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映画痴れ者/ライター済東鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Madeleine Sami&"The Breaker Upperers"/ニュージーランド、彼女たちの絆は永遠?

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いわゆる“別れさせ屋”という職業がある。彼らはカップルの関係性にあらゆる形で介入し、恋人たちをバラバラにしてしまう。日本の映画やドラマでもちょいちょい題材として使われ話題になったりする。そんな職業、日本以外にも存在しているのだろうか。少なくともニュージーランドには存在しているようである。という訳で今回はニュージーランド別れさせ屋コメディ、Madeleine Sami&Jackie van Beek監督作“The Breaker Upperers”を紹介していこう。

ジーンとメル(監督たちが兼任)は2人で別れさせ屋を経営している。恋人にウンザリな男を行方不明に仕立てあげたり、結婚式に乱入して幸せを台無しにしたり、彼女たちはあらゆる方法を使って、その類い稀なるプロ根性で以て、恋人たちを別れさせる正に達人コンビであった。

今作はそんな彼女たちの別れさせ屋としての活動をコミカルに描き出していく。ある時は警察官の扮装をして夫の元へと妻の死を伝えに行ったり、ある時はアメフト観戦に来ている彼女に自分こそが本命の彼女だと喧嘩売りに行ったりetc。彼女たちがとにもかくにも関係性という関係性をブチ壊しにかかる様は最高としか形容しようがない。

別れさせ屋活動は好調に見えながらも、ある時から綻びが見え始める。彼女たちはジョーダン(James Rolleston)という青年から恋人と別れさせて欲しいという依頼を受け、メルが彼の浮気相手のフリをするのだが、彼女はジョーダンに徐々に惹かれていく。一方で彼女たちは警官としてアンナ()という女性の関係性をブッ壊したはいいが、思わぬ所でバッタリ再会、嘘に嘘を塗り重ねるうち事態はどんどん悪化していく。

今作の核となるのはやはり主人公2人の化学反応である。ジーンはかなりの堅物女で15年前の愛を引きずりに引きずり、その不満を別れさせ屋の活動にぶつけまくる。メルは楽天家のバイセクシャル女性で、30代だが挙動は10代のそれであり、実際に10代の青年に惹かれヤバい目に遭う。そんなダメ人間2人は、監督も兼任するBeek&Samiのコメディエンヌぶりも相まって、笑いの化学反応をこれでもかと炸裂させていく。

さて、この作品はいわゆる女子の友情ものと言えるだろう。アホに弾けた不謹慎なロマンシスで観客をバカ笑いさせに関わってくる。その様は例えばブライズメイズなどテン年代序盤からアメリカに俄に現れ始めた女子コメディを彷彿とさせる。更に2人の風体がそれぞれ老けたクリステン・ウィグと若めのティナ・フェイ(Samiはインドの血も入ってるのでミンディ・カリングっぽさもある)に見えたりするので、そういう意味でもアメリカン・コメディの潮流を汲んでいるように思われる。

しかしそれだけでは勿論ない。今作の製作はタイカ・ワイティティ、言わずと知れたニュージーランド界のコメディ番長である。この繋がりからか彼の盟友ジェマイン・クレメントカメオ出演。この顔触れから近年における大当たりニュージーコメディ「シェアハウス・ウィズ・バンパイア」を思い出さない方がおかしいが、やはり今作にもニュージーランド特有の笑いにリズム感が刻印されているのだ。そんな訳でこの国の風土や文化を反映しながら産まれた“The Breaker Upperers”は、世界へ飛び立つだろう新たなコメディエンヌたちをも誕生させた訳である。

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