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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Cecile Emeke & "Ackee & Saltfish"/イギリスに住んでいるのは白人男性だけ?

最近、ピラミッド式英国俳優パワーマップ2015というのがElle Onlineに掲載されて、完全に悪い意味で話題になった。アイルランド人俳優を入れたり、白人限定なランキングだったり、名門校出身はランクアップ! だとか階級差別がまかり通っていたり、日本人がこの国に抱くイメージがいかに前時代的で差別的かということがこの記事によって露わになってしまった感がある。そしてElle Onlineへの抗議として、Twitterに #英国にはELLEオンラインの差別的採点基準に収まらない素敵俳優さんがたくさんいます というタグと共に、様々な俳優が紹介されることとなった。と、いうことで、私も……と言ってもタグはもう流れていってしまったし、紹介したいのは俳優ではないしとブレブレすぎるのだが、この機会に、今後期待の映画監督Cecile Emekeを紹介していきたいと思う。

Cecile Emekeはジャマイカ人とイギリス人の両親の間に生まれた。代表作はドキュメンタリー"Strolling"と、後で紹介するWeb配信のコメディ短編"Ackee & Saltfish"だ。以前はOvalHouse Theatreで脚本家として働いていたが、現在はNational Theatre's Young Studioのメンバーとして活躍すると共に映画を製作している。

Emeke監督は、イギリスを問わず世界の映画界における黒人たちの待遇について、こう語る。"私たちが自分たちについての物語を話そうとして、そうして出来た作品は'大衆'には受けないとみなされる、そんな状況がずっと続いています。ドラゴンだとかゴブリンという存在は'なじみ深い'だとか'普遍的'とされながら、メラニン色素が少し濃いだけの人々についてはそう思われない、私たちはそんな世界に生きているんです"

“私たちにとって真実だと言える声が明らかに不足しています。黒人の俳優、脚本家、プロデューサー、そして監督たちにチャンスが与えられることは殆どありません。映画界もTV界もそんな態度を隠そうともしません。黒人の登場人物たちによく付いてまわる浅はかなキャラクター造型、ステレオタイプ、退屈で陳腐な文句の数々……こういう物に私たちはもう疲れてしまいました”*1

そんな彼女がアメリカやフランスに住む黒人たちの姿を描いたドキュメンタリー"Strolling" "Flâner"を作った後、監督・脚本どころか、製作・撮影・編集まで手掛けたコメディがこの"Ackee & Saltfish"なのである。

物語はオリヴィア(Michelle Tiwo)とレイチェル(Vanessa Babirye)の友人二人がうだうだあーだこーだ喋りまくる日常を描く。というか、本当にそれだけである。朝食を一緒に食べながらBack-Bred(多分裏側が全部パンの耳と化しているパンのこと、食文化に詳しい方ヘルプ)が美味しいとか有り得ない!と口論になったり、雨宿りに寄ったカーペット屋でただただはしゃいだり、そういう感じだ。それで面白いのか、と聞かれたらこれがメタメタ面白い。独特のテンポというか、矢継ぎ早に繰り出される言葉だとか、Emeke監督のセンスという物がたった5分ほどの短編の中に満ち満ちているのだ。取りあえず私が好きなEp.1とEp.4をご覧ください。

Ep.1はローリン・ヒルのチケットを買い忘れたレイチェルと、それにマジ切れするオリヴィア、1話目から友情崩壊の危機である。最初はハハそれジョークっしょ?という態度から、マジ?マジで言ってんの?と段々キレ始め、フ!ザ!ケ!ン!ナ!!!というブチ切れ具合。しかしピークが過ぎるとマジヘコみして、部屋の隅でローリン・ヒルを歌い始める。けどもレイチェルがハモってくると調子乗んな!!!と、この下りは腹抱えて笑ってしまった。オチもこういう友情良いなって感じがして、素敵。

で私が1番好きなのがEp.4だ。面接に行こうとするレイチェルが"面接前だから、ちょっと息のにおい嗅いで"とオリヴィアに顔を近づけると"ちょっ、はあ!??"とまたキレる。"におい嗅いでって" "はあ???ありえんわ" "ちょっとぐらいさあ" "何がちょっとだ!"とか口論すると、本当にそれだけだけだが、この、何と言うかリアルなわちゃわちゃ感がすっごく良いのだ。これもまたオチが良くて、レイチェルがオリヴィアにデレる、デレる、デレる!(だからとにかく他の作品も観てって!)

ここからはもうちょっと真剣に、このWebドラマがいかに重要かを見ていこう。"Ackee&Saltfish"について、Bitch FlicksのライターLisa Bolekajaは“黒人女性たちが周りからとやかく言われることなく、自分たちだけの友情を築いている、そんな風景が見られるのは稀だ”と語り、そんな友情を描いていることを評価している。*2

オリヴィア役のMichelle Tiwoは“男の添え物的な存在だとか、恋人がヤクの密売人だとか、代理母になったり、銃犯罪に巻き込まれたり、父親が亡くなったり……(黒人女性は)いつもそういう風に語られますが、いつだってそう語られなければいけないとそんな訳がないんです。他にも色々な語り方/語られ方があるだろうし、そういう物語があればとても良いでしょうね”と語る。

"Strolling""Ackee&Saltfish"のような映画を作ることの意味について、Emeke監督はこう語る。"短編映画を作るのは私にとってセラピーのようなものでもありました。一度も出会ったことがない人々に私の一部分を託すような。(中略)私の作品は多くの人を、自分含めて勇気づけるものだったと思っています。あなたはそこにいる、あなたは一人じゃないと"*3

当たり前に存在している筈なのに、映画的な陳腐さに覆い隠されていた声を、Emeke監督は掬いとり、そして"Ackee & Saltfish"が作られたという訳である。正直5話+短編(公式サイトから購入可らしいのだが、自分はまだ買ってないので日本から購入できるかは不明)なのは少なすぎる。オリヴィアとレイチェルのあのうだうだ感、が既に恋しくてしょうがない。