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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

アダム・ウィンガード&"Home Sick"/初期衝動、血飛沫と共に大爆裂!

さて前回は2回に分けて、マンブルゴアの暗黒貴公子タイ・ウェストによる初期作品を紹介してきたが、彼を紹介するならば、先の記事の冒頭に記したアダム・ウィンガードも紹介していかなければならないだろう。現在では「ブレアウィッチ」を監督し、今後はハリウッド版DEATH NOTEにリメイク版「悪魔を見た」の製作が控えているなど引っ張りだこの彼だが、そんなウィンガードにも初期衝動の塊みたいな映画を作っている時があったのである。ということで今回はマンブルゴアの恐るべき子供アダム・ウィンガードと彼のデビュー長編“Home Sick”について紹介していこう。

アダム・ウィンガード Adam Wingard は1982年、テネシー州オークリッジに生まれた。子供の頃から映画に親しんでおりターミネーター「エイリアン」シリーズを観て漠然と映画監督になりたいという思いを抱き始める。しかし最初はこの夢は現実的じゃないとコミック・アーティストを目指していたのだという。それでも中等学校に通い始めた時、父親からカムコーダーを買ってもらい実際に作品を作り始めてから、自分は"映画監督になれる"と確信し、その道を歩み始める。

高校で友人たちと何本もの短編を作った後、フロリダ州のフル・セイル大学(大学とはついているが実質、職業学校らしい)に入学し本格的に映画製作を学びだす。が、実際には授業のほとんどで寝ており、女性のケツばっか追いかける日々を送っていたらしい。本当に映画を学んだ場所は大学の近くにあったStardustというビデオ店だったという。そこで彼はジャン=リュック・ゴダール「ウィークエンド」「GONIN」「極道戦国志 不動」「死霊の罠などの日本のカルト映画群に触れ、多大なる影響を受けることとなる。更にこの時期、彼は今後の製作上のパートナーとなるE.Lカッツと運命的な出会いを果たす。ジョン・ウー「ワイルド・ブリット」や何十本ものホラー映画を観て意気投合した2人は、一緒に映画を作ろうと心に決める。19歳で卒業した後、ウィンガードは離婚した父親や3人の兄弟と共にアラバマ州へと移住することになるのだが、その地で長編監督作"Home Sick"を作る経緯についてウィンガードはこのように語っている。

"全てはカッツがアラバマ州に来た時始まりました。家から一番近い、1時間くらいで着く本屋に行った時、彼は雑誌の束とコーヒーを持ってどうしてスラッシャー映画にハマったか聞いてきました。そしたらスラッシャー映画集中特訓として「闇夜にベルが鳴る」から始まるオールタイム・スラッシャー映画ベストを渡してきた、そこから少しずつこの作品が築かれていったんです。プロットが思い浮かんだのはカッツが悪魔のいけにえ2」を見せてくれた時のことで"ビル・モーズリーみたいなジャンル俳優のために脚本を書けたらクールじゃないか?"となり、実際やってみて全てがあるべき場所に収まっていった訳です"*1……そしてカッツがモーズリーに脚本を送り出演を承諾されたのを皮切りに、ウィンガードは父に予算や住む場所を提供してもらいながら、2002年には19歳の若さで初の長編監督作"Home Sick"を完成させる。

クリスマスの夜、マークとクレア(Forrest Pitts&Lindley Praytor)は友人であるティム(Matt Lero)の邸宅へと足を運ぶ。パーティが開かれていると言いたい所だが、実情はいつものメンバーが死んだ目をしながら、VHSで日本の変態ホラー映画を観ているという有り様だ。クリスマスですら変わらぬ陰鬱さにクレアたちはウンザリし、外へ煙草を吸いに行くのだが、その時何者かが家へ入っていくのを目撃する。だがスーツケースを抱えるその男(悪魔のいけにえ2」ビル・モーズリー)が凄まじい恐怖をプレゼントしてくるなど、ビルたちは想像もしていなかった。

“Home Sick”は登場人物が何者かによって次々ブチ殺されていく、所謂スラッシャー映画の体裁を取っている。その惨劇をお膳立てする存在がビル・モーズリーである訳だ。今作のモーズリーは出番が少ないが、とにかく異常な気迫がある。勝手にトイレを借り個室から出てきたかと思うと、完全に瞳孔が開いちゃっている感じの笑顔を浮かべ、パーティ会場へと乱入してくる。そしてハイテンションで言葉を捲し立てていくかと思うとスーツケースを開き、その中には大量の剃刀の刃! お前ら誰をブチ殺したい誰をブチ殺したい?と聞き取り調査をしていき、恐怖に震えるビルたちから名前を引き出したかと思うと、刃で右腕を切り刻んでいく、ヒエエエエ……もう狂人とか言うレベルではない状態で、ホラー俳優としての貫禄を見せつけ、モーズリーはギャラ分の仕事は完遂した!とばかり、映画から姿を消すのだが、それを境に血みどろの惨劇が始まることとなる。

今作におけるグロ描写はもうとにかく血飛沫肉飛沫ブチ撒けまくる残虐ぶりだ。冒頭からデロデロデロンと内臓風呂の一丁あがり、更に嫌がらせとばかりに再び内臓をデロデロロロロンと駐車場で引き伸ばし、頭があるならカチ割れ!とばかり金槌で頭蓋骨を執拗にブチ砕くわ、地面に伏した被害者を一発踏みつけ、脳髄炸裂&眼球ビョインと、とにかく人体が物理法則を無視した形で炸裂に炸裂を遂げまくる。先述したタイ・ウェストのデビュー長編“The Roost”はとても謹み深くショットガンで肉をブチ撒いたり、蝙蝠に顔面の肉を食い散らかしてもらっていたが、こっちには慎みもクソもない。とにかく血糊があるならある分画面にブッかけろ!と残虐描写の大盤振る舞い、もう笑うしかない状況だ。

つまりこの作品にはアダム・ウィンガードという19歳の青年の初期衝動がこれでもかという程に反映されているのだ。血肉のバーゲンセールっぷりは勿論のこと、その合間には死体を見つけた女性が驚きの余り発狂を遂げ、全裸で床に広がる血を浴びまくった挙げ句にちょっとピンクがかったゲロをブチ撒いたかと思うと、何か良く分かんない感じで殺人鬼に拉致され脳髄をブチ砕かれるという、支離滅裂ここに極まれりといった幻想シーンまで存在する。インタビューでウィンガードは作品の影響元としてデヴィッド・リンチの名を挙げているのだが、何だかそれを聞くと映画青年の迸りを感じて微笑ましくなってしまうのは私だけだろうか。

まあ、そんな風な映画なので、とにもかくにも混乱ぶりが尋常ではなく、先に結論を言えば初期衝動の発露が悪い意味で炸裂していると言わざるを得ない。仲間が凄まじい流血沙汰になっている一方で、テッドたちはボウリングやったりバーで酒呑んでいたりと結構ほっちゃらけてる姿が交互に映ったりする場面は完全に脱力する他ない。そういった風に全体的にテンションの乖離具合が凄まじく、展開も行き当たりばったりが多すぎて、疲労感のあまり観ていると頭痛が痛くなってくる程だ。E.L カッツが執筆した脚本は最初から収拾をつける気などないのだなと思わされるブレ具合で、彼もまた初期衝動の虜と化しウィンガードと共に別の次元へ頭突っ込んでいるような酷さがある。

それでもこのホラー映画を観て感じるのは“自分たちはこれがやりたい!”というウィンガードたちの熱い思いだ。”こんなことが出来るのは今だけしかないんだから、自分たちのしたいことを全部やり通せ!”と、そんな熱すぎる思いはクオリティ以上の価値がある。そしてこういった作り手の思いが噴出しまくる作品を観ていると、何故だか私自身の映画の記憶が呼び起こされるような感覚があるのだ。脳天から口へとナイフでブチ抜く殺し方はローズマリーじゃないか、この骨とかそういう物を無視しきった内臓への異常なこだわりはH・G・ルイスを観たからじゃないか、あのテンションの乖離具合はウェス・クレイヴン鮮血の美学リスペクトじゃないか……そういった考えが頭に浮かんでは消え、とても幸せな気持ちになるのだ。ここにおいて作り手本人が実際にそれを志向しているかは関係なく、観る者それぞれの心でそれぞれの記憶が浮かび上がる、これを達成できる作品はそう多くない。だからそういった意味で、私にとって“Home Sick”は本当に素晴らしい一作だ。

という思いをも爆発四散させる勢いで“Home Sick”はクライマックスへと雪崩れ込んでいく。もう当初の目的を完全に忘れた終盤の展開は、その場の勢いで猛烈な速度を以て血と肉に溢れた狂気へと飛び込んでいくような、筆舌に尽くしがたい迫力に満ちている。もう観ている間、笑うしかない。もう何でこんななってんのか全然分からない。多分ウィンガードたちも自分で何やってんのか分かんなかったと思う。でもそれで良いのだ、それが最高なのだ。誰が何と言おうと“Home Sick”は超ヤバくて、超素晴らしいホラー映画なのだ。

さて、撮影裏についてだがかなり酷い物だったらしい。撮影で最も辛かったことについて聞かれ、ウィンガードはこう答えている。"名前は挙げないですが、ある俳優が撮影中ずっと思いあがったケツ穴野郎として振る舞い続けていてこの映画をぶっ壊そうとしてたんです、気が狂いそうでしたね。いつかできることなら、コイツを秘密裏にブチ殺してやりたいです"*2と答えている(後の記事で、ビル・モーズリーが監督にキレていたという記述があるのでその俳優とはモーズリー本人かもしれない)更に脚本・製作を担当したカッツはこの映画を振り返り"2度と観るべきじゃないクソったれ"*3と評している。

その後はMVや短編製作を通じて、自身の映画製作について見直し始める。この時期に製作した作品が"The Girlfriend""The Little One"という短編ホラーだった。前者は恋人の両親と初めて会うこととなった主人公が悪魔に体を乗っ取られ……というウィンガード版「ボディースナッチャー的な作品、後者はベビーシッターをしている大学生が直面する恐怖を描き出した一作で、両作ともにE.L カッツとウィンガードの友人である俳優Maggie Gwin「サプライズ」にも出演しているL.C Holtが出演を果たしている。そして長編映画を再び作る時が来たと決意したウィンガードは、2007年に待望の第2長編"Pop Skull"を完成させるが、今作についてはまた次回の記事ということで……

参考文献
http://www.horror-asylum.com/interview/adamwingard/interview.asp(ウィンガード最初期のインタビュー)
http://features.laweekly.com/mumblegore/(マンブルゴア総攬記事)

結局マンブルコアって何だったんだ?
その1 アーロン・カッツ&"Dance Party, USA"/レイプカルチャー、USA
その2 ライ・ルッソ=ヤング&"You Wont Miss Me"/23歳の記憶は万華鏡のように
その3 アーロン・カッツ&"Quiet City"/つかの間、オレンジ色のときめきを
その4 ジョー・スワンバーグ&"Silver Bullets"/マンブルコアの重鎮、その全貌を追う!
その5 ケイト・リン・シャイル&"Empire Builder"/米インディー界、後ろ向きの女王
その6 ジョー・スワンバーグ&"Kissing on the Mouth"/私たちの若さはどこへ行くのだろう
その7 ジョー・スワンバーグ&"Marriage Material"/誰かと共に生きていくことのままならさ
その8 ジョー・スワンバーグ&"Nights and Weekends"/さよなら、さよならグレタ・ガーウィグ
その9 ジョー・スワンバーグ&"Alexander the Last"/誰かと生きるのは辛いけど、でも……
その10 ジョー・スワンバーグ&"The Zone"/マンブルコア界の変態王頂上決戦
その11 ジョー・スワンバーグ&"Private Settings"/変態ボーイ meets ド変態ガール
その12 アンドリュー・ブジャルスキー&"Funny Ha Ha"/マンブルコアって、まあ……何かこんなん、うん、だよね
その13 アンドリュー・ブジャルスキー&"Mutual Appreciation"/そしてマンブルコアが幕を開ける
その14 ケンタッカー・オードリー&"Team Picture"/口ごもる若き世代の逃避と不安
その15 アンドリュー・ブジャルスキー&"Beeswax"/次に俺の作品をマンブルコアって言ったらブチ殺すぞ
その16 エイミー・サイメッツ&"Sun Don't Shine"/私はただ人魚のように泳いでいたいだけ
その17 ケンタッカー・オードリー&"Open Five"/メンフィス、アイ・ラブ・ユー
その18 ケンタッカー・オードリー&"Open Five 2"/才能のない奴はインディー映画作るの止めろ!
その19 デュプラス兄弟&"The Puffy Chair"/ボロボロのソファー、ボロボロの3人
その20 マーサ・スティーブンス&"Pilgrim Song"/中年ダメ男は自分探しに山を行く
その21 デュプラス兄弟&"Baghead"/山小屋ホラーで愛憎すったもんだ
その22 ジョー・スワンバーグ&"24 Exposures"/テン年代に蘇る90's底抜け猟奇殺人映画
その23 マンブルコアの黎明に消えた幻 "Four Eyed Monsters"
その24 リチャード・リンクレイター&"ROS"/米インディー界の巨人、マンブルコアに(ちょっと)接近!
その25 リチャード・リンクレイター&"Slacker"/90年代の幕開け、怠け者たちの黙示録
その26 リチャード・リンクレイター&"It’s Impossible to Learn to Plow by Reading Books"/本を読むより映画を1本完成させよう
その27 ネイサン・シルヴァー&「エレナ出口」/善意の居たたまれない行く末
その28 ネイサン・シルヴァー&"Soft in the Head"/食卓は言葉の弾丸飛び交う戦場
その29 ネイサン・シルヴァー&"Uncertain Terms"/アメリカに広がる"水面下の不穏"
その30 ネイサン・シルヴァー&"Stinking Heaven"/90年代の粒子に浮かび上がるカオス
その31 ジョセフィン・デッカー&"Art History"/セックス、繋がりであり断絶であり
その32 ジョセフィン・デッカー&"Butter on the Latch"/森に潜む混沌の夢々
その33 ケント・オズボーン&"Uncle Kent"/友達っていうのは、恋人っていうのは
その34 ジョー・スワンバーグ&"LOL"/繋がり続ける世代を苛む"男らしさ"
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その36 ジョー・スワンバーグ&「ハッピー・クリスマス」/スワンバーグ、新たな可能性に試行錯誤の巻
その37 タイ・ウェスト&"The Roost"/恐怖!コウモリゾンビ、闇からの襲撃!
その38 タイ・ウェスト&"Trigger Man"/狩人たちは暴力の引鉄を引く