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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

レナート・デ・マリア&"Italian Gangsters"/映画史と犯罪史、奇妙な共犯関係

個人的な話だが、私が一番好きなイタリア産犯罪映画は「秘密組織・非情の掟」……と書いてから調べてみたら全然イタリア映画ではなかった、普通にアメリカ映画だった、でも何かこういう邦題のイタリア犯罪映画あった気しない???……まあ、ということで仕切り直そう、個人的な話だが、私が一番好きなイタリア産犯罪映画は野獣死すべしだ。ルチオ・フルチと言えばサンゲリア」「地獄の門」「ビヨンド」と蛆虫がたかり内臓が逆流するゾンビ映画でお馴染みだが、その頃のイタリア人監督と同様ジャンルなんか問わず色々な作品を作りまくる職人監督だった。サイケデリック・スリラー"Una sull'altra"異色のマカロニ・ウェスタン「荒野の処刑」ブレードランナーをやる気20%くらいでパクった「未来世紀ローマ」フラッシュダンス×ジャッロな「マーダロック」etc……そんな中「サンゲリア」製作の翌年、1980年にフルチが作っていた犯罪映画が「野獣死すべし」だった。ナポリ・マフィアと新興フレンチ・マフィアの激しい抗争模様を描いた作品だが「ビヨンド」などで魅せた俗悪グロテスク描写がもっのすっごく素晴らしい。銃撃で虐殺は当たり前、バーナー拷問やら口から後頭部へと銃弾貫通やらあって堪らないのだが、マシンガンだかをブチこまれて男の顔面がエグいくらい爆裂するトコはもう超お気に入りで、一時期Twitterのアイコンにしていたくらいだ、それくらい好きだ。そんな70年代から80年代にかけて隆盛を極めたイタリア産犯罪映画、その豊穣さはイタリア犯罪史の輝きに依る訳だが、ヴェネチア国際映画祭特別編その3、今回紹介するのはイタリア犯罪史を綴るドキュメンタリー……っぽい劇映画"Italian Gangsters"とその監督レナート・デ・マリアだ。

レナート・デ・マリア Renato De Mariaは1958年イタリアのヴァレーゼに生まれた。妻はミケーレ・ソアヴィ「グッバイ・キス -裏切りの銃弾-」「グレート・ビューティ/追憶のローマ」などに出演したイザベラ・フェラーリ、2人の間にはニーナとジョヴァンニ、そしてフェラーリの連れ子であるテレサと3人の子供がいる。 映像製作を始めたのは1982年、初めて作ったビデオ・インスタレーショントリノ映画祭で賞を獲得し、そこから映像作家としてのキャリアを本格的に歩み始める。1988年にはエイズ患者の姿を描いた"Love is the Answer"、1989年にはアマゾンの熱帯雨林がテーマの"Raoni's return"、そして1990年には自身の製作会社Monochromeを立ち上げ、同年映画監督としてデビューするのだが、キャリアが長く作品数も多いので、ここからは年表形式で監督作をまとめ、重要な作品に絞って解説を入れていこう。

1990年 "Matti a Parole"(デ・マリア監督初の長編ドキュメンタリー)
1991年 "Il trasloco"(長編ドキュメンタリー)☆
1992年 "Lu Papa Ricky"
"La citta parlata"(2本ともドキュメンタリー)
1996年 "Hotel paula"(初の劇映画)☆
1999年 "I figli dell'odio"(長編ドキュメンタリー)
2000年 "Distretto di polizia"(イタリアで12年間続いた刑事ドラマ。デ・マリア監督はシーズン1の全話を担当)
2002年 "Paz!"(劇映画)☆
2003年 "Doppio agguato"(TV映画)
2004年 "Maigret: L'ombra cinese"
"Maigret: La trappola"(2本ともTV映画)
2005年 "Amatemi"(劇映画)
2007年 "Medicina generale"(TVドラマ)
2009年 "La prima linea"(劇映画)
2011年 "Il segreto dell'acqua"(TVドラマ)
2014年 "La vita oscena"(劇映画)☆

彼の出世作は1991年の"Il trasloco"、1977年に活発化した政治運動Movimento del'77についてのドキュメンタリーだ。劇映画デビュー作は1つの不幸が1つの家庭を崩壊させるドラマ作品"Hotel paula"だが、現在の地位を築くきっかけとなった作品は2002年の"Paz!"だろう。70年代のいつか、ボローニャの学生アパートメント、そこでは24時間マリファナにセックスに政治運動にと70年代的としか言いようがない生活が繰り広げられていた。Andrea Pazienzaの同名コミックを原作としたこの“トレインスポッティング in イタリア”とも言うべき本作はイタリアを席巻、デ・マリア監督は劇映画作家として名を馳せる。そして2005年の"Amatemi"、2009年の"La prima linea"を経て、2014年には"La Vita Obscena"を手掛ける。若き詩人アンドレア(Clément Métayer)は美しい母(イザベラ・フェラーリ)と共に田舎の別荘で静かに暮らしていた。だが彼女はガンで余命は僅かと宣告される。悲しみに暮れるアンドレアの世界には幻想と現実が混ざりあっていく。小説家Aldo Noveの回顧録を模した小説"maudit"を元に作られたこの作品はオリゾンティ部門に出品、Hollywood Reporterのレビューは“現代ヨーロッパのエセ文芸映画の中でも、スケートボードに乗ったニヒルな詩人についての映画ほど退屈な物はあるだろうか……”だそうです。そんな映画の翌年、監督は最新作"Italian Gangsters"を手掛け、これもまたオリゾンティ部門に出品されることとなる。

スポットライトに照らされた空間、深き陰影を湛えた男たちの顔が代わる代わる現れる。彼らは私たちに名前を告げ、自身が生を受けた地の名を語る。これはドキュメンタリーかと最初はそう思うだろう、だが生まれたのは1920年代、30年代とそんな言葉を聞くうち、私たちの目の前にいるのは俳優で、とある過去に生きた者たちが俳優たちの姿を借りて言葉を紡いでいるのだと分かってくるだろう。そして6人の男たち―― Paolo Casaroli, Pietro Cavallero, Luciano De Maria, Holst Fantazini, Luciano Lutring, Ezio Barberini――は語り始める、自分がどのようにしてイタリアの犯罪史に名を残すことになったのかを。

犯罪史と映画史の奇妙な共犯関係、"Italian Gangsters"の内容を一言で表すのならこうなる。犯罪者たちの魂を宿した俳優の語りとそしてニュースや映画のフッテージ映像、その2つのみで30年に渡るイタリア犯罪史を描こうとするデ・マリア監督の試みはストイックで、だからこそ意欲的だ。しかしそれが映画の面白さに結実しているかという問いには、残念ながらNOを叩きつけなければいけないのが惜しい所だ。

30〜40年代、ムッソリーニが台頭し第二次世界大戦への道を邁進していたイタリア、パルチザンファシストたちの飽くなき闘争の中で男たちは育った。言葉にはニュース映像が重なり、観るものに当時のイメージを喚起する。大戦後、見るも無惨な廃墟の町で彼らはそれぞれの理由で犯罪者としての生き方を選ぶことになる。6人の語りは自身の趣味や、出会った女性について、二つ名の由来など様々に曲がりくねった道を行きながらも交わることなく進んでゆく。だが本当にただただ語りが続くゆえに、始まって時間もそんな経たないうちに退屈さが画面に充満することとなる

少し盛り返すのが彼らが嬉々として自身の犯した罪について語る場面だ。初めて強盗をやってのけたとそんな語りに、その内容に呼応するような映画のフッテージが被さってくる。私たちが持つ映画史の記憶と、彼らの持つ犯罪史の記憶が重なりあう瞬間はスリリングだ、最初のうちは、だが。そんな瞬間が増えていき、バーゲンセールのように安売りにされていくうち、どんどん瑕疵が見えてくる。あるカーチェイスの記憶では興奮を膨らますためかわざわざフッテージ映像を早回しにしたり、更に同じ映像を使い回したりとそういう物に一度でも気づいてしまうと、興奮は膨らむどころか萎んでいくしかない。

物語が進むにつれて、6人の語りも熱を増し、犯罪史の高まりも最高潮に達するはずがその頃にはもう、付き合わされるこっちの身にもなってくれ……そんな呻きが喉元まで競り上がってきて、どうにかこうにか飲み下すとそんな心地だ。確かにイタリア犯罪史の複雑さを個々人の語りから重層的に浮かび上がらせようとする意図は分かるが、コンセプト頼りで物語に飽きさせない工夫は存在してしない。俳優に魅力はなく、音楽も安っぽい、編集は雑でフッテージ利用も軽率すぎる、そして語りの内容に何か興味深いものがあるかと言えば、正直これといって何もない。そんな状況で、ただただ平板な語りがずっとずっと続くというのは、もはや苦痛以外の何物でもないと、つまりはそういう訳だ。

"Italian Gangsters"の志は高い、だがそれが映画の完成度には何一つ奉仕してはいない。観賞後に残るものがフッテージ映像の中にサブリミナル的に挿入されたヘンリー・シルヴァの顔面だけというのは、何とも味気ない。[D-]

"Italian Gangsters"はSala Webにて配信中。見方はこちらのページ参照。




ヘンリー・シルヴァのこんな顔、こんな顔、こーんな顔。

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