鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

はてなダイアリーのサービスが終了ということで、はてなブログで鉄腸野郎Z-SQUAD!改め鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!へ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。

Kevan Funk&"Hello Destroyer"/カナダ、スポーツという名の暴力

スポーツと暴力は切っても切れない関係にある、言い換えればスポーツとは暴力の一形態である。サッカーやボクシングなど直接的に身体同士を接触させあうスポーツは当然として、陸上やフィギュアスケートなど個人競技であったとしても身体の酷使はつまり自身への暴力として機能することとなる。つまりスポーツとは暴力の芸術なのだ。だがそうであるが故に、スポーツに携わる者は常に暴力によって破壊される危険と隣り合わせにあるのだ。そしてそれは身体的にだけではなく、精神的にも。カナダの新鋭Kevan Funkによるデビュー長編"Hello Destroyer"は暴力とその余波を描き出す、不穏な一作だ。

この物語の主人公はタイソン・バール(Jared Abrahamson)という青年、彼は将来を嘱望されるホッケー選手として活躍する日々を送っていた。しかしそれは必ずしも幸福であることを意味しない。彼は毎日コーチや先輩たちにしごかれ続け、軍隊さながらの生活が繰り広げられている。その中で少しずつ、だが確実に彼の心は歪み始めていた。

"Hello Destroyer"の冒頭シークエンスはそんなタイソンが巡るだろう不穏な道筋が予告されている。試合終了後、ロッカールームで勝利の余韻に浸るタイソンらは"お前らを誇りに思う!"という言葉と共に、とある洗礼を受けることとなる。彼らは筋骨隆々な先輩たちによって床に組み敷かれ、バリカンによって髪を全て刈られていく。拒絶に叫び、皮膚が赤く染まっていく様にはホモソーシャルの残虐な真実が浮かび上がる。

物語が進むにつれ、この作品が他のホッケー映画及びスポーツ映画とは全く以て異なる映画だということが分かってくるはずだ。Funkは試合風景を興奮と共に描きだすことはない。相手を撃ちのめし、ゴールを決める快感、そんな物は一切存在しない。カメラは選手たちの背中へ吸いつくように移動し、繰り広げられるプレーをレンズに焼きつける。その数々が拡大鏡さながらの大写しで、且つ冷やかな視線で以て描かれていくうち、スポーツは暴力であるという真実がこれでもかと観客に迫ってくるのだ。

そしてこのスタイルに呼応するようにBenjamin Loebによる撮影それ自体も不穏だ。先述した暴力に対し常に肉薄するカメラワーク、陰鬱な曇天を彷彿とさせる色彩設計もそうだが、印象的なのは試合外においてタイソンを眼差す視線だ。暴力に精神を侵食される中、落ち着かぬ日常を過ごす彼の姿を、例えばガラス越しに、例えばドアの隙間から密やかにカメラは眺めることになる。まるで暴力が虎視眈々と彼を狙い続けているとでもいう風に。

そんなある時、チームは無残な大敗を喫することとなる。この結果にコーチは激怒し、いつものロッカールームで怒号を響かせながら、項垂れる男たちに喝を入れる。それに応えようとしたタイソンは、次の試合で相手を傷つけるラフプレイを行ってしまう。それが元で敵選手が深刻な重傷を負ってしまったことで、タイソンは無期限謹慎という重い罰を受けてしまう。

だがここから描かれる暴力の余波こそが、むしろ今作の本筋と言うべきだろう。事件を起こしたタイソンは居候先の兄の家から追い出され、険悪な関係にある父の元へと帰らざるを得なくなる。そこでは屠殺場で働く以外に職がなく、コーチたちからも一向に復帰の連絡はやってこない。色褪せた日常が延々と反復されていく中で、私たちは深い絶望に囚われていくタイソンの姿をこれでもかと見据えさせられることとなる。

ここにおいて重要な要素が根拠なき妄執だ。ある時彼は独りきりの家の中で、父や親類でもない何か禍々しい者の気配を感じ取る。いくら家を探し回れどもその影すら見つけることが出来ないが、タイソンは何かの存在を感じ続け、神経を擦り減らしていく。その当惑を目の当たりにする内、彼は暴力への報復を恐れているのだと分かってくるだろう。だが実態は一向に見えてくることがなく、パラノイア的な思考だけが肥大していく。カメラはこの風景をやはり窃視的な視線で映し取ることで、私たちにこの心象風景を追体験させていくのだ。

今作の柱となっている存在は主人公タイソンを演じるJared Abrahamsonに他ならない。映画冒頭で丸刈りにされ傷付けられた時点で全ては運命づけられていたとでも言う風に、彼の身なりは加速度的に野良犬の如く汚れていく。そして墜ちていくごとに視線は淀んで、彼の姿はまるでシルエットさながら闇に浸食されていく。その中で彼は悲痛なまでに救済を求め、この暴力の衝動を別の何かへと昇華しようと試みる。だが"Hello Destroyer"という物語は彼に暴力がいかに人間を破壊するのかを刻みつける、そして地獄とは何かを私たちに叩きつける。

カナダ映画界、新たなる息吹
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