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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Chloé Robichaud&”FÉMININ/FÉMININ”/愛について、言葉にしてみる

以前このブログで、私の好きな監督・俳優特集の第1弾としてカナダの映画監督Chloe Robichaudを取り上げたのを覚えてらっしゃるだろうか(覚えてない、読んでないという方はこの記事をどうぞ)。今回取り上げる作品は、そんな彼女が2014年に監督したWebドラマシリーズ"FEMININ/FEMININ"だ。この作品、一言で表すとすると“Lの世界発、Girls経由、ケベック着”という内容、つまりケベックモントリオールに生きるレズビアンたちのライフスタイル、様々な愛の風景を連作短編という形で描き出していく作品という訳である。(Adblockをoffにしないと閲覧不可なので、そこのとこ注意!)

1話目"Pilot"の主人公はレア(Noémie Yelle)、何となくデートをして、何となく何か違うなと思って、何となく別れて、何かに真剣になれない日々を過ごしている。ある日彼女はソフィー(Carla Turcotte)と出会い、デートする。"いやでも私、ちょっと風邪引いて疲れてるから、また今度」数日が経ち、2人はデートし、セックスをする「あーあの明日仕事早いから、何ていうか……"そして彼女は友人のエミリー(Eriane Gagnon)にこう言う。"彼女、看護師で、グレイズ・アナトミー観てすごい盛り上がったりして、それで彼女のこと好きなんだけど、でも何かさあ……"

2話目"Celine&Julie"は40代のセリーヌ(Macha Limoncik)が主人公。最近、離婚した彼女を慰めるために友人たちが集まってくれたのだが、みなパートナー連れで少し居心地が悪い。しかも善意なのか何なのか「今はネットもあるし、またすぐパートナーなんか見つかるよ!」と言ってくる。そんな友人の薦めで渋々ながら、アイアン・メイデンのTシャツなんか着てクラブにも行ってみるが、客層が若すぎてどうにも合わない。しかしそんな彼女に、多分自分より10何歳も若いだろうクラブの店員(Sarah-Jeanne Labrosse)が話しかけてくる。"そのTシャツ、カッコいいですね"

こんな風にして、毎回主人公が変わっていき、それぞれにとっての恋や愛が映し出されていく。そしてこの作品が特徴的なのは、物語の随所に登場人物たちがある質問に答えていくという形式のドキュメンタリーが挿入されていく所だ。Lez Spread The Wordというサイトのスタッフが彼女たちにこんな質問をしてくる。

レズビアンの恋愛は、異性愛者の恋愛より情熱的? ”
レズビアンヘテロ女性よりアルコールを多く摂取するというのは本当?”

と正直はぁ???と言いたくなるような質問に対して、しかし、彼女たちはそれを陳腐だと切り捨てることなく、自分の身に引き寄せながら答えていく。

“周りのカップルを見て思うのは、レズビアンとかヘテロとか関係なく、みんな似たような物だってことです”
ヘテロ女性よりレズビアンはビールとか良く呑むと思う。だって男の目を気にしてお尻をシェイプアップとか、そういうの考えなくていいから”

その他にも“恋愛関係というものはいつか終わるのか、それとも永遠に続くものか?”だとか“レズビアンが子育てをするとは?”だとかそういった質問が投げ掛けられ、彼女たちはそれに対し真摯に返答していく。そして物語は登場人物たちの“レズビアン”というアイデンティティに対するスタンスの多様性も描き出していく。

田舎町に住むノエミ(Julianne Côté)は友人にカムアウトしてはいるが、別にキスとかはしたことないしと確信はない。そんなある日モントリオールにいる叔母ステフ(Eve Duren)の元へ旅行に行くことになる。そこでステフの友人たちと出会い、交流を果たす。そしてノエミは笑顔を浮かべながら"高校時代は本当に大切な時間だった、だって自分がレズビアンだって分かった時だから"と、そうステフに言えるようになる。

その一方、アレックス(Alexa-Jeanne Dubé)はある日、無二の親友だったアン(Kimberly Laferriere)と勢いでキスをしてしまう。その後気まずくも何度か顔をあわせ、“奇妙な感じ”を味わいながらも、遂にはためらいなく愛しあうことになり、幸せな時を過ごす。そんなアレックスは“あなたはレズビアンですか?”という質問にこう答える。“女性とキスしたとか、愛し合ったとかで、じゃあ私はレズビアンだとか、じゃあバイセクシャルだとかじゃなくて、そういう指向以前に、私は人間(Human being)なんだって言いたいんです”

1話において、レアやエミリーたち友人グループに対して、ある男たちが"君はレズビアン、違う、君は違うな、で君はレズビアンだ"」と言ってくるシーンがある。こうして外見から性的指向がどうとか言うのは当然馬鹿げている。かと言って、その人の行動・内面を知った上であなたは○○と言うのだって同じくらい馬鹿げたことなのだ。あなたは○○だ、ではなく、私は○○だ、他人がジャッジするのではなく、決めるのは自分自身だということが重要なのであると、そんな当たり前のことをこの作品は伝える。(例えば、同性愛“疑惑”だとかいう言葉がのさばるのは本当に耐え難いものだ)

しかしテーマの他にも魅力的な部分があって、まず一つが劇中にメタなネタがたくさんあること。またも1話冒頭にエミリーが「あっロビショー!」と友人に話しかけるが、その名前で分かる通り、ニット帽をかぶり眼鏡をかけた彼女がこの作品の監督Chloe Robichaud本人である。そして劇中でドキュメンタリーを作っているサイトLez Spread The Wordも実在サイトで、"FEMININ/FEMININ"を配信しているのもこのサイト、つまりRobichaud監督が制作した作品の登場人物たちが出ている劇中ドキュメンタリーを製作しているのがRobichaud監督という、何故にこの作品でこんなメタメタなことしているのかと思うほどメタメタなのである(だからあの陳腐な質問の数々もわざとだろう)。他にもRobichaud監督のコネを全力で利用したサプライズや、以前書いた記事を読んでくださった方はあっ!と思うような場面もあるのでお楽しみに。

そして作品を彩る音楽も魅力の1つだ。Les IncendiairesRandom RecipeLesbian on Ecstacyなど、2013から14年にかけてカナダのクラブシーンで流行っていただろう楽曲が満載なのである。どれもこれもビートが耳に心地よい曲ばかりで、Robichaud監督のセンスの良さが光っている。Youtubeプレイリストがあるので、これを聞くのもまた楽しい。自分が特に好きなのはこのPhilemon Simonの"Moi j'ai confiance"だったり。

“カミングアウトしていくのと同時に、私たちは自分たちについて語っていく必要があると思います。世界はまだ異性愛が中心だからこそ、私たちの経験を言葉にしていかなくてはいけないんです”ある女性がカメラに向かって語る言葉、これはおそらくRobichaud監督の言葉にも重なっていると思う。多数派によって掻き消されてしまいそうな声を掬いとり、人々に届ける。それが今やるべきことなのだと、Robichaud監督は物語という形を借り、時にはドキュメンタリーという形を借り、この"FEMININ/FEMININ"を作ったのだ。そんな作品が日本に広まることを願いながら、この記事を終えることにしたい。

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Robichaud監督と同じように、多数派によって掻き消されてしまいそうな声を掬い取っていく作家の1人。彼女は白人中心の社会でとかく不可視化されてしまいがちな黒人、特に黒人女性たちの声を映画にしていく作家だ。そんな彼女についての記事。ちなみに2人には"そうして製作した作品をWebで無料配信している"という共通点もある。今、世界を語る物語を知るに最適なのはWeb配信作品でこそ、ということなのかもしれない。

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