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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

リン・シェルトン&「アラサー女子の恋愛事情」/早く大人にならなくっちゃなぁ

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リン・シェルトン&"We Go Way Back"/23歳の私、あなたは今どうしてる?
リン・シェルトン&"My Effortless Brilliance"/2人の男、曖昧な感情の中で
リン・シェルトン&"Humpday"/俺たちの友情って一体何なんだ?
リン・シェルトン&「ラブ・トライアングル」/三角関係、僕と君たち
リン・シェルトン&"Touchy Feely"/あなたに触れることの痛みと喜び
リン・シェルトン&「不都合な自由」/20年の後の、再びの出会いは
リン・シェルトンの経歴および長編作についてはこちらの記事参照

マンブルコア作品は主人公の半径数mの世界だけを描き出す故に、ぬるま湯のような関係性に浸かり続ける若者たちの話が多かった。しかしマンブルコアに属する作家たちが成熟するにつれて、彼らはそのぬるま湯から抜け出して新たな作品を作っていこうとし、実際にぬるま湯の関係性に決着をつけるコミットメントについての作品が作られ始めた。今回紹介するリン・シェルトン監督の第6長編“Laggies” aka「アラサー女子の恋愛事情」は正にその趨勢を象徴するような作品となっている。

この物語の主人公はメグ(サンダーパンツ!キーラ・ナイトレイ)という28歳の女性、彼女は20代も後半に差し掛かりながら定職にもつかずプラップラ生きる日々を送っていた。だが何もかもを先延ばしにしてきた末、友人であるアリソン(アンブレイカブル・キミー・シュミット」エリー・ケンパー)の結婚式の日、長年の付き合いである恋人のアンソニー(「スノーデイ/学校お休み大作戦」ポール・ウェバー)からプロポーズされてしまう。気が動転したメグは車で逃走を図るのだったが……

序盤において描かれるのはメグのダメダメな性格についてだ。冒頭においてはしゃぎまくるメグと友人たちを移した10年前のビデオ映像が流れるのだが、彼女はその時代の感覚を今でも引きずったままに歳を取ってしまった訳だ。周りは大人になり結婚したり子供を妊娠したりと、確実に人生のステージを進んでいっているのに、彼女だけが取り残されてしまっている。その癖就職カウンセラーの元に行くと言いながら、実家のソファーに寝転んでテレビを見ていたりと、本人に前へと進む気がないのだ。そこでプロポーズだなんて、彼女にとっては寝耳に水の出来事だった訳である。

そして夜の町へと逃げ出したメグは、偶然アニカ(「27年後……」クロエ・モレッツ)という少女たちに出会う。酒を買ってあげたのが縁でメグは彼女たちと仲良くなり、スケートボードで遊んだり、家に大量のトイレットペーパーをブン投げたりといろいろなバカやりまくってあの頃に戻ったような感覚を味わう。こうしてアンソニーと結婚から逃げ続けるため、なし崩し的にメグはアニカの家に居候することとなる。

この“Laggies”はシェルトン作品史上、最もマンブルコアから離れて且つ最もメインストリームに近い作品となっている。過去の荒削りさは全く皆無の洗練ぶり、俳優陣も前作に続き有名俳優が勢揃いという豪華さ、何より違うのは今作は初めてのシェルトン自身が脚本を執筆していない(執筆者は小説家のアンドレア・シーゲル)点と言えるかもしれない。だが本作には確かにシェルトンの代名詞である深いヒューマニズムが宿っており、その意味では紛れもなくシェルトン作品だと言えるだろう。

その通りに監督はヒューマニズムを縁として、繊細に登場人物の心情を追いながら物語を進めていく。同居生活を始めたは良いが、メグは速攻でアニカの父親であるクレイグ(「N.Y. 少女異常誘拐」サム・ロックウェル)に見つかり、詰問されてしまう。しかし嘘をこねくり回した末、クレイグから許可を勝ち取ったメグは居候を続けるのだったが、同時にシングルファーザーだというクレイグに対して惹かれ始めている自分にも気がつくことになる。

さて、ここからは俳優陣を順に追っていこう。まずサム・ロックウェルはいつものハジケキャラを封印して節度ある弁護士役を演じており、いつもとは違う雰囲気を漂わせている。クロエ・モレッツは正に今どきといった感じの少女を巧みに演じており、ナイトレイ演じるメグとの掛け合いは抜群に楽しい。そして彼女の存在感があってこそ、今作は年の離れた女性同士の友情もの(ロマンシスもの)としても珠玉の出来となっている。

そしてメグを演じるキーラ・ナイトレイだが、彼女は時代物に多く出演(2018年の最新主演作も小説家コレットの伝記映画“Colette”だ)しているクラシックな英国人俳優な訳で、現代劇の印象はラブ・アクチュアリーぐらいしかない。そんな人物がアメリカの典型的なダメダメこじらせ女子役を演じるというのはミスマッチ、かと思いきやいやいやさすがの演技力で以て、等身大のダメっぷりをあっけらかんと演じきる姿は驚嘆の声を上げる他ない。

“Laggies”に描かれるのは上述の通り、ぬるま湯に浸かっているような生活を送る女性のフラフラを描き出した作品だ。しかし劇中で彼女は友人にこう言われる。“自分をダメにするのは止めて、大人にならなくちゃ”と。そうしてメグは様々な騒動を乗り越えながら、誰かに道を決めてもらうのではなくて自分で道を決めていけるような大人になっていく。だからこそ“Laggies”は変化を恐れている人々に捧げられるべき、ちっぽけだけど輝いている勇気についての物語なのだ。

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結局マンブルコアって何だったんだ?
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その71 結局マンブルコアって何だったんだ?(作品リスト付き)
その72 リン・シェルトン&"Humpday"/俺たちの友情って一体何なんだ?
その73 リン・シェルトン&「不都合な自由」/20年の後の、再びの出会いは
その74 リン・シェルトン&「ラブ・トライアングル」/三角関係、僕と君たち
その75 リン・シェルトン&"Touchy Feely"/あなたに触れることの痛みと喜び
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