鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

カン・ヘジョンが過去最高にキュートなのだけど「キム家の結婚狂騒曲」

韓国には、赤ちゃんが満一歳を迎えると行う“トルチャビ”という儀式がある。めかしこんだ赤ちゃんの前に筆、お金、茶碗にもったご飯を置く。もし赤ちゃんが筆を触ったら将来は学者、お金を触ったら将来は大富豪、ご飯を触ったら一生食いっぱぐれることもなく幸せに生きていける、というように赤ちゃんの未来を占うのである。さて、この映画の主人公ジェイソンも一歳を迎えて、親族に見守られながらそんな儀式に臨むことになる。筆に……に触らない、お金……に触らない、ご飯……にも触らない。彼はおもむろに、近くに置いてあった母親の鞄に手を突っ込み、掴んだのは――生理用ナプキン!騒然とする親戚陣、そんな中で誰かが叫ぶ「これは呪いのせい、私たち一族にかけられた呪いのせい、ああ……ああ、ジェイソン!」

日本ではめでたく配信スルーとなってしまったクリスティン・チョー監督作「キム家の結婚狂想曲」は、韓国系アメリカ人コミュニティで巻き起こる大騒動を描いたロマンティック・コメディだ。チョー監督はロマコメの王道を堂々と歩んでいく度胸に溢れているが、それで問題がないかというと……1つかなりデカい問題があると言わざるを得ない。

29歳のジェイソン(「泣く男」ブライアン・ティー)はロサンゼルス在住、広告代理店に勤めるエリートサラリーマン、恋人ジニー(「MOACA/も〜アカンな男たち」ジェイ・オスマンスキ)との結婚を控え幸せの絶頂にある……はずだった。しかし寄りにもよって結婚式当日、ジニーはケーキ屋のイケメンと駆け落ち、式は台無しになってしまう。ジェイソンの母ミソク(「オーファン・ブラック 暴走遺伝子」ジーン・ユーン)たち家族は大パニック、それもそのはず、ジェイソンの一族は30歳までに結婚できなければ死が訪れる――もしくはチンコが腐り落ちる!――という呪いに掛かっていると言い伝えられてきたのだ。というのも遠い祖先に、結婚式当日、花嫁を放っぽってSMプレイに興じていた男がいて、花嫁の父がその命と引き換えに一族末代にまで呪いをかけたのだという。

元々そんな呪い信じてなかったジェイソンはしかし、母親たちが余りに煽るモンだから、とにかくお見合いでも何でもしてみるが相手はいっこうに見つからない。そんなある日、彼は親友のケヴィン(「ブロンド・ボンバーガールズ」ボビー・リー)にこうアドバイスされる「韓国で相手を見つけてくれば良いんだよ!」折しもソウル出張が決まっていたジェイソンはその助言通り韓国で結婚相手を探すうち、理想の女性ナヨン(「テレシネマ7/トライアングル」カン・ヘジョン)と運命的な出会いを果たす。

この「キム家の結婚狂想曲」は今どき驚くほどにベッタベタなロマコメ映画である。ロマコメ文法を丁寧に踏襲、それはそれはもう少しも逸脱することなく予想通りの道行きを突き進んでいくので、いくら何でもと当惑する観客が出てもおかしくはないだろう。特に劇中で多様されるMV描写、まず恋が芽生える場所がカラオケであり、2人が乗り込むタクシーにも良い感じの曲が流れてきて恋が歩みを早めていく様は、もう、なに、こっちが気恥ずかしくなる程にエモい!!!ちょっとこれ、何年の映画、2013年、嘘でしょ、2013年って嘘でしょ!!!とチョー監督に詰め寄りたくなるくらいなのだ、いやもう本当に。

そんなベッタベタなロマコメに効いてくるスパイスが、同じく韓国人の血が流れながら、文化が微妙に重なり合わないことから来るもどかしさだ。「韓国人女性はな、アメリカ人が好きなんだ、アメリカ人の、このビーフが好きなんだよ!」と親友ケヴィンは言う。この言葉に象徴されているように、血は一緒でも、やはりアメリカ人と韓国人、互いを別の国の人間として見ていたりする。そしてジェイソンが見るソウルの風景、韓国映画が撮しとる風景とは全く異なっているのは一目瞭然だ、韓国映画にはないジェイソンの憧れが投影されているような色とりどりの煌びやかさがこの映画にはある。タクシーの中でジェイソンはナヨンにこう言う。「もし韓国に生まれていたら、僕は何か変わっていたと思う?」しかしナヨンはこう答えを返す「何も変わらない、同じように育って、同じような悩みを抱いて、今のあなたと同じ人がそこにいると思う」そんな思いがあるからこそ、2人は少しずつだが心を近づけていく。

そしてこの映画を語る上で欠かせないのはヒロインを演じたカン・ヘジョンのキュートさである。しばらく活動の場をテレビに移しながら「犬どろぼう完全計画」で5年ぶりにスクリーンにカムバック!……と日本では紹介されながら、カン・ヘジョン、実はこの1年前アメリカで既にカムバックを遂げていたのである(同年、後もう一作"Behind the Camera: Why Mr. E. Went to Hollywood"という韓国映画にも出演していたらしいがこちらは日本未公開)。今作はもう、カン・ヘジョンが超可愛いのだ、とにかく可愛い、カラオケしたり、キスしようとして出来なかった瞬間のはにかみ、パソコンの液晶前で調理したタラバガニをズバーンと見せる時の笑みったら!この作品カン・ヘジョンのキャリア史上最高にキュートな演技が見れる、トンマッコルへようこそより可愛い、もう可愛い、これだけでロマコメとしての素晴らしさが担保されているような物だ。

と、ここまで賛辞を連ねたのだが、LA-ソウル遠距離恋愛後、ロサンゼルスで2人が再会する後半から一気に風向きが変わってしまう。ずっとラブラブとは行かず愛が危機に陥る、というロマコメ文法を踏まえた展開がやってくる訳だが、このツイストがなんというか、余り感心できたものとは言えないのだ。最初ははあ???マジで???と良い意味で驚くかもしれないが、観ているうちにこれってどうなの……?とそんな心地になってしまい、何だかモヤモヤしてしまい素直に物語を楽しめなくなってしまう。ここ、完全にネタバレなので詳細は書けない、それゆえ観る人観る人に判断を委ねたいとそんな言葉でお茶を濁すしかないのである。

「キム家の結婚狂想曲」は同じく配信スルーになってしまったデヴィッド・ウェイン監督作「ラブコメ処方箋〜甘い恋のつくり方」と共通して、今どき珍しいまでにベッタベッタなネタの数々をブチ込んでくる点である意味似ていたりする。不思議なのは「ラブコメ処方箋」は一周回ってむしろ新しいと感じるのに「キム家の結婚狂想曲」は古きよきロマコメを観ているようで2015年にはもう貴重と言ってもいいくらいの気恥ずかしさを感じたりする、もちろんどちらが勝ってどちらが劣ってという訳ではないが、惜しいのは「ラブコメ処方箋」はその勢いを完徹して名作になったのに対し、「キム家の結婚狂想曲」は明らかに舵を切る方向を間違えてしまい、そう、心地よい気恥ずかしさを自分から台無しにしてしまった所にある。[前半B/後半C-]

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