鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Riley Stearns &"Faults"/ Let's 脱洗脳!


何か、望月ミネタロウの漫画に出てきそうな。

カルト教団という存在にはいつの時代も創作者を惹きつける魅力があるらしい。カルト教団を題材にしたアメリカ映画だけでも枚挙に暇がない、ここ5年ですらザル・バトマングリ"Sound of My Voice"、タイ・ウェスト"The Sacrament"、ポール・トーマス・アンダーソン「ザ・マスター」そしてショーン・ダーキンマーサ、あるいはマーシー・メイ」など、どんだけ作られてんだよ……って感じだ。そして2014年、また作られた。"Faults"という題名のその映画は、しかし、テーマに手垢が付いていたってそういう問題じゃあないんだよ!と類い稀な才能を見せつけられる、そんな作品だった。ということで今回は"Faults"とその監督Riley Stearnsを紹介していこうと思う。

Riley Stearnsはテキサス州オースティン出身。最初はミュージシャン志望だったらしいが、そんな彼が映画界に飛びこもうとしたのはこんなきっかけがあったからだという。“私が映画作りに携わろうと思ったのは当時の恋人で、今は妻のメアリー(さあ、彼女は誰でしょう?答えは数行下)がいたからです。彼女は私たちが17,8歳の時に出会うその前からプロの俳優として活躍していました。(中略)セットへ彼女に会いに行くうち、セットの裏側で私は彼女に恋をしたんです。それで脚本を書き始めました、映画界に飛び込むのには一番手っ取り早いと思えたからです”とStearnsは語る。“それは「ファイナル・デッドコースター」のセットでのことでした。私はジェームズ・ウォン監督に、自分は脚本家になりたいと話しました。すると彼は言ったんです「君は映画監督にもなるだろうね」と。私自身そうはなりたくないと固く決めていたのですが……”*1

ということで、Stearns監督はロサンゼルスへ移りTVドラマの脚本家としてキャリアをスタートさせる。クリスチャン・スレイター主演の"My Own Worst Enemy"(2008)、特殊能力を持った4人の高校生の活躍を描いたSFドラマ"Tower Prep"(2010)を手掛けるがどちらも打ちきりの憂き目に(その前にも1本だけリメイク版バイオニック・ジェニー(2007)でプロダクション・アシスタントもやっていたがこれも打ち切り)。

そんな中で2010年彼に転機が訪れる。2003年に出会って以降、交流を深めていた俳優メアリー・エリザベス・ウィンステッドと婚約したのだ。その翌年Stearnsは妻ウィンステッドを主演に起用し、デビュー短編"Magnificat"を監督する。主人公が幻覚に悩まされ次第に常軌を逸していくホラー作品らしい。そして2012年には再びウィンステッドと共に第二短編"Casque"を製作。Stearnsの公式vimeoから観られるが、ウィンステッドがカメラの前でフランス語を喋るだけの内容である。「彼女、私の妻なんです。かわいいですよね?」という思いは存分に伝わってくるが、うん……で、2013年にはVICEの出資で第三作"The Cub"を監督する。これも観れます。とある家族は彼女の幸せを考えて、オオカミに娘を預けるのだったが数年後……という短編で、サンダンス映画祭にも出品され好評を博した。そして2014年Stearnは初の長編映画"Faults"を監督することとなる。

高名なマインド・コントロールの権威だったのも今は昔、アンゼル(「エイリアン4リーランド・オーサー)は食事代もホテル代もロクに払えやしない惨めな中年男に落ちぶれていた。しかも過去にパートナーだったテリー(ジョン・グリーズ)から借金の返済を迫られてもう後がない。その日も金のため講演会を行っていたのだが「妹が自殺したのはテメェのせいだ!」と脱洗脳に失敗した女性の遺族にボコ蹴りにされ散々な目に。そんなアンゼルに思わぬ幸運が舞い込んでくる。著書を読んだという夫婦(クリス・スミス&"The Midnight Swim"ベス・グラント)が彼にとある依頼を持ちかけてきたのだ。何でも、2人の娘であるクレア(「デス・プルーフメアリー・エリザベス・ウィンステッド)が"Faults"と呼ばれるカルト宗教にのめり込んでしまったらしく、その洗脳を解いてほしいと頼んできたのだ。最初は乗り気ではなかったアンゼルも夫婦の羽振りのよさに負け、クレアの脱洗脳を請け負うことになる。そうとなったら迅速さが肝心とばかり、すぐさまクレアを誘拐、ホテルの一室に監禁し、アンゼルは脱洗脳プログラムを開始するが……

この映画を一言で表すなら“コーエン兄弟の監督した「マーサ、あるいはマーシー・メイ」”とするべきだろう。そういう意味でこの"Faults"は喜劇的な悲劇とも言える。アンゼルは情けない表情を浮かべながらもご高説を垂れクレアの洗脳を解こうとする。対するクレアは最初は怯えながら彼の言うことを聞くのだが、徐々に本性を表し始める。肉体を忌避して精神のみの純粋なる存在を志向する、そんなグノーシス的なカルト教団の信条が彼女の口から語られていく。その語り・予期できない行動の数々はアンゼルを戸惑わせ、パワーバランスはどんどんトチ狂った方に傾いていく。"Faults"のユニークさはその過程がみょ〜〜〜〜〜〜に間に抜けたブラックユーモアと共に描かれていく所にある。冒頭のボコ蹴りから、何だ、何かヨレヨレの中年男性が燃えたりする、燃えたりする。こっちが真剣に観ていたらへへ〜イと両頬を生温く往復ビンタされるような、何とも邪悪で暴力的でそれなのにゆるい笑いが随所にあるのだ。しかしそれは映画全体が弛緩していることを意味している訳ではなく、むしろ緩急自在、観客を心地よい弄ばれ感で満たしてくれるほどに巧みだ。

そして主演2人も魅力的だ。まずクレア役のメアリー・エリザベス・ウィンステッド。「デス・プルーフ」のチアリーダー娘や「ダイ・ハード4.0ジョン・マクレーンの娘ルーシー役として有名な彼女だが、ここでは新境地を見せている。“20代一般女性”と“雰囲気自体がカルトめいてる女”という存在の間をたゆたいながら、アンゼルを翻弄していく様は怪演と言ってもいいだろう。だが何と言ってもヨレヨレ中年男性アンゼルを演じたリーランド・オーサーの素晴らしさたるや!「エイリアン4」と題名だけではピンとこないかもしれないが、彼はあの人だ、エイリアンに寄生され腹をブチ抜かれながらヴォーーーーーーー!!!と叫ぶ眼鏡の博士役の人だ。



リーランド・オーサー、上37歳、下54歳。ナイスミドル。

そんな彼を久し振りに見かけたと思ったら、これがまあナイスミドル、ベン・メンデルソーンジョン・ホークスが好きな方(私です)にはまあ心を撃ち抜かれるだろうナイスミドルになっていてまあ。しかも"Faults"ではオーサー、トコトン惨めである、トコトン滑稽である、ボコ蹴りに始まり、何となく鼻から血を出し、クレアに過去の傷をチクチク抉られ顔をクシャっとさせながら便座に座って泣くのだ。被虐熟男である、被虐熟男なのである、正直この映画観ると変な性癖に目覚めてしまいそうになるくらいリーランド・オーサーがすごい、彼の存在が無かったら"Faults"はここまで面白くならなかっただろう、それくらいにこの映画のリーランド・オーサーは最高なのだ。

と、監督の紹介をするはずが話が逸れてしまったので、ここからは監督のインタビューを紹介して行こう。

(劇中で描かれる脱洗脳のプロセスについて)“でっちあげてはいませんが、ある意味で自由に描きました。子供の頃から私はカルト教団という物に魅了されていました。ドキュメンタリーを観たり本を読んだり……そして子供の頃も大人になってからも、一番興味があったのは脱洗脳についてだったんです。(中略)面白かったのは、メアリーとオーサーがTed Patrickの著作を読んでくれていたことです。彼は現代式脱洗脳の父でその経験を本に記していたのですが、私の着想の多くが彼の本から得たものだったんです。彼の著作は"事実は小説より奇なり"というのがいかに多いか教えてくれます。例えば、カルト教団の信者の多くは本名で呼ばれることを嫌うということ。自分の名前が好きではないというのではなく、これは反逆なんです、深く洗脳されている故に以前の自分との繋がりを持ちたくないという訳です。(劇中において)彼女はクレアという本名を呼ばれたくない、奇妙に思えますがこれは実際に起こっていることなんです”*2

ということでRiley Stearns監督の今後に期待。


私たち結婚してます。

参考資料
http://www.movies.com/movie-news/riley-stearns-interview-faults/18747?wssac=164&wssaffid=news
https://thedissolve.com/features/emerging/957-riley-stearns-on-diverting-expectations-with-fault/
http://www.sagindie.org/indieblog/filmmaker-interview-riley-stearns-writerdirector-of-faults/
http://www.filmcomment.com/entry/interview-riley-stearns-faults

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