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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Rick Alverson&"Entertainment"/アメリカ、その深淵への遥かな旅路

Rick Alverson &"The Comedy"/ヒップスターは精神の荒野を行く
Rick Alverson&"Entertainment"/アメリカ、その深淵への遥かな旅路
Rick Alversonの略歴と前作"The Comedy"についてはこちら参照

もし、もしだ、今まで観たアメリカ映画の中で最も題名と内容の解離が激しい映画は何かと聞かれたなら。もし今まで観たアメリカ映画の中で最もエンターテイメント性に欠けた映画は何かと聞かれたなら。そしてもし、今まで観たアメリカ映画の中で最も退屈にしておぞましく、乾ききり虚無的な映画は何かと聞かれたのなら、私は迷わずにこう答えるだろう、それはRick Alverson監督の"Entertainment"だと。

この物語の主人公はニール・ハンバーガー(アントマン」グレッグ・ターキントン)というコメディアンだ。髪の毛も少なくなり、惨めな中年腹を晒す彼はモハヴェ砂漠を中古車で旅し、行く先々でジョークを披露している。刑務所ではコートニー・ラブについての汚ならしいジョークで笑いを取ろうとする、近くのホテルに泊まる、娘に電話してから眠りにつく、車で砂漠を横断し次の町へと向かう、バーではコメディアンのキャロット・トップについての汚ならしいジョークで笑いを取ろうとする、叔父のジョン(ジョン・C・ライリー)と再会する、娘に電話してから眠りにつく、車で砂漠を横断し次の町へと向かう、また別のバーではラリー・キングについての汚ならしいジョークで笑いを取ろうとする、バーのオーナーに家に泊まる、娘に電話してから眠りにつく、車で砂漠を横断し次の町へと向かう、エディという青年(ツリー・オブ・ライフ」タイ・シェリダン)がオナニーをするというネタを見る、車で砂漠を横断し次の町へと向かう、車で砂漠を横断し次の町へと向かう、車で砂漠を横断し次の町へと向かう……

前作"The Comedy"もそうだったが、Alverson監督は今作においても明確なプロットというものを用意していない。同じことを110分の間延々と、ただ延々と続ける。そしてMichel Taylorと監督自身が手掛ける編集はシーン1つ1つに連続性を殆ど感じられないような唐突さと断絶を宿し、ニールの旅路を継ぎ接ぎとして提示する。あるキャラクターがいたと思えば既に消えている、ある町にいたかと思えば既に別の町にいる、時空間が捻り曲がったような不気味な感覚を私たちは味わうことになるだろう。その感覚はRobert Donne("The Comedy"から再タッグ)の音楽によって更に増幅していく、生気を失ったニールの顔に重なりあうのは鼓膜にざらつく不協和音だ、観る者/聴く者を大いなる虚無へと導く存在。私たちはこの筆舌に尽くしがたい光景を五感で味わいながら、監督は何故こうも乾いた筆致でもってこの物語を描くのかとそんな思いに駆られるだろう。断言しよう、彼が描こうとしているのはアメリカという国に広がる途方もない虚無だ。

Entertainment"の冒頭、まず映るのが飛行機へと乗り込むニールの姿だ。だがすぐにそこが普通の飛行機ではないことに私たちは気づくだろう、中にはCAもいなければ座席も何もない、ひたすらの空洞がそこには広がっている。この場所は使い物にならなくなった飛行機が放置される、飛行機の墓場という訳だ。他にもニールは、ゴールドラッシュの時代に栄えた町を再現したというハリボテの西部や、石油採掘用の機械が至るところに設置された荒野に足を踏み入れる。もう既に石油など存在しないのに反復運動を止めない巨大な機械を、ニールは虚ろな目で見つめながらスマートフォンで撮影する。アメリカンドリームの残骸、彼が巡るのはそんな場所だ。アマ・エスカランテ「エリ」などを担当した撮影監督Lorenzo Hagermannアメリカの過去を全て空しき物として写し出す。ここにあるのは無という名の地獄だけ、地獄だけ……

そしてニール・ハンバーガーという存在。このキャラクター、実は"Entertainment"のために仕立てあげられた存在ではない。彼はコメディアンであるグレッグ・ターキントンの謂わば持ちキャラ、ターキントンはスタンダップ・コメディを披露する際にはニール・ハンバーガーとして舞台に立っており、"Entertainment"にはこのキャラクターがそのまま移植されている訳だ。少ない髪を水で撫でつけ頭皮が無様に露出した頭、脇には幾つもの酒を抱えみすぼらしいスーツを身に付けた滑稽な姿は笑いを誘うが、いざそのジョークを聞くとそれはFunnyというよりむしろDisgusting、吐き気を催す類いの物だと知れてくる。

例えば序盤の刑務所でのネタはこうだ。まず"Whhhhhhhhhy, Whhhhhhhyyyyyyyy?"とダミ声で客に問いかけたかと思うと彼は呟く。"コートニー・ラブ星条旗の違いは一体なんだ?星条旗にオシッコをひっかけるのはいけないってことだ!"そして矢継ぎ早に次のネタを繰り出す。"レイプ魔は何でTGIフライデーズには食事しに行かないんだ?レイプしてる時に腹壊すなんてたまったモンじゃないからさ!"……そんな固有名詞を多用した気味の悪いネタの数々でハンバーガーは笑いを取ろうとする。だが不愉快な要素はこれだけではない。客が笑おうとしない時は"俺が遥々このクソみたいな所に笑いを運びにやってきたってのに!"と罵声を浴びせ、更にある時は自分のネタに喰ってかかってきた女性(彼女が米インディー界の才能エイミー・サイメッツであることも記しておきたい)に対して"このチンケな梅毒アマ"とネチネチ罵詈雑言を吐きかけていく。

ニールは同情の余地など微塵もない中年男であり、どこまでも惨めな人間であり、だからこそ吐き気を催すほどの悪意の塊として異様な存在感を放つ。監督はそんな彼にこそアメリカの業を見る。数百年の時を経てこの国が産み出したのは、果てしなき荒野とニール・ハンバーガーというコメディアンという男1人だけなのだと。


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