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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

João Viana&"A batalha de Tabatô"/ギニアビサウ、奪われた故郷への帰還

さてギニアビサウ共和国である。正直言うと今回紹介する映画を観るまで、そもそもギニアビサウ共和国の存在を知らなかったのだが、意外とそういう方も多いのではないだろうか。西アフリカに位置する共和制国家で、アフリカ大陸の西の端に位置している。ポルトガル人が最初期に植民地化したアフリカの地で、奴隷貿易の中継拠点となったが、独立戦争を経て1973年には独立を達成している。しかし90年代以降は内戦などの影響で不安定な情勢が続いているという。さて今回はそんなギニアビサウを舞台とした一作"A batalha de Tabatô"とその監督João Vianaについて紹介して行こう。

João Vianaは1966年11月24日アンゴラの州都ウアンボに生まれた。コインブラ大学で法について、ポルトでは映画について学ぶ。映画界においては音響/ストーリーボード/美術/脚本家など様々な領域で活躍しており、マノエル・デ・オリヴェイラジョアン・セーザル・モンテイロアルベルト・セイシャス・サントスなど名だたるポルトガルの名監督の元に就く。更にライターとしてラテンアメリカ映画作家たちを特集する"Dicionário de cinema ibero-americano"に参加するなど幅広く活躍している。

映画監督としてはまずIana Vianaと共同で"A Prisina"(2004)を監督しヴェネチア国際映画祭の短編部門で作品賞を獲得し華々しいデビューを飾る。そして2008年にはオリヴェイラ監督の100歳記念パーティを映し出した短編ドキュメンタリー"A Verdade Inventada"を、翌年2009年には同じ電車に乗り合わせた3人の男女の道行きを描き出した短編ドラマ"Alfama"を手掛ける。そして2013年には後述する長編の雛形である短編ドキュメンタリー"Tabatô"と共に、Vianaにとって初の長編映画である"A batalha de Tabatô"を監督する。

4500年前、あなた方が戦争を起こしている頃、私たちは農業を興した。2000年前、あなた方が戦争を起こしている頃、私たちは国を平和に治める方法に辿り着いた。そして今やはり、戦争に明け暮れるあなた方に、私たちが平和を授けよう……そんな厳かな響きを伴う言葉と重なるのはギニアビサウという国に広がる今だ。闇夜に浮かび上がる月、人々が犇めく騒々しい街角、そんな街をバイクで駆け抜ける青年たち……

今作の主人公はバイオ(Mutar Djebate)という老人だ。彼はとある事情からポルトガルに住んでいたのだが、久方ぶりに故郷であるギニアビサウの地を踏む。目的は大学で教師をしている娘のファトゥ(Fatu Djebaté)と再会するためだ。彼女はタバトという村出身のミュージシャンであるイドリッサ(Mamadu Baio)と結婚を控えていたのだが、バイオが呼ばれた理由はどうもそれだけではないらしい。

ギニアビサウ映画はおそらく殆どの人が観たことのない、観ていたとしてもこの国出身の著名な映画作家Flora Gomesくらいしかないだろうが、今作はギニアビサウという国を知らない人が観るにはうってつけかもしれない。何と言うか、この映画に流れる空気感は絶妙に間の抜けたものだ。再会したバイオとファトゥの会話の数々は、ぎこちないを越えた独特のリズム感がある。それは演者たちのブレッソンを彷彿とさせるヘタウマ演技が要因の1つかもしれないが、それ以上にこの国に流れているのどかな雰囲気を反映している様に思われる。

更にギニアビサウに広がる人々の営みや風景もまたこの独特な空気感に寄与しているとも言える。小さな大学でギニアビサウの歴史を学ぶ老若男女、椅子に座り編み物をする女性たちの姿はとてものほほんとした物だ。そしてギニアビサウの田舎町にはおそらく古い時代に建設されたのだろう塔、鬱蒼としてどこまでも続く森、砂浜に座礁した2隻の大きな船が印象的な形で現れ、この国の長きに渡る歴史の軌跡を雄弁に語っていく。そして今作の独特のリズムを強化するのがMario Mirandaによる撮影だ。彼は例えばジム・ジャームッシュなど80年代米インディー映画を彷彿とさせるロングショット且つ長回しによって、バイオたちの歩みを映し出していく。ギニアビサウの自然の中、ゆったりと歩を進める彼らの姿は白昼夢のような感触を宿していく。

そしてバイオとファトゥはイドリッサの故郷であるタバト村へと赴くこととなる。この村は西アフリカに豊かさをもたらしたマンディンカ族の始まりの地であり、村民たちは皆音楽の類い稀な才能を持ち合わせているという。イドリッサのそんな村民の1人なのである。それでも予想通りと言うべきか、バイオたちの道行きも何処かそっとぼけたような笑いが溢れている。だがその間の抜けた雰囲気の中に、微かな不穏さが顔を出すことにも気づく筈だ。車中でバイオは自身の過去について娘に告白する、ギニアビサウが独立のため武器を持ち立ち上がった時、自分はポルトガル側について彼らと戦っていたのだと。故に彼はポルトガルへと逃亡したのだと。そんな彼の罪の意識が物語を劇的に変貌させていく。

“A batalha de Tabatô”という題名は過去と現在においてバイオが繰り広げる戦いを指し示している。この2つの時間軸が交わりあう時、間の抜けたコメディは飛躍と幻想に満ちた神話へと昇華される。私たちは人間を越えた大いなる何かによって、いとも容易く行われる悲劇の数々を驚きを以て眺めることになるだろう。しかし同時にそれがバイオが本当の意味でギニアビサウへと帰還するための、故郷をその手に抱くまでの険しい旅路であることも悟るはずだ。そしてバイオの旅路の果てには、彼の帰還を祝福するように高らかな音楽が響き続ける。

今作は先述した短編"Tabatô"と共にベルリン国際映画祭でプレミア上映され、ポルトガルアカデミー賞と言われるソフィア賞ではドキュメンタリー部門の作品賞を獲得する。更に同年には中編ドキュメンタリー"Ó Marquês anda Cá Abaixo Outra Vez!"を監督、今作の英題は"The "M" of Portuguese Cinema"でありフリッツ・ラング「M」をモチーフとした今作はDoclisboa映画祭で上映され話題を博す。更にIMDB情報によると新作長編"Our Madness"の製作は既に進行中らしい。ということでViana監督の今後に期待。

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