鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

ニコラス・ペレダ&"Minotauro"/さあ、みんなで一緒に微睡みの中へ

さて先日はメキシコ映画界の異端児ニコラス・ペレダの"Juntos"を紹介した。だが先述した通り、キャリアはまだ10年にも満たないながら、彼は精力的に作品を制作しまくっている。ということで今回は彼が2015年に製作した新作中編"Minotauro"を紹介していきたいと思う。

まず映し出されるのはガビーノ(ガビーノ・ロドリゲス)という30代の男が何となく暇を持て余している姿だ。ガビーノは椅子に座って時間が過ぎるのをただ待っている、だがそこにピザの配達人がやってくる、金を支払おうとお札を出すとお釣りがないとの言葉、自分がどっか行くのは面倒臭い、だから両替させに配達人をコンビニに行かせる、彼が来るまで本を読んで待つ、だけど眠い、何だか眠い、もう良いか、寝ちゃえばさ…………

何度寝かの後にガビーノは目覚める、奥の部屋に行くと友人のパコ(フランシスコ・バレイロ)が勝手に布団で眠ってる、まあ良いよ、ていうか俺もまた眠るかな、ガビーノはまた眠りに落ち、ガビーノは再び目覚める、そして奥の部屋に行くとそこには見知らぬ女性が眠っている、何だか良く分からない、ガビーノはリビングで本を読んで笑う、そこに件の女性、わたしルイサ(Luisa Parado)、よろしく、いや一回会ったことあるだろ、本を読むうち彼女を思い出したガビーノはそう言う、会ったことないよ、人違いじゃないの?……ガビーノには良く分からない、だけど取り敢えず眠くなってきたから、まあ寝るか……

"Minotauro"は全く以て奇妙な映画だ。目の前にはただただ私たちに馴染み深い日常の風景がいつまでも広がり続ける、ピザを食べる、ベッドで眠る、本を読む、布団で眠る、適当に料理を作る、ベッドで眠る、布団で眠る、眠る。だが私たちが過ごす日常とこの風景とはどこかが違うという感覚をも味わうはずだ、ボタンを1つかけ違えたかのような、表面上は似通いながらも、だからこそ何かが決定的に違っているという異様な感覚を。

その感覚の源は"眠り"にある。ガビーノ、パコ、ルイサはとにもかくにも眠り続ける。本を読んでいる途中でふと眠りこむ、布団の上で体を折り重ねながら眠る、床を膝について上半身だけがベッドに乗っかった体勢で眠りこける。薄い光に包まれながら全てを無意識に投げ出した3人の眠りがおおらかな編集によって緩やかに繋げられていく、このある意味で大胆すぎるミザンセンが生み出すのは白昼夢を見ているような心地だ。肌にほのかな温もりが届く午後の刻、私たちの体に薄いヴェールが静かにかけられ、微睡みに漂ううちに心地よい眠りへと溶けていくあの……

人間1度は、これからもうずっと眠って過ごしたいとそう願ったことがあるだろう。ある意味で今作はその願いを体現している。フワフワとして夢見心地な世界、時間の感覚すら柔らかな光の中に消えていき、私たちは自分を束縛するその全てから逃れることができる。ガビーノたちは本当にずっと眠っている、観客はその上映時間の半分以上を彼らの眠りを見るのに費やすこととなるほどに。"映画を観ながら眠る"という行為は普通映画に対する侮辱として受け取られるが、この映画に関してそれほどの賛辞は存在しないだろう、私たちの眠りこそがこの映画を完成させる最後の1ピースなのだ。

"Minotauro"は人間の"ただひたすらに眠りたい"という大いなる欲求を映画として完璧に表現してみせるほぼ唯一の映画だ。それでは皆さん、良い夢を……

メキシコ!メキシコ!メキシコ!
その1 Elisa Miller &"Ver llover""Roma"/彼女たちに幸福の訪れんことを
その2 Matias Meyer &"Los últimos cristeros"/メキシコ、キリストは我らと共に在り
その3 Hari Sama & "El Sueño de Lu"/ママはずっと、あなたのママでいるから
その4 Yulene Olaizola & "Paraísos Artificiales"/引き伸ばされた時間は永遠の如く
その5 Santiago Cendejas&"Plan Sexenal"/覚めながらにして見る愛の悪夢
その6 Alejandro Gerber Bicecci&"Viento Aparte"/僕たちの知らないメキシコを知る旅路
その7 Michel Lipkes&"Malaventura"/映画における"日常"とは?
その8 Nelson De Los Santos Arias&"Santa Teresa y Otras Historias"/ロベルト・ボラーニョが遺した町へようこそ
その9 Marcelino Islas Hernández&"La Caridad"/慈しみは愛の危機を越えられるのか
その10 ニコラス・ペレダ&"Juntos"/この人生を変えてくれる"何か"を待ち続けて

カナダ映画界、新たなる息吹
その1 Chloé Robichaud &"Sarah préfère la course" /カナダ映画界を駆け抜けて
その2 ソスカ姉妹&「復讐」/女性監督とジャンル映画
その3 Chloé Robichaud&"FÉMININ/FÉMININ"/愛について、言葉にしてみる
その4 アンヌ・エモン&「ある夜のセックスのこと」/私の言葉を聞いてくれる人がいる
その5 Julianne Côté &"Tu Dors Nicole"/私の人生なんでこんなんなってんだろ……
その6 Maxime Giroux &"Felix & Meira"/ハシディズムという息苦しさの中で
その7 ニコラス・ペレダ&"Juntos"/この人生を変えてくれる"何か"を待ち続けて
その8 ニコラス・ペレダ&"Minotauro"/さあ、みんなで一緒に微睡みの中へ
その9 Lina Rodríguez&"Mañana a esta hora"/明日の喜び、明日の悲しみ
その10 フィリップ・ルザージュ&「僕のまわりにいる悪魔」/悪魔たち、密やかな蠢き
その11 Kazik Radwanski&"How Heavy This Hammer"/カナダ映画界の毛穴に迫れ!
その12 Kevan Funk&"Hello Destroyer"/カナダ、スポーツという名の暴力
その13 Ashley McKenzie&"Werewolf"/あなたしかいないから、彷徨い続けて

私の好きな監督・俳優シリーズ
その51 Shih-Ching Tsou&"Take Out"/故郷より遠く離れて自転車を漕ぎ
その52 Constanza Fernández &"Mapa para Conversar"/チリ、船の上には3人の女
その53 Hugo Vieira da Silva &"Body Rice"/ポルトガル、灰の紫、精神の荒野
その54 Lukas Valenta Rinner &"Parabellum"/世界は終わるのか、終わらないのか
その55 Gust Van den Berghe &"Lucifer"/世界は丸い、ルシファーのアゴは長い
その56 Helena Třeštíková &"René"/俺は普通の人生なんか送れないって今更気付いたんだ
その57 マイケル・スピッチャ&"Yardbird"/オーストラリア、黄土と血潮と鉄の塊
その58 Annemarie Jacir &"Lamma shoftak"/パレスチナ、ぼくたちの故郷に帰りたい
その59 アンヌ・エモン&「ある夜のセックスのこと」/私の言葉を聞いてくれる人がいる
その60 Julia Solomonoff &"El último verano de la Boyita"/わたしのからだ、あなたのからだ
その61 ヴァレリー・マサディアン&"Nana"/このおうちにはナナとおもちゃとウサギだけ
その62 Carolina Rivas &"El color de los olivos"/壁が投げかけるのは色濃き影
その63 ホベルト・ベリネール&「ニーゼ」/声なき叫びを聞くために
その64 アティナ・レイチェル・ツァンガリ&"Attenberg"/あなたの死を通じて、わたしの生を知る
その65 ヴェイコ・オウンプー&「ルクリ」/神よ、いつになれば全ては終るのですか?
その66 Valerie Gudenus&"I am Jesus"/「私がイエス「いや、私こそがイエ「イエスはこの私だ」」」
その67 Matias Meyer &"Los últimos cristeros"/メキシコ、キリストは我らと共に在り
その68 Boris Despodov& "Corridor #8"/見えない道路に沿って、バルカン半島を行く
その69 Urszula Antoniak& "Code Blue"/オランダ、カーテン越しの密やかな欲動
その70 Rebecca Cremona& "Simshar"/マルタ、海は蒼くも容赦なく
その71 ペリン・エスメル&"Gözetleme Kulesi"/トルコの山々に深き孤独が2つ
その72 Afia Nathaniel &"Dukhtar"/パキスタン、娘という名の呪いと希望
その73 Margot Benacerraf &"Araya"/ベネズエラ、忘れ去られる筈だった塩の都
その74 Maxime Giroux &"Felix & Meira"/ユダヤ教という息苦しさの中で
その75 Marianne Pistone& "Mouton"/だけど、みんな生きていかなくちゃいけない
その76 フェリペ・ゲレロ& "Corta"/コロンビア、サトウキビ畑を見据えながら
その77 Kenyeres Bálint&"Before Dawn"/ハンガリー、長回しから見る暴力・飛翔・移民
その78 ミン・バハドゥル・バム&「黒い雌鶏」/ネパール、ぼくたちの名前は希望って意味なんだ
その79 Jonas Carpignano&"Meditrranea"/この世界で移民として生きるということ
その80 Laura Amelia Guzmán&"Dólares de arena"/ドミニカ、あなたは私の輝きだったから
その81 彭三源&"失孤"/見捨てられたなんて、言わないでくれ
その82 アナ・ミュイラート&"Que Horas Ela Volta?"/ブラジル、母と娘と大きなプールと
その83 アイダ・ベジッチ&"Djeca"/内戦の深き傷、イスラムの静かな誇り
その84 Nikola Ležaić&"Tilva Roš"/セルビア、若さって中途半端だ
その85 Hari Sama & "El Sueño de Lu"/ママはずっと、あなたのママでいるから
その86 チャイタニヤ・タームハーネー&「裁き」/裁判は続く、そして日常も続く
その87 マヤ・ミロス&「思春期」/Girl in The Hell
その88 Kivu Ruhorahoza & "Matière Grise"/ルワンダ、ゴキブリたちと虐殺の記憶
その89 ソフィー・ショウケンス&「Unbalance-アンバランス-」/ベルギー、心の奥に眠る父
その90 Pia Marais & "Die Unerzogenen"/パパもクソ、ママもクソ、マジで人生全部クソ
その91 Amelia Umuhire & "Polyglot"/ベルリン、それぞれの声が響く場所
その92 Zeresenay Mehari & "Difret"/エチオピア、私は自分の足で歩いていきたい
その93 Mariana Rondón & "Pelo Malo"/ぼくのクセっ毛、男らしくないから嫌いだ
その94 Yulene Olaizola & "Paraísos Artificiales"/引き伸ばされた時間は永遠の如く
その95 ジョエル・エドガートン&"The Gift"/お前が過去を忘れても、過去はお前を忘れはしない
その96 Corneliu Porumboiu & "A fost sau n-a fost?"/1989年12月22日、あなたは何をしていた?
その97 アンジェリーナ・マッカローネ&"The Look"/ランプリング on ランプリング
その98 Anna Melikyan & "Rusalka"/人生、おとぎ話みたいには行かない
その99 Ignas Jonynas & "Lošėjas"/リトアニア、金は命よりも重い
その100 Radu Jude & "Aferim!"/ルーマニア、差別の歴史をめぐる旅
その101 パヴレ・ブコビッチ&「インモラル・ガール 秘密と嘘」/SNSの時代に憑りつく幽霊について
その102 Eva Neymann & "Pesn Pesney"/初恋は夢想の緑に取り残されて
その103 Mira Fornay & "Môj pes Killer"/スロバキア、スキンヘッドに差別の刻印
その104 クリスティナ・グロゼヴァ&「ザ・レッスン 女教師の返済」/おかねがないおかねがないおかねがないおかねがない……
その105 Corneliu Porumboiu & "Când se lasă seara peste Bucureşti sau Metabolism"/監督と女優、虚構と真実
その106 Corneliu Porumboiu &"Comoara"/ルーマニア、お宝探して掘れよ掘れ掘れ
その107 ディアステム&「フレンチ・ブラッド」/フランスは我らがフランス人のもの
その108 Andrei Ujică&"Autobiografia lui Nicolae Ceausescu"/チャウシェスクとは一体何者だったのか?
その109 Sydney Freeland&"Her Story"/女性であること、トランスジェンダーであること
その110 Birgitte Stærmose&"Værelse 304"/交錯する人生、凍てついた孤独
その111 アンネ・セウィツキー&「妹の体温」/私を受け入れて、私を愛して
その112 Mads Matthiesen&"The Model"/モデル残酷物語 in パリ
その113 Leyla Bouzid&"À peine j'ouvre les yeux"/チュニジア、彼女の歌声はアラブの春へと
その114 ヨーナス・セルベリ=アウグツセーン&"Sophelikoptern"/おばあちゃんに時計を届けるまでの1000キロくらい
その115 Aik Karapetian&"The Man in the Orange Jacket"/ラトビア、オレンジ色の階級闘争
その116 Antoine Cuypers&"Préjudice"/そして最後には生の苦しみだけが残る
その117 Benjamin Crotty&"Fort Buchnan"/全く新しいメロドラマ、全く新しい映画
その118 アランテ・カヴァイテ&"The Summer of Sangaile"/もっと高く、そこに本当の私がいるから
その119 ニコラス・ペレダ&"Juntos"/この人生を変えてくれる"何か"を待ち続けて