鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

ダミアン・マニヴェル&"Le Parc"/愛が枯れ果て、闇が訪れる

さて、ダミアン・マニヴェルである。去年彼の長編デビュー作である「若き詩人」が劇場公開されたり「息を殺して」五十嵐耕平監督と共に青森を舞台とした作品を共同で製作していたりと、彼の存在は日本でも結構馴染みが深い。今回はそんなマニヴェル監督が2016年に手掛けた第2長編“Le Parc”を紹介したいのだが、これがまあ何とも凄いことになっている一作だった。

この物語の主人公はナオミとマキシーム(Naomie Vogt-Roby&Maxime Bachellerie)という10代の大学生たちだ。付き合いたての彼女たちが初めてのデートの場所として選んだのは家の近くにある広い公園だった。最初はぎこちない交流を続ける二人だったが、自然の中で口ごもりながらも自分のことについて話していくにつれ、その顔には笑顔が浮かび始め、2人の間の距離も少しずつ縮まっていく。

“Le Parc”という作品を通じて、まず私たちは彼らの初々しい恋の道行きを眺めることとなる。マキシームは待ち合わせ時間よりも少し早く来てしまい、ベンチに座って膝を叩きながらナオミが来るのをソワソワと待ちわびる。しかしいざ会ったとなると、気恥ずかしさで会話が全く弾まない。うん、そうだね……まあ、そんなかな……という風な返事ばかりが相手から返り、恋心が歯痒いほどに空回っていく。この幼い恋の何とも微笑ましい瑞々しさが今作の核な訳だ。

そして題名にもある通り、恋の道行きにおいては公園が重要な役割を果たす。ナオミたちの周りには広大な自然が広がっており、鮮やかな緑を纏った幾千の葉々が風に揺られさざめきを響かせる。子供たちは歓声を上げながらボール遊びを楽しみ、Tシャツの男女はジョギングに精を出す、そして小さな木陰では恋人たちが仲睦まじく互いに囁きあっている。撮影監督イザベル・パリアイ(脚本も兼任)のカメラはその風景を煌めくような陽光と共に捉えていく。まるでここにある全てが太陽によって祝福されているのだとでもいう風に。そんな親密な雰囲気の中で、ナオミたちもやはり互いに心を開き、手を取り合い、静寂に浸りながら唇を重ねあう。

だが同時に彼女たちの背後に何かが迫ってきていることにも私たちは気づくはずだ。ある時芝生の上に寝転がりながらナオミが携帯でセルフィーを写そうとする。いや、俺写真撮られるの苦手なんだよ、いいじゃん、こんなん大したことないでしょ……そんな他愛のない会話が繰り広げられる中、彼女たちの声の向こう側から不気味な音が響き始める。聞く者の内臓を直接震わせるような、禍々しい低音が連なった地鳴りのような音が観客の鼓膜に届く。私たちはそれが公園の奥にある線路を走る列車の響きだとすぐに分かるだろう、しかし響きがそれ以上の意味を持っていることをも悟るだろう。

マニヴェル監督が今作を以て描こうとするのは、とある瞬間についてだ。誰もが生きている何の変哲もない、全くありふれた日常。しかしその日常の中に今後の人生を一変させてしまうような瞬間が到来する時がある。その激変はおそらく端から見れば他の日常と大差ない、どうでもいい些末なものに見えてしまうのだろう。それでも当人にとってその瞬間ほど深刻で、取り返しのつかないような震えを伴う時はない。マニヴェル監督はこの一瞬の激動を、端から観る私たちに追体験させようとする。

その時、彼は2つの要素を際立たせる。まず1つがナオミの表情だ。彼女が人生を変えるような時間に遭遇している時、カメラは彼女の顔をただひたすらに捉え続ける。最初不安とも高揚感ともつかぬ表情が浮かんでいたのが、そこからある一点に向けて表情がみるみるうちに変わっていく。鼻のひくつき、瞳の輝き、唇のすぼみ、頬の震え、そういった細かい動きの全てを省略や時間の飛躍を一切介することなく、時の流れのままに掬いとる。更に時が流れてゆくということは、世界が夜へと傾いていくということと同義であり、監督は必然的に訪れる闇をも激動へと取り込むのだ。そしてあれほど陽光豊かだった世界は不気味なまでの黒に塗り潰されていく。

だが監督は激動の探求をここで終わらせることなく、正に今激動を迎えている人間の心の奥へと更なる潜行を遂げる。ここから“Le Parc”は他の映画とは一線を画した全く異様な領域へと立ち入ることとなる。自分は見てはならないものを見ている、だが画面から目を離すことができない、そんな深淵を覗きこむような感覚を私たちは味わうようなことになるだろう。だが最後に今作は頗る不穏でありながらも、同時に息を呑むほど美しい寓話へと変貌を遂げ、私たちにこう囁く。今のこの時にも誰かの心の中で愛が芽生え、愛が花開き、愛がしおれ、愛が枯れ果ているかもしれない、それでも人生は続いていくのだ。

私の好きな監督・俳優シリーズ
その151 クレベール・メンドーサ・フィーリョ&「ネイバリング・サウンズ」/ブラジル、見えない恐怖が鼓膜を震わす
その152 Tali Shalom Ezer&"Princess"/ママと彼女の愛する人、私と私に似た少年
その153 Katrin Gebbe&"Tore Tanzt"/信仰を盾として悪しきを超克せよ
その154 Chloé Zhao&"Songs My Brothers Taught Me"/私たちも、この国に生きている
その155 Jazmín López&"Leones"/アルゼンチン、魂の群れは緑の聖域をさまよう
その156 Noah Buschel&"Bringing Rain"/米インディー映画界、孤高の禅僧
その157 Noah Buschel&"Neal Cassady"/ビート・ジェネレーションの栄光と挫折
その158 トゥドール・クリスチャン・ジュルギウ&「日本からの贈り物」/父と息子、ルーマニアと日本
その159 Noah Buschel&"The Missing Person"/彼らは9月11日の影に消え
その160 クリスティ・プイウ&"Marfa şi Banii"/ルーマニアの新たなる波、その起源
その161 ラドゥー・ムンテアン&"Hîrtia va fi albastrã"/革命前夜、闇の中で踏み躙られる者たち
その162 Noah Buschel&"Sparrows Dance"/引きこもってるのは気がラクだけれど……
その163 Betzabé García&"Los reyes del pueblo que no existe"/水と恐怖に沈みゆく町で、生きていく
その164 ポン・フェイ&"地下香"/聳え立つビルの群れ、人々は地下に埋もれ
その165 アリス・ウィノクール&「ラスト・ボディガード」/肉体と精神、暴力と幻影
その166 アリアーヌ・ラベド&「フィデリオ、あるいはアリスのオデッセイ」/彼女の心は波にたゆたう
その167 Clément Cogitore&"Ni le ciel ni la terre"/そこは空でもなく、大地でもなく
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その169 Kiro Russo&"Viejo Calavera"/ボリビア、黒鉄色の絶望の奥へ
その170 Alex Santiago Pérez&"Las vacas con gafas"/プエルトリコ、人生は黄昏から夜へと
その171 Lina Rodríguez&"Mañana a esta hora"/明日の喜び、明日の悲しみ
その172 Eduardo Williams&"Pude ver un puma"/世界の終りに世界の果てへと
その173 Nele Wohlatz&"El futuro perfecto"/新しい言葉を知る、新しい"私"と出会う
その174 アレックス・ロス・ペリー&"Impolex"/目的もなく、不発弾の人生
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その176 Lendita Zeqiraj&"Ballkoni"/コソボ、スーパーマンなんかどこにもいない!
その177 ドミンガ・ソトマヨール&"Mar"/繋がりをズルズルと引きずりながら
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その179 Alessandro Aronadio&"Orecchie"/イタリア、このイヤミなまでに不条理な人生!
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