鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

タイ・ウェスト&「バレー・オブ・バイオレンス」/暴力の谷、蘇る西部

タイ・ウェスト&"The Roost"/恐怖!コウモリゾンビ、闇からの襲撃!
タイ・ウェスト&"Trigger Man"/狩人たちは暴力の引鉄を引く
タイ・ウェスト&"The House of the Devil"/再現される80年代、幕を開けるテン年代
タイ・ウェスト&「インキーパーズ」/ミレニアル世代の幽霊屋敷探検
タイ・ウェスト&「サクラメント 死の楽園」/泡を吹け!マンブルコア大遠足会!
タイ・ウェストの経歴および彼の長編作品についてはこの記事参照。

西部劇、アメリカの歴史であり、そして魂であり、それ故に数え切れないほどの作品が作られ映画史に名を残している。そんな西部劇は今新たなる局面に来ている。アメリカ産西部劇とイタリア産マカロニ・ウェスタンなどを同時に貪欲に摂取してきた世代が、また新しい西部劇を作り始めている。例えばクエンティン・タランティーノアメリカの歴史に刻まれた人種差別などの闇を西部劇というジャンルによって描き出したジャンゴ 繋がれざる者ヘイトフル・エイトなどを作りだした。勿論この領域に踏みいるのはアメリカ人だけではない、イギリス人作家であるダニエル・バーバージョン・マクリーンはそれぞれ全く別のアプローチを使い「キーピング・ルーム」「スロウ・ウェスト」という新たな西部劇を作ってみせた。さて、そんな歴史ある西部劇に対して、米インディー映画界の偉大なる古典主義者タイ・ウェストはどんなアプローチを試みたのか。その答えが彼の最新長編“In a Valley of Violence”という訳である。

流れ者ポール(ゲッタウェイ スーパースネーク」イーサン・ホーク)は愛犬であるアビーと共に、メキシコを目指してアメリカの広い荒野を旅していた。道中チンケで卑しい神父(パシフィック・リムバーン・ゴーマン)を蹴散らした後、彼が辿り着くのはベントンという町だ。かつては炭鉱町として栄えながら、今ではその名残など見る影もない。そして見捨てられ荒れ果てた末に、この町はこう呼ばれるようになっていた、“暴力の谷(Valley of Violence)”と。

ウェストは今まで80年代の映画、特にホラー作品にこだわりを見せ、その美学を自身の作品によって体現してきたが、今作はそれ以前の時代へと足を踏み入れている。35mmで撮される荒野の風景、赤と黒と白の陰影が交わりあうOPのアニメーション、どれも観る者の心を懐かしさで刺激していく。もうここにおいてはアメリカ産の西部劇とマカロニ・ウェスタンの境界線は存在せず、とにもかくにも映画を貪り続けた人間の心に広がる、美しく荒涼たる記憶だけが息づいているのだ。

そして物語は西部劇の常道を堂々たる足取りを以て進んでいく。ポールは酒場へと入り時間を潰していると、似合わない口髭を生やした居丈高な悪漢ジリー(インサイドマン」ジェームズ・ランソン)が彼に因縁をつけてくる。ポールはジリーの言葉を無視し続けると、悪漢は怒りを募らせ、俺様がどういう人間か知っててそんな態度を取るのか?と小物のお手本のようなセリフを吐く。観客は思うだろう、彼がどういう人間か知らないのはお前の方だとほくそえむだろう。ポールはそんな言葉一顧だにしないが、彼にも譲れない一線はある。そして2人の間の緊張感を少しずつ高めに高め、ポールは痛烈な一発をお見舞いするのだ。ウェスト作品と西部劇というジャンルの重く渋い足並みは、このようにして重なっていく。

更にウェストの美学というべき代物が浮かびあがるのは、深い闇の中においてだ。町を後にしたポールが荒野で眠りにつく時、報復のためジリーが仲間を連れて彼の元へとやってくる。ウェストは長編デビュー作“The Roost”においてC級的なコウモリ襲撃映画に端正なる闇を宿したことで格調高いホラー作品を作り上げたが、ここにおいても闇の奥からズタ袋を被ったジリーが現れる瞬間は頗る不気味なものだ。松明が揺らめく中で、ポールに対する残酷なる報復が幕を開ける。そして流れ者の絶叫が闇の中に谺しながら、その響きは常しえの漆黒に呑み込まれていく。

“In a Valley of Violence”イーサン・ホークなどの見慣れた顔を除けば、60, 70年代に作られた西部劇/マカロニ・ウェスタンの一作と言われても遜色がない。歩くような早さで紡がれる物語、デジタルとは全く異なるフィルムの質感。ウェストは“○○にオマージュを捧げる”という言葉を嫌っているが、それは彼が現代から過去を眺めながら映画を作っているのではなく、過去そのものに身を浸しながら映画を作っているからだ。彼の作品はある時代へのオマージュではなく、時代そのものなのだ。その研ぎ澄まされた郷愁が彼の作品を唯一無二の存在へと高めていっているのである。

今作において時代の体現を担う重要な要素が音楽と撮影だ。まずジェフ・グレイスによる劇伴には、聞き覚えのある口笛の音に始まり、登場人物たちの心と彼らの間に漂う緊張感を饒舌に語るような響きを打ち鳴らしていく。グレイスの奏でるこの響きと共に、ポールは不殺の誓いを投げ捨て、復讐のために“暴力の谷”へと舞い戻ることとなる。そしてエリック・ロビンス(先述の“The Roost”も担当)による35mmフィルム撮影は今作で最も重要な要素だろう。とにかくこの粒子のキメ細やかな映像が、デジタルにおいても見慣れてしまったアメリカの荒野や寂れた街並みを一気にあの時代へと引き戻していく。スチール写真と本編の映像を見比べてもらえば分かるが、本当に見える世界が全く違ってくるのだ。

それでいてウェストはあの当時とはまた微妙に違う奇妙なユーモアをも作品に宿していく。例えば冒頭の神父は劇中で何度も出てくるのだが、その反復は映画の緊張感を良い意味で緩ませ、作品に緩急のリズムをつけていく。そしてジリーの存在感もまた抜群で、私たちが考える“主人公にボコられるケツの穴の小せえ小悪党”というイメージをド直球で突き進んでいく。彼を演じるジェームズ・ランソン「THE WIRE/ザ・ワイヤー」ショーン・ベイカー「タンジェリン」でもお馴染みだが、良い所もクソもないクソッタレ役を嬉々として演じており最高だ。

ということで俳優陣についても少し。ポールを救う少女メリー・アン役のタイッサ・ファーミガやジリーの妻役であるカレン・ギランら女性陣は40, 50年代の西部劇に出てくる罵詈雑言も厭わない勝ち気な女性としてスラップスティックに物語を掻き乱していく。ジョン・トラヴォルタはジリーの父親である警察署長役で悪役は悪役なのだが、実態は息子の尻拭いに奔走するオッサン役でかなりオイシい役である。更にインディーホラー界の雄でタイ・ウェストの恩人であるラリー・フェッセンデンもジリーの仲間役で登場。ウェストの初期作“The Roost”“Trigger Man”では美味しすぎる死に様を晒していたが、ここでも最高に惨めな死に様を嬉々として晒すのでお楽しみに。ホークを除くMVPはポールの愛犬アビー役のジャンピーだ、とにかく可愛い、とにかく賢い、挙動の1つ1つに愛らしさが籠っており、お風呂入ってる姿なんか愛くるしさも塊だ。カンヌ映画祭に出品されていれば、今作のパルムドッグ獲得は確実だったのに!

そしてポール役のイーサン・ホーク、最近は私の現時点における2016年ベスト“The Phenomなど米インディー界の若き才能と共に映画製作をしているが、今作もバッチリ決めてくれている。人生への倦怠感を漲らせる風体に始まり、不殺の誓いを破り復讐へと赴く姿に満ちる哀愁は並々ならぬものがある。そして静かな怒りに震えながら仇敵へと銃口を向けるその時、彼の後ろには粒子深い青の空と何処までも続くような荒れた広野が現れる。この筆舌に尽くしがたい渋味はホークにとって1つの頂点であるのかもしれない。

“In a Valley of Violence”タイ・ウェストの最高純度の懐古趣味が理想的な形で達成されたというべき作品だ。この作品を観ながら、私たちはあの当時の映画を観ているという感慨を更に越えて、自分たちはあの当時の古びた埃臭い映画館の中にいるのだとそんな感動に浸ることになるだろう。

結局マンブルコアって何だったんだ?
その1 アーロン・カッツ&"Dance Party, USA"/レイプカルチャー、USA
その2 ライ・ルッソ=ヤング&"You Wont Miss Me"/23歳の記憶は万華鏡のように
その3 アーロン・カッツ&"Quiet City"/つかの間、オレンジ色のときめきを
その4 ジョー・スワンバーグ&"Silver Bullets"/マンブルコアの重鎮、その全貌を追う!
その5 ケイト・リン・シャイル&"Empire Builder"/米インディー界、後ろ向きの女王
その6 ジョー・スワンバーグ&"Kissing on the Mouth"/私たちの若さはどこへ行くのだろう
その7 ジョー・スワンバーグ&"Marriage Material"/誰かと共に生きていくことのままならさ
その8 ジョー・スワンバーグ&"Nights and Weekends"/さよなら、さよならグレタ・ガーウィグ
その9 ジョー・スワンバーグ&"Alexander the Last"/誰かと生きるのは辛いけど、でも……
その10 ジョー・スワンバーグ&"The Zone"/マンブルコア界の変態王頂上決戦
その11 ジョー・スワンバーグ&"Private Settings"/変態ボーイ meets ド変態ガール
その12 アンドリュー・ブジャルスキー&"Funny Ha Ha"/マンブルコアって、まあ……何かこんなん、うん、だよね
その13 アンドリュー・ブジャルスキー&"Mutual Appreciation"/そしてマンブルコアが幕を開ける
その14 ケンタッカー・オードリー&"Team Picture"/口ごもる若き世代の逃避と不安
その15 アンドリュー・ブジャルスキー&"Beeswax"/次に俺の作品をマンブルコアって言ったらブチ殺すぞ
その16 エイミー・サイメッツ&"Sun Don't Shine"/私はただ人魚のように泳いでいたいだけ
その17 ケンタッカー・オードリー&"Open Five"/メンフィス、アイ・ラブ・ユー
その18 ケンタッカー・オードリー&"Open Five 2"/才能のない奴はインディー映画作るの止めろ!
その19 デュプラス兄弟&"The Puffy Chair"/ボロボロのソファー、ボロボロの3人
その20 マーサ・スティーブンス&"Pilgrim Song"/中年ダメ男は自分探しに山を行く
その21 デュプラス兄弟&"Baghead"/山小屋ホラーで愛憎すったもんだ
その22 ジョー・スワンバーグ&"24 Exposures"/テン年代に蘇る90's底抜け猟奇殺人映画
その23 マンブルコアの黎明に消えた幻 "Four Eyed Monsters"
その24 リチャード・リンクレイター&"ROS"/米インディー界の巨人、マンブルコアに(ちょっと)接近!
その25 リチャード・リンクレイター&"Slacker"/90年代の幕開け、怠け者たちの黙示録
その26 リチャード・リンクレイター&"It’s Impossible to Learn to Plow by Reading Books"/本を読むより映画を1本完成させよう
その27 ネイサン・シルヴァー&「エレナ出口」/善意の居たたまれない行く末
その28 ネイサン・シルヴァー&"Soft in the Head"/食卓は言葉の弾丸飛び交う戦場
その29 ネイサン・シルヴァー&"Uncertain Terms"/アメリカに広がる"水面下の不穏"
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その31 ジョセフィン・デッカー&"Art History"/セックス、繋がりであり断絶であり
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