鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Zachary Treitz&"Men Go to Battle"/虚無はどこへも行き着くことはない

さて、このブログでは"ポスト・マンブルコアの世代"と称してテン年代の米インディー作家を紹介している。この命名の由来は丁度このブログを始めた折り、大手映画情報サイトindiewireに"マンブルコアという言葉も、今年で10歳を迎えた。もうこの言葉使うの止めない?"という記事が掲載され、じゃあそこにポスト〜とか付けたらキャッチーだな!とか思ったからだった。

とは言え、実際マンブルコアという語を使う映画批評家は跡を絶たない。そんな中で見つけたのが"南北戦争版マンブルコア"という文言だった。マンブルコアってゼロ年代の若者たちが生きる半径3m圏内の世界を描き出すジャンルなのに、舞台が19世紀とかもうそれマンブルコアじゃねーだろ!って感じだが、妙に文言が引っ掛かってその映画が配信されるのを首を長くして待っていた。さてさて、とうとうその時がやってきた訳だが、今回はそんな"南北戦争版マンブルコア"?と称される1作"Men Go to Battle"とその監督Zachary Treitzを紹介していこう。

Zachary Treitzケンタッキー州ルイスヴィル出身の映画作家だ。ボストン大学で映画について学んでおり、そこでTreitz監督作では欠かせない存在となる撮影監督のBrett Jutkiewiczや日本では「神様なんかくそくらえ」が公開されているサフディー兄弟らと出会い交流を深める。そしてサフディー兄弟の監督デビュー作"The Pleasure of Being Robbed"(2008)で製作と音響を担当し、自身も映画界に足を踏み入れる。その後もサフディー兄弟"Go Get Some Rosemary"(2009)や母の死に混乱する青年を描いた悪夢的なコメディ"John's Gone"を担当すると共に、Diego Ongaroの短編"Bob and the Trees"(2010)やJoe Petrilla"reConception"(2014)なども手掛けていた。

サフディー兄弟との交友関係からも分かる通り、Treitz監督は元々マンブルコア周辺と関わりがあった訳だが、この繋がりについて語るのに重要な作品が2作ある。まずはノア・ボーンバック「フランシス・ハ」だ。ジョー・スワンバーらが牽引するマンブルコアに興味を持ったボーンバックがその方法論を自身の作品に適用した記念すべき1作でもあるが、彼は今作で録音を担当しているのである。更にもう1本の重要作品がAndrew T. Betzer監督作"Young Bodies Heal Quickly"だ。この作品は誤って少女を殺してしまった兄弟が逃避行を繰り広げるという映画なのだが、キャストの中に以前紹介したポスト・マンブルコア世代の代表格ジョセフィン・デッカー(紹介記事読んでね)とブログで何度も名前を挙げたマンブルコア最後のミューズと言うべきケイト・リン・シャイル(この紹介記事も読んでね)がいるのだ。出会いの場が今作だったかは定かではないが、少なくともこの後Treitzはシャイルと組んで長編デビュー作の脚本を共同で執筆することとなる。

さてここからはTreitzの監督作を見ていこう。監督デビュー作は2008年の短編"The Mean Time"、宇宙から地球へと帰還したばかりである男性の心の彷徨を描いたSF作品だ。2011年には"We're Leaving"を製作、主人公が妻とペットのアリゲーター連れて安住の地を探そうとするコメディ作品でサンダンス映画祭ウッドストック映画祭などで上映され、話題となる。そして4年の歳月が経った後、Treitz監督は自身初の長編映画"Men Go to Battle"を手掛けることとなる。

1861年ケンタッキー州の小さな町、その外れにはヘンリーとフランシス(ティモシー・モートン&デヴィッド・マロニー)という兄弟が暮らしていた。彼らの一族はかつては栄華を誇っていたそうだが、今兄弟に残されているのはボロボロの小屋と無駄にだだっ広いだけの土地ばかり。2人はその土地を少しずつ切り売りしながら、何とか生計を立てる日々を送っている。そんな中で町にはある噂が舞い込んでくる。もうすぐ北軍がこの町にまで到達するかもしれない……だが人々は噂を一顧だにせず南北戦争はもうすぐ終結すると信じていた。

"Men Go to Battle"はそんな微妙な情勢を背景にして、孤独なヘンリーたちの姿を静かに映し出していく。生きるために家畜を育て、寒い冬を越すために薪を割り、時には斧と切り株を使い他愛ない的当てゲームに興じる。撮影監督Brett Jutkiewiczはそんな2人の姿に密着し、彼らの表情や所作をレンズに焼きつけていく。そうして浮かび上がる映像は荒い粒子が絶え間なく蠢く類いのものだ。そのザラザラとした生の感覚は冷たい大気に混じる兄弟の生暖かい息遣いを、観客の肌に感じさせる親密さがある。

だが2人の関係性がただ友愛のみに支えられている訳でもないことが少しずつ明らかになっていく。兄弟は町の大地主であるスモール家から多大な援助を受けているが、貴族階級にある彼らは兄弟への軽蔑を節々にかいま見せる。それでも人当たりの良いフランシスが少しずつ一家に取り入っていく一方、不器用なヘンリーはそんな状況に不満を募らせていく。ある夜、彼らは焚き火を囲みながら、夜通し2人で子供のようにふざけ回るのだが、そこには糾われる縄のように親愛と不信が絡み合い、緊張感が張り詰める。焚き火、笑い声、酒、猟銃、そして斧……

で、今作がマンブルコアっぽいかというと、まあそう呼びたくなる気持ちも分からなくはないという印象だ。手持ちカメラを延々グラグラさせ、登場人物へのクロースアップを多用する点は初期のスワンバーグ作品と共鳴しあうし、ヘンリーのキャラ造型はその"大人になれなさ"においてマンブルコアと重なる部分が多い。更に寡黙な彼が他人との会話の中でモゴモゴと口ごもる姿は、マンブルコア以降を濃厚に感じさせる。

キャスト陣についても幾つか。まずヘンリー役のティモシー・モートン、彼はTreitz監督やフランシス役のデヴィッド・マロリーとは幼馴染みの関係にあるのだが、もう1人重要な人物とも友人関係にある。それがマンブルコアの異端児ケンタッカー・オードリー(この記事を読んでね)である。2人は大学時代からの親友同士であり、モートンはオードリーの長編デビュー作"Team Picture"に出演するなどしている訳で歴としたマンブルコア・コネクションの一員なのだ。そしてオードリーの影があるところ彼女の影ありと言うべきとばかりに、先述したケイト・リン・シャイルも顔を見せている。同じくマンブルコア出身の女優陣グレタ・ガーウィグエイミー・サイメッツは俳優として活躍すると同時に、カメラの裏側でも頭角を表し始めているが、彼女らの後に続き、製作を手掛けると共に脚本家としてクレジットされた初の作品(additional云々みたいな途中参加系は除く)が今作なのだ。そういった意味でこの作品をマンブルコアに寄せて考えたくなる気持ちも分かるっちゃ分かる。が、今作は全く別の方向へと舵を切っていく。

ある夜に起こった事件がきっかけとなり、ヘンリーは町から姿を消してしまう。数ヶ月後、残されたフランシスの元にヘンリーから1通の手紙が届く。そこには彼が北軍に入隊したという事実が記されてあった……ここで書いておきたいのは"ということはヘンリーとフランシスが北軍と南軍に別れて戦うんだな……"とそんな展開へ今作が進む訳ではないことだ。それが本作の評価を真っ二つに分けている理由であると同時に、少なくとも私にとって本作が特別な意味を宿している理由でもある。

"Men Go to Battle"は此処からヘンリーの道行きに焦点を当てていく。紺色の軍服に身を包みながら、ヘンリーたちはアラバマから南に向かって進んでいく。その途中で彼は友人に手紙を代筆してもらったり、銃剣を携えながら記念写真を撮影したりする。それらは直接的には戦争を描いてはいないが、Treitz監督やシャイルによる時代考証の緻密さーーそれは例えアメリカの歴史に馴染みのない人々が見ても、ここには"誰かの息遣い"が宿ると確かに感じさせられる意味での緻密さーーによって、実感を以て迫ってくる。

だが同時にその実感が表層的な物であることにも気づくのではないか。緻密さには重要な物が欠けている、つまり"ヘンリーが何故わざわざ軍隊に、しかも北軍に入隊したのか?"という理由が欠けているのだ。これでは戦争の恐怖やそれによって捻り曲げられる者たちの悲哀、それらに説得力がなくなり、映画も意味を無くすのではないか。そうでありながら監督はこの欠如を意図的に用意したと、この欠如にこそ意味があるのだといつしか分かる。結論から言えば""は南北戦争を描いているのではなく、1人の男が抱える実存的な恐怖を描いた作品なのだ。

19世紀後半のアメリカにおける生活風俗とその中で生きる人々の姿、南北戦争下においての荒涼たる日常の風景、そういった物にフォーカスを当ててきた本作だが最後に見据えるのはヘンリーの内面世界である。全編を通じてヘンリーは無表情のまま何か言うにも口ごもり続ける、不器用ゆえに底の知れない人物として描かれる。それは戦争に突入してからもそうだ。激戦地において、隊列に従いゆっくり前進していくヘンリーの顔面をカメラが真正面から捉えていくシークエンスがある。周りが砲撃によって爆砕していき、死の嘶きが轟くおぞましい戦地で、しかしヘンリーの顔には石膏で塗り固められた無表情ばかりが広がる。隊列の仲間たち次々銃弾に倒れていくが、表情は少しも変わらない。生きていても死んでいても何も変わらない、何もかもが無駄なんだ……

そもそもの意味においてヘンリーの本質は人生に対する圧倒的な虚無感なのだ。周りの状況がどうという問題ではなく、それはこの世に産まれた時点で宿命付けられた虚無感。彼が南北戦争に参加したのはこれを振り切るためだったのかもしれない。しかし命の危機を経ても虚無を拭い去ることはできず、彼はアメリカの広大な自然を彷徨うことになる。だがその果てに気づくのだ、戻るべき場所は既に失われているということに。"Men Got to Battle"の恐ろしさはここにある、予め宿命付けられた虚無に行き着く場所はどこにもない。

参考文献
http://filmmakermagazine.com/93831-five-questions-with-men-go-to-battle-directorco-writer-zachary-treitz-and-co-writer-kate-lyn-sheil/#.V-Cxxfl97IU(監督インタビューその1)
http://moveablefest.com/moveable_fest/2015/04/kate-lyn-sheil-zachary-treitz-men-go-to-battle.html(監督インタビューその2)
http://bombmagazine.org/article/5160125/zachary-treitz(監督インタビューその3)

ポスト・マンブルコア世代の作家たちシリーズ
その1 Benjamin Dickinson &"Super Sleuths"/ヒップ!ヒップ!ヒップスター!
その2 Scott Cohen& "Red Knot"/ 彼の眼が写/映す愛の風景
その3 デジリー・アッカヴァン&「ハンパな私じゃダメかしら?」/失恋の傷はどう癒える?
その4 Riley Stearns &"Faults"/ Let's 脱洗脳!
その5 Gillian Robespierre &"Obvious Child"/中絶について肩の力を抜いて考えてみる
その6 ジェームズ・ポンソルト&「スマッシュド〜ケイトのアルコールライフ〜」/酒が飲みたい酒が飲みたい酒が飲みたい酒が飲みたい…
その7 ジェームズ・ポンソルト&"The Spectacular Now"/酒さえ飲めばなんとかなる!……のか?
その8 Nikki Braendlin &"As high as the sky"/完璧な人間なんていないのだから
その9 ハンナ・フィデル&「女教師」/愛が彼女を追い詰める
その10 ハンナ・フィデル&"6 Years"/この6年間いったい何だったの?
その11 サラ=ヴァイオレット・ブリス&"Fort Tilden"/ぶらりクズ女子2人旅、思えば遠くへ来たもので
その12 ジョン・ワッツ&"Cop Car"/なに、次のスパイダーマンの監督これ誰、どんな映画つくってんの?
その13 アナ・ローズ・ホルマー&"The Fits"/世界に、私に、何かが起こり始めている
その14 ジェイク・マハフィー&"Free in Deed"/信仰こそが彼を殺すとするならば
その15 Rick Alverson &"The Comedy"/ヒップスターは精神の荒野を行く
その16 Leah Meyerhoff &"I Believe in Unicorns"/ここではないどこかへ、ハリウッドではないどこかで
その17 Mona Fastvold &"The Sleepwalker"/耳に届くのは過去が燃え盛る響き
その18 ネイサン・シルヴァー&"Uncertain Terms"/アメリカに広がる"水面下の不穏"
その19 Anja Marquardt& "She's Lost Control"/セックス、悪意、相互不理解
その20 Rick Alverson&"Entertainment"/アメリカ、その深淵への遥かな旅路
その21 Whitney Horn&"L for Leisure"/あの圧倒的にノーテンキだった時代
その22 Meera Menon &"Farah Goes Bang"/オクテな私とブッシュをブッ飛ばしに
その23 Marya Cohn & "The Girl in The Book"/奪われた過去、綴られる未来
その24 John Magary & "The Mend"/遅れてきたジョシュ・ルーカスの復活宣言
その25 レスリー・ヘッドランド&"Sleeping with Other People"/ヤリたくて!ヤリたくて!ヤリたくて!
その26 S. クレイグ・ザラー&"Bone Tomahawk"/アメリカ西部、食人族の住む処
その27 Zia Anger&"I Remember Nothing"/私のことを思い出せないでいる私
その28 Benjamin Crotty&"Fort Buchnan"/全く新しいメロドラマ、全く新しい映画
その29 Perry Blackshear&"They Look Like People"/お前のことだけは、信じていたいんだ
その30 Gabriel Abrantes&"Dreams, Drones and Dactyls"/エロス+オバマ+アンコウ=映画の未来
その31 ジョシュ・モンド&"James White"/母さん、俺を産んでくれてありがとう
その32 Charles Poekel&"Christmas, Again"/クリスマスがやってくる、クリスマスがまた……
その33 ロベルト・ミネルヴィーニ&"The Passage"/テキサスに生き、テキサスを旅する
その34 ロベルト・ミネルヴィーニ&"Low Tide"/テキサス、子供は生まれてくる場所を選べない
その35 Stephen Cone&"Henry Gamble's Birthday Party"/午前10時02分、ヘンリーは17歳になる
その36 ネイサン・シルヴァー&「エレナ出口」/善意の居たたまれない行く末
その37 ネイサン・シルヴァー&"Soft in the Head"/食卓は言葉の弾丸飛び交う戦場
その38 ネイサン・シルヴァー&"Stinking Heaven"/90年代の粒子に浮かび上がるカオス
その39 Felix Thompson&"King Jack"/少年たちと"男らしさ"という名の呪い
その40 ジョセフィン・デッカー&"Art History"/セックス、繋がりであり断絶であり
その41 Chloé Zhao&"Songs My Brothers Taught Me"/私たちも、この国に生きている
その42 ジョセフィン・デッカー&"Butter on the Latch"/森に潜む混沌の夢々
その43 Cameron Warden&"The Idiot Faces Tomorrow"/働きたくない働きたくない働きたくない働きたくない
その44 Khalik Allah&"Field Niggas"/"Black Lives Matter"という叫び
その45 Kris Avedisian&"Donald Cried"/お前めちゃ怒ってない?人1人ブチ殺しそうな顔してない?
その46 Trey Edwards Shults&"Krisha"/アンタは私の腹から生まれて来たのに!
その47 アレックス・ロス・ペリー&"Impolex"/目的もなく、不発弾の人生