鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

ジョー・スワンバーグ&"Silver Bullets"/マンブルコアの重鎮、その全貌を追う!

さて、マンブルコアを語る上で最も重要な存在とは誰かと言えばジョー・スワンバーと言わざるを得ない。今の所、マンブルコア記事の全てに何かしらの形で彼の名前を記しているが、彼はそれほどマンブルコアというムーブメントにその根を下ろしている訳だ。友人を集め映画を製作し、映画祭では同じ志を持った映画作家たちとコネを作り、インディー映画界に広大なネットワークをも築く、それを一人で全て為し遂げ、スワンバーグは約15年のキャリアの間に絶大な影響力を持つまでになった。

そんな彼が今までに監督した映画作品は長編・短編・Webシリーズ合わせ優に30を越える。マジでドンだけだよって感じだが、彼の監督としてのキャリアは今の所3つのフェイズに分けられる。

第1期:デビュー〜グレタ・ガーウィグとの共同製作〜"Nights and Weekends"を最後にガーウィグとのタッグを解消
第2期:"Alexander the Last"からの再スタート〜1年で長編6本製作という尋常ではないバイタリティの発露
第3期:製作スピードの落ち着き〜「ドリンキング・バディーズ」ほか諸作におけるアナ・ケンドリックなどのスター起用の始まり〜「新しい夫婦の見つけ方」でメジャー進出〜そしてネトフリでドラマ製作へ……

と大まかにこの3期に分けられるのだが、スワンバーグの作品は多すぎ且つそれを順番に見ていくのはダルい(し、昔の作品は見れないのが多い)ので、取り敢えず見ていった順にレビューしていきパズルを組み立てるように彼の軌跡を眺めていきたいと思う。タイトルに全貌を追う!と書いているが、全貌を追う!その1である、嘘をついたけど読んで下さい(全部やったらその30くらい行くけど)ということでジョー・スワンバー特集、まず最初に紹介するのは第2期に作られた歪な心理サスペンス"Silver Bullets"を紹介していきたいと思う。

クレア(「ハウス・オブ・カード 野望の代償」ケイト・リン・シャイル)は新進気鋭の若手俳優だ。現在はインディー映画界で名を上げ始めた映画監督ベン(「サプライズ」タイ・ウェスト)の作品に携わっているが、その内容はクレア演じる狼人間が人々を襲うといった物だ。その一方で彼女の恋人でやはり映画監督をしているイーサン(スワンバーグが兼任)は苦汁に満ちた生活を送っている。鬱に陥り起死念慮に苛まれている彼は、小説家のデヴィッド・フォスター・ウォレスが自殺する前に撮影されたインタビューを繰り返し眺め続ける。そんな彼をクレアは心配そうに見守るが、2人の関係性には終わりが近づいているように思われる。

スワンバーグは親しい友人たちと共に低予算で映画を製作するというスタイルを貫いているが――「ハンナだけど、生きていく!」にそれが最も顕著だ――この"Silver Bullets"を観るとはある意味でその撮影現場を覗き見するのと同じかもしれない。ベンやクレアたちはオーディションの風景や特殊メイクの吟味、衣装合わせや宣材写真の撮影などを気の置けない仲間たちと行う姿が映し出される様は親密であり、この映像も仲間の1人が撮影しているメイキング映像なのでは?という錯覚に襲われるほどだ。

そして出演している俳優陣にも注目したい。新進気鋭の若手俳優クレアを演じる正に新進気鋭の若手俳優ケイト・リン・シャイルはもちろん、クレアの友人で同じく俳優のチャーリーを演じるのはシェイルやスワンバーグの友人で同じく俳優のエイミー・サイメッツ、ホラー映画監督のベンを演じるのは日本でも「インキーパーズ」サクラメントが観ることの出来るホラー映画監督タイ・ウェストであり、スワンバーグ作品常連のジェーン・アダムスやインディーホラー界の大重鎮ラリー・フェッセンデンも自らを投影したような役で出演を果たしていると、現実と虚構が奇妙に混ざりあう親密ながら不気味な入れ子構造が今作には広がっている。

そして何より主人公の映画監督イーサンを演じるのは他でもないスワンバーグ自身である訳だが、彼の発言の数々は今作をメタ的な映画へと仕立てあげる。映画は僕を幸せになんかしてくれない、作るにしろ観るにしろ何も変わらない。それでも映画を作り続けるのは他に何をすれば良いのか分からないからだ……この苦悩に満ちた独白はスワンバーグ自身に引き寄せて考えずには入られない。先述したがこの"Silver Bullets"を製作した2011年、スワンバーグは"The Zone" "Caitlin Plays Herself" "Art History" "Autoerotic" "Uncle Kent"と本作含め計6本の長編を監督している。そのバイタリティや凄まじいものがあるが少し異常な感じすらある。この彼の危うさが"Silver Bullets"にある種のリアリティを与えているのもまた事実だろうが。

そんなメタ的な物語の合間にふと挿入されるのが、クレアとイーサンの崩れ行く関係性を描き出す神経症的なシークエンスだ。「全てに不満を抱えているんだ、特に映画には」とイーサンが呟くと「頭に浮かんだ最高のイメージを現実には再現できないから?」とクレアは返事をする。そしてイーサンの人生は頭の中のイメージからどんどん逸脱していく。撮影を経てベンと親しくなるクレアに猜疑心を抱く彼は、意趣返しとして自分の監督兼主演映画に彼女の友人であるチャーリーを起用する、しかも自分の恋人役として。クレアはイーサンを問い詰めるが彼は何も喋らずにただただ虚空を眺める、音もなく二者間の緊張感は高まっていく。

"Silver Bullets"はこうして愛についての捻くれて歪な寓話としての様相を呈することとなるが、この異常な製作スピードと作品の内容を見て私が思うのは、ジョー・スワンバーグは米インディー映画界におけるR・W・ファスビンダーになりたいのではないかということだ。どっちもいつも同じメンバー使って捻り曲がった愛についての物語を作りまくっている訳で、何だか道行きが似ている気がする。"Silver Bullets"も憎しみすれすれの愛がいかにして歪さを増し、そして炸裂を遂げるかを描き出した作品であったりする。勿論ファスビンダーは元よりスワンバーグですら膨大なフィルモグラフィーのほんの一端しか観ていない故に断言は出来ないが、しかし今後彼の作品を語るにあたってスワンバーグがどういう立場にありどういう映画を作ってきたのかを解き明かしていきたいと思っている。

結局マンブルコアって何だったんだ?
その1 アーロン・カッツ&"Dance Party, USA"/レイプカルチャー、USA
その2 ライ・ルッソ=ヤング&"You Wont Miss Me"/23歳の記憶は万華鏡のように
その3 アーロン・カッツ&"Quiet City"/つかの間、オレンジ色のときめきを

私の好きな監督・俳優シリーズ
その51 Shih-Ching Tsou&"Take Out"/故郷より遠く離れて自転車を漕ぎ
その52 Constanza Fernández &"Mapa para Conversar"/チリ、船の上には3人の女
その53 Hugo Vieira da Silva &"Body Rice"/ポルトガル、灰の紫、精神の荒野
その54 Lukas Valenta Rinner &"Parabellum"/世界は終わるのか、終わらないのか
その55 Gust Van den Berghe &"Lucifer"/世界は丸い、ルシファーのアゴは長い
その56 Helena Třeštíková &"René"/俺は普通の人生なんか送れないって今更気付いたんだ
その57 マイケル・スピッチャ&"Yardbird"/オーストラリア、黄土と血潮と鉄の塊
その58 Annemarie Jacir &"Lamma shoftak"/パレスチナ、ぼくたちの故郷に帰りたい
その59 アンヌ・エモン&「ある夜のセックスのこと」/私の言葉を聞いてくれる人がいる
その60 Julia Solomonoff &"El último verano de la Boyita"/わたしのからだ、あなたのからだ
その61 ヴァレリー・マサディアン&"Nana"/このおうちにはナナとおもちゃとウサギだけ
その62 Carolina Rivas &"El color de los olivos"/壁が投げかけるのは色濃き影
その63 ホベルト・ベリネール&「ニーゼ」/声なき叫びを聞くために
その64 アティナ・レイチェル・ツァンガリ&"Attenberg"/あなたの死を通じて、わたしの生を知る
その65 ヴェイコ・オウンプー&「ルクリ」/神よ、いつになれば全ては終るのですか?
その66 Valerie Gudenus&"I am Jesus"/「私がイエス「いや、私こそがイエ「イエスはこの私だ」」」
その67 Matias Meyer &"Los últimos cristeros"/メキシコ、キリストは我らと共に在り
その68 Boris Despodov& "Corridor #8"/見えない道路に沿って、バルカン半島を行く
その69 Urszula Antoniak& "Code Blue"/オランダ、カーテン越しの密やかな欲動
その70 Rebecca Cremona& "Simshar"/マルタ、海は蒼くも容赦なく
その71 ペリン・エスメル&"Gözetleme Kulesi"/トルコの山々に深き孤独が2つ
その72 Afia Nathaniel &"Dukhtar"/パキスタン、娘という名の呪いと希望
その73 Margot Benacerraf &"Araya"/ベネズエラ、忘れ去られる筈だった塩の都
その74 Maxime Giroux &"Felix & Meira"/ユダヤ教という息苦しさの中で
その75 Marianne Pistone& "Mouton"/だけど、みんな生きていかなくちゃいけない
その76 フェリペ・ゲレロ& "Corta"/コロンビア、サトウキビ畑を見据えながら
その77 Kenyeres Bálint&"Before Dawn"/ハンガリー、長回しから見る暴力・飛翔・移民
その78 ミン・バハドゥル・バム&「黒い雌鶏」/ネパール、ぼくたちの名前は希望って意味なんだ
その79 Jonas Carpignano&"Meditrranea"/この世界で移民として生きるということ
その80 Laura Amelia Guzmán&"Dólares de arena"/ドミニカ、あなたは私の輝きだったから
その81 彭三源&"失孤"/見捨てられたなんて、言わないでくれ
その82 アナ・ミュイラート&"Que Horas Ela Volta?"/ブラジル、母と娘と大きなプールと
その83 アイダ・ベジッチ&"Djeca"/内戦の深き傷、イスラムの静かな誇り
その84 Nikola Ležaić&"Tilva Roš"/セルビア、若さって中途半端だ
その85 Hari Sama & "El Sueño de Lu"/ママはずっと、あなたのママでいるから
その86 チャイタニヤ・タームハーネー&「裁き」/裁判は続く、そして日常も続く
その87 マヤ・ミロス&「思春期」/Girl in The Hell
その88 Kivu Ruhorahoza & "Matière Grise"/ルワンダ、ゴキブリたちと虐殺の記憶
その89 ソフィー・ショウケンス&「Unbalance-アンバランス-」/ベルギー、心の奥に眠る父
その90 Pia Marais & "Die Unerzogenen"/パパもクソ、ママもクソ、マジで人生全部クソ
その91 Amelia Umuhire & "Polyglot"/ベルリン、それぞれの声が響く場所
その92 Zeresenay Mehari & "Difret"/エチオピア、私は自分の足で歩いていきたい
その93 Mariana Rondón & "Pelo Malo"/ぼくのクセっ毛、男らしくないから嫌いだ
その94 Yulene Olaizola & "Paraísos Artificiales"/引き伸ばされた時間は永遠の如く
その95 ジョエル・エドガートン&"The Gift"/お前が過去を忘れても、過去はお前を忘れはしない
その96 Corneliu Porumboiu & "A fost sau n-a fost?"/1989年12月22日、あなたは何をしていた?
その97 アンジェリーナ・マッカローネ&"The Look"/ランプリング on ランプリング
その98 Anna Melikyan & "Rusalka"/人生、おとぎ話みたいには行かない
その99 Ignas Jonynas & "Lošėjas"/リトアニア、金は命よりも重い
その100 Radu Jude & "Aferim!"/ルーマニア、差別の歴史をめぐる旅
その101 パヴレ・ブコビッチ&「インモラル・ガール 秘密と嘘」/SNSの時代に憑りつく幽霊について
その102 Eva Neymann & "Pesn Pesney"/初恋は夢想の緑に取り残されて
その103 Mira Fornay & "Môj pes Killer"/スロバキア、スキンヘッドに差別の刻印
その104 クリスティナ・グロゼヴァ&「ザ・レッスン 女教師の返済」/おかねがないおかねがないおかねがないおかねがない……
その105 Corneliu Porumboiu & "Când se lasă seara peste Bucureşti sau Metabolism"/監督と女優、虚構と真実
その106 Corneliu Porumboiu &"Comoara"/ルーマニア、お宝探して掘れよ掘れ掘れ
その107 ディアステム&「フレンチ・ブラッド」/フランスは我らがフランス人のもの
その108 Andrei Ujică&"Autobiografia lui Nicolae Ceausescu"/チャウシェスクとは一体何者だったのか?
その109 Sydney Freeland&"Her Story"/女性であること、トランスジェンダーであること
その110 Birgitte Stærmose&"Værelse 304"/交錯する人生、凍てついた孤独
その111 アンネ・セウィツキー&「妹の体温」/私を受け入れて、私を愛して
その112 Mads Matthiesen&"The Model"/モデル残酷物語 in パリ
その113 Leyla Bouzid&"À peine j'ouvre les yeux"/チュニジア、彼女の歌声はアラブの春へと
その114 ヨーナス・セルベリ=アウグツセーン&"Sophelikoptern"/おばあちゃんに時計を届けるまでの1000キロくらい
その115 Aik Karapetian&"The Man in the Orange Jacket"/ラトビア、オレンジ色の階級闘争
その116 Antoine Cuypers&"Préjudice"/そして最後には生の苦しみだけが残る
その117 Benjamin Crotty&"Fort Buchnan"/全く新しいメロドラマ、全く新しい映画
その118 アランテ・カヴァイテ&"The Summer of Sangaile"/もっと高く、そこに本当の私がいるから
その119 ニコラス・ペレダ&"Juntos"/この人生を変えてくれる"何か"を待ち続けて
その120 サシャ・ポラック&"Zurich"/人生は虚しく、虚しく、虚しく
その121 Benjamín Naishtat&"Historia del Miedo"/アルゼンチン、世界に連なる恐怖の系譜
その122 Léa Forest&"Pour faire la guerre"/いつか幼かった時代に別れを告げて
その123 Mélanie Delloye&"L'Homme de ma vie"/Alice Prefers to Run
その124 アマ・エスカランテ&「よそ者」/アメリカの周縁に生きる者たちについて
その125 Juliana Rojas&"Trabalhar Cansa"/ブラジル、経済発展は何を踏みにじっていったのか?
その126 Zuzanna Solakiewicz&"15 stron świata"/音は質量を持つ、あの聳え立つビルのように
その127 Gabriel Abrantes&"Dreams, Drones and Dactyls"/エロス+オバマ+アンコウ=映画の未来
その128 Kerékgyártó Yvonne&"Free Entry"/ハンガリー、彼女たちの友情は永遠!
その129 张撼依&"繁枝叶茂"/中国、命はめぐり魂はさまよう
その130 パスカル・ブルトン&"Suite Armoricaine"/失われ忘れ去られ、そして思い出される物たち
その131 リュウ・ジャイン&「オクスハイドⅡ」/家族みんなで餃子を作ろう(あるいはジャンヌ・ディエルマンの正統後継)
その132 Salomé Lamas&"Eldorado XXI"/ペルー、黄金郷の光と闇
その133 ロベルト・ミネルヴィーニ&"The Passage"/テキサスに生き、テキサスを旅する
その134 Marte Vold&"Totem"/ノルウェー、ある結婚の風景
その135 アリス・ウィンクール&「博士と私の危険な関係」/ヒステリー、大いなる悪意の誕生
その136 Luis López Carrasco&"El Futuro"/スペイン、未来は輝きに満ちている
その137 Ion De Sosa&"Sueñan los androides"/電気羊はスペインの夢を見るか?
その138 ケリー・ライヒャルト&"River of Grass"/あの高速道路は何処まで続いているのだろう?
その139 ケリー・ライヒャルト&"Ode" "Travis"/2つの失われた愛について
その140 ケリー・ライヒャルト&"Old Joy"/哀しみは擦り切れたかつての喜び
その141 ケリー・ライヒャルト&「ウェンディ&ルーシー」/私の居場所はどこにあるのだろう
その142 Elina Psykou&"The Eternal Return of Antonis Paraskevas"/ギリシャよ、過去の名声にすがるハゲかけのオッサンよ
その143 ケリー・ライヒャルト&"Meek's Cutoff"/果てなき荒野に彼女の声が響く
その144 ケリー・ライヒャルト&「ナイト・スリーパーズ ダム爆破作戦」/夜、妄執は静かに潜航する