鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

サラ=ヴァイオレット・ブリス&"Fort Tilden"/ぶらりクズ女子2人旅、思えば遠くへ来たもので

ジェームズ・フランコ、俳優として最近ではヴィム・ヴェンダース"Every Thing Will Be Fine"に主演&ヴェルナー・ヘルツォーク"Queen of Desert"にも出演、映画監督としてコーマック・マッカーシー「チャイルド・オブ・ゴッド」ウィリアム・フォークナー響きと怒りスティーブ・エリクソン"Zeroville"など大御所作家の小説群をボコスカ映画化、小説家としても作品をバンバン発表しジア・コッポラが彼の短編を映画化(しかもフランコはその映画に出演)、詩人として"Directing Herbert White"を出版、エッセイストとしてシャイア・ラブーフリンジー・ローハンらについてのエッセイを書きラナ・デル・レイについては1冊本を上梓予定、そしてその合間にはセス・ローゲンとイチャイチャしまくって、ラブラブ写真をネットにアップしたりしている。一体そんな時間どこにあるんだ、お前の世界は1日が100時間くらいあるのかと羨ましくなるのだが、更にフランコニューヨーク大学大学院の映画学科では教鞭をとっており、3年前にはミラ・クニスジェシカ・チャステインザック・ブラフヘンリー・ホッパーブルース・キャンベルと自身のコネを総動員して、生徒と一緒にC.K.ウィリアムズの伝記映画(という名のテレンス・マリックかぶれ映画)「スパークリング・デイズ」という映画を撮影するなど、なかなか良い教師っぷりを見せている。とは言ってもあのフランコが教えて生徒の才能が育つかよとお思いの方も多いかもしれないが、いきなり出ちゃったんだよそれが!!!ということで今回は「スパークリング・デイズ」にも参加していた、ジェームズ・フランコ門下生の出世頭サラ・ヴァイオレット=ブリス、彼女の長編デビュー作"Fort Tilden"を紹介していこう。

サラ=ヴァイオレット・ブリス Sara-Violet Blissはブルックリンを拠点とする映画作家だ。まずオーバリン大学に在籍したのち、ニューヨーク大学大学院でジェームズ・フランコらの元で映画を学びながら、彼女はそこで創作上のパートナーとなるチャールズ・ロジャースと出会う。在学中の2010年に短編"We Both Smoke"で映画監督デビュー、そして"Very Sorry""Priceless Things"と着実に短編を手掛けていく一方、編集技師・スクリプターとしてNYU同級生の作品に参加、技術を鍛えていく。そして「スパークリング・デイズ」を経てブリス監督は友人のロジャースと共に卒業製作として長編デビュー作"Fort Tilden"を監督する。

ハーパーとマリー(Bridey Elliot & Clare MacNurty、2人とも本業はコメディアン)は25歳、ルームシェアをしながら2人でダラダダラダラ日々を過ごしている。この日も友人の双子シンガーがコンサートをやるからと付き合いで行ってみたは良いが、宗教臭いわヘッタクソだわで最悪の心地。だが2人はそこで良い感じの青年サムとラス(Griffin Newman & Jeffery Scaperrota)に出会い、翌日N.Y.の外れにある海岸フォート・ティルデンで遊ぶことになる。マリーはもうすぐピース・コープスというNGO団体に参加しリベリアへ行くことになっているので、最後に2人の思い出作りという訳だ。しかし翌日、家に出る前からクソみたいな出来事が重なって出かけられない。やっとのことで全て片付けて自転車でキャッホー!と出掛けたは良いが、2人は即効迷ってブルックリンの真ん中でまごまご。だけどそんなの序の口だ、この1日がハーパーとマリーにとって本当にクソみたいな1日になるなんて彼女たちは知る由もなかった。

このブログでは"Obvious Child"「ラブコメ処方箋」「しあわせへのまわり道」などなど、N.Y.って良いなあと思える作品を多く紹介してきたが、今回の"Fort Tilden"くらい、こんなN.Y.絶対行きたくない!と思わされる映画もないだろう。2人が迷いこむNYはクソ暑くて、クソうるさくて、クソ汚くて、住んでる人々もクソ人間ばかりで、なにより道が入り組みすぎて何処が何処だか全然分からないクソッタレ迷宮都市として描かれる。そんな場所でハーパーたちが出来のわるい悪夢みたいなハプニングに次々と見舞われて、フォート・ティルデン海岸に辿り着くもクソもない様はマーティン・スコセッシ「アフターアワーズみたいで、だけどもこの映画はほぼ昼間なので「ビフォーアワーズ」と名付け直したっていい。

そしてこのブログでは「ダイヤルはン〜フ〜」みたいな女子の友情ってサイコー!という映画も紹介してきたが、クズ女子2人の友情はサイコー!ともサイテー!とも言えぬなかなかに複雑な形をしている。自分はアーティストと言って憚らず父親のマネー頼りでモラトリアムを謳歌するハーパー、何か今の感じヤバいよなぁとNGO団体に参加しようと思っているマリー、2人の最後の思い出作りはマジで散々なことになる。マリーがひょんなことからベビーカーを轢いて逃走する羽目になりハーパーが「何やってんだボケが!!!」となったり、何の脈絡もなくハーパーが男友達チンコの話をし始め「うっさいから止めろ!!!」となったり、そこにイライラする出来事が連続するので、全編2人の友情がブチブチブチブチと崩れていく音が聞こえてくる。そんな2人を演じているBridey ElliotとClare MacNurtyはこれが本格的な長編デビュー作ながら、その掛け合いは絶妙、マジでコイツらダメ人間だ……ってキャラを物凄く嬉々として演じている。

“(主演の2人について)Clareはオーバリン大学からの長い友人で多くの短編に出てくれました。だからキャラクターを書く時ずっと彼女のことを念頭に入れていました。(中略)BrideyはYoutubeにコントを幾つもアップしていてそれが本当に面白かった。書いていたキャラクターに必ずしも合っていた訳ではないのですが、彼女はとても賢くて楽しい女性だったので、すぐ彼女をエースホテルに呼んで酒を飲もう!ということに”

“(何故主人公は男2人、もしくは男女ではなく女2人なのかという質問に対して)私にとって、一番親密な関係を築けたのは女性とでしたし、友人はほとんど女性です。(中略)共依存という問題を抱えている2人を描く時は女性同士の方がより笑えて、2人の人間がこういう関係に陥るというのはとても女性的なことだと思うんです”*1

だがこの作品が指向するユーモアにはちょっと書いておきたいことがある。この"Fort Tilden"、アメコメには当然のこととして、いきなりチンコの話が出たり、いきなりチンコの写メが送られてきたりと下ネタがガンガン来るのだが、それ以上に人を馬鹿にしまくるネタがかなり多い。N.Y.は様々な文化が共に生きる街、というのを逆手に取ったのか何なのか、老若男女、人種関係なく徹底的に馬鹿にしまくる。(特にアジア系がかなり馬鹿にされるのだがピッチ・パーフェクトの色物アジア系キャラといい"The Interview"の金総書記といい、最近の傾向なのだろうか?)

というので思ったのが今のアメコメはある意味で2つに分けることが出来て、1つが「TED テッド」セス・マクファーレン型、もう1つが「22ジャンプストリート」ミラー&ロード型だ。前者はとにかく全方位に不謹慎でド失礼なネタをブチかましまくり、後者はPC(政治的正しさ)を踏まえた上でネタを構築していくものだ。"Fort Tilden"は完全に前者に属した作品で、いや、まあ面白いことは面白いんだけども、思わず笑ってしまった後、何となく居心地が悪くなったりする瞬間が多々あるのだ。そこの所「22ジャンプストリート」以後には少し物足りない感じもしたりする。

だけども"Fort Tilden"は嫌いになれないというか、抗い難く魅力的な部分も現れてくる。散々NYを彷徨ったハーパーとアリーを待っているのは圧倒的な徒労感だ。今までの旅は一体何だったのだろうという思いが次第に、私たちの人生って一体何なんだろうという思いへと変わっていく様はかなり胸に来る。アリーの表情がどんどん歪んでいく様は見てられない。そしてハーパーとアリーは黄昏に人生を見る、齢25にして人生の限界というものを知ってしまう。それは同じく女子2人の心のさまよいを描いたゴーストワールドよりも、むしろ「さらば海のかもめ」だとかバニシング・ポイントみたいなアメリカン・ニュー・シネマが描き出すあのラストの侘しさにものすごく近い。私自身かなりそういう映画が好きなので、終盤の展開には心を持ってかれてしまった。

"Fort Tilden"は笑いのネタに色々問題はありながら、2人のクズ女子が若さを失うまでのドラメディとしてかけがえのない余韻を残す。そこにあるのは、たぶん誰もが経験したことのある諦めなのだから[B-/ラストの侘しさにはA-]


マジでそういうのドクソ勘弁してくれや、と思っている2人の図。2人、ずっとこんな顔してる。

サラ=ヴァイオレット・ブリス監督、"Fort Tilden"の後は"Three, Two"という短編を製作、更にNetflixドラマ「ウェット・ホット・アメリカン・サマー キャンプ1日目」ジェイソン・シュワルツマンロマン・コッポラがクリエイターの"Morzart in the Jungle"で脚本に関わっていた。次回作はロジャース監督や「ウェット〜」のマイケル・ショーウォルターと共にクリエイターとしてドラマ"Search Party"を手掛けるという。20代後半の自己中4人(アリア・ショウカットJohn EarlyJohn Reynoldsメレディス・ハグナー)が大学時代の友人の失踪をきっかけに再会するというコメディらしい。ということでサラ=ヴァイオレット・ブリス監督の今後に期待。


参考文献
http://www.themarysue.com/interview-fort-tilden-sarah-violet-bliss-charles-rogers/
http://www.latino-review.com/news/exclusive-interview-with-directors-sarah-violet-bliss-and-charles-rogers-for-fort-tilden
http://moveablefest.com/moveable_fest/2015/08/sarah-violet-bliss-charles-rogers-bridey-elliott-clare-mcnulty-fort-tilden.html

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