鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Katarzyna Rosłaniec&"Szatan kazał tańczyć"/私は負け犬になるため生まれてきたんだ

Katarzyna Rosłaniecは1980年にポーランドのマルボルクに生まれた。グダニスク大学で学んだ後は、ワルシャワ映画学校、アンジェイ・ワイダ映画学校などで勉学に励み、映画に対する技術を養っていく。そして2009年には初の長編作品"Galerianki"を監督し、消費主義の中心地であるショッピング・モールを舞台に少女たちの欲望を描き出した。2012年には第2長編"Bejbi blues"を監督、前作に続いて10代の少年少女が抱く欲望の数々を赤裸々に描き出した作品でベルリン映画祭Generation 14plus部門の最高賞を獲得することとなった。そして2016年には新作である"Szatan kazał tańczyć"を完成させる。

今作の主人公はカロリーナ(Magdalena Berus)という26歳の女性だ。彼女は「人形」という作品で世に出たばかりの新人作家だが、今作がポーランド「ロリータ」と評され爆発的なヒットを遂げることとなる。これがきっかけで彼女はパーティにブックツアーにと世界中を駆け回る日々を送り始めるのだったが……

"Szatan kazał tańczyć"はそんなカロリーナの享楽の日々を描いた作品だとひとまず言うことが出来る。彼女はカメラマンと裸になってハイテンションで撮影したかと思うとセックスに耽る。ある時は酒を細い身体にブチ込みすぎた故の泥酔で醜態を晒し、ある時はベルリンの片隅で売人と共にヤクを吸ってトリップするのだ。

そんな姿を映しだす画面(撮影監督はVirginie Surdej)は縦が長く横が短いいわゆる"インスタグラム画角"という奴で、例えばグザヴィエ・ドランなど新鋭作家が使う様式がこの作品には適用されている。という訳で監督がそこに収まる画にも相当気を使っているのは劇中から窺い知れる。極彩色の中で中年男性とセックスするカロリーナの姿、カロリーナと友人の女性が消火器の泡でベチャベチャの公衆便所に横たわる姿、そういった風景の数々に監督の美意識が徹底しているのだ。

では今作自体が軽薄で浮ついた印象を与えているかというと、むしろ逆だ。カメラ越しに透けて見える監督自身の視線は頗る冷徹だというのを、序盤で観客は悟ることになるだろう。彼女は享楽の間隙から静かにカロリーナが堕落していく様を見据えていくのだ。部屋のトイレで独り、蹲りながらゲロを便器へブチ撒ける彼女の哀れさにそれは象徴されている。

監督はそうして積み重なる享楽の狭間に見える影こそを引き出していく。例えば自分の身体をめぐる母親との軋轢、例えば将来にも関わる心臓の重大な欠陥、例えば大成功したデビュー作に続く第2作はどうすればいいのか。そういった要素が全てカロリーナの肩に伸し掛かっていき、繊細な彼女の心は破滅へと向かっていく。

そして劇中に満ち始めるのは観る者の臓腑を腐らせるような不穏さだ。病は常に悪化し続け、私たちの耳には彼女が吐きだす吐瀉物や咳の響きがこびりつくことになる。更に彼女の周りには男たちが纏わり続けるが、特に見知らぬ男が彼女をナンパする際の緊張感は女性の日常に存在する緊張とも共鳴しあう類のものとなる。こうしてその狭間に現れることとなる言葉こそが""という忌まわしき言葉なのだ。

ある意味でその禍々しさと対立しあうように、今作において執拗に表れる要素が赤裸々な性欲だ。カロリーナは破滅から目を逸らすためかひっきりなしに男たちとのセックスを遂げる。だが彼女はそれで満たされることがない。ゆえに独りの時、男と一緒の時でさえも自慰行為に耽ることになる。性器を必死に擦り、時には相手の男の腕を使ってまで擦り続ける様には絶望的なまでに絶頂を求める彼女の悲哀が滲む。だが今作が容易く突き抜けないのと同じように、彼女も絶頂へは辿りつくことがない。何処へも辿りつけない空虚さだけがそこにはあるのだ。

今作の核となる存在は主人公であるカロリーナを演じるMagdalena Berusに他ならないだろう。周りに広がるクソったれな世界に唾を吐きかけるように尖った口と眼光鋭く険しい目つき、しかし裸になった時に見えるのは一瞬に折れ曲がってしまいそうな繊細で弱々しい身体つき、この相反する身体性が今作を支えていると言っても過言ではないだろう。倦怠感と破滅の淀んだ予感に重い心を引き摺り続ける生き地獄を私たちに語るのは、彼女の身体に他ならない。

"Szatan kazał tańczyć"はあらかじめ破滅を宿命づけられた女性の姿を忌憚なく描き出した物語だ。それを自身も知っていたのだろう、ヤゴダが劇中で常に聞いている歌においてはこんな絶叫が響き続ける。私は負け犬になるため生まれてきた、負け犬になるために……

私の好きな監督・俳優シリーズ
その201 Yared Zeleke&"Lamb"/エチオピア、男らしさじゃなく自分らしさのために
その202 João Viana&"A batalha de Tabatô"/ギニアビサウ、奪われた故郷への帰還
その203 Sithasolwazi Kentane&"Woman Undressed"/ Black African Female Me
その204 Victor Viyuoh&"Ninah's Dowry"/カメルーン、流れる涙と大いなる怒り
その205 Tobias Nölle&"Aloys"/私たちを動かす全ては、頭の中にだけあるの?
その206 Michalina Olszańska&"Já, Olga Hepnarová"/私、オルガ・ヘプナロヴァはお前たちに死刑を宣告する
その207 Agnieszka Smoczynska&"Córki dancingu"/人魚たちは極彩色の愛を泳ぐ
その208 Rosemary Myers&"Girl Asleep"/15歳、吐き気と不安の思春期ファンタジー!
その209 Nanfu Wang&"Hooligan Sparrow"/カメラ、沈黙を切り裂く力
その210 Massoud Bakhshi&"Yek khanévadéh-e mohtaram"/革命と戦争、あの頃失われた何か
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