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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Matias Meyer &"Los últimos cristeros"/メキシコ、キリストは我らと共に在り

つい先日Varietyにティム・ロスメキシコ映画界への大いなる期待を語る記事が掲載された(この記事)。2011年のカンヌ国際映画祭ある視点部門で審査員長だったロスはとあるメキシコ映画に衝撃を受ける、その作品とは日本でも公開された父の秘密であり、監督の名はマイケル・フランコ。ロスは彼の才能を高く評価しある視点部門の作品賞を授与、今度是非とも一緒に仕事がしたいとラブコールを送った。そして出来上がった作品が"Chronic"、今作はカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品、賛否両論を巻き起こす共に脚本賞をも獲得することとなる。更にロスは同じくメキシコの新鋭Gabriel Ripsteinの初監督作"600 Miles"に主演を果たし、今後自身の監督作をメキシコで作る計画もあると、その期待はかなり深いものだ(更にロスは今年のヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を獲得したベネズエラ映画"Desde Alla"、今作の監督であるLorenzo Vigasとも交流があると言い、ロスの興味はメキシコだけでなくラテンアメリカ映画界全体へと向けられているようだが、それはまた別のお話)

テン年代ラテンアメリカ映画界の活躍が目覚ましいとは良く話題になるが、私自身もそれをかなり感じていて、個人的に注目しているのがチリ、アルゼンチン、ブラジル、そしてメキシコな訳だ。前述のマイケル・フランコ東京国際映画祭「エリ」が上映されたアマ・エスカランテ「エンプティ・アワーズ」アーロン・フェルナンデス、そして「闇の後の光」カルロス・レイガダスなど日本でも良く知られた作家たちに加え、このブログで取り上げた作家陣、カンヌで短編パルムドールを獲得したElisa Miller(この記事を読んでね)、新鋭ドキュメンタリー作家Carolina Rivas(この記事も読んでね)、まだブログでは取り上げていないが要注目作家"Fogo" Yulene Olaizora"Malaventura" Michel Lipkesなどなど新たな才能は枚挙に暇がない。ということで私の好きな監督・俳優その67では、群雄割拠のメキシコ映画界に現れた才能Matias Meyerと彼の第2長編"Los últimos cristeros"を紹介していこう。

Marias Meyer は1979年フランスのペルピニャンに生まれた。パリ=ソルボンヌ大学メキシコシティーのCentro de Capacitacion Cinematografica(前述したElisa Millerや「モンスター・ウィズ・サウザン・ヘッズ」ロドリゴ・プラがこの大学出身)で映画を学ぶ。

在学中から映画監督としてのキャリアを歩み始め、2002年にはドキュメンタリー"San Vicente de Chupaderos"を製作、メキシコ国立自治大学特別賞を獲得(監督公式vimeoから全編視聴可)、その功績が称えられ翌年にはアラン・レネフランソワ・オゾンがかつて在籍していたFemisのドキュメンタリー科に属することとなる。2004年にはタクシー運転手のとある1日を描き出した"El Pasajero"を監督、メキシコ・モレリア映画祭の短編部門で最高賞を獲得する。2006年の短編"Verde"、2007年のドキュメンタリー"Moros y Cristianos"を経て、2008年には中編作品"Wadley"を手掛ける。バックパックを背負った青年が何処までも続くメキシコの砂漠をひたすらに歩き続けるという作品で、レビューにはリサンドロ・アロンソの名前が散見され、ああ私が観た作品も正にアロンソっぽかったわと思ったり。

彼の初長編は2009年の"El Calambre"だ。主人公はフランス人コメディアンのジュリアン(Julien Cottereau)、鬱病に苦しむ彼は療養のためにメキシコのチャカウアという海の町へと赴く。しかしむしろ病状が悪化していく中で彼はパブロという漁師と出合い……という作品で、馴染みのモレリア映画祭でプレミア上映後、ロッテルダムブエノスアイレスで上映され話題を呼ぶ。そんな彼が2011年に手掛けた第2長編が"Los últimos cristeros"である。

銃を手にした男たちが野を駆け抜ける、緑も枯れた山の斜面を強く踏みしだきながら彼らは逃げる、銃撃によって地が穿たれる中で彼らは一心不乱に逃げ続ける、だが弾丸は容赦なく仲間の命を奪う、一瞬にして地へと倒れた仲間を男は助けようとするが、弾け飛ぶ砂に恐れを成して彼は逃げ去る、死体は斜面に打ち捨てられ、そこには誰も居なくなる。

1917年、メキシコに新しい憲法が発布される。だがその内容は聖職者たちへの弾圧をはじめとしてカトリック教会にとって厳しい内容のものであった。教会や神学校が次々と閉鎖される中、無神論者でありキリスト教を敵対視していたプルタルコ・エリアス・カリェスが大統領の座につくと、1926年6月に彼はカリェス法を制定、教会の財産までもが収奪されることとなる。プルタルコ政権とカトリック教徒の間で緊張感が高まり同年8月3日グアダラハラで暴動が発生、いわゆるクリステロ戦争が勃発する。このような歴史の推移の中にこの""は位置しているのだ。

エストラーダ大佐(Alejandro Limon)と部下たちは信仰の自由を求め、政府に反旗を翻し、メキシコの雄大な大地を行く。だがこういった題材の映画としては珍しく、監督は彼らのヒロイックな姿を映すことはない、そんな場面はこの作品には1秒たりとも映し出されはしない。Meyer監督はむしろ戦いの間隙に横たわっている、何も起こることのない空虚な旅路のみを執拗なまでに描こうとする。彼らは木々も疎らなメキシコの荒野を無言のままに歩き続ける、空には群青色の夜が広がるがそれでも歩き続ける、険しい山岳地帯を細心の注意を払いながら登っていき、森の中でしばしの休息を遂げる。そんな大佐たちに送られるのはとある書類だ、政府が彼らに対して譲歩の素振りを見せてくる、だが大佐は書類を破り捨て焚き火へと放り込む。そして彼らはいつ終るとも分からない闘争のため、大地を這いずり続ける。

この作品を支えるのがGerardo Barroso Alcalaによる撮影だ。メキシコに広がる自然の崇高なる風景を、余す所なく私たちに見せてくれる。おそらくこの映像美を味わう者の中にはリサンドロ・アロンソ「約束の地」ケリー・ライヒャルト"Meek's Cutoff"を想起する人々も多いだろう。特に後者とは今までのいわゆる西部劇では掬われることのなかった、虐げられてきた人々の声(女性/クリストロ)を映画として提示する意味で重なる部分が多くある。だがその2作と今作と大きく違う点は、映し出される崇高さは大佐たちの旅路がいかに空虚でちっぽけな物かを残酷なまでに際立たせている点だ。美しさから滲み出るのは男たちの焦燥、不安、そして恐怖だけだ。

この徹底してミニマルでストイックな監督の演出スタイルは、私がこのブログでたびたび提唱している"この映画は退屈である=この映画は傑作である"という異形の方程式が適用される領域に達しているとは言えない。ストイックさに起因する崇高に、もう1つ何か異様な圧力というものがなければこの境地には至ることはないだろう。しかしそれを差し置いても、監督の中に輝く才能があるのは確かだ。明日俺たちは処刑されるのさ、ギターの悲しげな音色にそんな言葉を乗せる男たちへの監督の眼差しはその事実を雄弁に語っている。[B]

彼の最新作は2015年製作の第3長編"Yo"だ。Yoは30歳を迎えたばかりだが、心はまだ子供のままだ。彼は高速道路近くでレストランを経営する母親と共に暮らしていた。ある日母親の恋人であるPadyという男が自分たちと暮らすことになり、Yoの生活は劇的に姿を変えてしまう。J.M.G.ル・クレジオの短編を原作とした今作はモレイラ映画祭で最優秀メキシコ映画賞を獲得した。ということでメキシコ映画界の今後を担うだろう監督の今後に期待。

参考文献
http://variety.com/2015/film/festivals/morelia-tim-roth-takes-on-mexico-1201626346/(ティム・ロスメキシコ映画界)
http://www.filmlinc.org/daily/interview-with-matias-meyer-the-last-christeros/(監督インタビューその1)
http://variety.com/2015/film/festivals/morelia-director-matias-meyer-yo-mexicos-education-problem-1201623139/(監督インタビューその2)

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