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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Talya Lavie & "Zero Motivation"/兵役をやりすごすカギは"やる気ゼロ"

イスラエルは建国時から今まで何度も何度も戦争を経験している。第一次、第二次、第三次、そして第四次中東戦争、最近でもまたレバノン侵攻、幾度とないガザ侵攻……そのせいで今でも徴兵制が敷かれていて、18歳以上の男女全員が兵役に従事しなくてはならない。男性は3年、女性は1年9ヶ月、いつまた戦争が起こるか分からないという不安と戦い、心をブチ殺しにかかる軍隊のガッチガチな集団主義と戦う日々を過ごさなくてはならない。そんなクソったれな不条理に対して“やる気ゼロ”を合い言葉に立ち向かう監督がいる。それがTayla Lavie監督であり、彼女の作った作品が"Zero Motivation"なのだ。(この英題、本当に素晴らしい)

舞台は砂漠の真ん中に建てられたイスラエル軍の基地。休暇から帰ってきた兵士たちが重い荷物を持ってその門をくぐる。だがダフィ(「フットノート」Nelly Tagar)は死んだ魚のような目で基地を見つめ、荷物をドスンと道路にほっぽる。「死にたい」「何言ってんの、早く行くよ」「心が、重い」親友ゾアール(Dana Ivgy)が彼女をせかすのだったが、ダフィの足取りはやはり鈍い。しかし彼女にも希望があった。ゾアールに頼んで、軍の関係機関へと、テル・アヴィブの基地に配置替えを願う手紙を片っ端から送っていたのだ。もうそろそろ返事が来る、そうすればこんな地獄からはオサラバ……そんな淡い希望を彼女は持っていた。折しも彼女が配属されている管理部に新人テリア(Yonit Tobi)がやってくる。これはいい兆しだと、ダフィはかろうじて残っていた小石くらいのやる気を以て最後の仕事、テリアの教育係を勤めていく。

その一方、ゾアールは仕事についてはクソほどのやる気もないので、いつもパソコンに向かってマインスイーパーを繰り返していた。上官ラマ(Shani Klein)にネチネチ叱られても悪びれることはない。彼女なりのサボタージュな訳だ。しかしテル・アヴィブに行ってしまうかもしれない親友ダフィに対し何とも言えない気持ちを抱いている。そして極個人的な悩みもかかえていたりもする。ゾアールはパトロールのため、M16アサルトライフルを携えながらこう思う。処女のままじゃあ死にたくないと。話聞いてる限りこの基地にいる奴らはどんなクソアホだって1回はヤってる、基地でセックスしたことない女はマジでアタシだけだ、神様、処女のまま死にたくない、処女のままこんなクソ下らない兵役やりながら死にたくない……ゾアールはロシア移民の同僚イリーナ(Tamara Klingon)に顔を合わせるたび馬鹿にされながら処女喪失のチャンスを狙っていたが、ある日のパトロール中、運命の人かもしれない男、それもジェイク・ジレンホール似の兵士と出会う……


彼女がダフィ。頭に建築用ホッチキスをつきつけ「もうやだ、私、自殺する」と呟くの図。

Talya Lavie監督は1978年、イスラエルのペタク・チクヴァに生まれた。彼女自身、高校卒業後の18歳を迎えた年に徴兵され、イスラエル国防軍の基地で秘書として働いていた。兵役が終わった後、彼女はエルサレムのSam Spiegel Film and Television School、そしてBezalel Academy of Arts and Designで映画について学び、3つの短編映画"The Waitress"(2000)、"Shibolet Bekafe"(2004)、そして"Zero Motivation"の元となった短編"Hayelet Bodeda"(2006)を製作。(実はこの作品、日本でもショートショート フィルムフェスティバル&アジア2006で上映されていて、しかも審査員特別賞を獲っていたらしい。観れた方はマジに幸運な)しばらくTV局で働いていたが、長編映画を作るため、イスラエル中の基地という基地に赴き、女性兵士へのインタビューやリサーチを重ね、脚本を組み立てていった。

"兵役を終えてから思ったのは、私や友人の女性たちがどういう風に兵役をこなしているかについての映画を作ったら面白いんじゃないかということでした"と監督は語る。"Zero Motivation"はその"やる気ゼロ"な英題通り、女性兵士たちの日常をゆるゆるゆるっと描き出しながら、随所にイスラエル社会が人々に投げ掛ける黒い影が顔を出し、そして背中がゾワゾワするほど"死"の香りすら濃厚に漂ってくる作品だ。こういう映画かあと観客が思っていると、思いもかけないツイストに惑わされる。

"この映画はイスラエル社会を内側から描き出した作品なんです。ですが(パレスチナ問題のような)大きな政治的問題を扱う気はありませんでした。私は真実を語りたかったからです。その真実とは軍事施設で働いていたとしても紛争には直接関わることのない女性たちについての物です。(中略)皆が同じ制服をまとう画一的な世界で生きている彼女たちがどんな人々なのかを描きたかったんです" "そうして軍隊で働く女性たちは多くいますが、その存在の殆どが不可視化されていました"


彼女がゾアール。建築用ホッチキスを突きつけ「私のパソコンからマインスイーパー消したらブチ殺すぞ」と言うの図。

そんな監督の言葉のとおり、直接的に戦争が描かれることはない。ダフィたちが所属する管理部が何をするかと言えば、おびただしい枚数の書類を整理する、おびただしい枚数の書類をシュレッダーにかける、そして日に何度も何度も上官の元へお茶汲みに出掛ける……だが普通と違うのは、やはりここが軍事基地だということだ。直接描かれないからこそ、戦争という存在を強く感じさせられる訳だ。いつ基地が爆撃されるか、いつ自分たちは兵士として駆り出されるのか、そんな不安にビクビクしながら、しかしそんな不安を彼女たちなりのゆるさ――例えば現実逃避、例えばマインスイーパー――で和らげながら、2年という余りに長い期間を何事もなくやりすごそうとする。

"私はこの映画をダークなコメディとして描こうと思いましたし、観客もそう思うことでしょう。これは軍隊にとどまる話ではなく、社会のシステムについての話だからです" 監督はそう語る。"やる気ゼロ"とは彼女たちの生きる術なのだ、矛盾するかもしれないが、全力で"やる気ゼロ"を生きることこそ、軍隊、集団主義のクソったれ社会の中で自分が自分でいるための術なのだと、というかそもそもこういうのマジでもう勘弁して欲しい……という思いを、監督は"Zero Motivation"という作品で以てそれを伝える。

"Zero Motivation"イスラエルアカデミー賞Ophir Awardで12部門ノミネート、監督・主演女優・脚本・編集・キャスティング・音楽の6部門を受賞(ちなみにこの時に作品賞を獲ったのが、以前取り上げたロニ・エルカベッツ監督作"Gett"である)。オデッサ国際映画祭で最高賞、そしてトライベッカ映画祭においては最高賞と優れた女性監督に贈られるNora Ephron Awardを獲得、世界的に評価されることとなった。

"Zero Motivation"製作後、Lavie監督はTVドラマの監督に復帰し"Mi Natan Lach Rishayon?"を製作。内容はまだ良く分からないが、IMDBのプロット・キーワードという欄に載っている単語を羅列してみると、運転免許・レズビアンタクシードライバーフェミニズム・女性・狂信的愛国主義・動物保護、と内容が分かるようで分からないが、それでも何となく期待したくなる感じだ。ということで、イスラエルの新鋭Tayla Lavie監督に、今後とも注目である。


ゾアールとダフィ、女子2人の奇妙な友情も描かれる、そんなロマンシス映画としても楽しめます。

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http://d.hatena.ne.jp/razzmatazzrazzledazzle/20150708/1436319010
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Lavie監督と同じく、イスラエル映画界の最先端で活躍する映画監督ロニ・エルカベッツについて。彼女は“この国で結婚するとは、離婚するとは”という観点からイスラエル/ユダヤ教女性差別を鋭く描き出していく作家だ。

参考資料
http://variety.com/2014/film/news/first-time-israeli-filmmaker-talya-lavie-commands-attention-with-femme-centered-military-movie-1201211151/
https://www.bostonglobe.com/arts/movies/2014/12/06/israeli-writer-director-talya-lavie-debuts-with-zero-motivation/GQTnaOOu5crxrMbMSWWgsJ/story.html

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