鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Winston DeGiobbi&"Mass for Shut-Ins"/ノヴァスコシア、どこまでも広がる荒廃

さて、ノヴァスコシアである。カナダ東部の大西洋へ突き出た半島部に位置するこの州は幾度となく映画の舞台となっており、以前紹介したAshley Mackenzieの“Werewolf”も正にこの州にあるケープ・ブレトン島が舞台となっていた。 カナダにおいては田舎として扱われるこの地域だが、自然はとても豊富で様々なアウトドアが楽しめることで有名でもある。世界遺産にも登録されているルーネンバーグ市街地や首都ハリファックスのシタデルを知ってる方も多くいるだろう。ということで今回はそんなノヴァスコシア州を舞台とした作品の系譜、その最先端に位置するWinston DeGiobbi監督作“Mass for Shut-ins”を紹介していこう。

Winston DeGiobbiノヴァスコシア州ニューウォーターフォードを拠点とする映画作家・俳優だ。俳優としては先述した同郷の映画監督であるAshley McKenzieの短編"When You Sleep"(vimeoで全編鑑賞可)に主演、家に蔓延するネズミの被害に悩むきょうだいの姿を描いた作品で、今作はアトランティク映画祭の監督賞を獲得する。そして映画作家としては2012年には"Buggery"を、2013年には"Bright Rubber Cones"を、2015年には"Higgy Wants In"(vimeoで全編視聴可)などを製作し、着実にキャリアを重ねていく。そして2017年には初の長編監督作となる"Mass for Shut-Ins"を手掛ける。

この物語の主人公はKJ(Charles William McKenzie)という25歳の青年だ。彼は仕事もせずに、毎日毎日を無意味に彷徨いながら過ごしている。彼にはほとんど友人もおらず、心を開ける相手は自分よりもずっと歳上の老人ルーパーズ(Stephen Melanson)と、自分に対して兄貴面してくる青年セプテンバー(Joey Lee MacLean)くらいのものだ。そんな状況でノヴァスコシアでのKJの人生は無為に浪費されていく。

英国の映画にいわゆる“キッチンシンク映画”というジャンルが存在する。労働者階級の人々の逼迫した生活風景を、過度な装飾など一切加えることなくリアルに徹しながら描き出していくというジャンルだ。今作はその“キッチンシンク映画”の系譜に属する作品と言えるだろう。生活感が画面から匂いたつような空間の描写や、苔色の明かりに照らされながら蜘蛛の糸を垂らしているパイプ、登場人物に身体を埋められて皺だらけになる埃臭いソファー、そういった生々しい生の感覚がこの映画には満ちているのだ。

撮影監督も兼任するDeGiobbiのカメラは常時極端なクロースアップで以て対象に肉薄していく。コップや車などの物質は即物的な感覚を宿し、観る者に冷ややかな印象を与えることになる。そして登場人物の肌に迫る時にはまた別の印象を与えることになる。感じるのは様々な手触りの肌だ。KJの若さ故の成熟を伴わない白の色彩、彼とは逆に老いて尚も不気味なまでの老成した白を誇るルーパーズの膨らんだ腹、介護が必要な老女のシミだらけな茶色い肌、そのどれからも彼らが纏う淀んだ空気感がとらえられていく。

全体的に物語には息苦しさが張りついて離れないのだが、セプテンバーの存在は物語を奇妙に変化させる。車に乗って現れたかと思えば、散歩するKJに対して気楽に話しかけ、KJがいる部屋にやってきたかと思えば、彼やルーパーズの前で奇妙なダンスを披露する。彼の登場は物語の停滞を撹拌するように作用していくのだ、しかしそれは酷く不快な形でだが。

こうして本作が停滞と不快な撹拌を繰り返す中で、DeGiobbi監督は奇妙なヴィジョンをも私たちに提示する。唐突にコマ送りで早送りと巻き戻しを反復する映像、画面に映るものとはまた別の何かを映し出すワイプ映像、この実験的な技法の数々は唐突さや不可解さで以て私たちを不安にさせる。そしてそれらが反映しているのは、つまり登場人物たちが味あわざるを得ない歪んだ現実や抜け出すことの出来ない不条理的なドン詰まりの状況だ。監督は私たちにそれらを追体験させようと試みているのである。

“Mass for Shut-ins”とは何処へも行き着くことのない荒廃した人生と孤独についての物語だ。終わりも糞もない突発的に過ぎる終末は、私たちを寒々しい荒野へと捨て置くような驚きに満ちている。そして私たちはただただスクリーンの前で、この生の救い難さに対して途方に暮れるしかないのだ。

参考文献
https://screennovascotia.wildapricot.org/widget/Sys/PublicProfile/44244980/3972881(監督プロフィール)
https://vimeo.com/user32013120(監督公式vimeo)

カナダ映画界、新たなる息吹
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その282