鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

タイ・ウェスト&"Trigger Man"/狩人たちは暴力の引鉄を引く

タイ・ウェスト&"The Roost"/恐怖!コウモリゾンビ、闇からの襲撃!
タイ・ウェストの経歴および彼の長編デビュー作"The Roost"についてはこの記事参照。

アメリカを語る上で、アメリカの男らしさを語る上で狩りという行為は欠かすことが出来ない。大いなる自然の中へと猟銃を携え、父と共に、友人たちと共に飛び込んでいく。銃を獲物へ向ける時の静寂、それを引き裂く銃声、命が失われる響き。この瞬間を共有することによって人々は初めて男となる。だがこの通過儀礼には“殺す”ことを欠かすことが出来ない、それ故に内在する歪みが様々な映画の中で描かれてきた。その中で狩る者が逆に狩られる立場となるという内容の作品は、主にB級Z級映画の領域で多く作られてきた。「コンバット/恐怖の人間狩り」「ダーティ・ハンター」その伝統は現在にも脈々と受け継がれているが、そんな作品群に連なる一作がタイ・ウェストの第2長編“Trigger Man”だ。

ジー、レイ、ショーンの友人3人組は休日に連れだって、デラウェア州の山奥へとハンティングに出掛けることとなる。あらすじとしてはこれだけのシンプルな物だ。だが冒頭から前作“The Roost”とはまた違う場所をウェストは志向しているこは明白だ。今回はウェストが撮影も担当(脚本・製作・編集も兼任)しているのだが、常に手振れが画面を支配するドキュメンタリー的な手法を選択しているのだ。ショーンとレジーたちの再会、その合間にレジーが店へ煙草を買いに行く姿、そういった光景が生々しい息遣いと共に映像として焼き付けられていく。だが画面の震えは観る者を不穏な予感で満たしていく。

そしてその不穏は少しずつだが確実に顕在化し始める。猟銃を抱えて3人は鬱蒼たる森の中を突き進んでいくのだが、獲物の姿は疎らで見つけたとしても、銃弾が彼らを貫くことはない。そして静かに不満が募っていく中で、狩りのリーダーであるショーンが道に迷ったらしい素振りを見せる。レジーはレジーで恋人らしき人物と携帯で口論するなど、鬱々たる表情が晴れることはない。そんな彼らを取り巻く大いなる自然は、道を指し示すことはなく、むしろ間抜けな3人を嘲笑うかのごとく葉々を揺らし続ける。その音に混じり、前作から続投のJeff Graceによる不愉快さを高めるためだけに作曲されたような劇半の数々が響き渡り、物語には隠隠滅滅たる雰囲気が醸造されていく。

こうした酷くスローな展開の中で、しかし何かが迫ってくるのを私たちは肌で体感するだろう。劇中、森の中でひたすら歩き続ける3人の姿が長回しで映し出される場面がある。その時カメラは4人目の仲間として彼らに付き従ってはいない、彼らの上から見下ろすような形で彷徨いを映し出す。それはまるで何者かがレジーたちを監視しているような印象を与えるが、そういったカメラワークは徐々に多くなり、緊張感が最高潮にまで達した時、惨劇の瞬間が訪れることとなる。

だが、残虐な狩人が3人を残虐の限りを尽くす地獄のグロテスク描写横溢映画になるという期待は捨てた方がいい。そういった要素から最も遠い人間がタイ・ウェストという映画作家なのだから。彼はここぞという時にこそ人体をブチ撒く。ここだという最高のタイミングでこそ、銃弾で脳髄を爆散させるのだ。その決定的瞬間を除けば、スローな展開は常に続く。それでもこのスローさこそが鍵なのだ。レジーたちは突然の出来事に恐怖し、惨めに逃亡し、見えない敵から追撃を受ける。彼らは血塗れで自然を這いつくばって進み、希望を1つ1つ念入りに潰されながらも、緑を己の血潮に染めながら地べたに顔面を擦りつける。その光景はえげつないほど地味で、息詰まるほど生々しい。

それでもレジーたちは反撃の時を、息を潜めながら待ち続ける。だがそれは血みどろの暴力に己の手を染めなくてはならないことをも意味する。登場人物の中でその役割を担わされるのがレジーだ。彼を演じるReggie Cunninghamの顔には常に苦渋が滲み、人生そのものに倦んでいる様子すら伺えるが、この修羅場の中で苦渋は殺意へと姿を変えていく。そして彼が辿り着くのは要塞を思わす工場の廃墟だ。荒廃のみに支配されたその地は錆の色彩に侵され、もはやかつての栄華は影にすら現れない。彼の目前においてここは迷宮だ、殺しを己で成すためにお膳立てされた最果ての地。そんなレジーの姿を通じて“Trigger Man”は暴力の渦に否応なく巻き込まれた者の悲哀を描き出す。最後には苦味ばかりが舌にザラつく。

結局マンブルコアって何だったんだ?
その1 アーロン・カッツ&"Dance Party, USA"/レイプカルチャー、USA
その2 ライ・ルッソ=ヤング&"You Wont Miss Me"/23歳の記憶は万華鏡のように
その3 アーロン・カッツ&"Quiet City"/つかの間、オレンジ色のときめきを
その4 ジョー・スワンバーグ&"Silver Bullets"/マンブルコアの重鎮、その全貌を追う!
その5 ケイト・リン・シャイル&"Empire Builder"/米インディー界、後ろ向きの女王
その6 ジョー・スワンバーグ&"Kissing on the Mouth"/私たちの若さはどこへ行くのだろう
その7 ジョー・スワンバーグ&"Marriage Material"/誰かと共に生きていくことのままならさ
その8 ジョー・スワンバーグ&"Nights and Weekends"/さよなら、さよならグレタ・ガーウィグ
その9 ジョー・スワンバーグ&"Alexander the Last"/誰かと生きるのは辛いけど、でも……
その10 ジョー・スワンバーグ&"The Zone"/マンブルコア界の変態王頂上決戦
その11 ジョー・スワンバーグ&"Private Settings"/変態ボーイ meets ド変態ガール
その12 アンドリュー・ブジャルスキー&"Funny Ha Ha"/マンブルコアって、まあ……何かこんなん、うん、だよね
その13 アンドリュー・ブジャルスキー&"Mutual Appreciation"/そしてマンブルコアが幕を開ける
その14 ケンタッカー・オードリー&"Team Picture"/口ごもる若き世代の逃避と不安
その15 アンドリュー・ブジャルスキー&"Beeswax"/次に俺の作品をマンブルコアって言ったらブチ殺すぞ
その16 エイミー・サイメッツ&"Sun Don't Shine"/私はただ人魚のように泳いでいたいだけ
その17 ケンタッカー・オードリー&"Open Five"/メンフィス、アイ・ラブ・ユー
その18 ケンタッカー・オードリー&"Open Five 2"/才能のない奴はインディー映画作るの止めろ!
その19 デュプラス兄弟&"The Puffy Chair"/ボロボロのソファー、ボロボロの3人
その20 マーサ・スティーブンス&"Pilgrim Song"/中年ダメ男は自分探しに山を行く
その21 デュプラス兄弟&"Baghead"/山小屋ホラーで愛憎すったもんだ
その22 ジョー・スワンバーグ&"24 Exposures"/テン年代に蘇る90's底抜け猟奇殺人映画
その23 マンブルコアの黎明に消えた幻 "Four Eyed Monsters"
その24 リチャード・リンクレイター&"ROS"/米インディー界の巨人、マンブルコアに(ちょっと)接近!
その25 リチャード・リンクレイター&"Slacker"/90年代の幕開け、怠け者たちの黙示録
その26 リチャード・リンクレイター&"It’s Impossible to Learn to Plow by Reading Books"/本を読むより映画を1本完成させよう
その27 ネイサン・シルヴァー&「エレナ出口」/善意の居たたまれない行く末
その28 ネイサン・シルヴァー&"Soft in the Head"/食卓は言葉の弾丸飛び交う戦場
その29 ネイサン・シルヴァー&"Uncertain Terms"/アメリカに広がる"水面下の不穏"
その30 ネイサン・シルヴァー&"Stinking Heaven"/90年代の粒子に浮かび上がるカオス
その31 ジョセフィン・デッカー&"Art History"/セックス、繋がりであり断絶であり
その32 ジョセフィン・デッカー&"Butter on the Latch"/森に潜む混沌の夢々
その33 ケント・オズボーン&"Uncle Kent"/友達っていうのは、恋人っていうのは
その34 ジョー・スワンバーグ&"LOL"/繋がり続ける世代を苛む"男らしさ"
その35 リン・シェルトン&"We Go Way Back"/23歳の私、あなたは今どうしてる?
その36 ジョー・スワンバーグ&「ハッピー・クリスマス」/スワンバーグ、新たな可能性に試行錯誤の巻
その37 タイ・ウェスト&"The Roost"/恐怖!コウモリゾンビ、闇からの襲撃!