鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Charles Poekel&"Christmas, Again"/クリスマスがやってくる、クリスマスがまた……

クリスマス、小さな頃は確かに待ち遠しい日だったが、大人になってからはただただ孤独を噛み締めるための日になっている。何か最近クリスマスの思い出なんかあったか?って何もない、強いて言うなら人の家に行ってその人と夜通し映画でも観ようかと思ったが、自分が酒を凄い勢いで飲み過ぎてまだ深夜1時にもならない内に寝落ちして悪いことをしたって罪悪感だけは濃厚に残っている、まあそれだけだ。今回紹介するのはそんな私と同じような思いをクリスマスに持っている方にはうってつけの作品だ。

Charles Poekel1984年4月17日、アメリカ・ニュージャージー州のサミットに生まれた。子供時代から映画に親しんでおり、それが元で映画監督を志すようになる。映画界には撮影技師としてキャリアを始め、2009年にはポーカーでアメリカン・ドリームを狙う人々の姿を描いたドキュメンタリー"All In: The Poker Movie"、2011年にはゲイ・ライツ・ムーブメント40周年を前に映画界におけるゲイ表象を追った"Making the Boys"、2013年には2人のバーテンダーの姿描き出したドキュメンタリー"Hey Bartender"を、そして2015年にはアメリカの有名コメディ団体ナショナル・ランプーンの歴史を追う"National Lampoon: Drunk Stoned Brilliant Dead"を手掛けるなどしていた。

映画監督としては2014年の短編ドキュメンタリー"Uncle Floyd"がデビュー作、とあるイタリア料理店で大道芸を続ける伝説的なパフォーマーであるアンクル・フロイドを描いた作品でサラソタ映画祭でプレミア上映され話題となった。さて今回紹介する"Christmas, Again"の話に映っていこう。監督は映画の着想源についてこう語っている。

"ブルックリンに越してきた時クリスマス・ツリーを買おうと思ったんです。夜11時でお店が開いているかどうか分からなかったのですが、一応行ってみると店員の方は言うんです、店を閉めることはないよ、24時間ずっと営業してる、木を何処かに保管するなんてことは出来ないからね。彼がそう言った時私は思ったんです、ニューヨークに住んでいる限りこのことに思いを馳せるなんてこと無いだろうけど、こんなルーティン・ワークはどうかしてると"

この出来事をきっかけに彼はクリスマス・ツリー売りについての物語を映画にしようと奔走するが、その過程でMcGolrick Treesという自身の店を経営するまでになる。編集・撮影技師として働く一方、パートタイムで店舗経営を行っていたそうだ。その甲斐もあり2014年には初の長編映画"Christmas, Again"を完成させる。

舞台はクリスマスを目前に控えた12月、ノエル(サクラメント/死の楽園」ケンタッカー・オードリー)という青年は路上でクリスマス・ツリーを売る仕事をしている。毎年同じ時期になるとブルックリンへと戻り、この仕事をしているのだ。トレーラーハウスで昼を寝て過ごし、夜は12時間ずっとツリーを売り続ける。従業員であるニックとロビンのカップルとはシフトが違うので少ししか顔を合わせないし、会っても会話は殆どない。ノエルはひたすらクリスマス・ツリーを売り続ける、売り続ける、その隣に"彼女"は居ない。

"Christmas, Again"はノエルの孤独な日常をとりとめもなく映していく。ツリーを売ってはトレーラーで眠り、ツリーを売ってはトレーラーで眠る、時々は外から騒音が響いてきて眠れない時もあるがそれでも夜はツリーを売り続けなくてはならない、そしてツリーを売り精神安定剤を一錠だけ飲んで眠りにつく、時々は近くのプールへと赴き気分転換に一泳ぎする、だがシャワーを浴びる彼の目は濁りきり、深い孤独にノエルの感情は全て磨り減ってしまったかのようだ。

彼の元にはツリーを買いに様々な人々が集まる。訛りのキツイ英語でこの職業を5年も続けられるなんて!と驚く東欧移民の男性、吟味の際にとにかく喋り続ける中年の夫婦、これがあれば女性にモテるツリーが欲しいと無理難題を吹っ掛けてくる男に母親と一緒にやってきてツリーとノエルに対して満面の笑みを浮かべる小さな子供。彼はある意味で機械的な応対で以て客に接するが、そこには実際に監督がこの仕事を経験してきたからこそのリアルな感触があり、映画はドキュメンタリー的な手触りが宿っている。しかし彼らの多くは1度現れたとしたらもう此処には戻ってこない、彼らはノエルの人生から一瞬にして消え去り、全てが彼を通りすぎていくのだ。

だがその中でノエルの元に謎めいた人物が現れる。ある時公園に立ち寄った彼はベンチの上で眠りこける女性("Uncertain Terms" Hannah Gross)を見つける。ホームレスに携帯を奪われようとしていた彼女を助け、トレーラーへ連れていくのだが自分が仕事をしている間に彼女は忽然と姿を消している。数日後、謎の女性リディアはノエルの元に戻ってくる。お礼にパンプキン・パイを持ってきたというのだ、しかしリディアが壁に張られた写真、そこに彼と共に映る"彼女"に触れた時から会話はぎこちなくなり、そのまま2人は別れることになってしまう。

そうして物語は更なる憂鬱を帯び始める。米インディー界における影の立役者である撮影監督ショーン・プライス・ウィリアムス("Queen of Earth"などアレックス・ロス・ペリー作品の全てを担当)によって浮かび上がる冬のブルックリンは、観る者の肌をその生々しい寒さで突き刺す。そんな中で、時には雨すら体に打ち付ける夜の闇の中でノエルはツリーを売り続ける、そしてノエルは何の脈絡もなく路上で涙を流し始める。

この"Christmas, Again"は1人の男性がクリスマス・ツリーを売るとただそれだけの、本当にそれだけしかない日々を淡々と描き出す作品だが、それが何故観る者の心を打つのかと言うなら、感情が全て磨り減ってしまったように見えても、人生への悲しみが込み上げてどうしようもなくなるあの瞬間が描かれているからだ。だが人生はそれだけで終わりはしないという希望も監督は描き出そうとする。その瞬間の何て儚く、美しいのだろう……"Christmas, Again "は深い孤独と微かな希望、そこに一抹の切なさが宿る小さくも素敵な贈り物だ。

"Christmas, Again"ロカルノ国際映画祭でプレミア上映され、2015年度の"New Directors/New Films"に選出されるなど話題になった。現在は次回作に着手中、脚本は既に執筆済みで90年代半ばを舞台とした群像劇になるらしい、2015年の秋頃に撮影が開始予定、なので予定通りならもう始まっているだろう。ということでPoekel監督の今後に期待。

ポスト・マンブルコア世代の作家たちシリーズ
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その4 Riley Stearns &"Faults"/ Let's 脱洗脳!
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その6 ジェームズ・ポンソルト&「スマッシュド〜ケイトのアルコールライフ〜」/酒が飲みたい酒が飲みたい酒が飲みたい酒が飲みたい…
その7 ジェームズ・ポンソルト&"The Spectacular Now"/酒さえ飲めばなんとかなる!……のか?
その8 Nikki Braendlin &"As high as the sky"/完璧な人間なんていないのだから
その9 ハンナ・フィデル&「女教師」/愛が彼女を追い詰める
その10 ハンナ・フィデル&"6 Years"/この6年間いったい何だったの?
その11 サラ=ヴァイオレット・ブリス&"Fort Tilden"/ぶらりクズ女子2人旅、思えば遠くへ来たもので
その12 ジョン・ワッツ&"Cop Car"/なに、次のスパイダーマンの監督これ誰、どんな映画つくってんの?
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その14 ジェイク・マハフィー&"Free in Deed"/信仰こそが彼を殺すとするならば
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その18 ネイサン・シルヴァー&"Uncertain Terms"/アメリカに広がる"水面下の不穏"
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その20 Rick Alverson&"Entertainment"/アメリカ、その深淵への遥かな旅路
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その25 レスリー・ヘッドランド&"Sleeping with Other People"/ヤリたくて!ヤリたくて!ヤリたくて!
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その27 Zia Anger&"I Remember Nothing"/私のことを思い出せないでいる私
その28 Benjamin Crotty&"Fort Buchnan"/全く新しいメロドラマ、全く新しい映画
その29 Perry Blackshear&"They Look Like People"/お前のことだけは、信じていたいんだ
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その54 Lukas Valenta Rinner &"Parabellum"/世界は終わるのか、終わらないのか
その55 Gust Van den Berghe &"Lucifer"/世界は丸い、ルシファーのアゴは長い
その56 Helena Třeštíková &"René"/俺は普通の人生なんか送れないって今更気付いたんだ
その57 マイケル・スピッチャ&"Yardbird"/オーストラリア、黄土と血潮と鉄の塊
その58 Annemarie Jacir &"Lamma shoftak"/パレスチナ、ぼくたちの故郷に帰りたい
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その123 Mélanie Delloye&"L'Homme de ma vie"/Alice Prefers to Run
その124 アマ・エスカランテ&「よそ者」/アメリカの周縁に生きる者たちについて
その125 Juliana Rojas&"Trabalhar Cansa"/ブラジル、経済発展は何を踏みにじっていったのか?
その126 Zuzanna Solakiewicz&"15 stron świata"/音は質量を持つ、あの聳え立つビルのように
その127 Gabriel Abrantes&"Dreams, Drones and Dactyls"/エロス+オバマ+アンコウ=映画の未来
その128 Kerékgyártó Yvonne&"Free Entry"/ハンガリー、彼女たちの友情は永遠!
その129 张撼依&"繁枝叶茂"/中国、命はめぐり魂はさまよう
その130 パスカル・ブルトン&"Suite Armoricaine"/失われ忘れ去られ、そして思い出される物たち
その131 リュウ・ジャイン&「オクスハイドⅡ」/家族みんなで餃子を作ろう(あるいはジャンヌ・ディエルマンの正統後継)