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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Lisa Aschan &"Apflickorna"/彼女たちにあらかじめ定められた闘争

まず上の動画を見て欲しい。走り続ける馬の上で自由自在にポーズを取る選手たち、この凄まじいバランス感覚を伴った競技は“軽乗競技”もしくは英語で“アクロバット・ライディング”と呼ばれている。コトバンクの解説を引用すれば“調馬索で直径13m以上の輪線上を左手前駈歩で回っている馬上で、人がいろいろな体操をするという、体操競技の鞍馬を、動く本物の馬上で行うものである”*1この競技と共に、競技に挑む少女たちの姿を描き出していく作品がLisa Aschan監督の長編デビュー作に"Apflickorna"だ。

Lisa Ashchanは1978年2月28日、スウェーデンのベイビーストランドに生まれた。1998〜1999年にはストックホルム映画学校に在籍、そして2001〜2005年にはデンマーク国立映画学校に通う。在学中の2003年、スウェーデンの有名な小説家Alejandro Leiva Wegnerの原作を映画化した"Borta i tankar"で映画監督デビュー、翌2004年には"Fuck the Rapist!"を製作、レイプから身を守るためトゲトゲ付きのタンポンの宣伝CMという体裁で作られた短編によってAschan監督の名は一躍有名に。2005年には「偽りなき者」の脚本を書いたビアス・リンドホルムとコラボし第3短編"In transit"を、2006年には奇跡の海の脚本家ピーター・アムスッセンと共に"Goodbye Bluebird"を、そして2009年TVミニシリーズ"Thea & Leoparden"を監督。“私は映画に対してモノガミー的な関係をとる気はありません。舞台をやることもありますし、The Royal Institute of Art in Stockholmにもいましたから。私は自分のことをただアーティストだと思っています。テーマによってどの媒体を利用するかが決まるんです。”*2そして2011年Aschan監督は長編デビュー作"Apflickorna"を手掛けることとなる。

影に満たされた部屋、扇風機の風を静かに浴びるのはエマという少女(Mathilda Paradeiser)。エマは物音一つ立てることなく、体を躍動させる。その動きの滑らかさ、類い希な美しさは生半可な言葉を絶するものだ。そしてストレッチを終えた彼女が決意を以て向かうのは、軽乗競技の練習場だ。コーチや選手たちの前でエマはその身体能力を披露し、チームへの入団を許可される。彼女の先輩として指導にあたることになったのはカサンドラ(Linda Molin)だ、2人はストレッチや練習をこなしながら、友情を深めていく。

この"Apflickorna"において描かれる関係性の変化は多くの映画のそれとは異なっている。友情が深まり親密さが生まれはじめ、何らかの事件があり親密さが徐々に怒りや憎しみへと変貌していき、そして破局を迎える、それはペシミズムを濃厚に反映した変化の過程としては定石だろう。だがここにあるのはまた別に複雑な関係性だ、冒頭からその方向性は明らかだが、不穏さと親密さは表裏一体の存在として描かれる、どちらがどちらに転じるのではなく、不穏さと親密さは糾える縄の如く現れ、共に高まりを見せる。この采配が"Apflickorna"の強度を深めていく。

エマは妹のサラ(Isabella Lindquist)が通っている屋内プールで偶然カサンドラと出会う。あどけない笑顔を交わしながらプールで遊ぶ2人だったが、悲鳴によってその親密さが打ち破られる恐ろしい瞬間がある。しかし驚くほど容易く親密さは元の形に戻って、2人は笑いあう。繰り広げられるのはこのサイクルの飽くなき反復だ、親密さの醸造と崩壊、その合間に挟まれる不穏さの明滅、水面下でのこの闘争はいつしかエマとカサンドラの闘争として顕在化していく。

2人はプールでイェンス(Adam Lundgren)という青年と出会う。「エマ、彼のこと気になる?」「ううん、別に」その後エマたちはイェンスを湖に呼び出し、楽しい時を過ごす。「エマ、気になるんでしょ、彼のこと」「別に……」言葉とは裏腹にエマとイェンスの距離が急速に近づいていく中で、カサンドラはその繋がりを引き裂いてしまう、表向きは少女の戯れという形で。だが浮き彫りになるのはカサンドラがエマに抱く負の感情だ、一歩たりとも自分の先を行かせたくはない、私が作った世界を壊すのは許さない、その思いをカサンドラは過剰ともいえる親密さで塗りつぶしながら、エマを自分の所有物として愛し続ける。

そんな物語の合間に挟まれるのがエマの妹であるサラの恋だ。サラたちはシングルファーザーのイヴァン(Sergej Merkusjev)と共に暮らしているのだが、時々従兄弟のセバスチャン(Kevin Caicedo Vega)がやってくる時がある。サラは彼に恋をしているのだ。「今度はセバスチャンと一緒にプール行きたい」彼女はそんな言葉をエマに投げ掛けるほどだ。Aschan監督は、しかしこの初恋にすら異様さを宿らせていく。セバスチャンが家にやってきた日、サラは父に買ってもらった豹柄のビキニを着て彼の前でダンスを披露する。そんな光景は初々しさに溢れているが、同時に薄ら寒さすら感じさせ、続くサラの行動は誘惑としか言い様のないものだ。この異様なシークエンスは"Apflickorna"の不穏さに寄与してはいるだろうが難しい所だ、映画にとって意味がある以前にまず先立つのは生理的な拒否感であり、こういった衝動は現実に存在するかもしれないが、映画に描くことの許される表現なのか?とそういった問いの対象になるからだ。

所有物として自分を扱うカサンドラに対して、エマは反抗心を募らせていく。大会の出場メンバーの座を獲得するために2人の闘争は加速する。そしてこの作品は不穏さによって完全に支配され、ホラー映画としての様相すら呈し始めることとなる。"Apflickorna"は2人の人間さえ存在したならば、そこには激しい権力闘争が生まれるという1つの真実を描き出す作品だ。ラストの緩やかな帰着など幾つか瑕疵はありながら、その真実の痛烈さは確かに息づいている。[B]

2015年、Aschan監督は待望の第2長編"Det vita folket"を製作、スティーブン・キング「シャイニング」を着想元にした作品で秋にプレミアだそう。ということで、Aschan監督の今後に期待したい。

参考文献
https://sv.wikipedia.org/wiki/Lisa_Aschan
http://www.divamag.co.uk/category/arts-entertainment/she-monkeys-lisa-aschan.aspx
http://www.indiewire.com/article/meet_the_2011_tribeca_filmmakers_she_monkeys_director_lisa_aschan

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