鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Babak Jalali&"Radio Dreams"/ラジオには夢がある……のか?

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さて、皆さんはラジオをお聞きになられるだろうか。私の場合、昔はちょいちょい聞いていたのだが、今はもっぱら映画のPodcastばかり聞いている。テレビについてもそうなのだが、歳を取るにつれ、決まった時間に決まった番組がやるからその時間にラジオの前に座るみたいな行為が億劫になってしまったのだ。だからいつでもどこでも自由に聞けるPodcastばかりになってしまった訳だが、周りにはリスナーはたくさん居て、特にRHYMESTER宇多丸がパーソナリティをしている「アトロク」はかなり人気である。ということで今回はそんなラジオ、というかラジオ局の日常に迫ったイラン映画である、 Babak Jalali監督作“Radio Dreams”を紹介していこう。

舞台はサンフランシスコにあるPARS-FMというラジオ局、ここは世界に散らばる在外イラン人のためにニュースや文化についてのペルシア語番組を放送している場所だった。そんな会社で番組責任者として働く中年男性が今作の主人公ハミド(Mohsen Namjoo)である。彼は理想主義者として頑固に番組編成を考えながらも、その度に部下には嫌な顔をされ、上層部からは反発を受けるなどその現状にイラつきを抑えられずにいた。そして今日も番組途中に下らないCMを挟まれ、イライラは募るばかりである。

今作を構成するのはそんなラジオ局の日常である。“イラン人の日々”と題したコーナーではアメリカへやってきたイラン人移民たちの体験談を放送したかと思うと、文化番組の一環としてロシアのミサイル特集を放映するためハミドは部下にわざわざロシア語民謡を歌わせる。更にCMの挿入に怒り心頭の彼は社長へ直談判に行くが、巡り巡って何故か社長が部下に対してレスリングを教えることになったりする。

そして今作はこうした日常が積み重なって形を成すとある1日を描き出していく。この日のゲストはKabul Dreamsというアフガニスタン最初のロックバンドと呼ばれるスリーピースバンドだ。彼らは自身らが最も尊敬するバンドであるMetallicaジャムセッションをするために、このラジオ局までわざわざやってきた訳である。しかしMetallicaは一向にやってくることがない。その間も番組を続けて時間を稼ぐハミドたちだったが、無情にも時は過ぎていく。

ラジオ局の内幕を描いた作品だと三谷幸喜ラヂオの時間などが思い浮かぶが、ではこの作品がああいった大騒動が巻き起こるぞ!というコメディかと言えば全く違う。テンションは頗る低体温で、真顔のユーモアがしれっと挿入される妙な雰囲気が今作の特徴だ。スローペースの中でも、監督と編集のNico Leunen&Babak Salekは台詞や行動の間と形容すべきものをとても大事にする。シリアスな番組の直後にブッ込まれる商業主義丸出しCM、ハミドの物思う仏頂からしれっとレスリングの特訓が挿入される奇妙なテンポ、この微妙に現実離れしてるようなしてないような感覚が作品の要になっているのである。

そしてMahmood Schrickerの手掛ける音楽も大事な要素の1つだ。物語の随所に流れるギターの音、まるで空気がゆったりとうねるようなアンビエントな音色は、故郷から遠い国で生きる人々のアンニュイな心地を表現するようで印象的だ。この妙なユーモアに満ちた映画にもっと真剣な思索の層をもたらすと、そんな美しさが響き渡っている。

更に物語それ自体においても音楽は重要だ。Metallicaが実在のバンドであることを知っている方は少なくないだろうが、アフガニスタンのバンドKabul Dreamsも実在するバンドである。ググれば音源もガンガン出てくる。Metallica好きを公言する通り、彼らは衝動炸裂な演奏を劇中で聞かせてくれる訳であるが、Metallicaの方は本当にやってくるのだろうか。それについては、まあ、本編を観てのお楽しみということで(IMDBとか見るとバンドメンバーの名前があるかないかで出演しているか否か分かってしまうので、ネタバレされたくない方は見ないように)こうして現実とフィクションが虚実ない交ぜになることで、作品の不思議な雰囲気がいっそう深まっていくのである。

とはいえ今作の本当の主人公はハミドである。イランでは著名な小説家だったが、何らかの理由でアメリカへと移住、現在はラジオ局で無聊を託っている。そんな中で理想を達成しようと偏屈さそのままに突き進んでいく姿には、在外イラン人の悲哀やプライド、熱意など様々な感情が滲んでいる。こういった風に“Radio Dreams”にはイランという国への一筋縄では行かない愛に満ちている訳である。

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