鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Lonnie van Brummelen&"Episode of the Sea"/オランダ、海にたゆたう記憶たち

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伝統はそれぞれの国に存在しているだろう。だが1つではあり得ない。更に地域ごとにその色彩を変えながら存在している。それらは、しかし、そういった伝統は急速に移りゆく世界においては均一化され消え去ることを余儀なくされてきた。そんな中でも映画などのメディアは様々な形でそれらを記録してきた訳であるが、今回紹介するLonnie van Brummelen&Siebren de Haan監督作“Episode of the Sea”は正にその作品の1つだ。

今作の舞台はオランダの中央に位置する漁村ユルクだ。ここでは特有の言語や伝統文化を今に受け継ぎながら、人々は生活を営んでいる。住民の殆どが漁業に従事しており、特に男性は漁師として働いている者たちが多く、親から子へとその仕事は継承されていっている。そして彼らは今日も朝早くから大海原へと漁に出掛けていく。

監督たちはそんな漁師たちの営みを淡々と見据えていく。網を力強く引っ張って大量の魚を捕らえていく。甲板に横たわる縄を自由自在に結んでいく。夜の闇が辺りに犇めく中で、他には何も目をくれずに黙々と作業を続ける。漁の最中、憂いを湛えた目で大海原を見つめる。その様は崇高な感触に満ちていると言ってもいいだろう。

作品は漁村それ自体も描き出そうとする。漁村の周りには森が広がっているが、雰囲気はどこか寂れており寒々しい風景がそこにはある。それでも生き物たちは生命力旺盛に生きており、森では虫たちが鳴き、海辺では鳥たちが鳴き声を響かせている。工場では漁師たちが獲ってきた魚を機械的に選別していく人々の姿がある。様々な営みがここには存在しているのだ。

そして作品はユルクの深層にまで潜行していく。今、この村には世知辛い状況が広がっている。昔、漁師たちは誇り高き男たちとして尊敬を集めてきた。しかし今は海の資源を簒奪する海賊と呼ばれている。更にここに生まれる男性たちは皆が漁師になる定めにあるが、若い世代は漁師という仕事に将来性を見出だせず漁村を去っていく。その代わりにポーランドからの移民労働者たちが仕事に就くのだが、伝統が受け継がれないことに対して漁師たちは忸怩たる思いを抱いているのだ。

そんな中、劇中にはいくつもの寸劇が挿入される。漁師たちが監督たちの脚本に従って自分たちの日常を再演するという内容のものだ。声の抑揚や台詞回しは演劇を彷彿とさせるものであり、ユルク独特の方言の響きもその印象を強めていく。そうして再演される日常は、失われゆく伝統への憂慮や減っていく労働力への焦燥など、先行きへの不安や憂鬱に満ちている。それらについて漁師たちはカメラを通じて私たちに強く語りかけてくる。

彼らの憂いの通り、伝統は終わってしまうのだろうか。答えはNoだろう。終盤においてカメラは漁師たちが乗る船の姿を映し出す。丁寧に整備されていくそれは、巨大な要塞さながらの威容を湛えており、見るものに息を呑ませるような迫力が漲っている。それらを見ているとユルクの長きに渡って続いてきた伝統は、まだまだ力強く生き続けると思わされる。“Episode of the Sea”はそうして伝統の中で輝き続ける希望を捉えていくのだ。

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