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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Harry Macqueen&"Hinterland"/ローラとハーヴェイ、友達以上恋人以上

スティーブ・マックイーン、説明不要のアクションスター、私は大脱走のバイクを駆るマックイーンが一番好きだ。そしてもう1人のスティーブ・マックイーン「HUNGER」「SHAME」で着実にキャリアを積み重ね第3長編それでも夜は明けるアカデミー賞を獲得するなど今ブリテン諸島の映画監督で最も評価されている監督は彼だろう。この映画界に燦然と輝くマックイーンの系譜に新たな才能が登場した。ということで今回は突如爆誕した第3のマックイーン Harry Macqueenと彼の監督デビュー作"Hinterland"について紹介していこう。

Harry Macqueenは1985年1月17日に生まれた。Independent誌の紹介記事によると、9歳の時にガソリンスタンドで誘拐されたり、9歳年上で双子の姉がいて彼女たちのおもちゃとして女装させられたり、子供時代は色々あったらしい。最近までクリケット選手として活躍しており、ペッカムのクリケットチームに招聘されるほどの実力があったが、試合中に負った足の怪我によって挫折、現在でも右の親指が動かないという。

セントラル・スクール・オブ・スピーチ・アンド・ドラマで演技について学ぶ一方で、映画界に入る前は劇場の売り子や案内係、コック、バーテンなど様々な職業を転々としていた。俳優としてのデビュー作は2008年のリチャード・リンクレイター監督作「僕と彼女とオーソン・ウェルズだった。その後は何本もの短編やノワール映画"A Morass""In Me"(共に2011年製作)に出演する一方、舞台俳優としても活動していた。

"Hinterland"の話に入ろう。まずこの作品を手掛けようとしたきっかけとなったのが、彼の隣人だった「フィッシュ・タンク」アンドレア・アーノルド監督だったという。監督としての道を進むべきか迷っていた所で"まず跳んだなら、橋があなたを見つけてくれる"との彼女に背中を押され、監督となるのを決意したのだという。更に"The Duke of Burgundy"ピーター・ストリックランド監督のサポートも受け、Macqueen監督はデビュー長編"Hinterland"を完成させる。

散らかった机の上、窓から差し込んでくる白い光、締め切れていない蛇口からポタポタと垂れる水滴、電話の音が鳴り響き、風呂に入っていた青年は体を起こし、急いでその電話に出ようとするが、机に置かれた1枚のメモには殴り書きで"LOLA"と、そんな文字が記してある。

幼馴染みのローラ(シンガーソングライターのLori Campbell、これが映画デビュー作)がロンドンに帰ってくるとハーヴェイ(Mcqueen監督)が知ったのは数日前のことだ。そして今日とうとう彼女と再会できる、彼はいてもたってもいられず電話で聞いた住所へと車を走らせる。ドアの前に立ち、緊張しながらノックする。しかし彼女は現れない。もう一度ノックするがやはり彼女は出てこない。場所を間違えたかと思い、その場を後にしようとするハーヴェイだったが、大きな音がして振り返るとギターを抱えた彼女がそこにいる、そしてあの日と変わらない笑顔を浮かべてローラは言うのだ、久しぶりと。

2人が向かう先はイングランドコーンウォールにあるコテージだ、2人で過ごした幼い頃の思い出が詰まっている場所。積もる話はたくさんある、助手席に座るローラはハーヴェイにNYで体験した様々なことを語り、ハーヴェイもまたロンドンでの生活について語る。繰り広げられるのは楽しげな会話、しかしその裏では言葉にならない2人の思いが揺らめいているのに気付く筈だ。再会できた喜びよりも、むしろ何かぎこちなさ、そして隔たりの感覚……

コーンウォールが近づくにつれ、2人の前には冷たくも崇高さを湛える自然が現れる。撮影監督のBen Heckingは観る者を圧倒する自然の美をそのままに撮しとり、その中で寄り添う2人の姿をも捉えていく。道中でローラたちが出会うのは農夫たちが連れている羊の群れや野生のポニーたちだ。ほら一緒に写真撮ろうよ、エサはこうやってあげるんだよ、笑みを絶やさないローラにハーヴェイの顔も緩み始め、だんだんとあの時の親密さが戻ってくるのを、彼は少しずつだが感じていく。

砂と泥のグラデーションが美しい砂浜で2人は子供のように戯れる、白い輝きに祝福された海で2人は並び立ち写真を撮る、そして橙色の焚き火の前で再び彼らは言葉を交わす。だがそこに先の楽しさはない、2人の言葉はとりとめもなく、そして何より苦悩の滲むものとなっていく。退屈さ、それが私にとっては一番怖いと火花を見つめながらローラは口にする。そこに結いあわされているのは、じゃあNYに行って自分は何か変われたのか?という問いだ。そして彼女はギターを弾きながら詩を紡ぐ、隠れる場所なんかない、隠れる場所なんか……

Mcqueen監督がハーヴェイ役も兼任しているのは先に記した通りだが、監督としても俳優としても"もう若いだけではいられない人物"の描き出し方が頗る巧みだ。数多くの困難に直面し、少しずつ若さから遠ざかっていく過渡の時、ハーヴェイとローラの場合は大人になれないのではなくて、大人になっていくことから逃れられないでいる。そんな2人が再会して、幼少期の思い出に満ちたコーンウォールを旅すること、それは過去の温もりにしがみつくのと同じでありながら、同時に過去への決別でもあるという矛盾を宿している。だからこそ何時であっても画面から溢れ出るのは切なさだ、もし一度でも共鳴したのなら瞳に熱さが満ちるのを抑えられなくなる切なさ。

そしてこの感覚はまた2人の関係、つまりは"友達以上恋人以上"という関係性の揺らぎへと至る。いや、何かここまで肩肘張って文章を記してきたが、もう止めた、もうこの映画は切ない以外ない、マジで切ない、本当に切ない、切ないよメチャクチャ切ない、切なすぎるよもう、これは絶対日本でも受ける切なさだ、私自身はこういう映画あまり観ないのだが、それでももうグサグサくるくらい、切ない、切ないよもう、切ねーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええェエェエッェェエェッェェェエェッェッェエエッェェェエッェエェェxーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!ってそういう感じ、ということで文句なしA+!!!!!

"Hinterland"はレインダンス映画祭で上映され、The Telegraph誌は"夢中にさせられるデビュー長編"、ALT Magazineは"力強く、勇気ある傑作"など高評価。監督としての次回作はまだ動いていないが、俳優としての次回作は「僕と彼女とオーソン・ウェルズ」で知り合ったクリスチャン・マッケイの監督デビュー作(題名は未定)、今作はウィンストン・チャーチルの伝記映画でMacqueenはアーチボルド・シンクレア役だそうだ。ということでMacqueen監督の今後に超期待。

参考文献
http://www.independent.co.uk/news/people/introducing-harry-macqueen-inside-the-life-of-the-first-time-director-taking-the-independent-film-9454361.html(監督紹介記事)
http://picturehouseblog.co.uk/2015/06/09/interview-with-harry-macqueen-director-of-hinterland/(監督インタビュー)
http://www.andantarctica.co.uk/lori-campbell-talks-writing-recording-and-starring-in-her-first-film/(Lori Campbellのインタビュー記事)
http://altmagazine.co.uk/hinterland-review/(ALT Magazineレビュー)

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