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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Radu Jude & "Aferim!"/ルーマニア、差別の歴史をめぐる旅

ルーマニアとロマ族とは切っても切れない関係にある。故郷であるインドを離れたロマはギリシャバルカン半島を行き、そしてドナウ川を越えた先にあるルーマニアへと辿り着いた。西欧諸国の殆どが彼らを排斥したのとは逆に、ワラキアの君主や貴族たちはロマたちを貴重な労働力として受け入れ、社会の底辺に組み込み、13世紀から19世紀中頃の農奴解放まで奴隷時代が続くこととなる。今回はそんなロマ族に対するルーマニアの差別の歴史を描き出した作品"Aferim!"と、その監督Radu Judeについて紹介していこう。

Radu Judeは1977年3月28日ブカレストに生まれた。ブカレスト・メディア大学で監督業について学ぶ。助監督として映画界入り、コスタ=ガブラスホロコースト -アドルフ・ヒトラーの洗礼-」ルーマニアン・ニューウェーブの重鎮クリスティ・プイウ「ラザレスク氏の最期」などに参加し経験を積んでいた。

監督としてはTVシリーズ"In Familie"を何本か手掛けた後、2006年に短編"Lampa cu Caciula"で本格デビュー、少年が自身の父親と共に町へテレビを治しに出掛ける作品でリスボン・インディー国際映画祭やクワコワ映画祭、ロサンゼルス映画祭、そしてルーマニアアカデミー賞であるゴーポ賞で作品賞をかっさらうなど欧米を中心に世界で評価される。

同年、離婚によって疎遠になった父と4歳の少女の交流を描いた短編"Alexandra"を経て、2009年には初長編"Cea mai fericită fată din lume"(英題: The Happiest Girl in the World)を監督する。主人公は高校生のデリア、彼女は両親と共に辺境の村からブカレストへとやってきたのだが、その目的は飲料会社のミスコンで優勝し新車をゲットすることだった……という資本主義と消費主義に翻弄される家族の姿を描き出したブラックコメディでベルリン国際映画祭でC.I.C.A.E.賞を獲得、セルビア・パリッチ映画祭では作品賞を獲得するなど話題を集める。

2011年には愛する者のためにビデオメッセージを作り続ける男の姿を描いた中編"Film pentru prieteni"(英題: A Film for Friends)を製作し、翌年2012年に第2長編"Toată lumea din familia noastră"(英題: Everybody in Our Family)を手掛ける。"Alexandra"の設定を再び使い、父と疎遠になった少女の休日が奇妙な方向へと転がっていくドラマ作品でゴーポ賞で作品・監督・主演男優・助演男優・助演女優・脚本の計6部門を制覇した。そして3本の短編を手掛けた後で、Jude監督は待望の第3長編"Aferim!"を製作する。

舞台は1800年代のワラキア、馬に乗って旅をするのはコンスタンディン(Teodor Corban, 以前ブログで紹介した"A fost sau n-a fost?"に主演)とイオニータ(Mihai Comanoiu)親子だ。コンスタンディンは保安官なのだが、ある日、Boyarと呼ばれる地方の有力者にある命令を受けたのである。その命令とは、地主の妻と浮気したのがバレて逃走を図った奴隷のロマ・カルフィン("Comoara" Toma Cuzin)を捕まえろというものだった。

ルーマニアに広がる大いなる自然を行く親子の旅路は、緩やかな時の感覚と崇高な瞬間の数々に満ち溢れている。撮影はCorneliu Porumboiuの諸作などを手掛け、ルーマニアン・ニューウェーブに欠かすことは出来ない存在となっているMarius Panduru、彼は白黒撮影を効果的に駆使していつかそこにあった時代への郷愁を滲み渡らせる。木々が重なりあう深き森、羊たちが思うままに彷徨く岩の丘、石造りの教会、川辺に形を成しているロマたちの村……腰を固く据えたロングショットが多用され、画面にはゆったりとした牧歌的な時間が流れることとなる。だが物語は郷愁や牧歌的という言葉では括れない、括ってはならない領域へと足を踏み入れていく。

コンスタンディンたちはカルフィンを探して、ロマの住処をめぐる。あの奴隷は何処だ!もし隠しているならお前たちにも罰を与えるぞ!と、コンスタンディンはロマたちを"カラス"と呼んで蔑み、容赦なく暴力を加える。"男にするため"という目的で旅に同行させられているイオニータも、父の振る舞いを真似て、銃を構えながらロマを恫喝する。そして住処から住処へと渡り歩き、道中ではロマたちの悪口を止めどなくブチ撒けていく。そんな2人や他の登場人物たちの姿には当時のルーマニアに根付いていたロマ族への差別の構図が反映されていると言える。

それが余りにも露骨に表出する下りも存在する。道中、2人は立ち往生していた神父を手助けするのだが、コンスタンディンは彼にこんな問いを投げ掛ける、"ジプシー"どもは私たちと同じ人間なのでしょうか?と。神父は饒舌さを以て語る、彼らは人間ではない、彼らは悪魔だ、獣だ、彼らを飼い慣らさなければ私たちに害を成すだろう……此処から罵詈雑言はロマの人々だけでなくユダヤ人やトルコ人へも飛び火し、ルーマニアは元より当時のキリスト教が内包していた多方面への差別観が凄まじい勢いで噴出するのだ。

そして上部は牧歌的を装いながらも、その中で苛烈な差別の構図を際立たせ、物語は進んでいく。中盤からは酷くアッサリと捕まってしまった奴隷カルフィン、彼と一緒に隠れていたロマの子供を交えた4人での道中が描かれる。浮き彫りになるのは個人の内面以上に、いかにルーマニアという国の日常に差別が息づいていたかだ。コンスタンディンたちはお祭り騒ぎの村に立ち寄ると、泣き叫ぶロマの子供をゾッとするほど軽く権力者に金で売り払う。この描写は本当にサラっとしていて、コンスタンディンたちも今度の人はきっと良い雇い主だよと流して、子供の存在はそれ以後完全に消え去る。紛れもない奴隷売買がいかに日常的な光景であったかを、監督はそうしたシークエンスによって私たちに語るのだ。

(この映画で描かれた19世紀と現在のルーマニアに共通点はあるかと聞かれて)"私は全ては確実に進歩していくという可能性を信じている側の人間で、それは確かに達成されているとも思っています。今回は現在に繋がる問題の根っこを見つけること、そして批評するよりも描きだし説明することに主な焦点を当てていました(中略)今、私たちは多くの問題に直面していて、それらは最近にしろもっと昔にしろ、過去に繋がりがある物です。ルーマニアの人々は共産主義の時代にこそ問題の根を見出だしますが、もっと遠い過去にこそその源がある問題も存在します。過ぎ去った時間を美化する傾向は誰にでもありますが、実際にはその時間はある痕跡を残していって、深く残り続けているものもあるんです。今作の構想は現在と過去の関係性を発見すること、私たちは何処から来たのを理解することでした。健全な自己意識を持つためには、過去を知りそれに責任を持たなくてはならないのです"

"Aferim!"はベルリン国際映画祭コンペティション部門でプレミア上映、監督賞を獲得することとなり多数の映画祭を回った後、2016年のアカデミー賞外国語映画賞ルーマニア代表に選出された。

新作は2017年の公開予定の"Scarred Hearts"だ。1937年、黒海沿いに建てられたサナトリアムを舞台に、そこに収容された若者エマヌエルと彼の愛の行方を描き出す作品で、若くして亡くなったルーマニアの著名な小説家で"ルーマニアカフカ"とも呼ばれるMax Blecherの作品を元としているそうだ。ということでJude監督の今後に期待。

参考文献
https://www.festivalscope.com/director/jude-radu(監督プロフィール)
http://cineuropa.org/it.aspx?t=interview&l=en&did=286211(監督インタビューその1)
http://independent-magazine.org/2015/11/radu-jude-aferim/(監督インタビューその2)

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