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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Damian Marcano &"God Loves the Fighter"/トリニダード・トバゴ、神は闘う者を愛し給う

トリニダード・トバゴカリブ海に位置する2つの島から成る国家、人工133万人、面積5128km2、公用語は英語だが最も多く話されている言葉は英語系のクレオール語、首都はポートオブスペイン、アフリカ系、インド系、中国系、様々な国の混交した文化、カーニバル、カリプソ、ソカ、クリケット、有名人にはノーベル文学賞も受賞したV・S・ナイポール、ボクサーのジゼール・サランディ、ニッキー・ミナージュも首都ポートオブスペインの出身だ。そんな国トリニダード・トバゴ、だがやはりこういう文字情報だけでは自分の知らない国を身近に感じるには少し距離を感じる。こんな時にも映画はそこにあってくれる、その国に生きる人々・文化を映像として見られるのは魅力的だろう。もちろんそれだけで何かを知った気になっては駄目だが、でも自分の知らない国の映画を観るというのはそれだけで楽しい経験だ。ということで今回はトリニダード・トバゴの今を軽快に描き出す映画作家Damian Marcanoと彼の長編デビュー作"God Loves the Fighter"を紹介していこうと思う。

Damian Marcanoはトリニダード・トバゴ出身の映画監督だ。幼少期は首都であるポートオブスペインの東側にあるMorvanのCassia Streetで育った。12歳の頃アメリカへと移住、そしてオハイオ州立大学で薬学を学ぶことになる。卒業後はニューヨークでウェブ・デザイナーとして働きながら映画監督としての道を歩み始める。2011年にはデビュー短編"The Little Boy and The Ball"を手掛ける。その後自身が生まれ育ったMorvanで映画を撮りたいと考え、そんな時出会ったのが詩人で活動家、そしてFreetown Collective というバンドを率いるMuhammad Muwakilだった。彼の詩や歌、出演・脚本を手掛けた短編映画"4am"などを通じてその世界に触れた MarcanoはMuwakilを口説き落とし、Muwakilを主演に据えて初長編"God Loves the Fighter"を監督する。

町の市場、男の高らかな声が鳴り響く。抑揚は自由自在、言葉は波のように寄せては返し、かと思えば突然刃のような切れ味すら見せる。声の主はキング・カーティス(Lou Lyons)、彼は一体何者だろう、いや何者でもあるのかもしれない、誰も彼を気にする者はいない、悠然と雄大に、キング・カーティスは叫びを上げる。そうして彼の声が紡いでいくのはトリニダード・トバゴに生きる人々の現実だ。

チャーリー(Muhammad Muwakil)という青年、金も仕事もなく毎日を自堕落に生きる、毎日毎日毎日……しかしある日、チャーリーはストーン(Abdi Waithe)に会いにゆく。この自堕落と縁を切って少しは真面目に働こうという訳だ。ストーンという男、ドレッドヘアを振り、腕にはドデカイライフルを持った危ない野郎、だが小さな頃、拳銃で空をブチ抜いた時逃げなかった唯一の少年チャーリー、その時からずっと2人は親友だ。

教会で罪を告白するのはダイア(Jamie Lee Phillips)という女性、彼女は売春婦、セックスで金を稼ぐ日々はもう飽き飽きだが、生きる道はこれしかないと諦めきっている。彼女のいる売春宿の元締めはプタオ(Darren Cheewah)街で一番危ない男がコイツだ。全身に入れ墨、着るのはボクサーパンツだけ、手にはもちろんクソデカイ銃のお出まし、彼に逆らった奴は皆殺しだ、後には血と肉と糞だけが残っている。そんな彼の元に現れるのはストーンと、そしてチャーリー、彼はプタオの下でドライバーとして働くことになるのだが……

とにかくこの力強くうなりをあげて展開していくこの物語の底には、カリブの伝統としての口承文化が存在している。一人の男の口から神への祈り、人間存在への洞察というマクロコスモスな言葉の数々、トリニダード・トバゴに確かに生きる人間たちの歩み、その交錯というミクロな言葉の数々が糾われていくことで驚くほどダイナミックな魅力が炸裂し、炸裂を遂げ、そして更なる炸裂を果たしていく。

監督の他、脚本・製作・撮影・編集を一手に引き受けるMarcano監督だが己の内から溢れ出てくるビートそのまま物語を紡いでいく様はもうノリノリで、快活な勢いは止められない。しかし彼の眼差しは勢い一辺倒かと思えばそうでなく、画面にかかる黄橙の色彩を見ればそれは明らかだ。Instagramによって黄昏のフィルターをかけられた風景には今を映しながらも懐かしさすら感じられる。映画という媒体を通して眼差す町や通りに、監督自身がかけがえない故郷への思いを再確認しているような感触。

そして主役を演じるMuwakilの率いるバンドFreetown Collective(クレジットでは何故かFreetown表記のみ)、彼らとラッパーのQ Majorが手掛ける劇半の素晴らしさ!レゲエからサカ、ラップミュージックまで、OPで名もなき人々の日常が次々と映しだされる時のあの高揚感から、キング・カーティスの叫びとかけ合わさり、聞く者から様々な感情を引き出し脳髄に叩きつけてくる。この音楽が無ければ、この映画の魅力は半分完全に消え失せると思わされるほどだ。

が、ここから少し。私はこの高揚感に身を任せながらも心の隅で思っていたことがあって、それは“優れた口承文化の映画化は、もはやミュージック・ビデオと見分けがつかないのでは?”ということだ。様々な登場人物の行動が軽快なカット割りと共に現れては消え現れては消え、その錯綜具合や突飛さは――驚いたことにこの作品、エミリー・ブラント主演憧れのウェディング・ベルが登場したりする――口承の自由闊達な語りを反映していると思うのだが、劇半の多用も相まって、かなり、ミュージック・ビデオっぽさがある。MV出身の監督がシティ・オブ・ゴッド作ったらと、そういう。ここはかなり評価が分かれるポイントなのは間違いない。

チャーリーは一転して犯罪まみれの日々を送ることになるが、彼はそんな光景を目の当たりにするごとに思いを強くしていく――自分は正しいことを成すべきだ。そしてダイナは、親によって売春窟に売られてしまった、自分よりずっと若い少女と交流を深める。こうしてカオスを爆発させていた物語は秩序だった1本の道を歩みだし、徐々に神話性を帯びていく。ここで"God Loves the Fighter"という言葉が意味を成してくる、神は闘う者を愛したまう、この言葉はチャーリーたちに捧げられる物だろう、だがそれだけではない、Marcano監督はトリニダード・トバゴに生きる者にこの言葉を捧げる、トリニダード・トバゴに生きる全ての者にこの言葉を捧げる、そんな人間讃歌を歌い上げる映画こそこの"God loves the Fighter"だ[B]

今後の計画としては2015年のロッテルダム国際映画祭にドキュメンタリー短編"Giants"を出品、ロッテルダムに生きる黒人少年たちの姿を描いたこの作品は、2014年に"God〜"のプレミアでロッテルダムに滞在していた2ヶ月間に撮影したのだという。さらにアメリカで"June"という短編を制作中だそう、ということで今後のMarcano監督の活躍に期待。


参考文献
http://www.ttfilmfestival.com/2013/04/filmmaker-in-focus-damian-marcano/(幼少期とか色々インタビュー)
http://www.largeup.com/2014/09/19/god-loves-the-fighter-to-make-us-debut/
http://caribbean-beat.com/issue-117/muhammad-muwakil-world-change(Muhammad Muwakilについて)
http://www.imdb.com/video/withoutabox/vi1912511257(短編観れる)

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