鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

E.L.カッツ&「スモール・クライム」/惨めにチンケに墜ちてくヤツら

さて、マンブルコア/マンブルゴアというムーブメントは配信サイトの発達によって支えられてきたと以前にも書いたが、その中心となる存在がネットフリックスだった。まずデュプラス兄弟のデビュー長編“The Puffy Chair”(紹介記事)の配給権をまだレンタル/配給専門だったネットフリックスが買ったのをきっかけに彼らの蜜月が始まり、配信サイトとして躍進を果たしたネトフリがデュプラス兄弟含めたマンブルコア一派の作品を配信し始めたことで、アメリカ全土にこの潮流が知れ渡ることとなった訳だ。

そして現在ではドラマ/映画製作にも着手し始めたネトフリは、彼らと手を組んでオリジナル作品を手掛けることともなる。ドラマ「EASY」を作ったジョー・スワンバーはその代表例だ。更に彼を筆頭に、完成させた作品を映画祭でのプレミアム後にネトフリで世界同時配信するという今までにないやり方で配給する作家たちも増えている。私はそれでスワンバーグの最新作「ギャンブラー」(紹介記事)を観た訳で、今まではスワンバーグの作品なんてロクに日本に来なかった実情も相まってマジで感動したのを覚えている。さて今回紹介するのはそうして4月に全世界同時配信された、マンブルゴアの俊英E.L.カッツによる最新長編「スモール・クライム」だ。

6年もの刑務所生活の後、ジョー(「ヴァンパイア黙示録」ニコライ・コスター=ワルドー)はとうとう故郷の町へと帰ってくることとなる。逮捕される前は警官として職務を全うしていたが、今は新聞に“切り裂き魔釈放!”と書かれる始末だ。そんな状況で更正なんて可能だろうか、いや更正しなくちゃ後が無いんだよ。ジョーは何とか犯罪から、忌まわしき過去から逃れようと努力し始める。

だがノワール映画においてそう簡単に問屋は卸さない。彼の前に現れるのは元上司のダン(「サンタに化けたヒッチハイカーは、なぜ家をめざすのか?」ゲイリー・コール)、彼はジョーが収監される切っ掛けを作った汚職刑事だ。今でもジョーのヤバい秘密を握ってる故に彼はとんでもないことを命令してくる。自分たちを告発しようとする刑事とかつてジョーが“世話”になった犯罪王を抹殺しろというのだ。それは不味いと思いながら、ジョーには選択肢が存在していなかった……

今作はどこまで行っても小規模で何ともチンケだ。ダンに詰められたジョーはそんなん無理だろぉと泣き言を言いながら、親から借りた車で町を右往左往する羽目になる。更に家に帰ってきたら帰ってきたで、母親(「ピクニックatハンギング・ロック」ジャッキー・ウィーバー)に今までどこ行ってたの?と滅茶苦茶どやされ、逆ギレした後にジョーは部屋に籠るか行きつけのクラブでコカインを啜るしか出来ない。そんな姿を撮影監督のアンドリュー・ホイーラーは死にかけた苔みたいな色の画面に浮かび上がらせる故、彼のチンケさはもう泣けてくるくらい惨めに映る。

だが不運続きのジョーの元にもある時幸運が舞い降りてくる。病床にあるマニーの息の根を止めようとした時、彼が出会うのがシャーロット(「悪女は三度涙を流す」モリー・パーカー)という看護師だ。殺しには失敗しながらも、孤独な彼女と惹かれあっていくジョーは、マジでこのクソみたいな状況をいい加減変えてやる、犯罪とはおさらばだと決意を固め、ある行動に打ってでる。

今作の脚本を執筆しているのはメイコン・ブレア、ジェレミー・ソルニエの激渋ノワール映画「ブルー・リベンジ」においてオドオドしながら人をブチ殺し回っていた主人公と言えばピンと来る方も多いかもしれない。彼は俳優として活躍する(今作にもジョーの友人役で出演)一方、カメラの裏でも活躍しており「スモール・クライム」もその一作な訳だ。彼の脚本は表面上とにかくトホホな男の生き様が小規模的に描かれるといった風だが、その奥底にみなぎる厭世感は強烈だ。ある時シャーロットはジョーに自身の内面を吐露する。こう思ったことはない? 夜中に起きて、水を飲んで、そして鏡を見るたび”これが本当に私なの”って信じられなくなるってそんなこと……あのチンケさの裏側に存在するのは、この世に生まれたことに対する深い後悔なのだ。

この作家性はブレアが監督を務めたデビュー長編「この世に私の居場所なんてない」にも通じている。クソ共がのさばる世界に嫌気の差した中年女性が、ある事件をきっかけとしてクソ野郎をヨタヨタな足取りでブッ飛ばしていく作品だが、ここにも“人間なんて最後には焼かれて灰になるのに、生きてて一体どうなるの?”という絶望感を語る場面がある。そしてこの主人公とシャーロットは同じく看護師(これが死への眼差しに深く関わってくる)だという共通点もあり、ある意味で「スモール・クライム」は裏「この世に私の居場所なんてない」と言える代物となっていると言える。

だがこちらはブレアの厭世感が更に強烈なものとなっている。その要因が“血の繋がり”である。ジョーは2人の娘の”親“なのだが、事件のせいで接近禁止令が出され会うことが禁止されており、これがダンの命令をいやいや受ける理由の1つでもある。更に前述した通り“子”である彼と親の軋轢は胃に来る厭さがある。親のよしみで実家に住まわせてやってはいるが、まさか自分の子供がお前みたいなクソになるとは思わなかった、その原因は私たちにもあるが、それでも……と、いつ激発するか解らない緊張感がピアノ線さながら引き絞られる様は、本筋の犯罪パートよりもエグいものがある。

だが物語が進むにつれこの強烈な厭世感はどんどん変な方向へと転がっていく。ジョーを演じるニコライ・コスタ=ワルドー、彼はゲーム・オブ・スローンズなどでお馴染みな北欧随一のイケメン俳優だが、そんな美貌を誇る彼が死んだ苔色をしたアメリカのド田舎に投げ込まれ、うらぶれ汚され血にまみれる姿は何とも被虐的な嗜好をそそられる。そしてカッツ監督はこの妙な魅力を巧みに利用していく。彼が傷つけられなぶられる度、彼はどんどん不幸になりながら、私たちは何故か彼以上に周りの人間が不幸に陥る様を目撃するだろう。それはまるで運命の女ファム・ファタールに見いられた男たちが惨めな破滅を遂げていくよう……というのは言い過ぎかもしれないが、実際言えるのは「スモール・クライム」が米のド田舎ノワールの範疇におけるオム・ファタールものとして逸品だ。運命の男ジョーの磁場に巻き込まれた人々はことごとく破滅していくのだ、惨めに、泥臭く、そしてチンケに。そんな映画に“Small Crimes”(ちょっとした罪)なんてうってつけの題名じゃないか!

結局マンブルコアって何だったんだ?
その1 アーロン・カッツ&"Dance Party, USA"/レイプカルチャー、USA
その2 ライ・ルッソ=ヤング&"You Wont Miss Me"/23歳の記憶は万華鏡のように
その3 アーロン・カッツ&"Quiet City"/つかの間、オレンジ色のときめきを
その4 ジョー・スワンバーグ&"Silver Bullets"/マンブルコアの重鎮、その全貌を追う!
その5 ケイト・リン・シャイル&"Empire Builder"/米インディー界、後ろ向きの女王
その6 ジョー・スワンバーグ&"Kissing on the Mouth"/私たちの若さはどこへ行くのだろう
その7 ジョー・スワンバーグ&"Marriage Material"/誰かと共に生きていくことのままならさ
その8 ジョー・スワンバーグ&"Nights and Weekends"/さよなら、さよならグレタ・ガーウィグ
その9 ジョー・スワンバーグ&"Alexander the Last"/誰かと生きるのは辛いけど、でも……
その10 ジョー・スワンバーグ&"The Zone"/マンブルコア界の変態王頂上決戦
その11 ジョー・スワンバーグ&"Private Settings"/変態ボーイ meets ド変態ガール
その12 アンドリュー・ブジャルスキー&"Funny Ha Ha"/マンブルコアって、まあ……何かこんなん、うん、だよね
その13 アンドリュー・ブジャルスキー&"Mutual Appreciation"/そしてマンブルコアが幕を開ける
その14 ケンタッカー・オードリー&"Team Picture"/口ごもる若き世代の逃避と不安
その15 アンドリュー・ブジャルスキー&"Beeswax"/次に俺の作品をマンブルコアって言ったらブチ殺すぞ
その16 エイミー・サイメッツ&"Sun Don't Shine"/私はただ人魚のように泳いでいたいだけ
その17 ケンタッカー・オードリー&"Open Five"/メンフィス、アイ・ラブ・ユー
その18 ケンタッカー・オードリー&"Open Five 2"/才能のない奴はインディー映画作るの止めろ!
その19 デュプラス兄弟&"The Puffy Chair"/ボロボロのソファー、ボロボロの3人
その20 マーサ・スティーブンス&"Pilgrim Song"/中年ダメ男は自分探しに山を行く
その21 デュプラス兄弟&"Baghead"/山小屋ホラーで愛憎すったもんだ
その22 ジョー・スワンバーグ&"24 Exposures"/テン年代に蘇る90's底抜け猟奇殺人映画
その23 マンブルコアの黎明に消えた幻 "Four Eyed Monsters"
その24 リチャード・リンクレイター&"ROS"/米インディー界の巨人、マンブルコアに(ちょっと)接近!
その25 リチャード・リンクレイター&"Slacker"/90年代の幕開け、怠け者たちの黙示録
その26 リチャード・リンクレイター&"It’s Impossible to Learn to Plow by Reading Books"/本を読むより映画を1本完成させよう
その27 ネイサン・シルヴァー&「エレナ出口」/善意の居たたまれない行く末
その28 ネイサン・シルヴァー&"Soft in the Head"/食卓は言葉の弾丸飛び交う戦場
その29 ネイサン・シルヴァー&"Uncertain Terms"/アメリカに広がる"水面下の不穏"
その30 ネイサン・シルヴァー&"Stinking Heaven"/90年代の粒子に浮かび上がるカオス
その31 ジョセフィン・デッカー&"Art History"/セックス、繋がりであり断絶であり
その32 ジョセフィン・デッカー&"Butter on the Latch"/森に潜む混沌の夢々
その33 ケント・オズボーン&"Uncle Kent"/友達っていうのは、恋人っていうのは
その34 ジョー・スワンバーグ&"LOL"/繋がり続ける世代を苛む"男らしさ"
その35 リン・シェルトン&"We Go Way Back"/23歳の私、あなたは今どうしてる?
その36 ジョー・スワンバーグ&「ハッピー・クリスマス」/スワンバーグ、新たな可能性に試行錯誤の巻
その37 タイ・ウェスト&"The Roost"/恐怖!コウモリゾンビ、闇からの襲撃!
その38 タイ・ウェスト&"Trigger Man"/狩人たちは暴力の引鉄を引く
その39 アダム・ウィンガード&"Home Sick"/初期衝動、血飛沫と共に大爆裂!
その40 タイ・ウェスト&"The House of the Devil"/再現される80年代、幕を開けるテン年代
その41 ジョー・スワンバーグ&"Caitlin Plays Herself"/私を演じる、抽象画を描く
その42 タイ・ウェスト&「インキーパーズ」/ミレニアル世代の幽霊屋敷探検
その43 アダム・ウィンガード&"Pop Skull"/ポケモンショック、待望の映画化
その44 リン・シェルトン&"My Effortless Brilliance"/2人の男、曖昧な感情の中で
その45 ジョー・スワンバーグ&"Autoerotic"/オナニーにまつわる4つの変態小噺
その46 ジョー・スワンバーグ&"All the Light in the Sky"/過ぎゆく時間の愛おしさについて
その47 ジョー・スワンバーグ&「ドリンキング・バディーズ」/友情と愛情の狭間、曖昧な何か
その48 タイ・ウェスト&「サクラメント 死の楽園」/泡を吹け!マンブルコア大遠足会!
その49 タイ・ウェスト&"In a Valley of Violence"/暴力の谷、蘇る西部
その50 ジョー・スワンバーグ&「ハンナだけど、生きていく!」/マンブルコア、ここに極まれり!
その51 ジョー・スワンバーグ&「新しい夫婦の見つけ方」/人生、そう単純なものなんかじゃない
その52 ソフィア・タカール&"Green"/男たちを求め、男たちから逃れ難く
その53 ローレンス・マイケル・レヴィーン&"Wild Canaries"/ヒップスターのブルックリン探偵物語!
その54 ジョー・スワンバーグ&「ギャンブラー」/欲に負かされ それでも一歩一歩進んで
その55 フランク・V・ロス&"Quietly on By"/ニートと出口の見えない狂気
その56 フランク・V・ロス&"Hohokam"/愛してるから、傷つけあって
その57 フランク・V・ロス&"Present Company"/離れられないまま、傷つけあって
その58 フランク・V・ロス&"Audrey the Trainwreck"/最後にはいつもクソみたいな気分
その59 フランク・V・ロス&"Tiger Tail in Blue"/幻のほどける時、やってくる愛は……
その60 フランク・V・ロス&"Bloomin Mud Shuffle"/愛してるから、分かり合えない