鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

ジョー・スワンバーグ&「ドリンキング・バディーズ」/友情と愛情の狭間、曖昧な何か

ジョー・スワンバーグ&"Kissing on the Mouth"/私たちの若さはどこへ行くのだろう
ジョー・スワンバーグ&"LOL"/繋がり続ける世代を苛む"男らしさ"
ジョー・スワンバーグ&"Nights and Weekends"/さよなら、さよならグレタ・ガーウィグ
ジョー・スワンバーグ&"Alexander the Last"/誰かと生きるのは辛いけど、でも……
ジョー・スワンバーグ&"Silver Bullets"/マンブルコアの重鎮、その全貌を追う!
ケント・オズボーン&"Uncle Kent"/友達っていうのは、恋人っていうのは
ジョセフィン・デッカー&"Art History"/セックス、繋がりであり断絶であり
ジョー・スワンバーグ&"The Zone"/マンブルコア界の変態王頂上決戦
ジョー・スワンバーグ&"Autoerotic"/オナニーにまつわる4つの変態小噺
ジョー・スワンバーグ&"Private Settings"/変態ボーイ meets ド変態ガール
ジョー・スワンバーグ&"Caitlin Plays Herself"/私を演じる、抽象画を描く
ジョー・スワンバーグ&"All the Light in the Sky"/過ぎゆく時間の愛おしさについて
ジョー・スワンバーグ&"Marriage Material"/誰かと共に生きていくことのままならさ
ジョー・スワンバーグ&"24 Exposures"/テン年代に蘇る90's底抜け猟奇殺人映画
ジョー・スワンバーグ&「ドリンキング・バディーズ」/友情と愛情の狭間、曖昧な何か
ジョー・スワンバーグ&「ハッピー・クリスマス」/スワンバーグ、新たな可能性に試行錯誤の巻
ジョー・スワンバーグの作品についてはこちら参照。

マンブルコアの作家たちは長きに渡って自分たちの殻に閉じ籠り、メジャー作品とは距離を置いてきた。だがその中でデュプラス兄弟だけは意識的にマンブルコアという潮流を担いながら、Sony Pictures Classicsなどの配給会社やNetflixなど動画配信サイトと関係を結び、監督としてもリドリー・スコットの制作会社スコットフリーと組んで、ジョン・C・ライリーマリサ・トメイジョナ・ヒルなどを起用した一作「僕の大切な人と、そのクソガキ」を製作するなど、自身の仲間たちが着実にキャリアアップ出来るように道を整えてきていた。そしてテン年代前半に彼らの行動は身を結び、リン・シェルトンアンドリュー・ブジャルスキなどがメジャーへと進出、マンブルコアは終結を迎える訳だが、そんな状況においてマンブルコアの雄ジョー・スワンバーも華々しいメジャー進出を遂げていた。その作品こそが2013年製作の「ドリンキング・バディーズ 飲み友以上、恋人未満の甘い方程式」だ。

ケイト(「カワイイ私の作り方 全米バター細工選手権!」オリヴィア・ワイルド)はビール醸造所で秘書として働く女性だ。同僚にも恵まれ、恋人であるクリス(「カレの嘘と彼女のヒミツ」ロン・リヴィングストン)との関係も良好で順風満帆な日々を送っている。そんな彼女には最高の“呑み友達”であるルーク(「リアル刑事ごっこ in LA」ジェイク・ジョンソン)がいる。彼の冗談は最高だし、ビールの呑みっぷりもイカしてるし、ルークと一緒に過ごす時間はケイトにとってかけがえのない物だ。しかしだからこそ、何だか落ち着かなさを感じる自分にも気付いている。

スワンバーグの演出センスはメジャーに進出しても変わることはない、むしろメジャーを自分の領域に引き込んでいるとそんな自由さすら今作には宿っている。「ドリンキング・バディーズ」という題名が指し示す通り、誰も彼もアルコールを呑みまくる。パーティーでビール、バーでビール、家でビール、野外でビール、その呑みっぷりは気持ちが良いの一言で、この酩酊が心地よく画面にも反映されている。実際撮影中、演者も呑みまくって泥酔状態になることもしばしばだったそう。まず彼は特別な何かが起こる訳ではない、人々の平凡で楽しげな日常を丁寧に描き出すことで、今から私たちが時間を共にする人々について伝えていく。

まずケイト、男性だらけの職場で仕事にしろ人付き合いにしろサバサバと気っぷよい姿を見せる彼女がこの物語の牽引力な訳だ。そして彼女が漂う二人の男。ルークは茶目っ気たっぷりの男で、仕事中ジョークを繰り出すかと思えば他愛ない悪戯を仕掛けてきたりと、彼がいる場には笑いが耐えない。逆にクリスは内省的で口数は少なめ、お気に入りの作家はアルベール・カミュというインテリ肌な人物だ。そして何よりの違いはルークがビール派なのに対して、クリスはワイン派であること。端から見ればケイトとお似合いなのは完全にルークなのだが、彼女は確かにクリスも好きなのだ。この惑いが映画の核でもある訳だ。

そんな3人はルークの恋人であるジーン(「ミュージック・マン/脱・負け犬人生」アナ・ケンドリック)と共に、クリスの別荘へと遊びに行くこととなる。ジーンはクリスと気が合うようで、彼女らにケイトとルークにと別れて余暇を楽しむ。ケイトたちは別荘でブラックジャックで遊ぶ一方、ジーンたちは山へハイキングに行くのだが、スワンバーグは方や大はしゃぎ、方や静かな2つの道行きを交互に映し出していく。そしてケイトたちがビールを、ジーンたちがワインを呑み出す頃、観客にとっては案の定……という事件が起こり、物語は動き始める。

この余暇によって何かが変わってしまった4人の関係性からは以前の明るさが消え去り、ぎこちなさを伴うものへと変貌する。ある者は恋人に別れを切り出し、ある者はいつものように誰かと会話を交わせなくなり、ある者は秘密を抱えて悩み続ける。まるでしこたま酒を呑んだ後に到来する地味に苦痛な二日酔いといった感じだが、スワンバーグはある瞬間に浮かび上がる頗る微妙で気まずい空気を演出する手捌きが巧みだ。ここにおいて彼は撮影監督のベン・リチャードソン(「ハッピー・クリスマス」)と共に言葉でなく、彼女たちの視線や表情の移り変わりを繊細に映し取り、均衡が失われた後に広がるそれぞれの心のふらつきを描き出す。

先述した通り本作においてスワンバーグはプロの俳優を起用するという今までとは真逆の方法論へと打って出た訳だが(それでもタイ・ウェストフランク・V・ロスなど盟友も参加、スワンバーグ自身も数十秒ながら超印象的な役で出演)、演技スタイル自体は変わっていない。つまり物語の展開自体はあいっかりと脚本を詰めておきながらも、セリフについては一切を俳優たちに任し全編を即興で進めていく流れは全く変わらない。このスタイルはメジャー俳優たちにとって刺激的だったようで、特にアナ・ケンドリックはこれに惚れ込み「ハッピー・クリスマス」ピッチ・パーフェクト2」とアドリブ街道を邁進することとなるが、それはまた別のお話なのでこの記事を読んで欲しい。

自分たちで自由に演技プランを立てられる故に、出てくる俳優陣が皆生き生きしているが、最も印象的なのはやはりケイト役のオリヴィア・ワイルドだ。常に陽気な素振りを見せるからこそ、映画がスワンバーグお得意の気まずさで満たされる時に浮かべる、口がへの字の不機嫌顔が一層魅力的に際立ってくるのだ。そんな彼女は一見サバサバしているように思えながら、実際は誰よりも強く一つの思いに拘り続けている。つまりは“ルークとずっと一緒にいたい”という思いに。他の3人は状況に応じて自分の思いをぎこちなくも変えていく柔らかさを持ちながら、彼女は不器用なまでにこの思いに固執し続けるのだ。しかしこのケイトの思いを複雑なものとするのが、“友人/恋人”という概念だ。彼女にとって少なくとも男性との関係性はこのどちらかでしかない、この基準でしか関係性について考えることが出来ないのだ。だからこそ彼女は自分の中でルークをどちらかに納めようと悪戦苦闘するが、そこには自分の思いしか介在していない。ルークの思いは勘定には入っていないのだ。この一方的な算段がケイトを袋小路に追い詰めていく。

「ドリンキング・バディーズ」は誰かと共にいることについての、泥酔と二日酔いの間を漂うような痛くて切ない洞察だ。終盤においてケイトとルークの関係性は高揚と幻滅を行き交い、2人の視点をも交互に行き来することで、その洞察は深まっていく。そしていつしかスワンバーグは“そもそも友人/恋人って何だろう?”という問いへと私たちを導く。男女の関係性というのはこの2つの言葉が指し示すものしか存在しないのだろうか。それは違うのだ。“飲み友以上、恋人未満”というクソ長い邦題はある意味で的を射ている、そういう曖昧な言葉でしか形容できない曖昧な関係性だってあるのだ。この曖昧さはスワンバーグ作品において何度も問われる概念だが、今作ではそれが他とはまた違う親密さで描かれる。そんな曖昧さをケイトは抱き締められるのか、ラストシーンにその答えがある。

参考文献
http://www.slantmagazine.com/features/article/interview-joe-swanberg-2013(「ドリンキング・バディーズ」インタビューその1)
http://flavorwire.com/411008/flavorwire-interview-drinking-buddies-director-joe-swanberg-on-improv-craft-beer-and-the-real-chicago(「ドリンキング」インタビュー、シカゴと演技スタイルについて)
http://www.comingsoon.net/movies/features/107924-interview-diy-filmmaker-joe-swanberg-on-working-with-others(「ドリンキング〜」&"24 Exposures"インタビュー)
http://www.indiewire.com/2013/08/interview-drinking-buddies-star-jake-johnson-talks-rules-of-improv-working-with-joe-swanberg-frustrations-with-network-tv-94375/(ジョンソンインタビュー)

結局マンブルコアって何だったんだ?
その1 アーロン・カッツ&"Dance Party, USA"/レイプカルチャー、USA
その2 ライ・ルッソ=ヤング&"You Wont Miss Me"/23歳の記憶は万華鏡のように
その3 アーロン・カッツ&"Quiet City"/つかの間、オレンジ色のときめきを
その4 ジョー・スワンバーグ&"Silver Bullets"/マンブルコアの重鎮、その全貌を追う!
その5 ケイト・リン・シャイル&"Empire Builder"/米インディー界、後ろ向きの女王
その6 ジョー・スワンバーグ&"Kissing on the Mouth"/私たちの若さはどこへ行くのだろう
その7 ジョー・スワンバーグ&"Marriage Material"/誰かと共に生きていくことのままならさ
その8 ジョー・スワンバーグ&"Nights and Weekends"/さよなら、さよならグレタ・ガーウィグ
その9 ジョー・スワンバーグ&"Alexander the Last"/誰かと生きるのは辛いけど、でも……
その10 ジョー・スワンバーグ&"The Zone"/マンブルコア界の変態王頂上決戦
その11 ジョー・スワンバーグ&"Private Settings"/変態ボーイ meets ド変態ガール
その12 アンドリュー・ブジャルスキー&"Funny Ha Ha"/マンブルコアって、まあ……何かこんなん、うん、だよね
その13 アンドリュー・ブジャルスキー&"Mutual Appreciation"/そしてマンブルコアが幕を開ける
その14 ケンタッカー・オードリー&"Team Picture"/口ごもる若き世代の逃避と不安
その15 アンドリュー・ブジャルスキー&"Beeswax"/次に俺の作品をマンブルコアって言ったらブチ殺すぞ
その16 エイミー・サイメッツ&"Sun Don't Shine"/私はただ人魚のように泳いでいたいだけ
その17 ケンタッカー・オードリー&"Open Five"/メンフィス、アイ・ラブ・ユー
その18 ケンタッカー・オードリー&"Open Five 2"/才能のない奴はインディー映画作るの止めろ!
その19 デュプラス兄弟&"The Puffy Chair"/ボロボロのソファー、ボロボロの3人
その20 マーサ・スティーブンス&"Pilgrim Song"/中年ダメ男は自分探しに山を行く
その21 デュプラス兄弟&"Baghead"/山小屋ホラーで愛憎すったもんだ
その22 ジョー・スワンバーグ&"24 Exposures"/テン年代に蘇る90's底抜け猟奇殺人映画
その23 マンブルコアの黎明に消えた幻 "Four Eyed Monsters"
その24 リチャード・リンクレイター&"ROS"/米インディー界の巨人、マンブルコアに(ちょっと)接近!
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