鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Khalik Allah&"Field Niggas"/"Black Lives Matter"という叫び

"Black Lives Matter"という言葉を知っているだろうか。"黒人の命だって大切だ!"……この言葉は2012年、フロリダ州で起こった1人の黒人青年の死に端を発している。10代のトレイヴォン・マーティンが自称自警団の男性に射殺されるという事件が起こった。これをきっかけとして黒人差別に対する大規模デモが各地で行われるようになる。だがこの言葉=運動が積極的に叫ばれるようになったのは2014年のことだ。ニューヨーク市、そしてミズーリ州ファーガソンで白人警察官によって黒人男性が殺害されるという痛ましい事件が立て続けに起こったのである。これによって警察官の過度な権力行使や人種差別の実態を浮き彫りになり、抗議運動は全米を股にかけた社会運動へと発展していった。そしてこの"Black Lives Matter"に対する映画界からの力強い返答が今回紹介する作品"Field Niggas"だ。

ギョロついた瞳を持つ青年の顔、不敵にガムを噛み続ける若い女性の顔、黒々とした髭を生やし胡乱な雰囲気を湛える男の顔、黒とピンクの皮膚が混ざりあう中年男性の顔、ベビーカーの傍らで無邪気な笑う少女の顔、深い闇とギラつく光が拮抗しあう街並み、雑踏には様々な人々の顔が浮かび上がる。そのどれもが誰に似る所もなく、それぞれに力強く私たちを見つめる。

"Field Niggas"の舞台はニューヨーク・シティのハーレム、レキシントン通り125丁目の街角だ。深夜、ネオンが灯るこの地には老若男女問わず黒人住民たちが集まり、夜を過ごしている。今作はそんな彼らの姿を捉える作品だが、監督Khalik Allahの紡ぎだすヴィジョンは他の記録映像とは一線を画している。全編を通じて彼が重視するのは、現れては消える人々の顔だ。目鼻、唇、髪の毛、皺……彼らが生きてきた証、人生の軌跡としての顔を濃密な強度を以て捉えていく。そして編集によって、その顔の群れは私たちが瞬きをする度に移り変わり、無数の生の連なりとなっていく。

その顔に重なるのは人々のモノローグだ。彼らは自分たちを取り巻く環境について、自分たちを規定する固定概念について、自分たちを抑圧する暴力に対して、無限に湧き出る言葉によってNOを叩きつけていく。中には自身で作ったのだろうラップによって怒りを響かせていくのだ。だが映像には言葉を語る人物の顔が映し出される訳ではない。1人の言葉が長々と続きながら、その間で幾つもの他人の顔が編集で繋ぎ止められる。それは作品を幻惑的な感触を宿しながら、ある瞬間に語られる"私たちは1つになる"という言葉によって力をも宿すのだ。

今作の監督Khalik Allahは元々写真家として有名な人物だ。1985年にロング・アイランドに生まれた彼は、アンリ・カルティエブレッソンロバート・フランクウィリアム・クラインなどに影響を受けながら、20代で写真家としてデビューを果たす。最初はロウワー・イースト・サイドなどで撮影を行っていたが、ある理由からハーレムへと至り、この"Field Niggas"を完成させることとなる。

そのきっかけはAllahの少年時代に遡る。彼は13歳の時に学校を辞め、"Five Percent Nation"という信仰共同体に入信する。この共同体は黒人こそが人類の起源であり、唯一神であるアッラーの教えを伝えることを行動理念とする宗教団体だ。Allahはそこで勉学に励みながら布教活動を行っていたのだが、その時に初めてハーレムの地に足を踏み入れたのである。最初の印象は"クソったれ、ここの奴らはゾンビみたいだ。こっから出てかないと"という物であったが、写真家になるに辺り自分だけのスタイルを獲得するため、青年期に衝撃を受けたこの地を再訪したのだ。

そんな監督の、光と闇を捉える感覚の鋭さは抜群だ。常にスローモーションで捉えられていく風景、人々の顔の周りでは夜の闇が肉体を静かに躍動させている。しかしそこには眠らない街が抱える光もまた輝きを放っている。この2つの相反する存在が抜き差しならぬ関係を結ぶ姿をAllahは躊躇いなく捉えていく。しかしその緊張感が最高潮に達するのはある瞬間、人々が思い思いに煙草やマリファナを吸う瞬間にある。彼らは頗る旨そうに煙を唇から吐き出していくが、光の加護を承けた白煙が融通無下に闇を漂う時の美しさは言葉など寄せ付けない。

そして彼が切り取る、夜のハーレムに広がる風景もまた印象的だ。下ろされたシャッターに描かれる奔放なグラフィティの数々、道のあちらこちらに落ちるゴミの散らばり様、街灯の白い光にマクドナルドの赤色と黄色の交わるネオン、そして深い黒に結い込まれた夏の熱気は雑踏の猥雑な匂いと共に観る者の感覚を刺激する。そうして私たちは、例えこの場所に行ったことがなかったとしても、体全体がこの街に投げ出され、人々が吸う紫煙が自分の肺に溜まっていくのを感じるだろう。

本作はその雑踏に、今黒人が置かれる苦境を炙り出していく。劇中には住民たちに混じって白人警官の姿が多く映し出される。こちらに視線を向ける者もいれば、事件に対処しようとする者もいる。その時耳に響くのは女性の悲鳴に怒号、不穏な雰囲気が醸造される中で監督はあるフッテージ映像を挿入する。警官によって組み敷かれた大柄な黒人男性を映した画質の荒いビデオ映像、彼の名前はエリック・ガーナー、無実の罪で警察官によって捕縛され、そのまま窒息死させられた人物だ。彼は成す術もないまま"息が出来ない!"と叫びながら死んでいくしかなかった。この事件のように警察官によって罪のない人々が殺害される事件は頻発し、それが"Black Lives Matter"という運動へと繋がっていくが、この運動に共鳴する激しい怒りが今作には刻印されているのだ。

全編に渡って人々のモノローグは続いていくが、その最中にゴスペルの響きが耳に届くとそんな瞬間がある。最初は小さなものだ、しかし場面場面で響くごとにその声は大きさを増していく。その中でモノローグは雑踏の騒音やゴスペルと溶け合い、言葉から高らかな響きへと姿を変える。"私たちはここで生きている" "私たちはここで生きているんだ" "私たちは生きている!" "私たちは生きているんだ!"……

そして監督は今作の印象的なタイトル"Field Niggas"についてはこう語っている。"美術界・映画界に飛び込んでいくにあたって、この言葉が受け入れられるとは少しも思っていませんでした。この映画自体、最初はYoutubeにアップしたんですが、それも"自分のやりたいようにやってやる"という意気からです。過去、写真や映画のコンペに何度も応募しましたがショートリストにすら入ったことがなかった。ですから"配給なんて知らねえよ、これが受け入れられるかなんて知ったこっちゃねえ"とこの題名を選んだんです(中略)この"Field Niggas"という言葉はマルコムXの"草の根へのメッセージ"に由来する物です。反逆の奴隷たち、つまり反乱を指揮し、奴隷主を倒した奴隷たちを意味する言葉なんです。私はこういった奴隷たちについて学ぶ時、彼らにはいつも感銘を受けてきました。私がハーレムで映している人々は現代の"Field Niggas"なんです。この言葉を使うと、観客は映画に対し興味と拒絶の感覚を抱くでしょう。幾人かはこの題名だからこそ映画を観にくる、作品がこれを名づけられるに相応しいかを確かめるためにです。

ですが私にとってこの言葉は親愛の言葉でもあります。私は自分自身を"Field Niggas"であると思ってるんです。ナット・ターナーデンマーク・ヴェジ(アメリカの奴隷制に反旗を翻した活動家)やトゥーサン・ルーヴェルチュール(ハイチの独立運動指導者)、そしてフレデリック・ダグラス(アメリカの奴隷制廃止運動家)など、こんな状況もうたくさんだ!と逃亡を企て反乱を指揮した奴隷たちは数多くいます。私はこの題名によって最初からブラックリスト入りを覚悟しながら彼らの勝負を引き継いだ、これが私なりの反乱だという訳です"*1

そして"Field Niggas"によって反逆の狼煙を上げたAllahに共鳴した人物こそがあのビヨンセだった。彼女は先月話題になった映像作品"Lemonade"の撮影監督の1人としてAllahを抜擢したのである。女性であること、黒人であること、それに対する社会的な抑圧を跳ね退けようとする今作やビヨンセとAllahの心は正に重なりあっているのだ。この作品を経て彼の反逆はどこへ向かうのか。今後のAllah監督に超期待である。

参考文献
https://vimeo.com/user15267558(監督公式vimeo)
http://khalikallah.tumblr.com/(監督公式サイト)
http://gawker.com/the-pain-and-beauty-of-field-niggas-an-interview-with-1737357846(インタビューその1)
http://filmmakermagazine.com/96015-a-documentarian-needs-to-be-disarming-khalik-allah-on-field-niggas/#.V59hffmLTIU(インタビューその2)

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