鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

はてなダイアリーのサービスが終了ということで、はてなブログで鉄腸野郎Z-SQUAD!改め鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!へ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。

ジョー・スワンバーグ&「ギャンブラー」/欲に負かされ それでも一歩一歩進んで

ジョー・スワンバーグ&"Kissing on the Mouth"/私たちの若さはどこへ行くのだろう
ジョー・スワンバーグ&"LOL"/繋がり続ける世代を苛む"男らしさ"
ジョー・スワンバーグ&「ハンナだけど、生きていく!」/マンブルコア、ここに極まれり!
ジョー・スワンバーグ&"Nights and Weekends"/さよなら、さよならグレタ・ガーウィグ
ジョー・スワンバーグ&"Alexander the Last"/誰かと生きるのは辛いけど、でも……
ジョー・スワンバーグ&"Silver Bullets"/マンブルコアの重鎮、その全貌を追う!
ケント・オズボーン&"Uncle Kent"/友達っていうのは、恋人っていうのは
ジョセフィン・デッカー&"Art History"/セックス、繋がりであり断絶であり
ジョー・スワンバーグ&"The Zone"/マンブルコア界の変態王頂上決戦
ジョー・スワンバーグ&"Autoerotic"/オナニーにまつわる4つの変態小噺
ジョー・スワンバーグ&"Private Settings"/変態ボーイ meets ド変態ガール
ジョー・スワンバーグ&"Caitlin Plays Herself"/私を演じる、抽象画を描く
ジョー・スワンバーグ&"All the Light in the Sky"/過ぎゆく時間の愛おしさについて
ジョー・スワンバーグ&"Marriage Material"/誰かと共に生きていくことのままならさ
ジョー・スワンバーグ&"24 Exposures"/テン年代に蘇る90's底抜け猟奇殺人映画
ジョー・スワンバーグ&「ドリンキング・バディーズ」/友情と愛情の狭間、曖昧な何か
ジョー・スワンバーグ&「ハッピー・クリスマス」/スワンバーグ、新たな可能性に試行錯誤の巻
ジョー・スワンバーグ&「新しい夫婦の見つけ方」/人生、そう単純なものなんかじゃない
ジョー・スワンバーグの作品についてはこちら参照。

2011年、年に7本もの長編映画を完成させるというファスビンダーも斯くやの製作本数を成し遂げた後、ジョー・スワンバーは毎年旺盛な創作欲を発揮し米インディー映画界において独特の立ち位置を築いてきた。2016年はそんな彼が初めて長編を作らなかった年だった。とはいえそれは単純換算長編2本分の長さを誇るTVシリーズ「EASY」を作っていたからなのだが、それでも今までにない事態であったことは確かだ。しかし翌年やはり彼は、慣れ親しんだ長編映画製作へと帰ってくる。そうして完成した作品が第17長編(!)「ギャンブラー」aka“Win It All”だった。

30代も半ばを過ぎながら、エディ(「新しい夫婦の見つけ方」ジェイク・ジョンソン)は定職にもつかずシカゴの町中をプラップラする人生を送っている。だが彼にとって一番の問題はギャンブル依存症にまつわるアレコレだ。せっかく金を稼いでも全部ポーカーに注ぎ込んで、朝には一文無しの馬鹿野郎の出来上がり。幸運に恵まれたことなど一度もないが、いつか女神が微笑む日をエディは待ちながら、金を賭けては金をすり、金を賭けては金をすり……

「ギャンブラー」はそんな大人になれないサイテー男の姿を描き出す、スワンバーグお得意のコメディだ。まず彼はエディという男を取り巻く世界を彼の日常と共に丁寧に描き出していく。撮影監督のEon Mara(“Easy”の全話を担当)は16mmフィルムで切り取るシカゴの街並みは猥雑な活気を呈している。騒音を上げながら道を行く車の群れ、ビールの苦くも溌剌な匂いが漂う酒場、異様な熱気に満ちた賭博場、その外で地面に寝転がってるオッサン。フィルムの荒い粒子に浮かび上がる空気感というべき代物は猥雑でいて、なかなかに心地良い。エディはぬるま湯に浸かるように、そんな世界を不真面目に漂う訳だ。

が、そうも言ってられない事態が突然彼に降りかかってくる。ある時彼の家にデヴィッドという古い友人がやってくる。自分が刑務所にいる間鞄を預かってほしいと彼に頼まれ、エディは承諾するのだが、開けるなと言われた鞄を速攻で開けてしまう。そこに入っていたのはヤバいブツの数々とそして札束の山! 止めとけ止めとけと自分に言い聞かせるも、誘惑に負けてギャンブルにその金をブチこんだエディはものの見事に大敗北を喫してしまう。

そしてデヴィッドが予定よりも早く刑務所から出るのを知った彼は……というクライムコメディに、なりそうだがスワンバーグはそうしない。金を失いヤバいと悟ったエディは兄のロン(「ポリス・バカデミー/マイアミ危機連発!」ジョー・ロー・トルグリオ)に頼んで会社で頑張ったり、相談役のジーン(「キアヌ」キーガン=マイケル・キー)と共に依存者友の会に参加したりと更生の道を歩み始めるのだ。午後3時が朝の7時と化している彼にとって、早朝に鳴り響く目覚まし時計の音は地獄の鐘さながらの響きだ。芝を刈ったり、重い道具を運んだりと肉体労働も楽じゃない。会では自分がクソ野郎だと皆の前で認めなくちゃならず、恥ずかしさもひとしおだ。それでもこのゆっくりと一歩一歩を歩むしか、依存症から抜け出す道はないとも彼は知っている。

この歩みはスワンバーグの演出法とも共鳴していると言えるだろう。エディはある時エバ(「EASY」アイスリン・デルベス)という看護師と出会い、交流を深めていくのだがここにスワンバーグの丁寧さというものが露になる。彼らは出会って酒呑んだらすぐセックス!なんてロマコメの常道を行くことはない。会話を通じて気が合うと知った後、彼らは朝食を共にしたり、友人を交えボウリングに行ったりしてゆっくりと仲を深めていく。実際そうだろう、会ってすぐセックスしたらいつの間に恋人関係なんてあんまりない。スワンバーグは人間関係が構築されていく様を丹念に描いていく。かといってこれが地味である訳じゃない。スワンバーグのアドリブ志向はここでも健在、エディたちを演じるジェイク・ジョンソンアイスリン・デルベスに伸び伸びとキャラを演じさせ、キャラと俳優の素とが織り合わされる姿を捉える。だからこそ彼らは私たちの隣で生きているのだと思えてくる。

こういった演出の数々にスワンバーグの強みがある。更生の道筋、恋愛関係の進展などなどやろうと思えば編集のマジックで省略できる些末な事象に、些末であるからこそ焦点を当てていく。依存症は簡単に治らないしセックスもすぐにはやらない、人は一進一退を繰り返しながら何かを積み重ねて、初めて何処かへと辿り着くことができる。スワンバーグは過去の作品を通じてこのプロセスを懇切丁寧に描き出してきたのだ。そして彼の誠実は作品を通じて洗練を遂げていき、この「ギャンブラー」には鬼気迫るまでの洗練が見えてくる訳だ。

マンブルコアの親密なる空気が物語内に満ち渡る頃、しかし忘れていたあの事態が顔を出してくる。更正への道も軌道に乗りながら、エディの元に突然デヴィッドから電話がかかってくる。何と刑期が極端に早まり1週間後には釈放されるというのだ。もちろんギャンブルに注ぎ込んだ金は戻っていない故に、狼狽しきりの彼は逼迫した状況へと追い込まれる。この展開はまるで依存症の泥沼を寓話的に描いたかのようだ。一番危ないのは、症状が収まってきてちょっと治ってきてるんじゃ?と患者が思える正にその時だ。気が緩んでいるからこそ、ふとした瞬間渦巻く欲望が彼に牙を剥くこととなる。

さて今作の邦題は「ギャンブラー」であるが、これを聞いた時アメリカ映画好きなら真っ先にジェームズ・カーン主演の“The Gambler”(邦題は「熱い賭け」)を思い出すのではないだろうか。しがない高校教師がギャンブルの魅力に絡め取られ、破滅への道をひた走る一作だが、この映画が作られた70年代はご存知アメリカン・ニューシネマの全盛期だ。今作やジャックポットなど勝つにしろ負けるにしろ、賭けを止めたくても止められないギャンブラーたちが堕っこちていく様は正にあの破滅的かつ虚無的な時代を象徴する物であり、そんな作品群の血が「ギャンブラー」には確かに流れている。アメニューの破滅的志向とマンブルコアの親密さという相反する要素がエディという男の中で混ざりあう姿は、16mmの荒い粒子も相まって全くスリリングだ。

「ギャンブラー」はマンブルコアの空気感は確かに引き継ぎながらも、ニューシネマなどのアメリカ映画史の伝統をも汲んだスワンバーグの新境地とも言うべき映画となっている。この道の果てエディが行き着く先は、何とまあ人を喰ったような白黒つかない領域だ。しかしその曖昧さこそがスワンバーグ映画に欠かせない。何とも言えぬ感じで進み、何とも言えぬ感じで続く、一言では到底表し切れない代物こそが、私たちが生きる“人生”なのだから。

結局マンブルコアって何だったんだ?
その1 アーロン・カッツ&"Dance Party, USA"/レイプカルチャー、USA
その2 ライ・ルッソ=ヤング&"You Wont Miss Me"/23歳の記憶は万華鏡のように
その3 アーロン・カッツ&"Quiet City"/つかの間、オレンジ色のときめきを
その4 ジョー・スワンバーグ&"Silver Bullets"/マンブルコアの重鎮、その全貌を追う!
その5 ケイト・リン・シャイル&"Empire Builder"/米インディー界、後ろ向きの女王
その6 ジョー・スワンバーグ&"Kissing on the Mouth"/私たちの若さはどこへ行くのだろう
その7 ジョー・スワンバーグ&"Marriage Material"/誰かと共に生きていくことのままならさ
その8 ジョー・スワンバーグ&"Nights and Weekends"/さよなら、さよならグレタ・ガーウィグ
その9 ジョー・スワンバーグ&"Alexander the Last"/誰かと生きるのは辛いけど、でも……
その10 ジョー・スワンバーグ&"The Zone"/マンブルコア界の変態王頂上決戦
その11 ジョー・スワンバーグ&"Private Settings"/変態ボーイ meets ド変態ガール
その12 アンドリュー・ブジャルスキー&"Funny Ha Ha"/マンブルコアって、まあ……何かこんなん、うん、だよね
その13 アンドリュー・ブジャルスキー&"Mutual Appreciation"/そしてマンブルコアが幕を開ける
その14 ケンタッカー・オードリー&"Team Picture"/口ごもる若き世代の逃避と不安
その15 アンドリュー・ブジャルスキー&"Beeswax"/次に俺の作品をマンブルコアって言ったらブチ殺すぞ
その16 エイミー・サイメッツ&"Sun Don't Shine"/私はただ人魚のように泳いでいたいだけ
その17 ケンタッカー・オードリー&"Open Five"/メンフィス、アイ・ラブ・ユー
その18 ケンタッカー・オードリー&"Open Five 2"/才能のない奴はインディー映画作るの止めろ!
その19 デュプラス兄弟&"The Puffy Chair"/ボロボロのソファー、ボロボロの3人
その20 マーサ・スティーブンス&"Pilgrim Song"/中年ダメ男は自分探しに山を行く
その21 デュプラス兄弟&"Baghead"/山小屋ホラーで愛憎すったもんだ
その22 ジョー・スワンバーグ&"24 Exposures"/テン年代に蘇る90's底抜け猟奇殺人映画
その23 マンブルコアの黎明に消えた幻 "Four Eyed Monsters"
その24 リチャード・リンクレイター&"ROS"/米インディー界の巨人、マンブルコアに(ちょっと)接近!
その25 リチャード・リンクレイター&"Slacker"/90年代の幕開け、怠け者たちの黙示録
その26 リチャード・リンクレイター&"It’s Impossible to Learn to Plow by Reading Books"/本を読むより映画を1本完成させよう
その27 ネイサン・シルヴァー&「エレナ出口」/善意の居たたまれない行く末
その28 ネイサン・シルヴァー&"Soft in the Head"/食卓は言葉の弾丸飛び交う戦場
その29 ネイサン・シルヴァー&"Uncertain Terms"/アメリカに広がる"水面下の不穏"
その30 ネイサン・シルヴァー&"Stinking Heaven"/90年代の粒子に浮かび上がるカオス
その31 ジョセフィン・デッカー&"Art History"/セックス、繋がりであり断絶であり
その32 ジョセフィン・デッカー&"Butter on the Latch"/森に潜む混沌の夢々
その33 ケント・オズボーン&"Uncle Kent"/友達っていうのは、恋人っていうのは
その34 ジョー・スワンバーグ&"LOL"/繋がり続ける世代を苛む"男らしさ"
その35 リン・シェルトン&"We Go Way Back"/23歳の私、あなたは今どうしてる?
その36 ジョー・スワンバーグ&「ハッピー・クリスマス」/スワンバーグ、新たな可能性に試行錯誤の巻
その37 タイ・ウェスト&"The Roost"/恐怖!コウモリゾンビ、闇からの襲撃!
その38 タイ・ウェスト&"Trigger Man"/狩人たちは暴力の引鉄を引く
その39 アダム・ウィンガード&"Home Sick"/初期衝動、血飛沫と共に大爆裂!
その40 タイ・ウェスト&"The House of the Devil"/再現される80年代、幕を開けるテン年代
その41 ジョー・スワンバーグ&"Caitlin Plays Herself"/私を演じる、抽象画を描く
その42 タイ・ウェスト&「インキーパーズ」/ミレニアル世代の幽霊屋敷探検
その43 アダム・ウィンガード&"Pop Skull"/ポケモンショック、待望の映画化
その44 リン・シェルトン&"My Effortless Brilliance"/2人の男、曖昧な感情の中で
その45 ジョー・スワンバーグ&"Autoerotic"/オナニーにまつわる4つの変態小噺
その46 ジョー・スワンバーグ&"All the Light in the Sky"/過ぎゆく時間の愛おしさについて
その47 ジョー・スワンバーグ&「ドリンキング・バディーズ」/友情と愛情の狭間、曖昧な何か
その48 タイ・ウェスト&「サクラメント 死の楽園」/泡を吹け!マンブルコア大遠足会!
その49 タイ・ウェスト&"In a Valley of Violence"/暴力の谷、蘇る西部
その50 ジョー・スワンバーグ&「ハンナだけど、生きていく!」/マンブルコア、ここに極まれり!
その51 ジョー・スワンバーグ&「新しい夫婦の見つけ方」/人生、そう単純なものなんかじゃない
その52 ソフィア・タカール&"Green"/男たちを求め、男たちから逃れ難く
その53 ローレンス・マイケル・レヴィーン&"Wild Canaries"/ヒップスターのブルックリン探偵物語!