鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

癒えないトラウマを抱えて「イット・フォローズ」

「イット・フォローズ」を観た。そのクオリティの高さにも驚いたが、描いているテーマにも驚いたので少し書いてみる。まずは少しあらすじを。

主人公はジェイ(「ザ・ゲスト」マイカ・モンロー)、ある日彼女は新しい恋人であるヒュー(「ゾンビーバー」ジェイク・ウェアリー)と映画館へと向かう。座席に座っている時、後ろを向きながらヒューが喋りかけてくる、あの黄色いドレス着た女見てみろよ。ジェイは振り返るのだが彼が指をさす場所にそんな女性はいない。そんな人いないよとの言葉に、最初はヒューも冗談だろという態度だが、みるみるうちに顔が青ざめていく。

この日はそれだけで終わり、何となくこの出来事が頭に残りながらも、ヒューとの親密さは深まり2人は彼の車の中でセックスに至る。心地よい微睡みの中で、ジェイはいつか見ていた白昼夢について口にするが、ヒューはそんな彼女を力ずくで以て気絶させてしまう。目覚めた彼女は自分が車イスに縛り付けられているのに気づく。ほどいて!ほどいて!と叫ぶ彼女に対してヒューは"それ"という存在について語る。"それ"はターゲットを何処までも追いかけてくる、""それ"に追いつかれたなら死が待っている、"それ"は他の者には見えない、そして"それ"から逃げるには誰かとセックスして他の人間には移さなくてはならない。こうしてジェイの恐怖の日々が始まる。

これを観ながら思ったのが、この映画のテーマってジェシカ・ジョーンズ」と同じだ!ということ、つまりは性暴力のトラウマを描いているということだ。

"それ"は全く何処からともなく沸いて出てきて、ジェイを襲いにくる。家で眠ろうとしていた時、学校で授業を受けている時、友人とくつろいでいる時、何の前触れもなく現れてその人を恐怖に陥れる。トラウマもそうだ、フラッシュバックする時がいつかなど分からない。そういう意味でこっちは殆ど何の対策も立てられないし、立てられたとして何か役に立つかといえばほぼない。トラウマから目を背け、通り過ぎるのを待つことしか出来ない。だがもちろん1回通りすぎても、根本的な解決にはなっていない。そしてトラウマが自分を襲うことには理由がなく、また"それ"が何故襲ってくるかにも理由は存在しない。だからただただ為す術もなく怯える生活を送らなければならない。

そして1度でも性暴力に晒されたのなら、本当に信頼できる一部の人間だけを除いて、周囲にいるどんな人に対して"自分を狙っているのでは"と猜疑心を抱いてしまう。自分を襲った相手がどういった身なり(この作品の場合は10代の男)をしているだとかは関係ない、誰もが自分を狙っているという不安から逃れられなくなる。「イット・フォローズ」においては実際に"それ"が襲ってくる、学校内を生徒に紛れて歩いているのが"それ"だったというシーンなんかも存在して何も信じられなくなる。こうしてかなりリアルにトラウマの恐ろしさを描いているのだが、この当事者の恐怖を観る者にそのまま体感させる演出もかなり巧みだ。

まず冒頭で"それ"に追われる少女の姿が撮されるのだがこれがかなり印象的。カメラは道路の真ん中に立ち、横へとパンしていったかと思うとある家から少女が駆け出してくる。何かに追われているようだがそんな存在は何処にも見えない。近所の人や彼女の父親が心配するのだがそれすら振り切り、逃げ惑い、カメラはグルグルと回りながらその姿を追い続け、最後には少女は車で何処かへと逃げ去ってしまい、ここでカットがかかる。一体何が起こっている?という疑問を抱きながら、私たちはこれを見ることとなるが、この印象的な360度パン撮影&長回しは遠くから少女を眺める、いわば傍観者としての視線として機能している。

そしてこの冒頭シーンに呼応するようなシーンがある。舞台はとある教室、再びカメラはパンし始め、授業風景を撮していく。ここまでは先と同じく傍観者の視線を宿しているが、カメラにジェイの姿が映る時から様子が変わる。ジェイがふと窓へと目を向けると、カメラがその視線と重なりあい外が映し出される。見えるのはこっちにやってくる、こっちに確実にやってくる"それ"の姿だ。こうして私たちの視点がジェイの視点に重なる訳だが、冒頭にあの傍観者の視点が提示された分、私たちが当事者の視点に立たされた時の恐ろしさはすさまじい、こんな恐怖を味わっていたのか!と。

これについては、海外ブログだがこのRazor Appleというブログの方ががかなり興味深いことを言っている。

"夫が「イット・フォローズ」は長年観てきた中で最も怖いホラーの1つだと言った時、私は少し考えてしまいました(中略)私にとってこの映画は怖くなかった、むしろこの物語や描かれる"恐怖"に共鳴したんです。怖がるには身近すぎるものように思えました"

完全にネタバレなので詳しくは訳さないが、様々な恐怖の要素を挙げた上で、「イット・フォローズ」は"この世界で女性が生きるとはどういうことか"の本質を描いていると評し"もし男性が観て、女性が抱く恐怖・猜疑心を理解できる映画があるとするなら、それはこの「イット・フォローズ」でしょう"と最後に記している。

こうしてトラウマが如何にして被害者を苛むかというのを、巧みなカメラワークと70〜80年代風の不愉快な電子音楽(「ハロウィン」だとかその時代への深い郷愁を感じるほど濃厚な響きだ)を使って「イット・フォローズ」はホラー映画として描き出す。そういう意味で性暴力のトラウマと、トラウマの克服をノワール&アメコミヒーローものとして描いたジェシカ・ジョーンズ」とかなり志が重なっているのに気付く。"The Hunting Ground"のように大学キャンパスでの性暴力がいかに多いかを描いた力強いドキュメンタリーがある一方で、こういったイシューにを自分から知ろうとはしない人々に対して、まず性暴力やそのトラウマを物語として描くことでより多くの人々にまず知ってもらう、そんな意思を持った上で且つ作品として滅茶苦茶クオリティの高い作品を作ってみせるアメリカの映画/TV界の手腕はやはりスゴい。(「イット・フォローズ」は評判の高さも納得だし、本国でもインディーホラーとしては破格のヒットを成し遂げたらしい)

ということで「イット・フォローズ」オススメです。個人的にはもう1つ、主人公たちと親の関係についても書きたいがこっちは完全にネタバレなので、公開したら書きます。