鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済東鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

アルゼンチン映画

Juan Mónaco Cagni&"Ofrenda"/映画こそが人生を祝福する

映画を観ている時、時おり映画にしかできないことはなんだろうと考えることがある。小説や演劇、絵画や彫像、芸術には様々な形態がありながらも、それを越えて映画にしかできないことは一体何かと。正直言って答えは簡単にでることはない。それでも、この映…

María Alché&"Familia sumergida"/アルゼンチン、沈みゆく世界に漂う

今、アルゼンチン映画界は空前の活況に至っている。例えばこの国のインディー映画界の代表的存在Matías Piñeiro マティアス・ピニェイロは“Hermia & Helena”などコンスタントに作品を発表、その一方で新人Eduardo Williamsは異形の作品“El auge del humano”(…

Agustina Comedi&"El silencio es un cuerpo que cae"/静寂とは落ちてゆく肉体

アルゼンチンの現代史は激動の歴史以外の何物でもないだろう。特に、俗に言う“汚い戦争”が繰り広げられた、7年にも渡る軍事政権は様々な形で人々を翻弄していった。例えば共産主義者などに対する弾圧は有名であるが、同時に同性愛者に対する弾圧も凄まじいも…

Lola Arias&"Teatro de guerra"/再演されるフォークランド紛争の傷痕

1982年、アルゼンチンから500キロ南西に位置するマルビナス・フォークランド諸島で紛争が勃発することとなる。この世に言うフォークランド紛争はこの地の領有権を巡って、アルゼンチンとイギリスが対立した末に起こった物であった。約70日間の闘争の末、イギ…

Gastón Solnicki&"Introduzione all'oscuro"/死者に捧げるポストカード

皆さんはHans Hurchという人物を知っているだろうか。彼はオーストリア出身の映画ジャーナリスト兼ウィーン国際映画祭のアーティスティック・ディレクターも務めた人物だった。更に彼はドイツを拠点に活躍した偉大なる作家コンビであるストローブ=ユイレの作…

Mariano González&"Los globos"/父と息子、そこに絆はあるのか?

映画史においてダメ親父映画というのは枚挙に暇がないほど膨大に作られてきた。えっ?じゃあその例を出せって?いやもう多すぎて例を出すのすら憚られるほどだよ。どうせすぐに思い付かないからだろって?何を馬鹿な、そんなのすぐ思い出せるし今までのブロ…

Darío Mascambroni&"Mochila de plomo"/お前がぼくの父さんを殺したんだ

何の変哲もない一般人が、もし人を殺せる銃というものを手にしたとしたら……こういった設定は日本でも一定の人気があるようで、中村文則の「銃」や高野雀の「世界は寒い」など何作かパッ思いついたりする。これは世界的にも(もちろんアメリカを除いて)興味深…

Edualdo Williams&"El auge del humano"/うつむく世代の生温き黙示録

Eduardo Williams&"Pude ver un puma"/世界の終りに世界の果てへと Edualdo Williamsの略歴および代表作についてはこちらの記事参照。この前、マティアス・ピニェイロ監督の特集上映に行き、現代アルゼンチン映画講座を受けた際、Nele WohlatzとEdualdo Wil…

Milagros Mumenthaler&"La idea de un lago"/湖に揺らめく記憶たちについて

時おり観ている間、涙を抑えきれなくなる映画というものが存在する。例えばジャコ・ヴァン・ドルマルの「ミスター・ノーバディ」は枝分かれしていく、有り得たかもしれない未来の切なすぎる美しさの数々に途中から涙が止まらなくなった。そしてフランク・カ…

ベロニカ・リナス&「ドッグ・レディ」/そして、犬になる

私は常々思っているのだが、“犬になる”という言葉が日本語で“誰かに従属し媚びへつらう”というような意味になるのは人間のとんでもない傲慢さの表れではないだろうか。人間は太古の昔から犬に助けられ、そして今でも共に並び立って生きる存在である。そんな…

Vladimir Durán&"Adiós entusiasmo"/コロンビア、親子っていうのは何ともかんとも

さてカルタヘナ国際映画祭である。毎年2月下旬から行われるこの映画祭はラテンアメリカで最も長い歴史を持つ映画祭であり、ラテンアメリカを担う作家たちが多く輩出されている。最近ではチリのパブロ・ララインやブラジルのガブリエル・マスカロなどなど注目…

Sofía Brockenshire&"Una hermana"/あなたがいない、私も消え去りたい

何も変わらない退屈な毎日、次第に色褪せていく日常、人生の全てが同じことの繰り返しのように思えて、自分はそんな反復の中で磨り減り、成す術もなく死んでゆくしかないのかと深い絶望感に襲われたことはないだろうか。この窒息しそうなほど退屈な日常を投…

Nele Wohlatz&"El futuro perfecto"/新しい言葉を知る、新しい"私"と出会う

新しい言葉を学ぶというのは本当に大変な作業だ。私はルーマニア映画への偏愛が高じて今ルーマニア語を独学しているのだが、これが難しい。ルーマニア語に限らずおそらく欧州系の言語を学んだことがある方なら分かるだろうが、まず名詞が男性/女性/中世に分…

Eduardo Williams&"Pude ver un puma"/世界の終りに世界の果てへと

さて、つい先日ロカルノ映画祭が無事閉幕したが、コンペティション部門ではブルガリアの新星Ralitza Petrovaがデビュー長編"Godless"で金豹賞を、そしてブログでも紹介した"ルーマニアの新たなる波"に新風を巻き起こしている映画作家Radu Judeが新作"Inimi c…

Jazmín López&"Leones"/アルゼンチン、魂の群れは緑の聖域をさまよう

さて2016年も半ばが過ぎようとしている。私も映画をボコスカ観てきたが、クソ面白い映画がボコスカ出てきて嬉しい悲鳴が上がるほどだ。それでも今年の上半期ベストに食い込んでくる映画はもうそろそろ打ち止めかな……と思いきや、これまた素晴らしい映画が南…

Benjamín Naishtat&"Historia del Miedo"/アルゼンチン、世界に連なる恐怖の系譜

さてアルゼンチンである。ゼロ年代に入りアルゼンチン映画界にはルクレシア・マルテルというこの国の現在と変化を冷たく鋭い洞察で以て描き出す巨人が立ち上がった後、次世代の才能が次々と現れている。例えば2015年に日本でも「約束の地」公開されたリサン…

Julia Solomonoff &"El último verano de la Boyita"/わたしのからだ、あなたのからだ

自分はなんでこんな体をしているんだろう、誰でも一度はそんなことを思う時がある。思春期を経て変わっていく体に当惑と違和感を覚えたり、毎朝鏡に映る自分を見て溜め息をついてしまったり、子供の時も辛いが、この辛さは大人になったとしても簡単には折り…

Lukas Valenta Rinner &"Parabellum"/世界は終わるのか、終わらないのか

映画というメディアが生まれて百余年、この映像芸術は様々な形で世界の終わりを描いてきたが、私が一番愛している世界の終わり映画は「ミラクル・マイル」という作品だ。ある理由でロシアから核ミサイルがアメリカへと発射されたのを知った主人公は、最愛の…

ナタリー・クリストィアーニ&"Nicola Costantino: La Artefacta"/アルゼンチン、人間石鹸、肉体という他人

私はどちらかと言えば劇映画が好きなので、今までドキュメンタリーというものを余り観てこなかった。いやいや今、正にそれを後悔している所だ。切断された足を巡って2人の男がアメリカ全土を巻き込んで激しい争奪戦を繰り広げる「拾ったものは僕のもの」(こ…