鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済東鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Tonie van der Merwe&"Revenge"/南アフリカ、アパルトヘイトを撃ち抜け!

「やあ、ご無沙汰だな!我々のこと覚えているかな?」
「全く以て覚えていないと思います。ワタシ自身、自分のこと忘れてましたからね」
「まあ、そうだろう。このブログに登場するのは3年ぶりだからな。私はZ級映画を教養として紹介してきた教授だ!Z級映画最高!」
「私はそんな教授の聞き手です、Z級映画最低!……なんですが、何故に3年越しにワタシたちは復活したのでしょうか。筆者はもう既に日本未公開映画の紹介にご執心で、Z級映画なんかに興味ないような感じですが」
「それがな、筆者が芸能人気取りでTwitterエゴサーチをしたら、今書いている記事ではなく、初期に書いていた我々登場のZ級映画記事が本当に面白かったという呟きが出てきて、いたく感動したそうだ。それが理由らしい」
「単純というか何というか」
「まあ、前置きはこんな所でいいだろう。早速Z級映画の紹介に入っていこうじゃあないか!ということで今回紹介するのはこれだ!」

“Revenge”!

「それはあのフランスからやってきた新感覚レイプリベンジ映画ではなく?」
「それも面白いし、題名も同じだが違うのだ。今回紹介するのは何と南アフリカ共和国製のZ級西部劇だッ!ちなみに今作も日本未公開!」
南アフリカですか、珍しいですね。ワタシ、南アフリカ映画って言われて思いつくのはニール・ブロムガンプ監督の諸作くらいですよ」
「だろう、珍しいだろう。だからこそ我々が紹介する意味があるのだ。ということで早速レビューに入っていこう!」

あらすじ:主人公のボボは家族と共に新しい生活を営むため、とある小さな町へと引っ越してきた。幸せを夢見ていたボボだが、早々と悪漢たちに目をつけられてしまう。そして妻は惨殺され、建てたばかりの家は焼失、ボボは息子と共に激しい暴力に晒され満身創痍のまま、町を逃げ出す。そこで彼らは謎の老人に助けられるのだが、実はその男は世を儚み隠遁生活を送る元ガンファイターであった。ボボは彼に師事し、銃の腕を鍛えながら“復讐”の時を待つ……

「さて、今作はどうだったろう?」
「何というか、今まで紹介してきたZ級映画と比べると、微笑ましいというか、観ていて安心するというか……」
「ほお」
「もうあんまりにも酷いとかそういう訳ではないですけど、あれですね、よく人が映画を批難する時に“学芸会”って表現を使いますけど、いやこれを観てから言って欲しいし、実際“学芸会”みたいな映画を観ると心がホッコリするんだなと。酷い演技、雑な脚本、馬鹿な登場人物、支離滅裂な演出、Z級映画の定石を悠然と歩く作品ですよね。観た後、暖かなほうじ茶を飲んだ時のようにホッとしました」

「では、内容を詳しく見ていこうか」
「最初は良いんですけど、何か速攻で家建ててる辺りから、ああ省エネ展開だなと微笑ましくなりましたね」
「結構良い感じの家で、ハリソン・フォードが建てたのかと思ったのを覚えているよ」
「それはないですけど、で、主人公が農場へ仕事に行く時、妻が“今日は何だか危ないから行かない方が良いわ”みたいなこと言い出した時、あー来ました、来ましたよってなりましたね」
「“なーに言ってんだ、心配しすぎさ”という主人公は馬鹿丸出しだったな」
「で、馬鹿丸出しの主人公がのほほんと農作業やってる間、案の定悪漢どもがやってくる」
「で、家族がボコられ、家が燃やされる」
「主人公はのほほんと農作業やって、額の汗拭いてる」
「それが交互に描かれる編集の業と言ったら!これぞ編集の極意、グリフィスのモンタージュも斯くやの臨場感だったな」

「それから子供押されて、石に頭ぶつけて死んで、妻も家に入れられて火事で焼死して、帰ってきた主人公もボコられて、かと思ったら子供死んでなくて、代わりに目が見えなくなって、満身創痍の主人公がさまよってたら知らないオッサン出てきて、彼が何かしたら主人公も子供も普通に超元気!!!っていう流れるようなZ級脚本は素晴らしかったと思います、いや皮肉ですけど」
「そしてオッサンの登場で銃が出てくる訳だが、あれ格好よくなかったか?私の中の小2魂がたぎったよ!」
「あの考証とか適当な感じの奴がですか?」
「考証が雑だからこそ出来る、無駄に格好いいポーズに、無駄に格好いい撃ち方に、無駄に格好いい炸裂音。“ボーダーライン/ソルジャーズ・デイ”ベニシオ・デル・トロもあの南アフリカ流射撃には負けるだろうな」
「ワタシ的には、1発仕損じた後は別人にすりかわったのかの如く、速攻で射撃超絶上手くなる親切設計にZ級魂を感じました」
「それから雪崩れ込むアクションシーンでも射撃で敵を一網打尽にする場面だって格好よかったじゃないか!」
「スローモーションで格好よさ水増ししてるだけじゃなおですか。アクションシーンなんか、ああこの監督、アクション演出する才能ないんだなって微笑ましさありましたね。アクション監督じゃないのにワールド・ウォーZなんかやらされた文芸野郎マーク・フォースターだってもっと上手くやれてただろ、みたいな。ラスボスの死に様も雑ッ!」
「ちなみに今年はマーク・フォースターの監督作が2本公開、まず9月14日にプーと大人になった僕が、そして9月28日に“かごの中の瞳”が公開になるので、皆で観ようじゃないか!」
「いきなりの宣伝ありがとうございます。ワタシから言いたいのはプーと大人になった僕の脚本家の1人は米インディー映画界のひねくれ野郎アレックス・ロス・ペリーということです、彼のことはブログでも書いてるそうなので、読んでくださると筆者も嬉しいそうです」
「さて、ラストシーン」
「馬がヒヒーンってなってる時にENDマークつきますけど、そのストップモーションが微妙に長いのが良かったですね」
「愛嬌たっぷりの終わりでホッとしたな、確かに」
「劇中で馬ほとんど出てなかったですけどね」

「さてこの“Revenge”だが、南アフリカ共和国映画という面で観るとどうだったろう?」
「何というか……へえ、南アフリカ共和国の映画なんだ?確かに言語は英語じゃない(ズールー語)けど、それ以外は主人公含め登場人物皆が黒人だし、吹き替えたらアメリカのZ級映画と言われても信じるだろうな、という感じでしたね」
「確かにそうかもしれない。だが今作の製作背景は南アフリカ的としか言い様がないものだ。今作が作られた1980年代の南アフリカ共和国はどんな状況だったか、世界史の授業で習っただろうか?」
「あれですよね。アパルトヘイトで人種が隔離されていた時代ですよね。人種差別が公然のものだった時代」
「そうだな。そこで黒人は差別的待遇を強いられていた。触れる文化すらも制限されていた。だからこそ人々は文化を、娯楽を求めていたのだ。
 そんな中で現れた映画作家こそがTonie van der Merweだった。彼は元々建設会社の社長であり、サイドビジネスとして映画は儲かるのでは?と勝機を見出だし、映画製作を初めた訳だ」
「動機は金だったんですか。何かこの国を変える!とか差別に義憤を感じる!とかでなく」
Z級映画制作の理由などそんなものだ。Merwe自身、アパルトヘイトだとか腐敗した政治だとかには全く興味がなかった、というかそういう物を語ることもなかった故、アパルトヘイトを支持してるのか支持してないのかどうでもいいのか、本人以外に誰も知らなかったらしい。
 それでもそんな彼の監督デビュー作“Joe Bullet”南アフリカ映画初のオール黒人キャスト映画として歴史に残る作品となった。2回上映されただけで、公開禁止になってしまうのだが。それでも政府にロビー活動をして助成金を得ると、70〜80年代に1600もの黒人映画が作られることとなり、その内の400本をMerweは製作したのだ。監督として様々なジャンルのZ級映画を手掛ける一方で、更に制作者・撮影監督などなど様々な立場から仲間を手助け、その一貫で作られたのがこのCoenie Dippenaar監督による“Revenge”だったのである(ちなみに本作では撮影監督として参加している)
 これらの作品は南アフリカブラックスプロイテーションという趣のものだったが、MerweやDippenaar監督たちは白人だった。つまり黒人と白人が協力しあい、作品を完成させていった訳である。君はトレヴァー・ノアを知ってるかな?」
「ええ、もちろん。南アフリカ出身のコメディアンですよね」
「そう、そのトレヴァー・ノアだ。彼は白人の父と黒人の母の間に生まれたが、アパルトヘイト下の時代においては白人と黒人が結婚することは禁じられており犯罪だった。その中でノアは存在自体が罪であるかのような状態であったが(詳しくは“トレバー・ノア 生まれたことが犯罪!?”を読んでほしい)そんな時代において黒人と白人が共同して映画を製作するということは様々な意味で画期的なことだったのだ。
 しかし所詮は使い捨ての娯楽映画だった故に、アパルトヘイトが撤廃された後の90年代初めには殆どの映画が歴史の中へと消え去ってしまった。再び脚光を浴びることとなったのは約20年の時が経ってからだ。ケープタウンの映画製作会社Gravel Road Entertainmentがこれらの映画を発掘、リストア作業を経て全世界へと発信したのだ。埋もれていた映画史の一端は再び人々の目に晒され、更にはこの遠き日本に住む我々もこれを知ることとなった。それと同時にMerwe監督は南アフリカの映画祭であるダーバン国際映画祭で功労賞を獲得することとなった。そんな歴史を背景とした、感動的な作品の1つがこの“Revenge”な訳である」
「どんな映画にもそれぞれの壮大な歴史があるんですね」
「そうだ、どんなZ級映画にもな。ということで今日はこれで終わりとしよう。いつまたこの特集をやるかは未定だが、期待していてもらっても構わないぞ!ということでサヨナラ、サヨナラ、サヨナラ……」

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