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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Teona Strugar Mitevska&"When the Day Had No Name"/マケドニア、青春は虚無に消えて

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2012年、マケドニアで凄惨な殺人事件が起こった。首都スコピエの郊外に位置する湖で4つの死体が発見されたのだ。どれも10代の少年たちのものであり、頭部を撃ち抜かれていた。この事件はマケドニア全土に衝撃を巻き起こす。イスラム過激派の仕業など噂が全土を駆けめぐり、事態は混迷を極めた。その後犯人は一応逮捕されながらも、真相は未だ藪の中だそうである。マケドニア映画作家Teona Strugar Mitevskaによる第4長編“When the Day Had No Name”はこの事件に材を取って製作された作品だと言えるだろう。

ミランとペタル(Leon Ristov&Hanis Bagashov)はロクに学校にも通わず、適当に遊び回る日々を送っていた。目的も夢もなければ、家族との仲も冷え込んでしまっている。未来には一切希望が存在せず、どう生きればいいかを教えてくれる人々も存在しない。それゆえに、彼らはただただ時間を浪費し続けながら人生を過ごしていた。

今作はそんな若さの荒んだ日常を描き出す作品だ。ミランは淀んだ空気感の中で継母である女性と口論を繰り広げる、公園でプロムに連れていく少女について語り合う、ミランとペタルは2人して野原をただ目的も考えずに歩き続ける、軽口を叩きあった後にひょんなことから喧嘩に発展して取っ組み合う、そんな風景の数々が冷ややかにかつ即物的に積み重ねられていくのだ。

そんな出来事とスコピエ郊外に広がる荒れた風景が共鳴を遂げていく。朽ちた壁を持った家々は郊外に疎らに乱立している。川辺には無数のゴミが散乱しており、腐敗臭が匂いたつほどだ。そして出来の悪い落書きの数々が公園やトンネルなどあらゆる壁に氾濫している。寒々しい荒廃の風景がここには広がっているのである。

監督の演出は不気味なまでに断片的なものだ。バラバラに分かたれた若者の彷徨いの風景を、彼女は乱雑に繋ぎあわせていく。風景が繋がりあい意味が生まれるといったそんな快楽は、ここには存在しない。凍てつくほどに即物的な意味しか持たないのだ。ここにストリングスを基調とする禍々しい音楽が重なりあうことで、不穏な雰囲気が醸造されていく。

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ある時ミランたちは他の仲間を連れだって、売春宿へと赴く。そこで彼らは1人の若い娼婦を買って、順番にセックスすることにする。青年たちは自分がセックスできる順番が来るまで、適当に時間を潰し始める。ここで異様なのはセックスなどを撮しとるのではなくミランたちの暇潰し自体を延々と映し出すことだ。苔色の壁に覆われた廊下で下らないことを喋ったり、酒を呑んだりして、彼らは時間を潰す。それが淡々とかつ延々と描かれていく様には有象無象の無意味さが淀み際立つ。全てが無駄に費やされていくことへの徒労感、終わりの見えない鬱屈が観る者の臓腑に溜まっていくのだ。

しかしそれと同時に異様な緊張感をも漲り始める。ただ少年たちの行動がとりとめもなく映し出されるだけでありながらも、一瞬の後に残酷な何かが巻き起こるのではないか?という不吉な予感が常に付きまとい続けるのだ。そうした画面から目が離せなくなるような凄味がここには存在している(今作の撮影がフランスの有名撮影監督アニエス・ゴダールであることもその一因だろう)

冒頭、2012年の事件について説明するテロップが流れるのだが、その際に監督は“今作は被害者たちの物語ではない”と明言する。では何についての物語かといえば、マケドニアという国家についての物語に他ならないだろう。この国における経済停滞による未来や希望の消失が、若者たちの怠惰で無意味な行動の数々に繋がっていくことを今作は示唆している。

そしてマケドニア愛国主義的な志向も見え隠れしている。ミランたち若者はマケドニアに住むアルバニア人に対して敵愾心を露にする。子供でも大人でも同じような憎しみを発しながら、彼らに食ってかかるのだ。その理由は明かされることはないが、若い人々の間にも危うい排外主義・国家主義が蔓延していることを表しているだろう。今作はマケドニアに巣食う圧倒的なまでの虚無を、怠惰で無軌道な若さの彷徨いを通じて、不気味なほどの密度で以て描き出す黒い青春映画だ。そして少年たちの元に、マケドニアの元に最後には黙示録の時が来たるのである。

Teona Strugar Mitevskaは1974年にマケドニアスコピエに生まれた。6歳の頃からマケドニアのTVドラマで俳優として活躍していた。グラフィック・デザインを学んだ後、ニューヨークで美術監督として勤務する傍ら映画製作を学んでいた。

映画監督デビュー作は2001年の"Veta"で、ベルリン国際映画祭で特別審査員賞を獲得するなど話題になった。初長編作品は2004年の"Kako ubiv svetec"(英題:"How I Killed a Saint")、アメリカからマケドニアへ戻ってきた女性が直面するこの国の現実を描き出した作品でロッテルダムやカルロヴィ・ヴァリ国際映画祭などで上映され高評価を得る。2007年にはマケドニアに生きる三姉妹の姿を描いた第2長編"Jas sum od Titov Veles"(英題:"I am from Titov Veles")を、2012年にはフランスとマケドニアを股に掛けた死と生についての物語"The Woman Who Brushed off Her Tears"を監督、世界中で話題となる。そして2017年には第4長編"When the Day Had No Name"を完成させた訳である。現在は新作"God exists, her name is Petrunija"を準備中、ということで今後の活躍に期待。

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