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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

コルネリュ・ポルンボユ&「トレジャー オトナタチの贈り物」/ルーマニア、お宝探して掘れよ掘れ掘れ

Corneliu Porumboiu & "A fost sau n-a fost?"/1989年12月22日、あなたは何をしていた?
Corneliu Porumboiu & "Când se lasă seara peste Bucureşti sau Metabolism"/監督と女優、虚構と真実
Corneliu Porumboiu監督の略歴、デビュー作及び第3長編についてはこの記事を参照

宝探しという物はいつの時代もそのロマンで人々を魅了する。私もその一人だ。幼稚園の頃、何処ぞの田舎へお泊まりに行った時、イベントの1つにお宝探しゲームというのがあった。他の奴にどんどん宝が見つけられていく中で、もう本当に本当、最後の最後で、泥の空き地で不自然にトタンの廃材が置かれたその下に、水色のデカい箱を見つけた時のあの感動ったら昨日のように思い出せる。

ルーマニアン・ニューウェーブの旗手であるCorneliu Porumboiu監督の第5長編"Comoara"(英題:Treasure)を観ている時、そんな幼き日のロマンが私の頭に思い浮かんだのだ。今どき珍しいほど穴ばっかり掘ってるこのレトロな宝探しの物語は、だからこそ観る者の心に眠る記憶を深く刺激するノスタルジーを宿している。それでいて今作はルーマニアの歴史を巡る旅路ともなり、しかし最後には何とも言いがたい奇妙な場所へと私たちを導くことともなる。

主人公はコスティ(Toma Cuzin, 以前紹介したRadu Jude監督の"Aferim!"にも出演)という30代の男性、愛する妻のラルカ(Cristina Cuzina Toma)と息子アリン(Nicodim Toma)と幸せに暮らしている……と言いたい所だが、そう言い切れるほど家計に余裕がないのが実状だ。そんな彼が好きなのは正しきを成し弱きを助けるおとぎ話の英雄ロビン・フッドだ、アリンに毎夜読み聞かせるのは彼の英雄譚、幼稚園への迎えを遅刻してしまった時は「実は父さんロビン・フッドなんだ、敵から隠れていて遅れちゃったんだよ」なんて言い訳。そしてアリンに「お父さん、ロビン・フッドじゃないじゃん」ともっともな事を言われ、ぐうの音も出ない。

この日の夜も彼にロビン・フッドがいかに凄いかを読み聞かせていると1人の来訪者。それは隣人のアドリアン(Adrian Purcarescu)で、何も言わずに800ユーロを貸して欲しいとコスティに頼み込んでくる。だがこっちだって車のローン払ってて余裕はないと、彼は断りその日は終わる。だが翌日アドリアンがもう一度やってくるのだが、彼の様子が昨日と違う。そして神妙な顔をしてアドリアンは言う、アンタが金を貸してくれれば家の庭からお宝が掘り起こせるかもしれないんだ……!

物語の前半は、Porumboiu監督にしては味気ない長回しと単調な会話の切り返しと共に展開していく。そして交わされる言葉の数々のいつにも増して世知辛い。経済不況で経営していた出版社が倒産したとかルーマニアの冷え冷えとした――とはいえ日本だってそんなに変わらないが――日常が垣間見えたかと思えば、息子が何だか虐められてると夫婦が話し始め、校長だとか虐めた相手の母親だとかにどっちが話をつけるのかというグダグダさが妙にリアルな会話が延々と続く。聞いてるだけで気分が鬱々としてくるかもしれないが、だからこそ彼らはお宝にすがる訳だ。

話はこうだ。アドリアンの曾祖父が所有していた邸宅の庭、そこにお宝が眠っているのだという。それはハンガリー革命の時代の遺産なのか、はたまた曾祖父をその土地から追い出した共産主義者が密かに隠した財宝なのか、それとも……詳細は分からないが、そこにはとにかくお宝が隠されているのだと死を前に曾祖父はアドリアンに告げたのだという。800ユーロとはそれを探せる金属探知器のプロを雇うためのお金という訳である。さあさあロマンが沸き上がって来ましたよという所だが、Porumboiu監督はそのワクワクを意図的に先伸ばしにしていく。第2長編"Polițist, adjectiv"は刑事ドラマの体裁を取っておきながら、張り込みの待ち時間や刑事の日常という観客が別に観たいと思っていない描写に異様な拘りを見せたが、今作も正にそうだ。何でそんな金属探知器のプロ探しに時間を割くんだ、何でそんなシーンをわざわざ入れるんだ……だけどこの妙な間延び感こそが"Comoara"の魅力でもある。

さて、とうとうコスティとアドリアンはお宝の眠る場所へと赴き、お宝探しの始まりじゃい!……と言いたい訳だが、金属探知器のプロが1時間も遅刻して雲行きが怪しい。そしてやってきたプロのコルネル(Corneliu Cozmei)を交え、3人のオッサンがだだっ広い庭で宝を探し始める。Porumboiu監督の長回しが冴え渡るのはこの時からだ。彼はオッサンが探知器持って庭をのっそのっそと歩いているのをオッサンとオッサンが腕組みながら見ている姿をカメラでジーーーーーーっと見据える。その光景の何が面白いのかと思うかもしれないが、実際に観るとなると思いもかけず段々と頬が緩んでくるような変な可笑しみが満ちているのに気付くだろう。大のオッサン3人がなーにやってんだコリャってそんなオフビートな感じ。だけど少なくともコスティとアドリアンにとっては切実だ、会社倒産してるしローン残ってるし。そんな観客とキャラの温度差を利用して監督は画面にユーモアを染み渡らせる。

そして物語はひたすらにスコップで穴を掘りまくるという、映画の盛り上がりなんて度外視した前代未聞のシークエンスに突入する訳だが、此処にはあるジレンマが存在する。もし財宝が見つかったとしてもだ、それがルーマニアの歴史にとって重要な物ならば、警察に通報して判断を仰がなくてはならない。本物の宝と認定されたなら国にほぼ接収され、30%のみの金のみがこちらに残る。しかしそれは酷いとトンズラこいて万が一それがバレたら逮捕は確実である。社会主義時代のルーマニアには秘密警察セクリタテアが存在した訳で、その時代から20数年が経ちながらも警察への恐怖はひとしおである。そんなジレンマの中でコスティたちは穴を掘って掘って掘って掘って掘って掘って掘って掘って……

Porumboiu監督が語るにはこの作品は元々ドキュメンタリー映画になる筈だったそうで、しかし実際には掘っても何も出てくることは無かった故に、この出来事をフィクションとして描くというアイデアが生まれたのだという。と、いうことはである、まあこれくらいは言って良いだろう、庭を掘りまくった末に彼らはある物を掘り当てることとなる。この埋蔵物は私たちにルーマニアの歴史についての知られざる一面を語り、物語は全く思わぬ方向へと転がっていくのだ。正直私の偽らざる気持ちを語ると、最初はえっ??????となり、その後にめちゃくちゃ爆笑し、と思ったらマジで思いもかけぬ展開になってどう反応していいのか解らなくなった。だけども1つだけ言えることがある。この"Comoara"は大人のためのおとぎ話なのだ、コスティはアリンにロビン・フッドを読み聞かせていたが、Porumboiu監督が私たちに語る物語こそがこの作品なのだ。いや、ねえ本当、ホントもう素晴らしい映画だから。もうスゴいよ、本当。

ということでCorneliu Porumboiu監督の長編映画5作品を全て観た訳だが、個人的なランキングはこちら。
1. "Comoara"
2. "Polițist, adjectiv"
3. "Când se lasă seara peste Bucureşti sau Metabolism"
4. "A fost sau n-a fost?"
5. "Al doilea joc"

2位"Polițist, adjectiv"のは他作のレビューで名前をちょくちょく出しているがこれ自体のレビューはしていない、いつかの機会に書きたいとは思っているのだが。5位の"Al doilea joc"は特異な作風のPorumboiu監督作の中でもかなりの異色作で、あるサッカーの試合を観ながらPorumboiu監督と彼の父が社会主義の時代について語り合うドキュメンタリー、というかコメンタリーなのだ。本当ただサッカーの試合が写るだけだし(しかも雪が凄くてボールがちゃんと見えない)、本当父と息子が喋ってるだけ。確かにセクリタテアについて喋ったりはするが、何とも言い難いのだこれが。正直咀嚼出来ていないので、監督の全作を観た今こそ、もう1度今作を観たいのだがMUBIの配信プレミアで観た物だから、まだDVDとか全然発売されていないし、発売する気配もないのが惜しい所。ということで私は今後、彼についての評論・論文を書きたいと思っている、その時はみんな読んでね!じゃあね!

私の好きな監督・俳優シリーズ
その51 Shih-Ching Tsou&"Take Out"/故郷より遠く離れて自転車を漕ぎ
その52 Constanza Fernández &"Mapa para Conversar"/チリ、船の上には3人の女
その53 Hugo Vieira da Silva &"Body Rice"/ポルトガル、灰の紫、精神の荒野
その54 Lukas Valenta Rinner &"Parabellum"/世界は終わるのか、終わらないのか
その55 Gust Van den Berghe &"Lucifer"/世界は丸い、ルシファーのアゴは長い
その56 Helena Třeštíková &"René"/俺は普通の人生なんか送れないって今更気付いたんだ
その57 マイケル・スピッチャ&"Yardbird"/オーストラリア、黄土と血潮と鉄の塊
その58 Annemarie Jacir &"Lamma shoftak"/パレスチナ、ぼくたちの故郷に帰りたい
その59 アンヌ・エモン&「ある夜のセックスのこと」/私の言葉を聞いてくれる人がいる
その60 Julia Solomonoff &"El último verano de la Boyita"/わたしのからだ、あなたのからだ
その61 ヴァレリー・マサディアン&"Nana"/このおうちにはナナとおもちゃとウサギだけ
その62 Carolina Rivas &"El color de los olivos"/壁が投げかけるのは色濃き影
その63 ホベルト・ベリネール&「ニーゼ」/声なき叫びを聞くために
その64 アティナ・レイチェル・ツァンガリ&"Attenberg"/あなたの死を通じて、わたしの生を知る
その65 ヴェイコ・オウンプー&「ルクリ」/神よ、いつになれば全ては終るのですか?
その66 Valerie Gudenus&"I am Jesus"/「私がイエス「いや、私こそがイエ「イエスはこの私だ」」」
その67 Matias Meyer &"Los últimos cristeros"/メキシコ、キリストは我らと共に在り
その68 Boris Despodov& "Corridor #8"/見えない道路に沿って、バルカン半島を行く
その69 Urszula Antoniak& "Code Blue"/オランダ、カーテン越しの密やかな欲動
その70 Rebecca Cremona& "Simshar"/マルタ、海は蒼くも容赦なく
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その72 Afia Nathaniel &"Dukhtar"/パキスタン、娘という名の呪いと希望
その73 Margot Benacerraf &"Araya"/ベネズエラ、忘れ去られる筈だった塩の都
その74 Maxime Giroux &"Felix & Meira"/ユダヤ教という息苦しさの中で
その75 Marianne Pistone& "Mouton"/だけど、みんな生きていかなくちゃいけない
その76 フェリペ・ゲレロ& "Corta"/コロンビア、サトウキビ畑を見据えながら
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その78 ミン・バハドゥル・バム&「黒い雌鶏」/ネパール、ぼくたちの名前は希望って意味なんだ
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