鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Amelia Umuhire & "Polyglot"/ベルリン、それぞれの声が響く場所

もしあなたが近い将来映画界で光輝く才能を発掘したいというなら、一番の近道はYoutubeやVimeoで配信されているWebシリーズを片っ端から見まくることだ。無料配信ですぐ観れるからだとか、連作短編だから見易いだとか、何処に行かずともパソコンの前で世界中の面白い作家が見つけられるからだとか色々理由はあるが何より、シスヘテロ白人男性が中心の映画界において、才能はあるのに女性だから、バイセクシャルだから、アフリカ系・アジア系だからとそんな理由で爪弾きにされてしまう人々が自分たちの声を自由に語ることのできる場所がWebシリーズだからだ。

私は今までに、酒好き女子の二日酔い×ロマンシスコメディであるKacie Anning"Fragments of Friday"、Lの世界発、Girls経由、ケベック着といったモントリオールに生きるレズビアンのライフスタイルを描いたChloe Robichaud"FEMININ/FEMININ"、アフリカ系イギリス人の親友2人がアレコレバカやる日常系コメディであるCecile Emeke"Ackee & Saltfish"を紹介してきた。どれもメインストリームでは今まで語られることの余りなかった声が様々な形で語られた作品なのだが、今回はその系譜に連なる作品である"Polyglot"とその監督であるAmelia Umuhireを紹介していこう。ということで早速第1話をご覧ください。

主人公はアマンダ(Babiche Papaya)というアフリカ系の若い女性だ。彼女には1つ大きな夢がある、それはラッパーとして世界に名を轟かせることだ。だがまずは住むべき家を探さなくてはならないということで、彼女はベルリンを行く。

カメラが捉えるのは生の空気が満ちるベルリンの風景だ。赤と紫が交わるジャンパーを着たアマンダの周り、その壁には色とりどりのグラフィティが描かれている。そうだ、彼女はこの街で生きている。そして人々の息遣いが聞こえてくる地下鉄の中、一方には不安を、一方には期待を抱くとそんなアマンダの姿が繊細に掬い取られていく。

Amelia Umuhireはドイツを拠点とする映画作家だ。ルワンダで生まれた後、西ドイツの小さな町に移住、子供時代を過ごした。2013年にはベルリンへと引っ越し、この都市を中心に活動をしているのだが、彼女はメディアにおけるアフリカ系のキャラクター表象についてこう語っている。

"私たちが(TVなどで観る)黒人キャラクターの多くが、本筋には絡むことがありません。こういった描写は無知の表れであり、また危険なものでもあります。黒人に対する全く勝手なイメージが仕立てあげられたり、語られるべき物語の幅が狭められてしまうからです。更に黒人がキャストされている番組があっても、彼らはアメリカ人であり、私たちのようなアフリカ系ヨーロッパ人の現実には何の関わりもないんです"*1

そしてもう1つ。1話の最後でアマンダは家主たちの前で見事なラップを披露するが、彼女を演じているBabiche Papaya aka Amanda MukasongaはUmuhire監督の姉妹で且つ実際のラッパーだ。ここでは英語だったが、この動画ではドイツ語ラップを披露している。意味は解らなくとも、確かな力強さを感じるはずだ。Papayaはアマンダという役柄についてこう話している。"もし私がテレビドラマに出演するとしても(中略)この作品のようにリアルで奥行きのあるキャラを演じることなんて出来ないでしょうね"*2

1話において、Umuhire監督はアフリカ人がヨーロッパで生きることだとかそういったテーマを描こうとはしない。まずは"若者が新しく住む部屋を探す"とそんな日常の風景を描いていく。ここで考えたいのは例えば"アジア系"だとか"アフリカ系"だとか"白人"だとか人種によって言葉でカテゴライズしようとすると全く別の種類の人間に思えてしまうけれども、実際そんなに違っているのか?ということだ。あなたはこの1話を観てどう思っただろう、ああ彼女と私は全く違う人間だなと思っただろうか、むしろ何気ない場面に親しみを覚えたりはしなかっただろうか。もちろん性格だとか違うと感じる人もいるだろうが、少なくとも自分と違う国に住んでいる違う人種の人だから彼女と私は違うなんて思わなかっただろう。

TVドラマなどのメディアが伝えるアフリカ系の表象はステレオタイプに則った"勝手なイメージ"であり、こういった何気なさへの共感を阻む物として存在している。それが私たちの中の固定概念を更に強固にし、人種という名の断絶を生み出す。こういった悪循環を断ち切るだろう意思が、このささやかだが率直な日常の一風景に詰まっていると言えるだろう。

だが2話は少し状況が変わってくる。今回の主人公にはアマンダともう1人、オマール(Anna Dushine)というアフリカ系の女性が加わる。自分の癖毛が余り好きではないアマンダは、夜毎オマールに髪の矯正をしてもらっていた。その最中に2人は互いの境遇について会話を重ねる。アマンダが口にするのは別々の場所に住んでいる兄弟のことだ、1人はイングランド、1人はカナダ、だから恋しくても頻繁に会うことは出来ない……

この2話で語られるのは、このヨーロッパでアフリカの血を受け継いだ者が生きることについてだ。人種という名の断絶は深く、綺麗事を重ねようともアフリカ系ということだけで差別を受ける事実は厳然として存在している。オマールは語る、知ってるでしょ、ドイツ人はアフリカに大学なんてないと思ってるんだって……大学における差別を静かに語り、そして諦めの滲む声で以て彼女は続ける、夢を抱いてヨーロッパに来ても、すぐ故郷に帰りたくなってしまう、でも例え戻ったところで、前と同じではもういられない。ヨーロッパとアフリカの間で宙吊りになってしまった女性の悲哀が心に響く。このセリフは監督の偽らざる本音でもあるのだろう。彼女はあるインタビューでこんなことを語っている。

"どこ出身ですか?と聞かれた時、私はよく「ルワンダで生まれました。"ですが"ドイツで育ちました」と答えています。本当はこの"ですが"は"そして"になるべきと思っています。「私はルワンダで生まれました。"そして"ドイツで育ちました」という風に。つまり私は今まだ自分という存在を確立する途中にあるんです"

ところで"Polyglot"とはどういう意味の単語かご存じだろうか。これは多言語話者を意味していて、作品の本質を示してもいる。観た方はお気づきになっただろうが、1話では英語&ドイツ語、2話はフランス語、3話は英語と今のところ"Polyglot"では3つの言語が代わる代わる使われているのだ。監督自身はこの3つに加えて母国語であるルワンダ語も流暢に話せるのだという。彼女は"言語はそれぞれの世界を持っている"と語り、"Polyglot"はその世界を映画として再現しようとする試みでもあるのだ。今後おそらくドイツ語やルワンダ語に焦点を当てた回が作られていくだろう、その時が楽しみだ。

最後に彼女が今作をWebシリーズとして配信したことについて少し。きっかけとなったのは先ほど少し紹介したCecile Emekeの作品を観たことだったという。"Cecile EmekeのWebシリーズ"Strolling"を観たとき、こんな作品が存在するなんて!と嬉しくなりました。今までとは全く違ったやり方で、黒人の若者たちがヨーロッパ社会での経験を語る様が描かれているのですから"*3

映画の場合はまず制作に時間がかかり、完成したとしても配給がつかなければ誰にも観てもらえないという難点があるが、Webシリーズの場合は低予算や少ないスタッフでも制作が可能で、完成したなら即Youtubeなどにアップして皆に観てもらえるという利点がある。"Polyglot"はこのフットワークの軽さを活かした結果、瞬く間に評判が広がることとなった。特に高い評価を獲得した2話は、ベルリンはもちろん、アトランタやロンドンの映画祭などで上映される機会にも恵まれた。

今後のエピソードでは、主要キャラクターの旅路を通して他の"Polyglot"たちの姿も描いていきたいと監督は展望を語っている。3話ではアマンダの兄であるロジャーが遠い異国の地をさ迷いながら、アマンダとの過去を思い出すといった作品でロンドンを拠点とする音楽作家Vehdaの高揚感と不安の入り交じるビートが印象的な一作になっている。ということで新時代の映画界を担うだろうUmuhire監督の今後に注目である。

参考文献
http://www.nprberlin.de/post/life-berlin-exploring-identity-language-and-race-polyglot(作品紹介)
http://www.dazeddigital.com/artsandculture/article/25750/1/why-this-diy-berlin-web-series-is-blowing-up(監督インタビュー)

私の好きな監督・俳優シリーズ
その1 Chloé Robichaud &"Sarah préfère la course"/カナダ映画界を駆け抜けて
その2 アンドレア・シュタカ&“Das Fräulein”/ユーゴスラビアの血と共に生きる
その3 ソスカ姉妹&「復讐」/女性監督とジャンル映画
その4 ロニ・エルカベッツ&"Gett, le procès de Viviane Amsalem"/イスラエルで結婚するとは、離婚するとは
その5 Cecile Emeke & "Ackee & Saltfish"/イギリスに住んでいるのは白人男性だけ?
その6 Lisa Langseth & "Till det som är vackert"/スウェーデン、性・権力・階級
その7 キャサリン・ウォーターストン&「援助交際ハイスクール」「トランス・ワールド」/「インヒアレント・ヴァイス」まで、長かった……
その8 Anne Zohra Berracherd & "Zwei Mütter"/同性カップルが子供を作るということ
その9 Talya Lavie & "Zero Motivation"/兵役をやりすごすカギは“やる気ゼロ”
その10 デジリー・アッカヴァン&「ハンパな私じゃダメかしら?」/失恋の傷はどう癒える?
その11 リンゼイ・バージ&"The Midnight Swim"/湖を行く石膏の鮫
その12 モハマド・ラスロフ&"Jazireh Ahani"/国とは船だ、沈み行く船だ
その13 ヴェロニカ・フランツ&"Ich Ser Ich Ser"/オーストリアの新たなる戦慄
その14 Riley Stearns &"Faults"/ Let's 脱洗脳!
その15 クリス・スワンバーグ&"Unexpected"/そして2人は母になる
その16 Gillian Robespierre &"Obvious Child"/中絶について肩の力を抜いて考えてみる
その17 Marco Martins& "Alice"/彼女に取り残された世界で
その18 Ramon Zürcher&"Das merkwürdige Kätzchen"/映画の未来は奇妙な子猫と共に
その19 Noah Buchel&”Glass Chin”/米インディー界、孤高の禅僧
その20 ナナ・エクチミシヴィリ&「花咲くころ」/ジョージア、友情を引き裂くもの
その21 アンドレア・シュタカ&"Cure: The Life of Another"/わたしがあなたに、あなたをわたしに
その22 David Wnendt&"Feuchtgebiete"/アナルの痛みは青春の痛み
その23 Nikki Braendlin &"As high as the sky"/完璧な人間なんていないのだから
その24 Lisa Aschan &"Apflickorna"/彼女たちにあらかじめ定められた闘争
その25 ディートリッヒ・ブルッゲマン&「十字架の道行き」/とあるキリスト教徒の肖像
その26 ハンナ・フィデル&「女教師」/愛が彼女を追い詰める
その27 ハンナ・フィデル&"6 Years"/この6年間いったい何だったの?
その28 セルハット・カラアスラン&"Bisqilet""Musa"/トルコ、それでも人生は続く
その29 サラ=ヴァイオレット・ブリス&"Fort Tilden"/ぶらりクズ女子2人旅、思えば遠くへ来たもので
その30 Damian Marcano &"God Loves the Fighter"/トリニダード・トバゴ、神は闘う者を愛し給う
その31 Kacie Anning &"Fragments of Friday"Season 1/酒と女子と女子とオボロロロロロオロロロ……
その32 Roni Ezra &"9. April"/あの日、戦争が始まって
その33 Elisa Miller &"Ver llover""Roma"/彼女たちに幸福の訪れんことを
その34 Julianne Côté &"Tu Dors Nicole"/私の人生なんでこんなんなってんだろ……
その35 ジアン・シュエブ&"Sous mon lit"/壁の向こうに“私”がいる
その36 Sally El Hosaini&"My Brother the Devil"/俺の兄貴は、俺の弟は
その37 Carol Morley&"Dreams of a Life"/この温もりの中で安らかに眠れますように
その38 Daniel Wolfe&"Catch Me Daddy"/パパが私を殺しにくる
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