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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

ソスカ姉妹&「復讐」/女性監督とジャンル映画

何週間か前、とある低予算アクション映画がひっそりと配信スルーになった。邦題は「復讐」。これだけでは分からないだろうが、作品の原題は“Vendetta”という。ピンときた人がいたなら、その人はおそらく相当のホラーファンだろう。「復讐」の監督たちの名は「Dead Hooker in a Trank」や日本でもソフトスルーとなった「アメリカン・ドクターX」を手掛けた気鋭のホラー作家/カナダのキチガイ・シスターズ ソスカ姉妹、そしてこの「復讐」とはそんな彼女たちがホラーを離れ、初めて手掛けた低予算アクション映画なのである。

メイソン・デンバーズ刑事(ディーン・ケイン)は相棒のゲイナー(ベン・ホリングスワース)と共に凶悪犯のアボット兄弟を追っていた。苦闘の果て、2人は兄ヴィクター・アボット(WWEポール“ビッグ・ショー”ワイト)を逮捕することに成功する。しかしヴィクターは証拠不十分で釈放、デンバーズへの復讐として妻ジョセリンを殺害、デンバーズを嘲笑うかのように再び刑務所へと収監されることになる。目には目を、復讐には復讐を、デンバーズはヴィクターの弟とその仲間を射殺し、後を追うように刑務所に収監される。しかし復讐に燃える彼を待っていたのは暴力という名の血みどろの嵐だった。

この作品はいわゆる監獄アクションものだ。例えばジャン=クロード・ヴァン・ダム主演&リンゴ・ラム監督作「HELL ヘル」や、スコット・アドキンスを一躍アクション・スターの座に押し上げたデッドロックⅡ」&続編“Undisputed Ⅲ”(Ⅲについては悲しいが日本ではソフトスルーにすらなっていないので、私自身は未見)などの系譜に「復讐」はあると言える。しかし前2本がアクションの魅力を存分に詰め込んだ傑作であるのに対し、その出来は少し劣ると言わざるを得ない。

まずアクションの演出があまり上手くない。主人公のディーン・ケインや悪役のビッグショー以下、キレのあるアクションではなく一発一発に重みのある肉弾戦を期待したくなるキャスト陣が揃っているのだが、監督たちが前者を志向しているせいか、重みが鈍臭さとして表れてしまっているのが惜しい。そしてストーリーにも魅力がなくグチャグチャだし、主人公が弱すぎて爽快感もへったくれもない。(そしてこれは映画自体の瑕疵ではないが、字幕の誤植が本当に酷い。“またすぐに会おうだぜ”だったり、邦題が「復讐」だのにいざセリフに出るとなると“復習”になっているという有り得ない間違え。配信スルーだからと手を抜かれては困る……)


正直この主人公、すごい弱い。

正直に言って出来としては“午後のロードショーで何か放送しているC級アクション”以上でも以下でもない。監督がソスカ姉妹であるのに期待してこれを観てもおそらく肩透かしを喰らうだけの気がする(が、後述の通りその期待を満たしてくれる描写もある)。ならこの作品をこのサイトで紹介する意味があるのか?とお思いになるかもしれないが、その答えはYESだ。その理由を書くため、少し「復讐」という作品から離れ、映画産業というものに目を向けてみる。

映画産業において女性監督が明らかに不足していること、日本でもたびたびニュースになっている故に知っている方も多くおられるだろう。女性よりも男性の方が映画監督として優れている、だから女性は監督として起用しない、そんな前時代的な性差別は、悲しいがしかし、どこの映画界でも見られるものだ。それはメインストリームの映画においてだけでなく、ジャンル映画においても同じことだし、もしかしたならこっちの方が酷いかもしれない。

この記事を読んでいる方にお尋ねしたいのだが、SFを手掛けた男性監督、ホラーを手掛けた男性監督、そして低予算アクションを手掛けた男性監督、それぞれ何人思い付くだろうか。おそらく何人も、何十人もの男性監督の名が上がると思う。ではもう1つの質問、SFを手掛けた女性監督、ホラーを手掛けた女性監督、そして低予算アクションを手掛けた女性監督、それぞれ何人思い付くだろうか。どうだろう、男性監督の場合スラスラ名前を挙げられたのに、女性監督となると1人の名も挙げられない、挙げられたとしても2,3人だけ、もしこの記事の読者が同時に名前を書き出していったら全員の名が丸かぶりという状況も考えられなくはない。それほどにジャンル映画界において男女格差は激しいのだ。

そんなジャンル映画界でこの格差を是正しようと活動しているのが、他ならぬソスカ姉妹なのである。彼女たちの作品「Dead Hooker in a Trank」「アメリカン・ドクターX」は“女性ならではの〜”“女性という視点から〜”とかいう吐き気を催す陳腐な言葉など血みどろの血まみれにする、そんな珠玉の作品だ。そして監督業の傍ら、自身の製作会社“Twisted Twins”(これが姉妹のニックネームでもある。活動内容はこちら参照)を立ち上げ、才能ある女性たちを集め、共に格差と戦っているのだ。


ソスカ姉妹。一回見たら一生忘れられないそっくり血まみれシスターズ。

前述の通り、ジャンル映画、特に低予算アクションは殆ど男性監督で占められてしまっている。女性監督で思い付くのはフーリガン」「パニッシャー:ウォーゾーン」レクシー・アレクサンダーくらいだ。男性監督たちはそれぞれに低予算だからこその趣向を凝らした作品を作ることが出来る。スコーピオン・キング3」ロエル・レイネデッドロックⅡ」アイザック・フロレンティーン「ユニバーサル・ソルジャー 殺戮の黙示録」ジョン・ハイアムズ「バトルヒート」エカチャイ・ウアクロンタム……しかし女性監督にはそのチャンスがない、ホラーやアクションみたいなジャンルは女性には合わないという偏見によって、彼女たちにはチャンスすら与えられることがない。そんな現状に対し戦いを挑んだのがソスカ姉妹であり、彼女たちの戦いの1つの実りこそ「復讐」という作品なのだ。

ならば、ソスカ姉妹がこの「復讐」に凝らした趣向とは何か、それは“血”である。まず冒頭の銃撃戦、銃弾が肉をブチ抜く瞬間、他では見られないほど泥ついた血が弾ける。この異質さは肉弾戦がメインになった後には、さらに顕著となる。洗濯場で主人公がリンチされる場面、鼻から、唇から流れ出る血の粘りといったら生々しい。そんな主人公が弱さを補うため拳に手製のメリケンサックを装着する、そしてヴィクターの刺客の顔面を、白い枕を押し当てた上で何度も、何度も、何度も殴りつける。そうして鮮血に染まる枕のおぞましさは全くホラーとしか言いようがない。極めつけは拷問シーンだ。主人公は、薬で意識が混濁する敵の、その両腕の手首を縦に切り裂きそのまま苦しむままにする。体から流れ出していく血液、床へと滴り落ちる血潮。エグいことこの上ないが、もしかしたならこのシーンだけでソスカ姉妹ファンは満足できるかもしれない、それほどにグロテスクで美しい。つまりはこの作品においては、ソスカ姉妹が持つ作家性とも言うべき“血”のフェティシズムが、低予算アクションという今までとは違う舞台で炸裂しているという訳である。

これで作品自体のクオリティが高ければいうことなしだが、しかし、そこは問題ではない。これと同程度の、もちろんこれより劣る作品などたくさんあるのだから(そのほぼ全てが男性監督のものである、というのも付け加える必要がある)。ここで重要なのは“男性中心の低予算アクション作品において女性であるソスカ姉妹が監督として起用され、彼女たちの作家性が発揮されたろう作品が出来上がった”ということである。そうして「復讐」が低予算アクションにおけるブレイクスルーとなり、女性が男性と同様に活躍することが出来る日が少しでも近づいたなら、とそう思いながらこの記事を終えることにする。[C+]

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