鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

フランク・V・ロス&"Hohokam"/愛してるから、傷つけあって

2005年フランク・V・ロスが第2長編“Quietly on By”を完成させた頃、SXSW映画祭においてアンドリュー・ブジャルスキジョー・スワンバーグデュプラス兄弟などが集い、マンブルコアという言葉が生まれることとなった。彼らの作品は正にロスの作品とDIY的な側面で共鳴するものであり、ロスがこのムーブメントに合流するのは必然であったというべきだろう。そして2007年に彼が手掛けた第3長編が“Hohokam”だった。

今作の主人公は20代の若者ローリー(Allison Latta)、彼女の人生は拭いがたい退屈に覆い尽くされていた。保険会社の電話受付はクソみたいな仕事で面白味もクソもない。恋人であるアンソン(Anthony J. Baker)との関係性も何となく倦怠気味で、かなりギクシャクしているのが自分でも分かるのだが、それをどうやって解消すれば良いのかは分からないまま日々が無為に過ぎていく。

“Hohokam”はそんなローリーの気だるい日々を静かに見つめる一作だが、マンブルコアにより接近した作品でもあるだろう。モラトリアムにある若者の姿を、モゴモゴした音響とガタガタな撮影で描いていくというのは前作に引き続いてだが、今作では関係性が宿す、一言では言い表せない曖昧な空気感を捉えようという監督の意図が見え隠れしている(付け加えるなら、冒頭からローリーの同僚役でジョー・スワンバーが出てくるというマンブルコアからの直接的影響もこの作品には存在している)

ロスの意図は序盤のとある会話シーンに明らかだ。ローリーは旅に出るという親友ガイ(Danny Rhodes)を家に迎え、別れを惜しみながらもはしゃぎまくる。その時アンソンが帰ってくる訳だが、無邪気な子供のように騒ぐ2人に対して露骨なまでに不機嫌になる。だがボクシング遊びなどを経てローリーのテンションが最高潮に達する頃、流されていないクソを見てアンソンのテンションは二番底に至る。こうして見てくれは他愛ない出来事が繰り広げられる中、水面下で決定的な温度差が生まれていく様を、監督は冷徹な視線で以て見据えていくのだ。

そして親友が去った後から、ローリーたちの倦怠は更に深まっていく。会話の途中アンソンが“ニガー”という言葉を使ってしまった後、ローリーはその発言が無神経すぎると怒りを露にする場面がある。対して彼は“つい言っちゃっただけだから怒んなよ!”と逆ギレする勢いを見せ、かなり険悪なムードが漂う。散歩する時にも不注意なローリーにアンソンがイラつき微妙な空気が流れることにもなったりと、日常に遍在するかなり生々しい不和の数々が丹念に積み重なっていくのだ。それでも2人が愛しあっていることすらも、私たちには分かるはずだ。アンソンがプレゼントをあげた時に見せるローリーの満面の笑み、2人がソファーでただ寄り添いあっている時の心地よさ、そこに愛が確かに宿っている。親密な愛が不和に冷えては熱を取り戻し、再び冷えていく、カップル関係のこの終わらない揺らぎを監督は丁寧に描き出していく。

ここに重なりあうのがアンニュイなジャズの響きだ。紫の煙が闇へとくゆるような演奏が全編通じて流れ、若者たちのフラフラな彷徨いをメランコリックに浮かび上がらせていく。この印象的な音楽を担当しているのはHappy Appleというベテランジャズバンドであり、この洗練された大人の味わいがロス監督の作品を他のマンブルコア作品と差別化する要因ともなっている。故に彼はマンブルコア界のウディ・アレンと呼ばれることともなるが、それはもう少し後の話である。

さて、ここから少しキャストについての話に移っていこう。アンソンを演じるAnthony J. Bakerは前作“Quietly on By”パラノイアニートとして登場したロスの親友だが、ここではかなり大人な佇まいの、それでも内面はかなり複雑な青年を好演している。しかし注目すべきはローリー役のAlison Lattaである。演技もそうだが、彼女かなりグレタ・ガーウィグに似ているのだ。タンクトップを着た時に見えるドタドタな身体性といい、この肉体とどう付き合えばいいのか分からず途方に暮れている佇まいといい、ガーウィグそっくりだ。だがガーウィグが同年「ハンナだけど、生きていく!」で空前のブレイクを果たした一方で、彼女のキャリアはパッとしないまま今に至っている(実はスワンバーグの「EASY」に端役で出演もしている)実際映画の出来は“Hohokam”が1枚も2枚も上手なのに、運命というのは皮肉なものである。

そう、「ハンナだけど、生きていく!」を含めて基本的に初期マンブルコア作品、2005年〜2010年にかけて作られた作品群はかなりつまらない。ストーリーではなく空気感を優先する故に、起伏もスタイルの洗練もクソもなく面白味がほとんど無いのだ。もっと正確に言えばDIY作家たちが仲間を得て、製作環境が馴れ合いと化した時期の作品はクソつまらない。例えばスワンバーグは“Kissing on the Mouth”や“LOL”は後に連なる彼のテーマが既に見え隠れする秀作だったが、ガーウィグやブジャルスキらと共同生活を経て作られた「ハンナだけど、生きていく!」はガーウィグのスター力で何とか映画の体裁を保っていた代物だった。アーロン・カッツの“Quiet City”も「ビフォア・サンライズの粗悪乱造品の1つでしかなく、デュプラス兄弟も真価を発揮するのはこのムーブメントを抜け出し、メジャースタジオ主導で「ぼくの大切な人と、そのクソガキ」「ハッピーニートを作る時期からである。つまり馴れ合いのせいで、作家それぞれのオリジナリティが著しく失われる状況に陥っていた訳だが、ロス監督が秀でているのは自身の作家性を損なわないままに、馴れ合いから新たな可能性を見出だし作品に取り入れるバランス感覚を持っている点だ。

そして監督の尖鋭な観察眼は物語が進むにつれ深まっていくこととなる。ローリーとアンソンは愛しあいながら、いや愛しあうからこそ常に互いを傷つけあう。互いの行動を逐一監視し、気にいらないことがあれば重箱の隅をつつくように非難の目を向ける。更にその空気を敏感に察知した瞬間には先回りするように相手にキレて、事態をややこしくする。その様子が丹念なまでに延々と綴られる様はウンザリするほどだが“Hohokam”の後味が悪いかと言えばそうではない、安らぎのような感覚すら存在している。それは監督の眼差しによって浮かび上がり、そして肯定される感情の数々が、私たちの心の中にも確かに存在しているからだ。

結局マンブルコアって何だったんだ?
その1 アーロン・カッツ&"Dance Party, USA"/レイプカルチャー、USA
その2 ライ・ルッソ=ヤング&"You Wont Miss Me"/23歳の記憶は万華鏡のように
その3 アーロン・カッツ&"Quiet City"/つかの間、オレンジ色のときめきを
その4 ジョー・スワンバーグ&"Silver Bullets"/マンブルコアの重鎮、その全貌を追う!
その5 ケイト・リン・シャイル&"Empire Builder"/米インディー界、後ろ向きの女王
その6 ジョー・スワンバーグ&"Kissing on the Mouth"/私たちの若さはどこへ行くのだろう
その7 ジョー・スワンバーグ&"Marriage Material"/誰かと共に生きていくことのままならさ
その8 ジョー・スワンバーグ&"Nights and Weekends"/さよなら、さよならグレタ・ガーウィグ
その9 ジョー・スワンバーグ&"Alexander the Last"/誰かと生きるのは辛いけど、でも……
その10 ジョー・スワンバーグ&"The Zone"/マンブルコア界の変態王頂上決戦
その11 ジョー・スワンバーグ&"Private Settings"/変態ボーイ meets ド変態ガール
その12 アンドリュー・ブジャルスキー&"Funny Ha Ha"/マンブルコアって、まあ……何かこんなん、うん、だよね
その13 アンドリュー・ブジャルスキー&"Mutual Appreciation"/そしてマンブルコアが幕を開ける
その14 ケンタッカー・オードリー&"Team Picture"/口ごもる若き世代の逃避と不安
その15 アンドリュー・ブジャルスキー&"Beeswax"/次に俺の作品をマンブルコアって言ったらブチ殺すぞ
その16 エイミー・サイメッツ&"Sun Don't Shine"/私はただ人魚のように泳いでいたいだけ
その17 ケンタッカー・オードリー&"Open Five"/メンフィス、アイ・ラブ・ユー
その18 ケンタッカー・オードリー&"Open Five 2"/才能のない奴はインディー映画作るの止めろ!
その19 デュプラス兄弟&"The Puffy Chair"/ボロボロのソファー、ボロボロの3人
その20 マーサ・スティーブンス&"Pilgrim Song"/中年ダメ男は自分探しに山を行く
その21 デュプラス兄弟&"Baghead"/山小屋ホラーで愛憎すったもんだ
その22 ジョー・スワンバーグ&"24 Exposures"/テン年代に蘇る90's底抜け猟奇殺人映画
その23 マンブルコアの黎明に消えた幻 "Four Eyed Monsters"
その24 リチャード・リンクレイター&"ROS"/米インディー界の巨人、マンブルコアに(ちょっと)接近!
その25 リチャード・リンクレイター&"Slacker"/90年代の幕開け、怠け者たちの黙示録
その26 リチャード・リンクレイター&"It’s Impossible to Learn to Plow by Reading Books"/本を読むより映画を1本完成させよう
その27 ネイサン・シルヴァー&「エレナ出口」/善意の居たたまれない行く末
その28 ネイサン・シルヴァー&"Soft in the Head"/食卓は言葉の弾丸飛び交う戦場
その29 ネイサン・シルヴァー&"Uncertain Terms"/アメリカに広がる"水面下の不穏"
その30 ネイサン・シルヴァー&"Stinking Heaven"/90年代の粒子に浮かび上がるカオス
その31 ジョセフィン・デッカー&"Art History"/セックス、繋がりであり断絶であり
その32 ジョセフィン・デッカー&"Butter on the Latch"/森に潜む混沌の夢々
その33 ケント・オズボーン&"Uncle Kent"/友達っていうのは、恋人っていうのは
その34 ジョー・スワンバーグ&"LOL"/繋がり続ける世代を苛む"男らしさ"
その35 リン・シェルトン&"We Go Way Back"/23歳の私、あなたは今どうしてる?
その36 ジョー・スワンバーグ&「ハッピー・クリスマス」/スワンバーグ、新たな可能性に試行錯誤の巻
その37 タイ・ウェスト&"The Roost"/恐怖!コウモリゾンビ、闇からの襲撃!
その38 タイ・ウェスト&"Trigger Man"/狩人たちは暴力の引鉄を引く
その39 アダム・ウィンガード&"Home Sick"/初期衝動、血飛沫と共に大爆裂!
その40 タイ・ウェスト&"The House of the Devil"/再現される80年代、幕を開けるテン年代
その41 ジョー・スワンバーグ&"Caitlin Plays Herself"/私を演じる、抽象画を描く
その42 タイ・ウェスト&「インキーパーズ」/ミレニアル世代の幽霊屋敷探検
その43 アダム・ウィンガード&"Pop Skull"/ポケモンショック、待望の映画化
その44 リン・シェルトン&"My Effortless Brilliance"/2人の男、曖昧な感情の中で
その45 ジョー・スワンバーグ&"Autoerotic"/オナニーにまつわる4つの変態小噺
その46 ジョー・スワンバーグ&"All the Light in the Sky"/過ぎゆく時間の愛おしさについて
その47 ジョー・スワンバーグ&「ドリンキング・バディーズ」/友情と愛情の狭間、曖昧な何か
その48 タイ・ウェスト&「サクラメント 死の楽園」/泡を吹け!マンブルコア大遠足会!
その49 タイ・ウェスト&"In a Valley of Violence"/暴力の谷、蘇る西部
その50 ジョー・スワンバーグ&「ハンナだけど、生きていく!」/マンブルコア、ここに極まれり!
その51 ジョー・スワンバーグ&「新しい夫婦の見つけ方」/人生、そう単純なものなんかじゃない
その52 ソフィア・タカール&"Green"/男たちを求め、男たちから逃れ難く
その53 ローレンス・マイケル・レヴィーン&"Wild Canaries"/ヒップスターのブルックリン探偵物語!
その54 ジョー・スワンバーグ&「ギャンブラー」/欲に負かされ それでも一歩一歩進んで
その55 フランク・V・ロス&"Quietly on By"/ニートと出口の見えない狂気