鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

アンナ・オデル&「同窓会/アンナの場合」/いじめた奴はすぐ忘れるが、いじめられた奴は一生忘れない

アンナ・オデル Anna Odell は1973年10月3日、スウェーデンに生まれた。ターヌムのGerlesborgsskolanという学校でファイン・アートを学び、その後もスウェーデン国立美術工芸大学(Konstfack)、王立美術大学(Kungliga Konsthogskolan)を渡り歩き、美術と映画について学んだ。デビュー作は2009年の短編"Okand, kvinna 2009-349701"、この作品は監督自身が1995年当時に陥った神経衰弱・精神疾患をテーマにした作品で、スウェーデン社会が精神を病んだ人々に対して、いかなる目を向けているかを鋭く描いているという。

のだが、この作品の撮影中に一騒動があった。2009年1月21日、彼女はストックホルムのLiljeholms橋で自殺を図ったのである。直前で警察の手で食い止められ彼女は病院にブチこまれるのだが、入院した後オデル監督は、あれは狂言自殺で、病んでた頃のことを映画として描くためにああやったまでで今は元気と、そう告白。そして彼女は公務執行妨害罪で起訴され、罰金刑に処されてしまう。そんな訳でスウェーデンでの彼女の立ち位置はお騒がせアーティストだった。そんな彼女が2013年に手掛けた初長編「同窓会/アンナの場合」なのである。

まず映る風景、陽の光が満ちる空間、しばらく見るうちその場所は何処かの学校の廊下だと分かる、しかし若さや開放感は微塵も感じられない。禍々しさだ、心を掻き毟るような禍々しさだけがそこにある、そして私たちを置いていくように、画面はふっと暗転を遂げる。

次に映るのはとあるパーティー会場だ、そこに続々と人が集まってくる。互いに挨拶を交わす人々、久しぶりと抱きしめあう人々、同じクラスだった者たちが20年ぶりに集まるそんな同窓会は、あの頃もクラスのリーダーだったらしい男の一声――乾杯!――から幕を開ける。20年も経てば積もる話も多くある、彼らが懐かしさに頬を緩ませていると、遅れてやってくる女性がいる。彼女と挨拶を交わしたり抱きあったりする者がいるが、全員どこかぎこちなく、彼女に目をやりヒソヒソと声を忍ばせながら話す者すらいる。彼女も交えて同窓会は進むのだが、ある時その女性――アンナ・オデルが立ち上がり、皆の前で紙を広げスピーチを始める。私にとって9年の学校生活は絶えまない苦痛でした……

彼女はクラスに厳然と存在していた階級の存在、そのヒエラルキーの最下層で苛められていた自分について、抑揚に欠けた朴訥な声、しかし悲痛な響きの滲んだ声で語り続ける、私たちは背中に嫌な汗の存在を感じながらも、ただただ固唾を飲んで見守るしかない。そしてスピーチが終わる頃、会場には白けきったムードが広がる。いじめた奴はすぐ忘れるが、いじめられた奴は一生忘れない。彼女の話を本気で聞いている者などいない、誰だよこの馬鹿を呼んだ奴は……という空気、そして、でも今それを告白するって勇気があるよね、とそんな言葉で異分子である彼女をこちら側に取り込もうし、更にはクラスのリーダー格だった男はスピーチをこんな風に始めようとする。ぼくたちが9年間過ごしたクラス、この中心にあったのは“友情”でした。

おいおいおいおいおいおい……となる観客を尻目に、彼はクラスの思い出として皆でいったキャンプについて語り出すが、それを聞いてアンナは黙っていられる訳がない。スピーチを遮り、私がそのキャンプで如何なるいじめを受けていたのかを、いじめていた人物を名指ししながら煮えたぎる怒りと共にブチ撒けていく。いじめた奴はすぐ忘れるが、いじめられた奴は一生忘れない、正にそんな光景が繰り広げられる。居たたまれなさの二番底、三番底、まだ1/3すら経っていない時点でもう辛い、辛すぎる、だが同級生たちがアンナは自分たちの"絆"に順応出来ないと悟った時から更に辛酸は増していく、彼女の存在は戯れにする賭けの対象になり、彼らは軽蔑の念を隠そうともしなくなる、そしてとうとうアンナがある一線を踏み越えたその時には、肉体的な力をもって完全に排除される――この時の姿は、狂言自殺で警察に連行された時の彼女の姿と正に重なる――二者の間の断絶を象徴するような光景に、ただただ虚しさを感じるしかなくなる。の、だ、が、ここがまだ始まりに過ぎないのが「同窓会/アンナの場合」の恐ろしい所だ。

断絶の後に現れるのは何処かのオフィス、そこでソファーに座りコーヒーを飲むアンナの姿だ。周りには友人らしき人物がいて、アンナと会話を楽しんでいる。こちらが怪訝に思っていると、徐々にある事実が分かってくる。それは、彼女の知らない間に同窓会は終わっていたこと、アンナの所にはそもそも招待状が送られてこなかったこと、つまり先の同窓会は"自分がもし同窓会に出席していたら"というifを元にアンナが俳優を雇って作り上げた短編作品だったということ、そしてアンナはこの短編を自分を招待しなかった本物の同級生たちに見せつけ、どんな反応をするか確かめようとしていること。ここからが第2部の幕開けだ、「同窓会/アンナの場合」は凄絶なドキュメンタリーの様相を呈することとなる。

アンナは同級生に電話をかけ、再会の約束を取りつけ、自作映画の感想を聞きたいという体で短編を突きつけていく。その反応は様々だが、彼らが決まって言うのは、自分はどの役なの?ということだ、誰も自分がどの役か分からない、誰も自分がしたことを覚えていない!そして続けざまにこうも言う、いじめっていったってあの時はまだ"子供"だったんだから。そんな言葉で過去の全てがチャラになるかのように。あの時のアンナの気持ちを誰も理解しようとはしない、彼女はその光景を克明に記録することによって彼らをトコトン批判する、いじめた奴はすぐ忘れるが、いじめられた奴は一生忘れない、いじめた奴はすぐ忘れるが、いじめられた奴は一生忘れない、いじめられた奴は一生忘れない、いじめた奴はすぐ忘れるが、いじめられた奴は一生忘れないいじめられた奴は一生忘れないいじめられた奴は一生忘れないいじめられた奴は一生忘れないいじめられた奴は一生忘れないいじめられた奴は一生忘れないいじめられた奴は一生忘れないいじめられた奴は一生忘れないいじめられた奴は一生忘れないいじめられた奴は一生忘れないいじめられた奴は一生忘れないいじめられた奴は一生忘れないいじめられた奴は一生忘れないいじめられた奴は一生忘れないいじめられた奴は一生忘れないいじめられた奴は一生忘れないいじめられた奴は一生忘れないいじめられた奴は一生忘れないいじめられた奴は一生忘れないいじめられた奴は一生忘れないいじめられた奴は一生忘れないいじめられた奴は一生忘れない……

だが執拗に電話をかけ続け、無視されたなら家か職場を特定、押しかけて過去をほじくり返すアンナの執念、常軌を逸脱していく彼女に私たちが見るのはケープ・フィアーロバート・デ・ニーロ「危険な情事」グレン・クローズが宿していた狂気だ。そしていつしか私たちの心はアンナの執念に付きまとわれる同級生たちへと傾いていく、めんどくさい人間に目をつけられて彼らの方がむしろ可哀想だ、と。

そこで浮き彫りになるのが、もしあなたが最初の短編を観ながらいじめられていた側のアンナに対し感情移入し、私も同じ立場だった、同じ仕打ちを受けていたと共感していたして、ではあなたは本当にただいじめられている側であったのですか?という問いだ。確かにあなたはいじめられていたかもしれないが、またあなたは自分より弱い者をいじめていたのではないですか、あなたもまたあの同級生と同じようにただ忘れているだけではないのですか?アンナの執念に恐怖を抱き、同級生に憐れみを覚えるのはそういうことではないですか?……彼女はそうして安易な感情移入を拒み、全方位に対して矛先を向ける。「同級生/アンナの場合」は劇映画とドキュメンタリーの境を越えて、どんな人間の心をも抉る。[A]

オデル監督は作品についてこう語っている。“私は長い間いじめというテーマを扱っていきたいと思っていました。小学校時代、私はずっと苛められていて、ですからヒエラルキー内においてあるグループがどのように変化していくかを調べるために自分の経験を活用していきたかったんです”

“このプロジェクトを始めようと思った時、私はまずドキュメンタリー的に作品をつくろうと思っていたんです。ちょうど学校を卒業して20年目の節目で、いつ開催されるとかは分かりませんでしたが、何か記念の会合が行われるとは思っていて。ですがそのパーティーで読んで同級生の反応をたっぷり楽しんでやるとそう思いながら、あるスピーチを書いている途中で、既に同窓会は終わっていて自分は招待すらされていなかったことを知ったんです。私にとって初めての長編映画のアイデアが浮かんだのはこの時でした。それならもし自分が招待されていたらという体で、同窓会を仕立て上げて映画を撮ってやろう、そしてその同窓会を再現した作品を同級生に見せてやろうと、そう決めたんです”*1

「同窓会/アンナの場合」はヴェネチア国際映画祭でプレミア上映、FIPRESCI Prizeを獲得し、更にはスウェーデンアカデミー賞(ゴールデンビートル賞)では初監督作で脚本賞と何と作品賞まで獲得することとなった。スウェーデンのお騒がせアーティストは一躍スウェーデン期待の新鋭監督となった訳である、そんなアンナ・オデル監督の今後に期待。


アンナ・オデルの作品。左は"Oddche"で右は"Ana Lisa"……うん、ノーコメントで……

参考文献
http://www.sicvenezia.it/2224/edizione-2013/news-2013/intervista-a-anna-odell-regista-di-atertraffen-la-riunione/?lang=en(監督インタビューその1)
http://www.doxmagazine.com/three-in-onedirector-freak-artist/(監督インタビューその2)

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