鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Liryc Paolo Dela Cruz&"Sa pagitan ng pagdalaw at paglimot"/フィリピン、世界があなたを忘れ去ろうとも

Liryc Dela Cruzはフィリピン・ミンダナオ島南コタバト州に生まれた。小さな頃から映画監督を志し、高校時代は学校のパソコンでYoutubeにアップされた映画の予告やクリップ動画を観て、想像を働かせる日々を送っていたのだという。2008年には大学に通うためダヴァオに移住、そこでキドラット・タヒミックら著名な映画監督と出会い、彼らのワークショップに通いながら映画製作を学ぶ。この時に彼は"Tundong"(2009)や"Philippine Press"(2010)など自身でも短編作品を監督し始める。

だがCruzの人生を変えたのはある1人の女性との出会いだった。2010年に彼はクリスティン・キンターナという女性と出会うのだが、彼女はあのフィリピン映画界の巨人であるラヴ・ディアスの作品に俳優、プロダクション・マネージャー、英語字幕製作者として携わっている人物だった。キンターナの後押しもありCruzは大学を中退しマニラに移住、映画やTVを問わず脚本家・プロデューサーとしての経験を積んでいく。2013年にはディアスの「北(ノルテ)―歴史の終り」に参加、ここでの経験は彼に多大なる影響を与えたという。そしてCruzは故郷のミンダナオ島に戻り、2015年には短編"Sa pagitan ng pagdalaw at paglimot"を完成させる。

白と黒の世界にまず浮かび上がるのは荒れ果てた広野だ。疎らに生える貧相な草々以外には、生命の息吹をも少しも感じさせることのない荒れ野。これがフィリピンのどこかに広がる風景と聞いたなら、あなたは驚くかもしれない。命の緑に溢れる鬱蒼たる森、喧騒が渦巻く街並み、だがそういった物はここには全く存在していない。荒野、果てしない荒野だけが存在している。

そして私たちはこの大地を彷徨する少女の姿を目撃する。痩身の植物たちを薙ぎ倒すようにフラフラと、彼女は野をさ迷っている。スサンどこなの、ある時少女の声が響き渡る、スサンどこなの、聞く者の臓腑をズンと震わせるような響き。彼女はスサンという名を持つ者を探す、不毛なる大地に濁った足跡を刻みつける、灰色に染まった嘆きの舞踏を踊り続ける。最愛の人はもうこの世には居ないと知りながら。

だがそんな悲愴なる大地の真上には、大いなる空が広がっている。透明な無音を伴いながらうねる雲の群れ、陽光がもたらすさざ波のような濃淡、人間という存在などちっぽけに思えるほど広大な空が。そんな中で私たちはそれを飛行機の窓から眺めている少女の姿を見ることになる。ガラスに顔を近づけたかと思うと少し遠ざけ、躊躇いの震えを伴いながら微妙な距離感を保ち続ける。そして少女の囁きが聞こえてくる、あなたとの思い出が消えていくのを待っている、そんな静かな囁きが。

この謎めいた少女たちの姿を読み解くキーワードは“記憶”だ。もしあなたが最愛の人を失った時、その人についての記憶とあなたはどう対峙するだろうか。忘却に抗いながらその記憶にすがりつき続けるだろうか、その記憶が時間の中に掻き消えていくことを望むだろうか。つまりは“Sa pagitan ng pagdalaw at paglimot”とはこの懊悩を映像詩によって描き出そうとする試みを持った作品なのだ。

さて、最後に監督の記憶についての考察を以て、この記事を終えることとしよう。

"今のフィリピンにおいて、歴史修正主義が猛威を振るっています。最近、最高裁が独裁者であったマルコス元大統領を"英雄墓地"に埋葬することを認めました。そして彼の娘であるアイミー・マルコスは国営テレビのインタビューで、戒厳令の時代に自分の家族が暴力行為や人権侵害を行ったなんて思い出せないと白を切りさえする(中略)ドゥテルテ大統領など記者会見時に、暴力行為を証明する映画や小説は一つも存在していないと主張しました。今フィリピンで歴史修正主義的な動きが強い勢力を持っているのを恥ずかしく思っています。彼らはソーシャルメディアを使い、戒厳令という暗黒時代から人々の眼を背けさせようとしているんです。戒厳令はフィリピンの歴史でも最も暗い時代の1つであり消し去ることなど出来ないのに"

"数か月前、2016年の夏頃に映画祭のためマドリードに滞在していた。そこでフィリピンがスペインの植民地であった時代を描く映画を紹介したんですが、驚いたことに多くの人々がその300年にも渡る歴史を知りませんでした。もっと驚いたのは――映画祭で出会ったアーティストたちが話してくれたんですが――特に若い人々たちはフランコ将軍の独裁すら忘れ去っているというんです(中略)だから映画の力が必要なんです。映画は忘れ去られようと/修正されようとしている記憶を捉え保護し、私が覚えていられるよう助けてくれる力があるんです。いつか世界が私たちを忘れ去ろうとも、映画は記憶の中に在り続けてくれるでしょう"

私の好きな監督・俳優シリーズ
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その202 João Viana&"A batalha de Tabatô"/ギニアビサウ、奪われた故郷への帰還
その203 Sithasolwazi Kentane&"Woman Undressed"/ Black African Female Me
その204 Victor Viyuoh&"Ninah's Dowry"/カメルーン、流れる涙と大いなる怒り
その205 Tobias Nölle&"Aloys"/私たちを動かす全ては、頭の中にだけあるの?
その206 Michalina Olszańska&"Já, Olga Hepnarová"/私、オルガ・ヘプナロヴァはお前たちに死刑を宣告する
その207 Agnieszka Smoczynska&"Córki dancingu"/人魚たちは極彩色の愛を泳ぐ
その208 Rosemary Myers&"Girl Asleep"/15歳、吐き気と不安の思春期ファンタジー!
その209 Nanfu Wang&"Hooligan Sparrow"/カメラ、沈黙を切り裂く力
その210 Massoud Bakhshi&"Yek khanévadéh-e mohtaram"/革命と戦争、あの頃失われた何か
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