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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Benjamin Crotty&"Fort Buchnan"/全く新しいメロドラマ、全く新しい映画

時折、この映画は全てにおいて"新しい"としか形容できない作品に出会ってしまうことがある。例えばRamon Zürcher"Das merkwürdige Kätzchen"(詳しくはこの紹介記事を読んでね)、今作はある家族の日常の風景をシャンタル・アケルマンの禁欲性とジャック・タチの過剰さで以て今まで誰も観たことのない風景に変えてしまうという離れ業をやってのけた作品だった。そして私が去年のベストに据えたアナ・ローズ・ホルマー"The Fits"(この紹介記事も読んでね)、こちらも題材は少女がダンスに打ち込む姿を描くというありふれた物ながら、青春・スポ根・ホラー・SFと様々なジャンルを越境しながら、唯一無二の未来が浮かび上がる得も言われぬ感動が此処にはあった。さて、まだ2016年も2ヵ月経っていないが、早くもそんな映画が現れてしまった訳だ。ということで今回は今までとは全く"新しい"映画である"Fort Buchanan"とその監督Benjamin Crottyについて紹介して行こう。

Benjamin Crottyは1979年アメリカに生まれた。小さな頃は劇団員として様々な小学校を回っていたのだという。エール大学を卒業後、フランスのル・フレノワ国立現代芸術スタジオに留学し映画・ビデオ製作を専攻、そのままヨーロッパを活動の拠点とするようになる。

映像作家としてパレ・ド・トーキョーやパリ市立近代美術館で作品が展示されるなど話題になるが、2009年には同じくアメリカ人の映画監督Gabriel Abrantes(多分後日、彼についても紹介します)とポルトガルで共同監督作"Visionary Iraq"を手掛ける。ポルトガル人の少年と養子であるアンゴラ人の妹が家族と共にリスボンからイラクへと向かう旅路を描いた作品でIndieLisboa国際インディペンデント映画祭で新人賞を獲得する。そして2011年には再びの共同監督作"Liberdade"を製作、アンゴラルアンダを舞台にアンゴラ人青年と彼の恋人である中国人女性が心を彷徨わせる姿を綴るロマンス短編で、今作はロカルノ映画祭でFilm and Video Subtitling Awardを獲得することとなった。

2012年には今回紹介する作品の雛形となった初の単独監督作"Fort Buchanan: Hiver"を製作し、ロカルノ映画祭などで話題になる。本当はこの時点で長編を作りたかったのだが、予算が足りず長編の一部を短編として製作したそうだ。2013年にはAbrantesの単独短編"Ennui Ennui"で声の出演、何と役柄はバラク・オバマだという。そして2014年にはベルトラン・ボネロ「サン・ローラン」で再び声の出演、今度はアンディ・ウォーホルとか一体どうなっているんだって感じだ(ちなみに"Fort Buchanan"に出演しているイリアーナ・ザーベトポーリーヌ・ジャカールはボネロの前作メゾン ある娼館の記憶に出演しているという共通点がある)更には以前紹介したWhitney Hornの、こちらも新感覚としか言い様が無かった脱力WASPコメディ"L for Leisure"に出演、そして同年Cortty監督は初の長編映画"Fort Buchanan"を監督する。

舞台は人里離れた山奥に位置する1軒のコテージだ。外国に派兵されている軍人たちのパートナーが共同体を作って此処で暮らしているのだ。ロジェ(我が至上の愛アストレとセラドン〜」アンディ・ジレ)もその中の一人だ、同性のパートナーであるフランク(David Baïot)はジブチに派遣されており、彼は18歳の娘ロクシー(メゾン ある娼館の記憶」イリアーナ・ザーベス)とこの地に身を寄せていた。しかしこの頃、彼女との関係が上手くいっていない。この日もちょっとしたことから口論となり、激昂した彼女に右目をブン殴られてしまった。彼はパートナーが居ない寂しさと娘への当惑を一緒に住む人々――パメラ(メゾン ある娼館の記憶」ポーリーヌ・ジャカール)、クラウディア(Nancy Lane Kaplan)、ジュスティーヌ(Mati Diop)、ギヨーム(Guillaume Palin)、デニーズ(Judith Lou Lévy, 今作の製作も担当)――に打ち明けるのだが、そんなコテージで何かが始まろうとしている。

こうして粗筋を記したのだが"Fort Buchanan"は確かにこの道筋を行きながらも、観る者に異様な感覚をも抱かせることともなる。物語に挿入されるのはひどく唐突な暴力の風景、自分の性器にどんな名前を付けているか?という馬鹿げた猥談の数々だ。撮影監督であるMichaël Capronによる粒子の粗い16mm的世界の中、私たちが普段観ている映画とは全く異なるリズムが展開しながらも、一貫性すら感じられるのは、彼らの間には同じ寂しさを共有する故の親密さが存在するからだろう。しかしこの親密さこそ今作を奇妙な方向へと牽引していく要素でもある。

冬が終わり春がやってくる頃、ロジェは彼女たちに尋ねる、パートナーと離れ離れになっている時、自分の性欲とはどう折り合いをつけているのかと。ある者はホイップクリームが性欲解消の鍵だと言い、ある者は他人とセックスすればいいと言ってのける。そしてこのシーンと同時に、ロクシーが此処まで大きく成長したことをクラウディアたちが感慨深げに話す姿が映される。この時から1つのゲームが始まる。パメラたちはロクシーの肉づきがいい太ももを艶かしく愛撫する、対してジュスティーヌはロジェと同じく同性のパートナーがいるギヨームを様々に滑稽な形で誘惑する、つまりは駆け引き、しかし愛ではなく純粋に性欲のための駆け引き、相手の性的指向・嗜好は関係なしに、いかにして相手を自分の性的ファンタジーに巻き込んだ上でセックスを遂げるかについての駆け引きだ。

閉ざされた共同体の中で誘惑の遊戯が繰り広げられる、この設定において最も思い出されるべきはマティアス・ピニェイロ「みんな嘘つき」だ。1つの邸宅である目的の下に共同生活を行う若者たちがコミカルに性の離合集散を繰り返すといった内容は正に"Fort Buchanan"と共鳴し合うものであり、且つ二者に共通するのはセックスを"官能的"だとかそう重苦しく捉えることなく、軽やかに楽しむべき物として描く点だ。全編に満ちるのはエロティックではあるが、あっけらかんとした空気を2つは分けあっているのだ。しかし勿論相違はあり、ピニェイロは長回しを効果的に使い、遊び心満載のギミックで以て遊戯を描き出す(例えば1人の少女が少年とキスし、彼が出ていくとドアの後ろに隠れていた少年と彼女がキスするあのからくり屋敷的趣向!)が、Crottyの遊び心は編集の中にある。Ael Dallier, Penda Houzangbeの2人と共に、彼は脈絡ない脱線と逸脱を緩急自在の編集によって演出し、私たちの脳を、下半身を、心を驚きで満たしてくれる。

こうしてゲームが繰り広げられる中、いつしか貴方は「ああ、つまりはこういう映画なのね」と思うだろう。しかしそれで"Fort Buchanan"を捉えたつもりになった瞬間、そんな私たちを嘲笑うかのように監督は大胆な形で今作の方向性を変えてしまうのだ。舞台はコテージから様々な場所へと移り変わり、粒子の荒い映像には件のパートナー・フランクやパメラの夫であるトレヴァーと様々なキャラクターが浮かんでは消え去り、物語の中心もロジェからロクシー、フランクからジュスティーヌとコロコロ変わり、演出もそれによって劇的な変化を続ける。監督の語りは正に自由そのものであり、反復されるおかしなおかしな逸脱と飛躍に見えるのは映画芸術の無限の可能性だ。テーマは終始一貫して"欲求不満"と、そりゃ切実は切実だが卑近過ぎないかという題材でありながら、演出1つでそれは此処まで豊かなものになると今作は証明する。"Fort Buchanan"はあらゆる意味において"新しい"、映画のパンセクシャル的な輝かしき未来がこの作品の中には確かに存在している。

参考文献
https://pro.festivalscope.com/director/crotty-benjamin(監督プロフィール)
http://www.filmcomment.com/blog/interview-benjamin-crotty-fort-buchanan/(監督インタビューその1)

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