鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

はてなダイアリーのサービスが終了ということで、はてなブログで鉄腸野郎Z-SQUAD!改め鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!へ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。

Benjamin Dickinson&"Super Sleuths"/ヒップ!ヒップ!ヒップスター!

'Results' Director Andrew Bujalski Doesn't Want You to Call His Movies ‘Mumblecore’
“"Results"監督アンドリュー・ブジャルスキはもう自分の映画をマンブルコアとは呼ばれたくない”

5月の最後の週、米国の映画サイトIndiewireにこんな記事が掲載された。

“一つのことに何年もの時間を費やして、血も汗も涙も、自分の人生すら映画作りに賭けて、そして出来た作品に対して皆が言う、「へえ、これが新しいマンブルコア映画って訳だ」”

マンブルコア映画の創始者(もしくは勝手に創始者として祭り上げられた)アンドリュー・ブジャルスキはこう語る。ジョー・スワンバー"Hannah Takes the Stairs"「ハンナだけど、生きていく!」という邦題で公開決定、マンブルコアというインディー・ムーブメントがとうとう日本にも……!と思った矢先の出来事で、私は正直えっ、マジですか……となってしまった。

そんな私にIndiewireは追い打ちをかけてくる。同じ日、この言葉に呼応するようなこんな記事が掲載されたのだ。

The Word 'Mumblecore' Turns 10 Years Old This Year. Can We Stop Using It Now?
“マンブルコアという言葉も、今年で10歳を迎えた。もうこの言葉使うの止めない?”

“ある映画を観に行くとして、あなたが観るのはムーブメントなのか?(いや、違うだろ、という反語)”

冒頭、こんな問いがあり、マンブルコアがいかにして生まれ、いかにして発展していったか、そしてブジャルスキの最新作"Result"がいわゆるマンブルコアとどのように違うか……などが書かれ、正直ここで書きたいのはマンブルコアについてじゃないので、この記事を本当に短く要約してしまうと“マンブルコアの旗手と言われていたブジャルスキ、デュプラス兄弟、アーロン・カッツたちはもう全く別の道を歩んでいるし、世代が一つ下のNathan Silver, Josephine Deckerたちも確かにマンブルコア的感覚は持っているかもしれないが、マンブルコアという言葉では括り切れない全く別の作品を生み出している。だからもう、この言葉使うの止めない?”という感じ。(詳しくは記事を読んで下さい)

そうか、そうなのか……と思った。日本では今年やっとマンブルコア受容が始まるのに、本国アメリカではもう言葉使うの止めようくらいの感じなのかと。と、いうことで、今後ネットではマンブルコアそのものについてだとか、ブジャルスキやデュプラス兄弟カッツ&ステファンズ、俳優だとエイミー・サイメッツケイト・リン・シェイルだとかについての記事がガンガン書かれると思うので、そちらは皆さんに任せ、じゃあ私はマンブルコア以後の世代について語っていこう、そうしよう。

最初に取り上げるのはBenjamin Dickinson。1982年生まれ、イリノイ州ウィートン出身。哲学者ジッドゥ・クリシュナムルティノトーリアスB.I.G.ビッグ・ベイビー・ガンジー、そして紅茶キノコを愛するナイスガイ。2003年にニューヨーク大学のフィルム・スクールを卒業、自身のプロダクションGhost Dogsを立ち上げた後、映像作家としてLCDサウンドシステムQティップザ・ラプチャーのMVを監督。更にはフォードやPUMA、サウスウエスト航空、そしてGoogleなど名だたる企業のCMを監督するなど売れっ子映像作家としての名をほしいままにする。と文字で書いても仕方がないので、作品を何本か(公式サイトで全作品観れます)


Vic Mensa - Down On My Luck
一回観ると何度も何度も繰り返し観たくなる、そんな遊び心に溢れた作品。


オノ・ヨーコ - Bad Dancer
冒頭から、オノ・ヨーコが「バァァーッド、ダンサッ」と言いながらのダイナミックお習字、で何と言うか、取り敢えず、うん………


LCD Soundsystem - North American Scum
銀色を纏った北米のクズ野郎が、アカいアイツと月面バトル。


最後にPUMAのCMを。多分これ観たことをある人は多いんじゃないかと。この監督も実は Benjamin Dickinson、意外と日本と繋がりがある。

と、彼の世界観を垣間見たところで、映画作家としての彼の経歴を紹介していこうと思う。2004年、短編"Tenderfoot"で監督デビュー。2008年にはDuncan Skiles, Jon Watts ジョン・ワッツ*1の3人でTV映画"The Scariest Show on Television"を監督、検索しても詳細が分からないのだが、登場人物が"Tea Party Girl" "The Host"となっているのでおそらく保守派ポピュリストが何かのトークショーに出ててんやわんやだとか、そういう内容だろう。そして2012年、Dickinsonは初長編作品"First Winter"を監督する。

人里離れた雪深い農場に、コミューンを形成して暮らす人々がいた。ヨガの導師ポール(Paul Menza)を中心としたその集団は、ヒッピーの時代に逆戻りしたような享楽的な生活を送っていた。しかし何の前触れもなく、記録的な寒さと共に、世界は黙示録を迎えることとなる。外界から閉ざされたコミューンでは病が蔓延し、食物もガソリンも何もかもが失われていく。そして最後に残るのは狂気だけ……照明は自然光とキャンドルのみ、更には16mmフィルムで撮影されたこの"First Winter"はトライベッカ映画祭で初披露され、高評価でもって迎えられた。

“映画を作るというのは魔術的な行為だと思っていて、つまりある意味で監督は魔術師みたいな存在なんです。だけど魔術は強力な物でこっちが強烈なしっぺ返しを喰らうこともある。奇妙に聞こえるかもしれませんが、私にとってはそういうことなんです。”Dickinsonは映画作りについてこう語る。そんなDickinsonの魔術が"First Winter"とはほぼ真逆のベクトルで、ポップにキュートにメルヘンチックに炸裂しているのが短編"Super Sleuths"である。Vimeoの公式アカウントで視聴可なので、取り敢えず観てからスクロールしてね。


主人公は、あーファックしたいファッキンファックしたいと思っているけれどそんな自分を認めたくないマリー・デュシャン(リンゼイ・バー)。ある日、ルームメイトで親友のサリー・ブルー・フランケンフラス(ケイト・リン・シェイル)が珍しく早起きしてきて、彼女に言う「解かなきゃいけない謎があるの!」実はサリーの恋人ベルナールが忽然と姿を消してしまったのだ。ということで、2人はトレンチコートを着て“すっごい探偵”に大変身!

私にとってはこの"Super Sleuths"がBenjamin Dickinsonとの出会いのきっかけで、そもそもマリー役のリンゼイ・バージについて調べていてこれに行き着いたのだったが、冒頭の、女子2人砂糖を食べてラリパッパなシーンに心をズキューーーーーーン!!!と心をブチ抜かれた、なに、砂糖食べて、砂糖食べて、酔っ払ったみたいにショットガン振り回しちゃうの、何なの、何なのこれ最高!!!って感じ!!! 最初観た時は、何と言うか、女子の友情というか、ロマンシス(ブロマンスの女性verと思ってくれればいい)を感じたんだったのだけどもその後2人でトレンチコートなんか着ちゃったりして、一緒に探偵やっちゃったりして、友達ん家でマリファナ吸って、マリファナ!何だよ!私にもマリファナ吸わせろって、ほら!ほら!!!って感じが、まあロマンシス!!! 場面切り替えごとに2人で変顔してさ、“スーーーーパーーースルウウウウウス!!!!(チャラララーン)”とか言うのも全部最高、ていうか、ヒゲ面の男たちがベンチで眠っている横で、真顔の2人がゆっくり前に進んでくあのシーンどうやって撮ったんだという、もう、なんだこれは、素晴らしい!もう素晴らしい! でも最後の方で、サリーの恋人浮気してるやんって超能力か何かでみちゃって、でもサリーに真実を言うのは、言うのは……とかなってあああああ……って切ない方向に行っちゃうっていうこの、この…………(あああああああああああああ……)(でもこの短編、もっとハッピーな感じにして長編映画化して欲しい…………)

と初見時の興奮そのままに、書いてみたが、もうちょっとちゃんと書くと、この短編にはアメリカのインディー映画を語る上で欠かせない2人の俳優が出演している。まずはサリー役のケイト・リン・シェイル。彼女はアレックス・ロス・ペリーの"Impolex"長編映画デビュー、それがきっかけでマンブルコア界の雄ジョー・スワンバーグに才能を見出され監督作"Silver Bullets"に主演、そして(結果的に)マンブルコア最後のミューズとして、アダム・ウィンガード「サプライズ」、エイミー・サイメッツ監督作"Sun Dom't Shine"などに出演してきた。片やマリー役のリンゼイ・バージは、マンブルコア以降のインディー作家ハンナ・フィデル監督の"We're Glad You're Here" 「女教師」*2で頭角を表した俳優で、つまりマンブルコアとポスト・マンブルコアの架け橋的作品ともなっているのがこの"Super Sleuths"なのである。

そして今年、Dickinsonは2作目の長編作品"Creative Control"を監督(且つ自身で主演)、SXSW映画祭でその映像の美しさを湛えられ、Special Jury Awardを受賞した。近未来のブルックリン、広告代理店の中間管理職野郎(Dickinson本人)が、グーグル・グラス的なすごい発明品を使って親友の恋人と浮気する……という作品らしい。うーん、ここまで書いときながら、これについてはどうでも良い感じなのだ。それより"Super Sleuths"を長編映画化して欲しい、して欲しい!して欲しい!!して欲しい!!!して欲しい!!!


"Super Sleuths"のリンゼイ・バージ。米インディー映画の潮流を追う上で、この名前を覚えておいて損なし。

参考資料
http://www.avclub.com/article/transcending-tribeca-ben-dickinson-of-ifirst-winte-73118
http://www.openingceremony.us/entry.asp?pid=5406

*1:調べていて自分もビックリしたのだが、ワッツは「スパイダーマン」再リブート作の監督に選ばれた人物である、こんなところにもマーベル・シネマ・ユニバースの影。まさかこんな繋がりがあるとは。

*2:そう、実はこの映画、日本でソフトスルーになっているのである。個人的にテン年代の米インディー映画を語る上でかなりの重要作と思っているので今後機会があったらレビューしたい。