい…

Adrian Panek&"Wilkołak"/ポーランド、過去に蟠るナチスの傷痕

ホラーという映画ジャンルは、他のジャンルよりも多くかつ意識的に、この世に存在する恐怖を隠喩的に描いてきた。最近の映画でいえば「クワイエット・プレイス」はドナルド・トランプに代表される不寛容が台頭する世の中で親として子供を育てることの恐怖を…

Katherine Jerkovic&"Las Rutas en febrero"/私の故郷、ウルグアイ

さて、ウルグアイである。アルゼンチンの隣に位置する小国であるがゆえ、この国の有能な作家陣はアルゼンチンに行ってしまい、この国自体の映画産業が特に大きいということはない。それでも祖国への愛着を持つ人々は世界各地に存在している。という訳で今回…

Milko Lazarov&"Ága"/ヤクートの消えゆく文化に生きて

あなたはヤクートという人々のことを知っているだろうか。北東アジアに住んでいるテュルク系民族に属する人々であり、見た目は日本人にも似ている。彼らの中には未だに伝統を守りながら、氷原で自然と共に生活し続けているという者たちも多くいる。ブルガリ…

Radu Jude&"Țara moartă"/ルーマニア、反ユダヤ主義の悍ましき系譜

ラドゥ・ジュデ&"Cea mai fericită fată din ume"/わたしは世界で一番幸せな少女 Radu Jude&"Toată lumea din familia noastră"/黙って俺に娘を渡しやがれ! Radu Jude & "Aferim!"/ルーマニア、差別の歴史をめぐる旅 ラドゥ・ジュデ&"Inimi cicatrizate"…

アレックス・ロス・ペリー&「彼女のいた日々」/秘めた思いは、春の侘しさに消えて

この世界に映画として作られていない題材は一体あるのだろうか? 取り敢えず考えてみよう。前人未到の異郷に生きる原住民たちの物語、人間とは全く違う地球外生物についての物語、宇宙の深遠なる起源についての物語……米インディー映画界の恐るべき子供アレッ…

Hlynur Palmason&"Vinterbrødre"/男としての誇りは崩れ去れるのみ

芸術において男性性とは雄大な自然と結びつけられていくことが多い。例えば蒼窮へと向かって聳えたつ山々、地中深くに根を張りその葉を繁らせる大樹。しかし人間というものはちっぽけなものだ。実際に剥き出しにされたちっぽけな男性性は大自然に投げ出され…

Adina Pintilie&"Touch Me Not"/親密さに触れるその時に

私たちは精神や魂だけで生きているのではない。そこには否応なく身体というものが付いてまわる。身体とは人間にとって最も近しい存在の1つでありながら、最も遠い他者の1つでもあり、それを理解するのは余りにも難しい。ゆえにそれを探求する旅路はひどく険…

Li Cheng&"José"/グアテマラ、誰かを愛することの美しさ

さてグアテマラである。あなたはグアテマラについて何か知っていることがあるだろうか。正直言って私はラテンアメリカ諸国の1国ということしか知らない。調べているとこんな文章が出てきた。“この国は最も危険で、最も宗教的で、最も貧しい国の1つ”だという…

Lila Avilés&"La camarista"/ままならない人生を生き続けて

人生を生き続けるというのはとても難しいことだ。退屈な日常の反復に、それ故積み重なっていく徒労感、そして反復に散りばめられた小さな哀しみと諦めの数々。人生というのは全く思うようには行かない。それでも生きていかなくてはいけない。今回紹介するLil…

Alen Drljević&"Muškarci ne plaču"/今に残るユーゴ紛争の傷

ユーゴスラビア紛争から20年もの時が既に過ぎた。大地は銃弾によって穿たれていき、その陥孔の間を血の河が流れていった。数えきれないほど多くの命が失われて、何とか生き残った人々の体や心には深い傷が刻まれることになった。この傷は20年を経て癒えたの…

Ivan Salatić&"Ti imaš noć"/モンテネグロ、広がる荒廃と停滞

さてモンテネグロである。旧ユーゴスラビア圏の1国であり、国名の意味は“黒い山”という情報くらいしか私は知らなかったりする。映画で言えばユーゴスラビアの黒い巨星ドゥシャン・マカヴェイエフの「モンテネグロ」を思い出す人も多いかもしれないが、あれは…

Danae Elon&"A Sister's Song"/イスラエル、試される姉妹の絆

姉妹という関係性は、熱烈でありながら酷薄でもあり、親愛と不信感という相反する感情に満ちた複雑な関係性であると言えるだろう。しかしその複雑さを鮮やかにかつ丹念に描き出した映画作品はそれほど多く存在してはいない。Danae Elon監督によるドキュメン…

Malena Szlam&"Altiplano"/来たるのは大地の黄昏

今まで自分はあまり実験映画とは縁がなかった。しかし最近はMUBIなどで実験映画界の俊英であるケヴィン・ジェローム・エヴァーソン Kevin Jerome Eversonやベン・リヴァース Ben Riversなどの作品が配信されており、そういった作品を観る機会がかなり増えた…

Lonnie van Brummelen&"Episode of the Sea"/オランダ、海にたゆたう記憶たち

伝統はそれぞれの国に存在しているだろう。だが1つではあり得ない。更に地域ごとにその色彩を変えながら存在している。それらは、しかし、そういった伝統は急速に移りゆく世界においては均一化され消え去ることを余儀なくされてきた。そんな中でも映画などの…

Madeleine Sami&"The Breaker Upperers"/ニュージーランド、彼女たちの絆は永遠?

いわゆる“別れさせ屋”という職業がある。彼らはカップルの関係性にあらゆる形で介入し、恋人たちをバラバラにしてしまう。日本の映画やドラマでもちょいちょい題材として使われ話題になったりする。そんな職業、日本以外にも存在しているのだろうか。少なく…

Marcelino Islas Hernadez&"Clases de historia"/心を少しずつ重ねあわせて

男女もしくは男性2人の関係性を描き出す映画は多い。だが女性2人というとどうだろう。例えばイングマール・ベルイマンの「ペルソナ」やリドリー・スコットの「テルマ&ルイーズ」などがあるが、前者に比べると挙げられる数は少ないだろう。私はそういう映画が…

Lindsey Cordero&"Ya me voy"/ニューヨーク、冬のように染み入る孤独

さる10月20日からメキシコではモレリア国際映画祭が開催されている。この国において1,2を争うほど大きな映画祭であり、様々なメキシコ映画が上映されたり国内外からゲストが招聘されるなどして活気を呈している。そんなモレリア国際映画祭だが、日本にいる私…

Lola Arias&"Teatro de guerra"/再演されるフォークランド紛争の傷痕

1982年、アルゼンチンから500キロ南西に位置するマルビナス・フォークランド諸島で紛争が勃発することとなる。この世に言うフォークランド紛争はこの地の領有権を巡って、アルゼンチンとイギリスが対立した末に起こった物であった。約70日間の闘争の末、イギ…