鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

アダム・ウィンガード&"Pop Skull"/ポケモンショック、待望の映画化

今作の主人公はダニエル(Lane Hughes)という名の青年だ。彼の人生は破滅的な状況を迎えていた。ある出来事をきっかけに脱け殻のような日々を送り続け、町中を彷徨い歩いたかと思うと、彼が足を踏み入れるのはいつも薬局だ。ダニエルはそこで錠剤を買い、家に帰ってそれを一気に飲み込む。そして世界は点滅を遂げ、醜く歪み、トリップ状態に陥ったかと思うと、ダニエルはボロボロの状態で道端に倒れている。それを毎日繰り返すのだ、毎日毎日毎日毎日毎日毎日……

“Pop Skull”はそんな自壊の一途を辿る青年の頭に広がる光景を観客に追体験させるようなスタイルになっている。例えば冒頭から顕著だが、凄まじい明滅が何度も何度も反復されるのだ。白い光、黒い闇、その2つが最初はゆっくりと切り替わりながら、徐々に速度が早まっていき、最後には観客の眼球がイカれる程の勢いで瞬いていく。それは原色の明滅であるかと思えば、病的な表情を浮かべたダニエルの顔面と何かシンボリック事象の点滅の時もある。つまりそれは彼が薬でトリップする状態の再現であり、そこに歪みや妄想と現実が混ざりあうと、吐き気を催すような感覚が浮かび上がる。

この幻影の果てに決まって現れるのは、ダニエルがかつて愛していた女性ナタリー(Maggie Gwin)の姿だ。2人は幻影の中では親密に愛し合いながら、現実には見る影もない。彼女との別れがダニエルをここまでの恐慌状態へ追い詰めているのは明らかだが、別れに至った理由は幻影の奥に隠れ、私たちが知ることは叶わない。そんな中で彼を心配する親友のジェフ(Brandon Carroll)や彼の恋人らしい女性モーガン(Hannah Hughes)との交流が彼を正気に引き戻そうとする。しかしある日ダニエルは自宅で奇妙な現象に遭遇し、それが幽霊の仕業だという妄執が頭を離れなくなってしまう。

ウィンガードの前作“Home Sick”と今作とでは全く違う質感を持っている。作風はかなり実験的なもので、錯雑とした編集や撮影器具の切り替えによって、過去と現在、現実と妄想、トリップ状態の幻影がひっきりなしに交わりあい、濃密なカオスが私たちの目前に差し出される。この世界を構築するために、彼は俳優たちと共にのべ90時間にも渡るフッテージ映像を撮影、そして編集に編集を重ねたのだそうだ……そうか、うん、そんな苦労の多かった作品についてこう書くのは心苦しいが、しかし今作のクオリティは余りにも酷いものとなっている、もう観たことを忘れたいレベルで……

監督は“Home Sick”での経験を反省し、しばらくはMVや短編作りを通じて映画製作のテクニックを学んでいたそうだが、それがもう完全に逆効果になっている。撮影は粗っぽすぎるわ、編集は散らかりすぎて何やってんのか全然分からないし、特にタチが悪いのは点滅描写の乱発だ。冒頭に“てんかん患者は観るのを控えるように”という警告が現れるのだが、それに続いていきなりバチバチやり始める。最初はドイツ産超絶長回し映画「ヴィクトリア」の冒頭レベルでまだマシなのだが、物語が進むにつれ点滅の頻度や強さが増し、マジで画面観てると吐き気がしてきて目を背けざるを得ないまでのレベルになる。私の場合、パソコンで観たから良いものの、これ映画館で観たら絶対倒れる人出るだろと思わざるをえない。なまじテクニックを学んだせいか、それを見せびらかす軽薄さばかりが際立っているのだ。

そしてダニエルは妄執の果てに、殺人衝動をも心に抱くようになるのだが、この描写も何と言うか。ダニエルが女性を拉致した後、わざと解放しゲーム感覚でなぶり殺しにしていくシークエンスが挿入されるのだが、その後に現実のダニエルが呆然自失たる面持ちで上を向くと、そこには朝未きの美しい空が広がっている。こういうので、こういうので何かを語っている気になるのは止めにしよう、な! 何か取り敢えず2つ繋げとけば意味生まれちゃうっしょ、みたいな編集を悪用したエセ映像詩的な奴は学生時代で卒業しよう……とは言え今作の時点で、ウィンガードはまだ24才なので、これを許す向きもあるっちゃあるとは思うが……

確かに19歳時のデビュー長編“Home Sick”の場合、演出がそれはそれは稚拙でかなり難のあるものだった。しかしこの作品には“俺はこれがやりたいんだ!”という熱い思いが迸りに迸っていた。いい意味でも悪い意味でも初期衝動の塊がそのまま映画になったような作品で、少なくとも私の心は頗る揺り動かされた。それがこの“Pop Skull”の場合はスタイルしかない。ただ表層的に様々な技術が駆使されているが、そのスタイルがここまで内容を伴わないとなると、観ているこっちとしても頭を抱えてしまう。それ所か点滅描写のせいで何回もゲロ吐きそうになった、最悪の経験だった。まさかウィンガード作品にこんな思いを抱くなんて自分でも想像していなかった。アメリカ本国で配給がつかない現状に“ハリウッドは新しい物を嫌うからね”とウィンガードは答えていたが、ただ単に映画の内容が陳腐だったからとしか言いようがない。エセ映像詩も陳腐、現実と妄想が良く分からなくなるのも陳腐、恋人を失った青年が親友の恋人に手を出そうとする展開も陳腐。この作品はポケモンショックの映画化作品以上のものではない、マンブルコア/マンブルゴア作品なら観れる作品は全作レビューを信条としてやってきた訳だが、ここまで虚無的な心地に陥るのは今作が初めてだ、はい、もう次行こう次……

結局マンブルコアって何だったんだ?
その1 アーロン・カッツ&"Dance Party, USA"/レイプカルチャー、USA
その2 ライ・ルッソ=ヤング&"You Wont Miss Me"/23歳の記憶は万華鏡のように
その3 アーロン・カッツ&"Quiet City"/つかの間、オレンジ色のときめきを
その4 ジョー・スワンバーグ&"Silver Bullets"/マンブルコアの重鎮、その全貌を追う!
その5 ケイト・リン・シャイル&"Empire Builder"/米インディー界、後ろ向きの女王
その6 ジョー・スワンバーグ&"Kissing on the Mouth"/私たちの若さはどこへ行くのだろう
その7 ジョー・スワンバーグ&"Marriage Material"/誰かと共に生きていくことのままならさ
その8 ジョー・スワンバーグ&"Nights and Weekends"/さよなら、さよならグレタ・ガーウィグ
その9 ジョー・スワンバーグ&"Alexander the Last"/誰かと生きるのは辛いけど、でも……
その10 ジョー・スワンバーグ&"The Zone"/マンブルコア界の変態王頂上決戦
その11 ジョー・スワンバーグ&"Private Settings"/変態ボーイ meets ド変態ガール
その12 アンドリュー・ブジャルスキー&"Funny Ha Ha"/マンブルコアって、まあ……何かこんなん、うん、だよね
その13 アンドリュー・ブジャルスキー&"Mutual Appreciation"/そしてマンブルコアが幕を開ける
その14 ケンタッカー・オードリー&"Team Picture"/口ごもる若き世代の逃避と不安
その15 アンドリュー・ブジャルスキー&"Beeswax"/次に俺の作品をマンブルコアって言ったらブチ殺すぞ
その16 エイミー・サイメッツ&"Sun Don't Shine"/私はただ人魚のように泳いでいたいだけ
その17 ケンタッカー・オードリー&"Open Five"/メンフィス、アイ・ラブ・ユー
その18 ケンタッカー・オードリー&"Open Five 2"/才能のない奴はインディー映画作るの止めろ!
その19 デュプラス兄弟&"The Puffy Chair"/ボロボロのソファー、ボロボロの3人
その20 マーサ・スティーブンス&"Pilgrim Song"/中年ダメ男は自分探しに山を行く
その21 デュプラス兄弟&"Baghead"/山小屋ホラーで愛憎すったもんだ
その22 ジョー・スワンバーグ&"24 Exposures"/テン年代に蘇る90's底抜け猟奇殺人映画
その23 マンブルコアの黎明に消えた幻 "Four Eyed Monsters"
その24 リチャード・リンクレイター&"ROS"/米インディー界の巨人、マンブルコアに(ちょっと)接近!
その25 リチャード・リンクレイター&"Slacker"/90年代の幕開け、怠け者たちの黙示録
その26 リチャード・リンクレイター&"It’s Impossible to Learn to Plow by Reading Books"/本を読むより映画を1本完成させよう
その27 ネイサン・シルヴァー&「エレナ出口」/善意の居たたまれない行く末
その28 ネイサン・シルヴァー&"Soft in the Head"/食卓は言葉の弾丸飛び交う戦場
その29 ネイサン・シルヴァー&"Uncertain Terms"/アメリカに広がる"水面下の不穏"
その30 ネイサン・シルヴァー&"Stinking Heaven"/90年代の粒子に浮かび上がるカオス
その31 ジョセフィン・デッカー&"Art History"/セックス、繋がりであり断絶であり
その32 ジョセフィン・デッカー&"Butter on the Latch"/森に潜む混沌の夢々
その33 ケント・オズボーン&"Uncle Kent"/友達っていうのは、恋人っていうのは
その34 ジョー・スワンバーグ&"LOL"/繋がり続ける世代を苛む"男らしさ"
その35 リン・シェルトン&"We Go Way Back"/23歳の私、あなたは今どうしてる?
その36 ジョー・スワンバーグ&「ハッピー・クリスマス」/スワンバーグ、新たな可能性に試行錯誤の巻
その37 タイ・ウェスト&"The Roost"/恐怖!コウモリゾンビ、闇からの襲撃!
その38 タイ・ウェスト&"Trigger Man"/狩人たちは暴力の引鉄を引く
その39 アダム・ウィンガード&"Home Sick"/初期衝動、血飛沫と共に大爆裂!
その40 タイ・ウェスト&"The House of the Devil"/再現される80年代、幕を開けるテン年代
その41 ジョー・スワンバーグ&"Caitlin Plays Herself"/私を演じる、抽象画を描く
その42 タイ・ウェスト&「インキーパーズ」/ミレニアル世代の幽霊屋敷探検