鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

ジョー・スワンバーグ&"Private Settings"/変態ボーイ meets ド変態ガール

ジョー・スワンバーグ&"Kissing on the Mouth"/私たちの若さはどこへ行くのだろう
ジョー・スワンバーグ&"Nights and Weekends"/さよなら、さよならグレタ・ガーウィグ
ジョー・スワンバーグ&"Alexander the Last"/誰かと生きるのは辛いけど、でも……
ジョー・スワンバーグ&"Silver Bullets"/マンブルコアの重鎮、その全貌を追う!
ジョー・スワンバーグ&"The Zone"/マンブルコア界の変態王頂上決戦
ジョー・スワンバーグ&"Marriage Material"/誰かと共に生きていくことのままならさ
ジョー・スワンバーグの作品についてはこちら参照。

映画を観るということは一種の覗き見的な行為であるとしたのはアルフレッド・ヒッチコック「サイコ」だ。映画を観るのはノーマン・ベイツが覗き穴から女性のシャワーを見るのと同じ。全く無防備な人々の姿を安全な場所から覗き見て窃視的な快楽を得る、それこそ映画の醍醐味なのである。という訳で覗き魔を描いた映画を多く作られてきたが、マンブルコアの重鎮たるジョー・スワンバーもまたそんな映画を作っている、それこそが2012年製作の中編"Private Settings"だ。

オレンジ色の街灯に晒されながらフラフラと道を行く女性の姿、カメラはそれを秘かに捉えていく。気づかれないよう息を潜めながら彼女を追跡するカメラ。ある時女性は服をたくしあげ少し道に屈んだかと思うと、唐突にオシッコを始める。カメラはグラグラと揺れるがそれは窃視の悦びの打ち震えるとそんな印象を与える。そして彼女は家路につくのだが、こちらを誘うように開いた玄関ドアの隙間からカメラは女性を見据え、彼女が眠りにつくと家へと侵入し、その無防備な寝顔を撮影し、そして……

"Private Settings"の主人公は名もない1人の男(Frank V. Ross)、修理工として大小様々なカメラに取り囲まれる日々を送っているが、彼には誰にも明かせない秘密がある。昼休み彼が公園に行くと、芝生の上で裸になり日光浴を楽しむ女性の姿がある。男は弁当の入った袋を取り出すがそこに入っているのはカメラだ。家に帰ると彼はパソコンに撮影した映像を映し出し、彼女が芝生から立ち上がり乳房が見えた瞬間を何度も繰り返す、何度も何度も何度も何度も……

2008年の"Nights and Weekends"を最後にスワンバーグ監督はグレタ・ガーウィグとのコンビを解消し、監督として第2期に入った訳だが、どういう訳かこの時期は捻れた性愛を描き出す作品を多く作り出している。勿論デビュー作の"Kissing on the Mouth"から性描写は明け透けで、自分のオナニー&射精シーン(スワンバーグのことだから"金ないし実際自分で射精した方が早いよな!"って感じでマジで射精している気がする)があったくらいだが物語の主題ではなかった。それが"Autoerotic"では"人類みな変態!"と変態セックスを繰り広げる4組のカップルの姿を描いたり、"The Zone"はスワッピングを軸とした異様な人間関係を描いた作品だったりと、一時期異常性愛路線を突き進んでいたのである。窃視症を患った変態男の日常を追う"Private Settings"のその潮流にある1本という訳だ。

ある日男はカフェに寄るのだが、そこの店員(Meagan Mercier)がダルダルの服を着ていることに気がつく。彼はわざと彼女に文句をつけ何度もテーブルに呼びつけるのだが、その度に服の隙間から胸元どころか乳房が見えるのに彼は興奮を抑えきれない。そしてとうとう男は彼女を家までストーキングし冒頭シーンへと繋がっていく訳だが、部屋に侵入した彼はひょんなことから女に見つかり、逃走しようとした所でスッ転び気絶するというヘマを犯す。それが悪夢の幕開けとなるとは彼も予想すらしていなかった。

チンピラが一般人だと思って舐めてかかったら、実は彼は元特殊部隊の一員で逆にボコられるとそんな"舐めてた相手がキリングマシーン"映画を何度か観たことがある筈だ。今作も変化球気味であるがその系譜にある作品と言っていいかもしれない。だがこの場合はキリングマシーンではない、"変態の餌食となった相手が、実はその変態を凌駕するド変態だった!"という訳だ。女は自分の盗撮映像を見ながら「うわヤダ、私の鼻デカすぎてヤバいんですけど」と斜め上の発言をかましながら、男を自分の変態活動に巻き込もうとする。何でも自分だけのオリジナル変態映画を作りたいらしく、撮影を彼に任せたいというのだ。取り敢えず服を脱いで全裸になった彼女は鏡の前で乳房を触り乳ガンの自己検査を始め、それを男に撮影させる。当然そんなの序ノ口で、ド変態の要求はどんどんエスカレートしていく。

主人公の変態を演じるのはFrank V. Ross、以前から何度もスワンバーグ作品には関わっており、監督として何本もの作品を手掛けるなどマンブルコアの一員として結構有名だ。本作では挙動不審の格下変態を熱演している。そしてド変態役はMeagan Mercier、彼女も先述の"Autoerotic"からスワンバーグ作品に関わっているのだが、2015年にはスワンバーグの妻クリスと共に彼女の第3長編"Unexpected"(紹介記事読んでね!)の脚本を共同執筆するなどしている。つまり今作においてスワンバーグは自身の親友と妻の親友を起用して、アホみたいな異常性愛映画を1本こさえたという訳だ。このフットワークの軽さには惚れ惚れするのだが、実際この異常な中編はキチンと面白いのだから困る。男は自身の変態性が相手の優位に立ち暴力を振りかざしたいというチンケな欲求が源であると否応なく知る羽目になり、真の変態によって鉄槌を下されることとなる。そして訪れる終局は笑っちゃうほど酷いもので、スワンバーグ作品でも随一の滑稽さだ。変態の世界も弱肉強食、変態やああ変態や変態や、変態のあはれというものでございます。


結局マンブルコアって何だったんだ?
その1 アーロン・カッツ&"Dance Party, USA"/レイプカルチャー、USA
その2 ライ・ルッソ=ヤング&"You Wont Miss Me"/23歳の記憶は万華鏡のように
その3 アーロン・カッツ&"Quiet City"/つかの間、オレンジ色のときめきを
その4 ジョー・スワンバーグ&"Silver Bullets"/マンブルコアの重鎮、その全貌を追う!
その5 ケイト・リン・シャイル&"Empire Builder"/米インディー界、後ろ向きの女王
その6 ジョー・スワンバーグ&"Kissing on the Mouth"/私たちの若さはどこへ行くのだろう
その7 ジョー・スワンバーグ&"Marriage Material"/誰かと共に生きていくことのままならさ
その8 ジョー・スワンバーグ&"Nights and Weekends"/さよなら、さよならグレタ・ガーウィグ
その9 ジョー・スワンバーグ&"Alexander the Last"/誰かと生きるのは辛いけど、でも……
その10 ジョー・スワンバーグ&"The Zone"/マンブルコア界の変態王頂上決戦

私の好きな監督・俳優シリーズ
その51 Shih-Ching Tsou&"Take Out"/故郷より遠く離れて自転車を漕ぎ
その52 Constanza Fernández &"Mapa para Conversar"/チリ、船の上には3人の女
その53 Hugo Vieira da Silva &"Body Rice"/ポルトガル、灰の紫、精神の荒野
その54 Lukas Valenta Rinner &"Parabellum"/世界は終わるのか、終わらないのか
その55 Gust Van den Berghe &"Lucifer"/世界は丸い、ルシファーのアゴは長い
その56 Helena Třeštíková &"René"/俺は普通の人生なんか送れないって今更気付いたんだ
その57 マイケル・スピッチャ&"Yardbird"/オーストラリア、黄土と血潮と鉄の塊
その58 Annemarie Jacir &"Lamma shoftak"/パレスチナ、ぼくたちの故郷に帰りたい
その59 アンヌ・エモン&「ある夜のセックスのこと」/私の言葉を聞いてくれる人がいる
その60 Julia Solomonoff &"El último verano de la Boyita"/わたしのからだ、あなたのからだ
その61 ヴァレリー・マサディアン&"Nana"/このおうちにはナナとおもちゃとウサギだけ
その62 Carolina Rivas &"El color de los olivos"/壁が投げかけるのは色濃き影
その63 ホベルト・ベリネール&「ニーゼ」/声なき叫びを聞くために
その64 アティナ・レイチェル・ツァンガリ&"Attenberg"/あなたの死を通じて、わたしの生を知る
その65 ヴェイコ・オウンプー&「ルクリ」/神よ、いつになれば全ては終るのですか?
その66 Valerie Gudenus&"I am Jesus"/「私がイエス「いや、私こそがイエ「イエスはこの私だ」」」
その67 Matias Meyer &"Los últimos cristeros"/メキシコ、キリストは我らと共に在り
その68 Boris Despodov& "Corridor #8"/見えない道路に沿って、バルカン半島を行く
その69 Urszula Antoniak& "Code Blue"/オランダ、カーテン越しの密やかな欲動
その70 Rebecca Cremona& "Simshar"/マルタ、海は蒼くも容赦なく
その71 ペリン・エスメル&"Gözetleme Kulesi"/トルコの山々に深き孤独が2つ
その72 Afia Nathaniel &"Dukhtar"/パキスタン、娘という名の呪いと希望
その73 Margot Benacerraf &"Araya"/ベネズエラ、忘れ去られる筈だった塩の都
その74 Maxime Giroux &"Felix & Meira"/ユダヤ教という息苦しさの中で
その75 Marianne Pistone& "Mouton"/だけど、みんな生きていかなくちゃいけない
その76 フェリペ・ゲレロ& "Corta"/コロンビア、サトウキビ畑を見据えながら
その77 Kenyeres Bálint&"Before Dawn"/ハンガリー、長回しから見る暴力・飛翔・移民
その78 ミン・バハドゥル・バム&「黒い雌鶏」/ネパール、ぼくたちの名前は希望って意味なんだ
その79 Jonas Carpignano&"Meditrranea"/この世界で移民として生きるということ
その80 Laura Amelia Guzmán&"Dólares de arena"/ドミニカ、あなたは私の輝きだったから
その81 彭三源&"失孤"/見捨てられたなんて、言わないでくれ
その82 アナ・ミュイラート&"Que Horas Ela Volta?"/ブラジル、母と娘と大きなプールと
その83 アイダ・ベジッチ&"Djeca"/内戦の深き傷、イスラムの静かな誇り
その84 Nikola Ležaić&"Tilva Roš"/セルビア、若さって中途半端だ
その85 Hari Sama & "El Sueño de Lu"/ママはずっと、あなたのママでいるから
その86 チャイタニヤ・タームハーネー&「裁き」/裁判は続く、そして日常も続く
その87 マヤ・ミロス&「思春期」/Girl in The Hell
その88 Kivu Ruhorahoza & "Matière Grise"/ルワンダ、ゴキブリたちと虐殺の記憶
その89 ソフィー・ショウケンス&「Unbalance-アンバランス-」/ベルギー、心の奥に眠る父
その90 Pia Marais & "Die Unerzogenen"/パパもクソ、ママもクソ、マジで人生全部クソ
その91 Amelia Umuhire & "Polyglot"/ベルリン、それぞれの声が響く場所
その92 Zeresenay Mehari & "Difret"/エチオピア、私は自分の足で歩いていきたい
その93 Mariana Rondón & "Pelo Malo"/ぼくのクセっ毛、男らしくないから嫌いだ
その94 Yulene Olaizola & "Paraísos Artificiales"/引き伸ばされた時間は永遠の如く
その95 ジョエル・エドガートン&"The Gift"/お前が過去を忘れても、過去はお前を忘れはしない
その96 Corneliu Porumboiu & "A fost sau n-a fost?"/1989年12月22日、あなたは何をしていた?
その97 アンジェリーナ・マッカローネ&"The Look"/ランプリング on ランプリング
その98 Anna Melikyan & "Rusalka"/人生、おとぎ話みたいには行かない
その99 Ignas Jonynas & "Lošėjas"/リトアニア、金は命よりも重い
その100 Radu Jude & "Aferim!"/ルーマニア、差別の歴史をめぐる旅
その101 パヴレ・ブコビッチ&「インモラル・ガール 秘密と嘘」/SNSの時代に憑りつく幽霊について
その102 Eva Neymann & "Pesn Pesney"/初恋は夢想の緑に取り残されて
その103 Mira Fornay & "Môj pes Killer"/スロバキア、スキンヘッドに差別の刻印
その104 クリスティナ・グロゼヴァ&「ザ・レッスン 女教師の返済」/おかねがないおかねがないおかねがないおかねがない……
その105 Corneliu Porumboiu & "Când se lasă seara peste Bucureşti sau Metabolism"/監督と女優、虚構と真実
その106 Corneliu Porumboiu &"Comoara"/ルーマニア、お宝探して掘れよ掘れ掘れ
その107 ディアステム&「フレンチ・ブラッド」/フランスは我らがフランス人のもの
その108 Andrei Ujică&"Autobiografia lui Nicolae Ceausescu"/チャウシェスクとは一体何者だったのか?
その109 Sydney Freeland&"Her Story"/女性であること、トランスジェンダーであること
その110 Birgitte Stærmose&"Værelse 304"/交錯する人生、凍てついた孤独
その111 アンネ・セウィツキー&「妹の体温」/私を受け入れて、私を愛して
その112 Mads Matthiesen&"The Model"/モデル残酷物語 in パリ
その113 Leyla Bouzid&"À peine j'ouvre les yeux"/チュニジア、彼女の歌声はアラブの春へと
その114 ヨーナス・セルベリ=アウグツセーン&"Sophelikoptern"/おばあちゃんに時計を届けるまでの1000キロくらい
その115 Aik Karapetian&"The Man in the Orange Jacket"/ラトビア、オレンジ色の階級闘争
その116 Antoine Cuypers&"Préjudice"/そして最後には生の苦しみだけが残る
その117 Benjamin Crotty&"Fort Buchnan"/全く新しいメロドラマ、全く新しい映画
その118 アランテ・カヴァイテ&"The Summer of Sangaile"/もっと高く、そこに本当の私がいるから
その119 ニコラス・ペレダ&"Juntos"/この人生を変えてくれる"何か"を待ち続けて
その120 サシャ・ポラック&"Zurich"/人生は虚しく、虚しく、虚しく
その121 Benjamín Naishtat&"Historia del Miedo"/アルゼンチン、世界に連なる恐怖の系譜
その122 Léa Forest&"Pour faire la guerre"/いつか幼かった時代に別れを告げて
その123 Mélanie Delloye&"L'Homme de ma vie"/Alice Prefers to Run
その124 アマ・エスカランテ&「よそ者」/アメリカの周縁に生きる者たちについて
その125 Juliana Rojas&"Trabalhar Cansa"/ブラジル、経済発展は何を踏みにじっていったのか?
その126 Zuzanna Solakiewicz&"15 stron świata"/音は質量を持つ、あの聳え立つビルのように
その127 Gabriel Abrantes&"Dreams, Drones and Dactyls"/エロス+オバマ+アンコウ=映画の未来
その128 Kerékgyártó Yvonne&"Free Entry"/ハンガリー、彼女たちの友情は永遠!
その129 张撼依&"繁枝叶茂"/中国、命はめぐり魂はさまよう
その130 パスカル・ブルトン&"Suite Armoricaine"/失われ忘れ去られ、そして思い出される物たち
その131 リュウ・ジャイン&「オクスハイドⅡ」/家族みんなで餃子を作ろう(あるいはジャンヌ・ディエルマンの正統後継)
その132 Salomé Lamas&"Eldorado XXI"/ペルー、黄金郷の光と闇
その133 ロベルト・ミネルヴィーニ&"The Passage"/テキサスに生き、テキサスを旅する
その134 Marte Vold&"Totem"/ノルウェー、ある結婚の風景
その135 アリス・ウィンクール&「博士と私の危険な関係」/ヒステリー、大いなる悪意の誕生
その136 Luis López Carrasco&"El Futuro"/スペイン、未来は輝きに満ちている
その137 Ion De Sosa&"Sueñan los androides"/電気羊はスペインの夢を見るか?
その138 ケリー・ライヒャルト&"River of Grass"/あの高速道路は何処まで続いているのだろう?
その139 ケリー・ライヒャルト&"Ode" "Travis"/2つの失われた愛について
その140 ケリー・ライヒャルト&"Old Joy"/哀しみは擦り切れたかつての喜び
その141 ケリー・ライヒャルト&「ウェンディ&ルーシー」/私の居場所はどこにあるのだろう
その142 Elina Psykou&"The Eternal Return of Antonis Paraskevas"/ギリシャよ、過去の名声にすがるハゲかけのオッサンよ
その143 ケリー・ライヒャルト&"Meek's Cutoff"/果てなき荒野に彼女の声が響く
その144 ケリー・ライヒャルト&「ナイト・スリーパーズ ダム爆破作戦」/夜、妄執は静かに潜航する
その145 Sergio Oksman&"O Futebol"/ブラジル、父と息子とワールドカップと