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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Siniša Gacić&"Hči Camorre"/クリスティーナ、カモッラの娘

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カモッラはイタリア4大マフィアの1つと言われるほどに巨大な犯罪組織だ。彼らはナポリを拠点として麻薬の密売や、建設業や産廃ビジネスなどへの参入など様々な犯罪に深く関わっている。だが犯罪に加担し続ける者がいる中で、そこから逃れようとする者も確かに存在している。今回紹介するのは裏社会からの脱却を図ろうと奔走する女性の姿を描き出したドキュメンタリー、Siniša Gacić監督作"Hči Camorre"を紹介していこう。

クリスティーナはそのカモッラで名を成した殺し屋である。その残虐性から"ニキータ"(おそらくリュック・ベッソンの映画から取られたのだろう)と呼ばれ恐れられていた。組織に従い数多くの人物を殺してきたが、22歳の時にとうとう逮捕されてしまう。そんな彼女が20年越しに刑務所から釈放される所から、この作品は始まる。

家族や友人たちと共に旧交を温めながら、ゆっくりと彼女は自分のかつてあった生活を取り戻そうとする。彼女には娘がいて、更には既に孫息子すらもいる。彼女たちと日々交流を遂げながらも、20年の空白は完全なる和解を呼び込みはしない。いつであってもどこかにぎこちなさが残る。

例えば娘との会話だ。クリスティーナは彼女に人生を諭そうとするのだが、その時に話すのは銃を持った感触についてである。人生の重大な時期にその感触に親しんでいたのは分かるが、その話をする時娘は明らかに引いている。こうして周囲の人間とどう距離を取って良いのかが、刑務所経験のせいで分かっていないのだ。

その合間に、監督はクリスティーナの暮らしぶりを淡々と追っていく。彼女は漁師として働いており、毎日沖へと出て魚を収穫していく。帰った後には、孫と戯れながらその疲れを癒していく。その姿はどこにでもいる中年女性なのだが、もちろん彼女はそうではいられない。

その象徴となるのはラファエレの存在である。20歳以上年上である彼は殺し屋時代の彼女の恋人であり、現在も親密な仲が続いている。だが彼が肺がんであると診断されたことによって、ラファエレの介護を彼女がしなければならない事態に陥ってしまう。どちらも犯罪から足を洗ってはいながら、過去は否応なく彼女たちの背中に這いずり寄ってくる。

そうして今作はクリスティーナの複雑な心持ちに焦点を当てていく。彼女は真っ当な人間になることを望んでいる。保護観察期間が短くなった時の喜びはそれを端的に示しているだろう。だが犯罪塗れだった過去にも愛着がある。その象徴がラファエレであり、彼女は彼から離れることができず、過去を簡単には切り捨てることができないのだ。

"Hči Camorre"は暗い過去を持つ女性の、一筋縄ではいかない再生の光景を描き出した作品だ。映画が終わろうとも、彼女の人生は終わることがない。だからこそ複雑で深い余韻が、スクリーンの闇から滲みだしてくるのである。

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