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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

ジョナス・カルピニャーノ&「地中海」/この世界で移民として生きるということ

2015年、カンヌ国際映画祭パルムドールを獲得したのはジャック・オーディアール監督のディーパンの闘いだった。この結果はマーティン・スコセッシディパーテッドでオスカー作品賞を獲ったのと同じく、今まで蔑ろにしてきた故の功労賞と批評家陣に揶揄されたが1つだけハッキリしていることがある。「ディーパンの闘い」は内戦を逃れフランスにやってきたスリランカ移民が再び暴力に巻き込まれながらも苦闘する作品であり、現在ヨーロッパで最も重要なイシューとなっている"移民"をテーマにしており、つまりこの作品にパルムドールを授与することは、カンヌはこのイシューへ積極的にコミットしていくという強い決意表明であるのだ。そんなカンヌの批評家週間でもう1作"移民"をテーマとした力強い作品が公開されていた。ということで今回は"Mediterranea"とその監督Jonas Carpignanoを紹介していこう。

Jonas Carpignanoはイタリアのジョイア・タウロとニューヨークを拠点とする映画作家だ。ニューヨーク生まれながらローマに移住、父はイタリア人で母はブルキナ・ファソ人という家庭に育ったという。

映画を学ぶために再びニューヨークへと渡り、他の監督の作品でプロダクションや編集助手、照明主任、カメラオペレーター、撮影監督など様々な役職をこなし、ベン・ザイトリンサンダンス映画祭最優秀劇映画賞の「ハッシュパピー」には助監督として携わっていた(ザイトリンは"Mediterranea"で音楽を担当している)。記録に残っている限り映画監督デビューは2006年の"La Casa d'Argento Bava"(おいおいこれってダリオ・アルジェントマリオ・バーヴァかと勘ぐってしまうが真偽は不明)、2010年には南部奴隷を描いた"Resurrection Man"、2011年には短編"Bayou Black"を監督、後者はマイケル・K・ウィリアムズを主演に据え、ヌートリアの捕獲で何とか生計を立てるシングルファーザーを描いた作品でウッドストック映画祭では学生映画短編部門で特別賞を獲得した。

しかし彼が真の意味で評価を得るのが2012年の短編"A Chjana"だ。これは後述の"Mediterranea"の元となる作品で、差別に今まで溜め込んできた怒りを爆発させた黒人たちが暴動を起こすなか、主人公が親友を探し続けるという内容。ヴェネチア国際映画祭でイタリア短編映画部門で作品賞を獲得し、SXSW映画祭でも上映されるなど話題を博し、映画サイトFilmmaker選出"2012年期待の新人インディー映画作家"の1人に選ばれる(同じ年に選ばれたのは「女教師」ハンナ・フィデル「ハンパな私じゃダメかしら?」デジリー・アッカヴァンというこのブログ的にはなかなか注目な)。これをきっかけとしてサンダンス映画製作ラボに参加、ここで彼は"Diary of A Teenage Girl" Marielle Heller「フルートベール駅で」ライアン・クーグラー「セイント」デヴィッド・ロウリーと出会い親交を深めたそうだ(メンバーが凄すぎる……)2014年には南イタリアに生きる少年の姿を描いた"A Ciambra"を経て、2015年に初の長編"Mediterranea"を監督する。

私たちがまず目にするのは夜の闇に広がる喧騒だ、あちこちに停まる車、その上には身を寄せあい出発の時を待つ何十もの人々、そこに乗れない人々が車に群がり、載せて!載せてくれ!そう悲痛な叫び声をあげている。だが車の見張り番である青年アイヴァ(Koudous Seihon)はそんな彼らに対して声を荒げる、定員オーバーだからもう乗れない、諦めろ!と。

アルジェリアのとある村、ここはアフリカからの脱出を望む移民たちの中継地点だ、彼らはここから車でリビアに向かい、海を渡ってヨーロッパを目指す。アイヴァもそのために、家族の住むブルキナファソを離れ村に滞在しているのだが、まず何より金が必要ゆえに今は移民の密入国を助ける組織の元で働いていた。仕事が終えた彼は親友のアバス(Alassane Sy)と共に、ネットカフェへと向かう。2人が見るのは自分たちより先にイタリアへと辿り着いた親友のFacebookページだ。そこには1本の動画が上げられており、映るのは彼が仲間と共にビールを飲みまくる姿。ヨーロッパに行けばこんな生活が待っている、アイヴァたちはそんな希望を抱きながらアルジェリアで働き続けていた。ある日、アイヴァは男たちに取引を持ち掛けられる。自分たちを車に乗せてくれるなら、リビアからヨーロッパ大陸へ向かう船を手配してやるというものだ。そうしてアイヴァとアバスは"安住の地"へのチケットを手に入れたのだ。

映画の前半は2人の旅路をドキュメンタリー的アプローチで描き出していく。夜明け前の群青色に染まった世界、アイヴァたちを乗せた車が駆け抜ける。しかし途中からは徒歩での移動となる、車では広大な砂丘を進んでいけないからだ。撮影監督Wyatt Garfieldの撮す砂の世界は荒涼として、何より果てしがない。乾ききった単色の地を移民たちは歩き続け、歩き続け、彼らを食い物にする盗賊団に身ぐるみすら剥がされ、俺たちが正しい方向に行ってるって一体どうやって分かるんだ?とそんなぼやきが聞こえてくる頃、町が見えてくる。そうすれば次は海原への旅だ、しかしボロボロの船で縮こまる移民たちに対して自然は容赦なく襲いかかる。美しくも恐ろしき海は彼らをちっぽけなものとし、その腹に飲み込んでいく。それでもアイヴァとアバスは奇跡的に生還を果たし、イタリアという名の"安住の地"に足を踏み入れる。

だが自然の容赦なさはまだ序の口であり、ここからが本当の苦しみの始まりであるのだとこの物語は私たちに叩きつける。アイヴァたちがこの地に移住していた親友たちと再会し、彼の用意した住まいへと向かう途中で、ある事件が起こる。道を歩いている彼らの横を1台の車が猛スピードで駆け抜けていく。イタリアじゃあんな早く走るのが普通なのか?とアイヴァとアバスが笑うが、その車が止まり、こちらへと向き直す。アイヴァが怪訝に思っていると、車は再びの猛スピードで彼らの方へ突っ込んできて、彼らのすぐ横を通り過ぎていく。この印象的なシークエンスは、つまりアイヴァたち移民に対する悪意だ、イタリアひいてはヨーロッパが彼らに対して抱く悪意を象徴している。そうして意気を挫かれるアイヴァたちが辿り着くのは荒れ果てたプレハブ小屋、夢見ていた物とは余りにかけ離れた光景だ。

そうして監督は2人の希望がうちひしがれていく様をじっくりと描き出す。彼らを取り囲むイタリアの風景、染み渡る青みは皮膚を突き刺し寒さに震わせる、此処まで寒々しくイタリアという国が映画として浮かび上がってきたことがあっただろうかとそう思わされる程に。アイヴァとアバスは近くの果樹園で働くこととなるが、慣れない仕事に通じない言葉(ブルキナファソはフランス語が公用語だ)、抑圧的な環境に疲弊は募る。そして彼らはまた移民であることの現実を知ることとなる。男は安い労働力として搾取され、女は娼婦として働く以外に生きる術がない。黒人である彼らは日常的に差別され、謂われなき暴力に晒されることも少なくない。その中でも2人は各々のやり方で、この冷酷な世界に適応しようともがき苦しみながら、現実は克服を拒む巨大な壁として立ち塞がる。

"Mediterranea"は移民という名の絶望を徹底して観客に見せつける。ニュースで幾度も目にしただろう、何千人ものアフリカからの移民たちが船旅の途中で亡くなった、内戦を逃れてシリアの人々がヨーロッパへとやってくる。しかし助けられ、その地で生きることが可能となったとしてその先はどうだ。夢の新天地へとやっとの思いで辿り着きながら、その地にすら幸せはないのだとアイヴァたちは身を以て体感する。世界に現在進行形で満ちる絶望をここまで見せつけられ、私たちは"じゃあ一体どうすればいい?"とそんな思いに駆られる筈だ。"Mediterranea"は答えを提示することはない、そもそもまだ答えなんて存在しないのだから。だから私たち自身が考えていかなくてならない、日本に住む私たちにとって"移民"とは身近な問題ではないのか、違うだろう、この世界に生きる皆にとって重要な問題だ、皆で考えていくことが必要なのだ。"Mediterranea"の提示する問題は観るもの1人1人に力強く考えを促す、それ故に今作を2015年という今を映し出した映画として後も語られ続ける、いや私たちは語り続けなくてはならない。

"Mediterranea"はカンヌ国際映画祭の批評家週間で上映後、ミュンヘン映画祭で特別賞、チューリッヒ映画祭ではKoudous Seihonが主演男優賞を獲得、そして世相を反映した重要な作品として話題ともなっている。ということでCarpignano監督の今後に期待。

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参考文献
http://www.indiewire.com/article/springboard-how-mediterranea-filmmaker-jonas-carpignano-made-the-years-most-timely-new-feature-20151120?utm_campaign=Indiewire&utm_medium=social&utm_source=twitter&utm_content=1448051545(監督インタビューその1)
http://www.filmcomment.com/blog/interview-jonas-carpignano/(監督インタビューその2)

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